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『野生のぱわーin さまー 』
大炊御門 菫ja0436)&インレjb3056

 青い空で太陽が燦々と輝いている。
「夏だ! 修行だ! 山籠りだ!」
 と、インレが唐突に言って、これに対し菫は「確かに、冬よりは夏」と真顔で頷き、意気投合して一緒に山に籠もる事にした。
 良い年頃(見た目は)の男と二人きりになる訳であるのだが、菫はまったく気にしていなかった。菫である。
(もう少し女としての自覚を持った方が良いと思うのぅ……)
 自分で誘っておいてなんだが、ちょっと心配になるインレだった。
「山篭りには何が必要だろう?」
 菫が小首を傾げて問いかける。
「修行だからな。持ってゆくのは食料くらいで良かろうよ」
「解った」
 と、二人は準備を整えると、荷物を背負い、本州の某山へと出発する。
 緑成す山林に入り、険しき山の道を登る事数時間。
「お、良い感じの洞穴があるぞ」
 インレは崖付近に抉られたようにある洞穴を発見した。穴というよりは窪みといった方が適切だろうか。さほど深くなく、今の時刻だと陽の光が穴の奥まで入って照らしている。
 じめじめとせずカラッとしていそうだったし、夜露を凌ぐ住居とするには手頃そうだった。
「では結構登ったし、ここを拠点にするか?」
「そうしようそうしよう」
 と二人は洞穴に入って荷物を置く。
 菫がザックを降ろした瞬間、どんっ! と鈍く重い音が洞内に響いた。実に重量感溢れる響きである。
「……おぬし、随分、詰め込んできたんだの?」
「一ヶ月近く籠もる訳だしな。沢山もってきた」
 と菫は笑顔で答え、ザックの口を開いてみせる。
 インレが中を覗きこむと、灰色の円状の物体が沢山詰め込まれているのが見えた。
 それは石だった。
 石である。
 岩石である。
 英語で言うとロック。
(…………これが、食、料?)
 Rockな女だ、とインレは菫に対し一つ思いつつ、一応問いかけてみる。
「のぅ菫、おぬし、いつから妖怪岩喰い女に……」
「うむ」
 菫は一見平然とした顔で頷くと、
「鍛錬用のザックと間違えて持ってきてしまった」
 ぽり、と側頭部をかいた。
「鍛錬用ザック? この石が詰まったものが?」
 この娘、いつもこんなの担いでんの? と驚嘆の思いでインレは菫を見る。
「うむ、重い物で負荷をかけ鍛錬するのは基本だろう? ほら、例えるなら超重量の亀の甲羅を背負って牛乳配達したり」
「その例えは"きょうび"の若者には通じるかのう……」
 古風な菫の発言にインレはそんな呟きを洩らしつつ、
「とにかく、これは喰えなさそうだ」
「すまない、そのようだ」
 黒髪娘はしゅんと項垂れた。
「あぁ、何、わしも持ってきておるから、そう心配はいらぬよ」
 老悪魔は言って、己のザックも降ろすと袋を開いて中に詰まっていた保存食を菫に渡した。
「とりあえずこれで腹ごしらえといこう。小休憩したら午後から修行開始だな」
「解った」
 菫は頷き、保存食の袋をひら
「――インレ、すまないが、ちょっと良いか?」
 こうとした所で娘は手を止めた。
「どうした?」
 黒髪娘は保存食の袋を手に持ち一点を凝視している。
 きっちりした性格なのだろう。ズボラな者は確認しないが、彼女はしかと食べる前に確認したようだった。
「これ、賞味期限が八十年以上前になってないか?」
「む?」
 インレは慌てて自分が持っている物も確認する。
 確かに、昭和初期の年号である。戦前だ。食料の表記も右から書かれてる。訂正、ズボラな者でもこれは気付く。
「……『そういえば、ちょっと前に買っておいた物があった筈』とひっぱり出してきたのだが……よくよく考えると、思ったより月日が流れておったのう……」
「 」

 千年悪魔の"ちょっと前"はスケールが違う。
 結局、持ってきた物で食べられそうなのは塩だけだった。


「慌てる事はない。幸いにしてここは山。食べ物がなければ狩れば良いじゃない」
「それもそうだな」
 と二人はあっさりこの重要問題に対して決着をつけると、山篭りを続行した。
 二人が今回の山篭りで取りかかったのは「アウル使わぬ基礎鍛錬」であった。
「私が知る長柄の対策を教えよう。突いてみてくれ」
 と菫は身の丈程の長さの真っ直ぐな棒をインレへと手渡し左足を前に半身に構える。
 インレが突きを放つと、その瞬間、菫は右足を前に右斜め前方――インレから見て左手前――へと踏み出しながら身を捻りざま、左腕で先端を横から払いつつ、同時に右手も繰り出して棒の柄を掴んだ。
 そして流れるようにその捻りの勢いのまま、右足を支点に独楽が回るよう一回転して、左足で後ろ回し蹴りをインレへの顔面へと向かって放つ。
「これは突きに対する対処法の一つだな」
 踵が顔面に中る寸前でぴたりと止めて菫。
「後は……」
 と他にも型を何パターンか実演し説明してゆく。
 菫による長柄対策の説明が一通り終わった所で、
「わしは発勁を教えよう」
 とインレは棒を置いて徒手空拳での様々な動きを菫に見せた。効率的な運動エネルギーの発生法と伝導法。それらの為の身体の独特の操法。
 蓄勁にてエネルギーを蓄え発勁で放つ。
「これは発勁の打ち方の一つだが」
 と、人ならざる者のみが積み上げうる歳月を練った老悪魔は弛緩した態で何気なく構え、鋭い呼気と共に菫の胸元を独特の歩法で押すように打った。次の瞬間、菫の身が勢い良く後方に吹き飛ばされる。一回転、二回転して菫は起き上がった。
「……なるほど」
 インレの動作を菫が見るに、どうやらそれらは、体重移動や筋肉の弛緩と緊張、呼吸による体内圧力の調整、それらをタイミング良く合わせる事によって生まれているようだった。


 訓練を終えた後、二人は食料集めにひた走った。
 菫とインレはまず石を鋭くなるように石と石をぶつけ合わせて割り、手頃な小さな木を引き抜き、蔓を縄代わりにして石斧を作った。石斧を用いて木を伐採し、鋭く叩き割り削って木槍を作ってゆく。
 そうして出来上がった木槍を手に川へと向かう。煌く水の中を泳ぐ川魚目掛けて突き出す。つるっと表面の鱗に切っ先が滑って何度か失敗したが、数度を辛抱強く試すと一匹を貫く事に成功した。
「うん……なんとかいけそうか?」
 菫は地を石で掘って小さな水の溜め地を作ると、そこに獲った魚をほうりこみ、次の魚を狙いにゆく。
 他方、
「これは喰える草、これは喰えない草、これは毒だ……」
 インレは割った石片と石斧を手に山林内で山菜の回収に勤しんでいる。サバイバル知識は豊富だ。山菜を採る時に同時に火口に使えそうな葉や花や枯れ草、燃料になりそうな枯れ木を集める。おじいさんは山へ柴刈りに。
 その後、石斧や石片で苦労しつつ木を削り出すと、火溝式で発火する為の道具を作った。
 そうこうしているうちに陽が傾き、漁を終えた菫が帰って来る。
「七匹獲れた」
「お見事」
「金属の銛ならもっと獲れたんだが」
「あまり乱獲しても腐らせてしまうだけだの。それぐらいで丁度良い」
 インレは労うように言って、膝で木を抑え片手に木を持ち、擦り合わせて火を熾し始めた。
 数十秒で白い煙が立って火種がおこり、それを葉と花弁で包んで振ると真っ赤な火が燃え上がった。その火を組んだ枯れ枝の中に落とし焚き火とする。熟練の火熾しの業である。
 木の枝で魚を貫き、焚き火の周りに立て焼き、香草に包んで食べた。
 食事を終えると、二人は洞穴で見張りを立てつつ交代で就寝したのだった。


 茶色の毛皮の巨獣が豪爪を振り上げて襲い掛かって来る。
 インレは爪を踏み込んで掻い潜ると密着した状態から体を中てて熊の動きを一瞬止め、すかさず抜き手でその喉を貫いた。
 男は宙に赤い糸をひきながら、腕を引き抜き、すると熊の巨体が倒れる。
 見下ろして、口を開く。
「……今夜は熊鍋!」
 決め台詞である。
 敗北、すなわち、喰われるという事なのだ。
 弱肉強食。
 最初は戸惑いがあった二人だったが、時すでにものの見事に野生化していた。
 地を駆け、木々の間を疾走し、獲物へと一直線に。川魚、野鹿、猪───果ては熊。僅か三日で彼らはアウルの力を用いずに山の生態系の頂点へと登り詰めたのである。
 しかしそんな百獣王の片割れ菫だったが、空を飛ぶ獲物に対して一つの事を学んでいた。
 空を舞う鳥に槍は届かない。
 摂理である。
 それでもどうにかするならば、鳥に対してはあちらの方から餌を撒くなどして、地上に降りてくるように仕向けなければならない。降りてきた所を悠長に近づいても飛び立たれて逃げられてしまうので、繁みの奥から槍投げ一閃で奇襲して倒すのである。
 飛来した槍が鳥を貫き、ぎゃっと一声鳴いて倒れる。
 繁みから出て来た菫が、先端に黒曜石がつけられた――微妙に技術レベルがあがっている――槍と、それに貫かれている鳥を回収した。
「今夜は焼き鳥……!」
 決め台詞である。
 夜。
 焚き火を熾し、熊と鳥をたいらげ、見張りに立っている最中、インレは崖の大岩上から夜空に輝く月に向かって咆吼をあげた。
 自然の中に魂が還らんとしていた。


――数週間後。
 山に化物が出るという噂から学園の依頼が出され、八人の撃退士が山へと足を踏み入れた。
 山道を登る事数時間、緑が濃い木々の奥から獣らしき咆哮が聞こえてくる。
「……来る!」
「噂の化け物か……?」
 撃退士の一人が言って、皆が構えた時、藪の中から熊が勢い良く飛び出して来た。
 次の瞬間、熊の足に槍が飛来して刺さり、疾風の如く追いかけてきた黒い影が熊に飛び乗って、抜き手を延髄に打ち込んで仕留めた。
「おや、人だ」
「うん? 学園生か? なんだか懐かしいな」
 熊を追って現れたのは菫とインレの二人だった。


 調査の結果、化け物の噂の元になっていたのは、菫とインレの二人であると判明。
 二人が山から降りて文明に帰還すると、化け物の噂はすぐに立ち消えたのであった。



 了




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / 肩書き】
ja0436 / 大炊御門 菫 / 女 / 20才 / 山の百獣王(槍)
jb3056 / インレ / 男 / 33才 / 山の百獣王(徒手)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます。望月誠司です。
 野生なサバイバルなコメディ調という事で、もう少し生活の細かい様子を入れたかったのですが(土器とか、野生化の段階とか)ちょっと尺的に入りきりませんでした。
 ご満足いただける内容に仕上がっていましたら幸いです。
野生のパーティノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年07月27日

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