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『 それは連日のように続く雨の中、ぽっかりと開けたように晴れ渡ったとある日の事であった。 』
シェルミ=K=シュルシュタットka3047)&ヴァ・ロン・ナイルka2987
 シェルミ=K=シュルシュタット(ka3047)は、顔をすっぽり覆った仮面の奥から、目を細めて降り注ぐ太陽の光を見上げていた。
「あー、もう、なんつぅか、最高の怪我日和なんですけど」
 一般人には不可解極まりない言葉を発しながら、どこか愛おしそうに服の上から脇腹の当たりをさわさわと擦る。

 ――あー、良い感じにこの辺を、サクッとめった刺しにしてくれるヤツいねぇかな。

 上がってきた気温に、その仮面と身に纏ったローブでは大層暑かろうに。ややボーっとした様子で、街のど真ん中でそんな事を考えていると、不意に後ろからドンと強い衝撃を感じる。
 まるで、背後から「親の仇!」と刺されたかのようなその感覚に、湿度と共に蒸発しつつあった意識も一気に冴え渡ったものだ。
「あっ、すみません、前を見ていなかったもので――」
 背後にタックルを喰らわせた女性は、反射的にぺこりと頭を下げる。それから頭を上げて、シェルミの姿を改めてその瞳に捉えると、そのウォームグレイの瞳を大きく見開き、ぱぁっと顔を綻ばせた。
「シェルミくん、お久しぶりです!」
 金色の髪をかき分けながら、ヴァ・ロン・ナイル(ka2987)ぱぱっと服の皺を伸ばして清らかな笑みを浮かべる。
「奇遇ですね、こんな街のど真ん中で。シェルミくんも、お買い物ですか?」
 ごく自然に隣に並んで歩き始めたヴァ・ロンに、シェルミは小さく要領を得ない頷きで返す。
「ですよねー。ここんとこずっと雨ばっかりでしたし、中々買い出しに出る機会も無く……今日の内に、商品の選定をしないと!」
 言いながら、ぐっと拳を握りしめて何かを決意するヴァ・ロン。
 そんな彼女を前にして、シェルミはなんとも無機質な表情と視線を向けながら(仮面だから当然だが)、大きく、身体全体で「?」を模るかのように首を捻る。

 ――あれあれぇ、こいつ誰だっけ?

 そもそも兄貴以外のやつの顔なんて覚える気も無いけれど、この態度的にとりあえず知り合いか何かなんじゃないですかね。
 とりあえずそんな思考に行き付くと、自問自答で納得するようにうんうん頷いて一先ず相手のペースに合わせてみる。
 というか、何で自然に隣歩いてるんですかぁ?
 そもそも俺に何の用ですかぁ??
 いや……聞いたことがある。天守を落とすにはまず外堀から埋めろと。つまり、兄貴に取り入るために俺から懐柔しようって話なんですかぁ???
 そんなん、マジ即全力でお断り案件なんですけど????
「だ、大丈夫ですか? 顔、怖いですよ?」
 仮面を前に表情もクソも無いのだが、雰囲気からとても陰鬱としたものを感じ取っていたのか、どこか怪訝な表情で問いかけるヴァ・ロン。
「お腹痛いとかですか? お薬飲みますか?」
 否、どうやら心配されているだけのようであった。
「いいぜ、いいぜ。そう言う魂胆なら兄貴に危険が及ばねぇように、見張ってれば良いわけですよ」
「え、買い物手伝ってくださるんですか!? ありがとうございます!」
 既にお互いの趣旨の齟齬を感じ始めているが、当人たちにはお構いなく、2人の姿は街へと消えて行くのであった。

 移り行く街の景色や行き交う人の波をすり抜けて、とある店舗の前へと立ち止った2人。
 ショーウィンドウに並ぶマネキンが着飾った色とりどりのドレスを前に、ヴァ・ロンは意気揚々と門戸を潜る。
「いらっしゃいま――せ」
 出迎える店員の笑顔の先に、シェルミの姿が映って一瞬言葉が詰まる。
 それでもすぐに笑顔を取り繕って、出迎えの挨拶を言い切った辺りは流石のプロと言えるだろう。
「で、てめぇさんよ。ここに何しに来たんですかね?」
 煌びやかな洋服が立ち並ぶ店内では、おおよそ異質な空気を放つ仮面&黒ローブの男。
「今の時期はお祝い事にお祭り事が増え出す時期なんです! ならば礼服、女性のドレスはハズレない商品ですよねー!」
 言いながら、早くもドレスを数点ピックして足早に更衣室を目指すヴァ・ロン。
 着付けの補助に店員も試着室のカーテンの奥へと消えて、十数分。
 シャッと小気味のよい音を響かせて閉ざされたカーテンが開くと、真っ赤なプリンセスラインのドレスに身を包んだヴァ・ロンの姿が、どこかもモデルらしい洒落たポーズと共に現れたのである。
「と・い・う・わ・け・で、シェルミくん! どうぞ品評してくださいませっ!」
「だせぇ」
 即答。
 その、初めから答えを用意していたのではないかという程の条件反射的なダメ出しに、流石の店員も目を見開いて驚きを隠せない表情で、泳ぐ視線をヴァ・ロンへと向ける。
「じゃあ、次はこちらです!」
 手早く着替えて、お次はフリルが特徴的な薄紫のドームライン。
「もさい」
「今度はこちら!」
 続いて紺色のスレンダー。
「色がありえねぇ」
 水色のマーメイド。
「着ない方がマシ」
 クリーム色のベルライン。
「あれあれぇ、養豚場へのお出かけ着ですかぁ?」
 単語から次第にエスカレートしてくる酷評のオンパレードに、着付けを手伝う店員の方も次第に居心地が悪そうにもじもじとし始める。
「じゃあ、これなんかどうです? 個人的イチオシです!」
 そう言って、くるりと裾を棚引かせるグリーンのエンパイア。
「はぁ……ドレスも可哀想だよな、てめぇなんかに着られて」
 シェルミの口から出たのは落胆にも似た嘆きだった。
「いや、布が可哀想だよな、こんなドレスにされて……いやいや、糸が可哀想なのか? こんな布にされてんだもんなぁ……いやいやいーや?――」
「いい加減にしてください! いくら彼氏さんでも、彼女さんが可愛そうですよ!」
 そもそもの前提の話が間違っている事は置いておいて、そう口にした店員のシェルミへの叱咤の言葉はおおよそ一般人としては彼女が正しい感性を持っていた事の証明であると言えるだろう。
 散々罵倒されたヴァ・ロンの事を同じ女性として想い、よかれと思って言ったその言葉。しかし当のヴァ・ロンは、彼女の肩にポンと手を置くと「とんでもない」とでも言いたげに首をブルブルと横に振る。
「ちょっと態度がぞんざいで、ちょっと歯に衣着せぬ物言いですけれど、お兄様のその審美眼とセンスは確かなんですよう!」
 そう力説するヴァ・ロンに、ぽかんと口を開けて呆気に取られる店員。
 正直、はたから見ればその言葉にはだいぶ(主観)が付かざるを得ないと思うが、ああきっとこの客には関わってはいけなかったのだと、店員は今日の自分に後悔する。
「と、いう事で次に――」
「――待て待て! 待てよ!!」
 良いながら次の試着に向かおうとしていたヴァ・ロンの首根っこをむんずと掴むシェルミ。
 そのまま彼女の身体を試着室の外へと追い出すと(ついでに店員も)、代わりに自分がその中へと入ってびしりと人差し指を吐き付ける。
「てめぇが選んでも決まらねぇから! 俺が!! 選んで!!! 俺が着たほうが!!!! 似合うから!!!!! てめぇちょっとそこで見てろ完璧な俺を!!!!!!」
 そう一息でまくし立てて、激しくカーテンを閉めるシェルミ。
「まあ!! 兄貴の方が!!! 完璧ですけど!!!!」
 ごそごそと衣擦れ音を響かせながら付け加えるように響くその声に、店員……どころか、もはや店内も唖然である。
 しばらくして静まり返った試着室。
 期待に目を輝かせるヴァ・ロンの前で、そのカーテンが開け放たれた。
「やべぇ……なんて似合い過ぎなんだ。絶世に美しすぎる、俺」
 仮面の額に手を当てて、やや俯き加減に現れたシェルミは先ほどの黒いローブの格好とは一変。
 花嫁衣装の如き真っ白なドレスに身を包み、ご丁寧にベールまで付けたその姿は、男の体つきながらもスノーシルバーの髪と相まって、どこか儚げな美しさに満ち溢れていた。
「素晴らしい……流石です、お兄様!」
 輝かせる瞳を余計に大きく見開きながら、その姿を目に焼き付けるかのように、拝み、陶酔するヴァ・ロン。
 そして尚もその美しさに悶え続けるシェルミの2人を前にして、ここまで耐え忍んだ店員がたった一言だけ言い放った言葉。
「……もう、帰ってください」
 その諦めとも嘆きとも言い付かない口ぶりと共に、この日は彼女の史上最悪について無い日と認定されたそうだ。

 ちなみに、純白のドレスはどう考えても俺以外に着こなせるわけがねぇから、と言う理由でナイル商会への入荷は見送られた事はまた別の話である。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3047 / シェルミ=K=シュルシュタット / 男性 / 18歳 / 疾影士(ストライダー)】
【ka2987 / ヴァ・ロン・ナイル / 女性 / 17歳 / 聖導士(クルセイダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご注文ありがとうございます、麻川のどかです。
今回はちょっぴり不思議(?)な関係のお2人を書かせて頂きました。
お互い微妙にかみ合っていないようで、絶妙にマッチした掛け合いは、とても楽しく書かせて頂きました。
お楽しみいただけましたら幸いです、この度はありがとうございました!
水の月ノベル -
のどか クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年07月30日

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