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『続く空 』
リーズ(ic0959)
 ジルベリア北部にある町より少し外れたところに大きな家がある。
 町の者達が知る冒険家夫婦の家。
 家の中には冒険家夫婦の戦利品と言える品が展示されていた。
 怪しげなお面や瀟洒な楽器、磨いたら宝石となるだろう鉱石などなど。
 冒険家夫婦には一人の娘がいた。
 夫婦は娘を連れていけないと家に置いていた。
 町の人は小さい子供を置いてと娘を哀れんでいたが、娘はいつも明るい笑顔を絶やすことなく振りまいている。
 娘の名前はリーズ(ic0959)。
 犬系の獣人の女の子だ。

 ある時、リーズの両親は旅に出るとリーズに言った。
「ボクも連れてってくれるんでしょ!」
 キラキラ顔を輝かせてリーズが言えば、両親は首を横に振る。
 理由は今回も同じで、まだリーズが幼いから。
 しょんぼりとするリーズだが、父親は「帰ってきたらまたみやげ話をしてやる」と言った。
「仕方ないね。でも、楽しみにしているよ!」
 両親の土産話はリーズにとっていつも楽しみであり、留守をしっかり守ったリーズに面白おかしく話してくれる。
 そして、話の中で冒険とは楽しいことばかりではなく、大変な事も沢山あることをきちんと伝えており、リーズは幼いながらもその点は分っていた。
 物分りよく、リーズは両親を笑顔で見送る。
 二人の姿が見えなくなるまで。


 それから一年ほど過ぎた頃、町の方でも両親はまだ帰ってきてない事を心配する声が上がる。
 大きな冒険に出かけるという話であり、当のリーズは「大丈夫! すぐに戻るよ!」といつもの明るい笑顔を見せる。
 しかし、両親は戻ってこない。
 あくる日、リーズの家にお客が現れる。
「いいかい?」
 お客は、町の金貸し屋だった。
「え、お金を借りていたの?」
 驚くリーズに金貸しは頷いた。
「冒険には金がかかる。君の両親は出る前に支度金を町の人から出資してもらってたんだ。それでも足りなくて、私の所に来たんだ」
「冒険って、そんなに大変だったんだ……」
 驚くリーズに金貸しはふーっと、ため息をつく。
「君の両親としても、早く戻ろうとしていたんだろうが、こちらとしても商売だからね。金を返してもらわないと困るんだ」
「でも、お父さんとお母さんは帰ってくるよ」
 リーズは真直ぐ金貸しの目を見つめる。
「しかし……」
 一年も音信不通でリーズを含め誰一人として、連絡を貰っていない。
 様々な憶測が町の中で出回っている。
 両親が事故にあったのではないか、最悪は、幼いリーズを残して金を持ち出して逃げた可能性。
 誰一人として真相にたどり着けるものなどはいない。
 では、誰が借りた金を払うか。
「戦利品を売れば、借りた金は作れるだろうが……」
 けれど、金は戻ってきてないのも事実。
「お父さんとお母さんはちゃんと帰ってくるよ」
 約束をしたのだ。沢山の土産話を抱えてくると。
「いつもちゃんと帰ってくるんだよ。今までだってそうだったよ」
 にっこりと笑顔のリーズに両親への不信は微塵にも感じられない。
 彼女にとって両親は絶対の存在。
 笑顔で冒険に出て、笑顔で帰ってきてリーズを抱きしめる。
 それは何一つ変わらない。
 絶対と言っていいほどに。
「だから、ボクは待ってるんだ」
 リーズの言葉に金貸しはもう一度ため息をつく。
「今日は事情を話しにきただけだし、この辺でお暇しよう」
 そう言って金貸しは席を立ち、リーズの家を出た。


 金貸しがリーズの家に訪れた数日後、リーズは家の中に飾られている両親の戦利品の埃を叩いている。
 折角飾られているも、埃をかぶっては可哀相だから。
「あれ、こんなところに」
 とても怪しげな大きなお面を布で乾拭きをしていると、手のひらサイズの金貨のようなものが仮面の後ろに引っかかっていたのか、こつんと乾いた音を棚板に立てて出てきた。
 両親が入手したのはリーズが産まれる前の話だと聞く。
 ジルベリアより遥か南の国を冒険していた時に入手したものだという。
 遺跡を見つけたものの、アヤカシの巣となっており、命からがら抜け出したと聞いている。その時の話はまだまだ小さい頃であり、アヤカシが襲う緊張感に小さなリーズは泣き出した。
 母親が父親を叱りつつも、父親は慌てて泣いたリーズをあやしていた記憶を思い出してリーズはつい、笑みがこぼれてしまう。
 実際ちゃんと帰ってきたのにまるで今、命が危険だと思ってしまった模様。
 泣きながらもリーズは次の話をねだっていたと母親は紛失してしまった金貨を探しつつ話してくれた。
 その両親は今は留守。 
 リーズが動かねば、言葉を発しなければこの家はただただ、静まり返るだけ。
 金貸しが現れた際、ここにある戦利品を売れば金になるかもしれないと言っていた。
 でも、勝手に戦利品を売って金を作り、借りた金を返してしまったら両親は悲しむだろう。
 この家に飾られている戦利品には金貨のエピソード同様に一つ一つ、両親の思い出話が詰まっているから。
 両親の許可なく売ってはいけない。
 しかし、金貸しとしても商売にならないとリーズは思う。
 金貸しは名の通り、金を貸す商売で、貸すという行為はそれだけじゃすまない。返すという行為があって商売は成り立つ。
 ふと、リーズは窓を振り返ると、日が地平線へと沈んでいっている。
 しばらくの後、太陽を隠した空は漆黒の夜空を見せる。
 太陽が地平線を沈む黄昏時の今の瞬間だけ、リーズは笑顔を消して唇を噛んだ。
 親に愛されている子供が、寂しがらないわけがない。

 夜になれば、夜空に満天の星がちりばめられる。
 それがとても綺麗でリーズはホットミルク片手に窓の外の星を眺める事が多かった。沢山の星はリーズが一人じゃないよと語りかけるように。
 両親が言っていた事をリーズは思い出す。
 空は繋がっていて、遠くてもリーズを想っていると言っていた。
 そう、地は離れていても空は繋がっている。
 はっと目を見開いたリーズは満天の星空を見上げた。


 リーズを気遣い、彼女の家に訪れた町の者がドアを叩いても反応がなく、ドアの間にメモが挟まれていることに気づいた。
 開いて見た町の者は大慌てで金貸しの所へ走る。
 騒ぎを聞きつけた他の者達も金貸しの所に集まってしまった。
 金貸しがメモを読んだ後、町の者は「リーズの家を担保って……売ってしまうのかい?」と尋ねると、金貸しは眉を吊り上げた。
「汚い字で私には『家を守ってくれ』としか読めないよ」
 リーズの字は子供にしては綺麗で、汚いとは思えない。 
「仕方ないね」
 肩を竦めた金貸しは「用がないなら帰ってくれ」と町の人を帰した。

 家を、町を飛び出したリーズは大きなリュックを背負って駆けている。
 リュックの中は両親からいつか、リーズが冒険に出た時用にと贈ってくれた冒険道具、そして一番大好きな冒険小説。
 空はとても晴れていてとても気持いい。
 両親を探すのも大事だが、それ以上にこれからの冒険に心をときめかしている。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ic0959 / リーズ / 女性 / 15 / 今日から冒険家】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ノベルでははじめまして。
リーズさんの過去話、如何でしたでしょうか?
この度はご発注ありがとうございました。
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鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年07月31日

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