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『黄金貴公子と銀のママチャリ 』
クローディオ・シャールka0030

 クローディオ・シャールは庶子ではあるが貴族である。
 古代イルダーナより連綿と受け継がれる系譜、偉大なりし千年王国《ミレニアム》、クリムゾンウェストがグラズヘイム王国、その一翼を担うシャール家の貴族である。
 ブロンドの髪に涼やかなブルーアイズ、すっと通った鼻立ち、気品溢れる甘いマスク、やや長身痩躯の身を、乗馬に適していそうな白を基調とした脚衣と上衣に包み、黒のブーツを履き、紺のマントを羽織っている。二十代半ば程度に見える美青年だ。
 そんな麗しの貴公子が真剣な眼差しで見つめる先には、銀色にメタリックに輝く二輪の乗り物――そう、”ママチャリ”が鎮座していた。
 クリムゾンウェストには、元来この二輪の鉄の乗り物は無い。
 異世界リアルブルーよりもたらされた未知の一品である。
「……買ってしまった」
 だが後悔は無い。
 この非常に新鮮でかつ機能的なデザイン。夏の陽光を浴びて煌き輝く”ママチャリ”は美しい。これきっと良いものだ。この二輪の導入を決めた事は、シャール家の歴史において、移動手段の技術革新の一ページを記す事になるに違いない。
 と、ブロンドの貴公子は信じた――かどうかは定かではないが、とりあえず彼は、ハンターとして宿としている施設の庭先で、いそいそとロックを外すとママチャリに跨ってみた。
「……ふむ」
 グリップを握り、ペダルに足をかけ、碧眼の青年はぴくりと形の良い眉を動かす。
 今は片足を地につけているから倒れないが、これは、なかなか不安定な乗り物な気がする。考えてみれば当たり前だ。接地面積があまりに細い。これでは少しでもバランスを崩さば、横に倒れるが道理。
 乗馬は良く嗜んでいるが、かの四脚生物とは安定感があまりにも違う。
 不安が胸中にこみ上げてくる。
 この乗り物、危険はないのか?
 貴族の間では落馬して打ち所が悪く死亡するというのは、そう珍しい話ではない。疾走する戦車《チャリオット》から転げ落ちた場合も同様に危険と聞く。故に、この鉄の乗り物もまた”落車”すれば死の危険があるのではないか?
 が、
「私の命がシャール家の未来の為に使われるのならば、それも本望……!」
 貴公子は怯まなかった。
 きっと己が倒れたとしても、己が残した挑戦の足跡を越え、嫡子である弟が家の糧としてくれるに違いない。私の屍を越えてゆけ。
 もし見物人がいたら「おお、彼こそ勇者だ!」と称賛したに違いない――リアルブルーとクリムゾンウェストでは常識が異なる。
 ありえない話ではない――かもしんない。
「いざ」
 覚醒と共に、黒い犬の幻影が現れた。燃えるような赤い瞳と漆黒の被毛を持った黒妖犬だ。「死」の概念が具現化したかのようなそれは、ママチャリに跨ったクローディオの足に擦り寄り、そして風に溶けるように姿を消した。その様は、死の先触れのように見える。死さえも覚悟した挑戦の始まりだ。
 貴公子は意思を固め全霊を籠めて、右のペダルを踏み込んだ。
「!」
 瞬間、鉄の造形物が駆動した。ペダルが下がり、それに伴いチェーンが動き、ホイールが回転する。回転する車輪は、サドルにクローディオを乗せたまま、鉄車全体を前進させる。
 クローディオは動いた感触に感動と興奮を覚えつつ、購入した店の店主がいっていたように、即座に左のペダルも踏み
「っ?!」
 こもうとした所で突如として、衝撃が襲いかかってきた。
 身体が首周りより後方に引かれる。鍛えられたハンターは焦燥を覚えつつも反射的に姿勢を制御する。すると、車輪の回転がぴたりと止まり、鉄車が横倒しに倒れゆく。
「くっ?!」
 地面に倒れこむ寸前、咄嗟に受身をとらんとしたものの、やはり身体が後ろから抑えつけられ、上手く身動きがとれない。焦る。
 だが、もがいたものの、努力虚しく、ガッシャーン! と音を立ててそのまま地面に叩きつけられる。
「む……」
 幸いにしてまだ速度があまり出ていなかった為か、衝撃は軽かった。
 しかし、一体何が起こったのか。
 クローディオが視線を巡らせると、そこには後部車輪とそのチェーンに己のマントの裾がぎっちりと噛み込まれていた。
「……なるほど、巻き込んだのか」
 迂闊だった、と貴公子は思う。回転するならば、たなびく優美な外套を巻き込むのは、なるほど、それも道理。
 クローディオは外套を脱ぎ、車輪から丁寧に外して畳むと、ママチャリを立て、その籠の中にマントを入れた。
 いきなりの転倒にもめげず、貴公子はサドルに再び跨った。
 思えば、乗馬を覚える時にも訓練したものだ。何事も初めからそう上手くゆくものでもない。
 乗馬は人馬一体、馬と気持ちを通わせる事が大事である。
 ならば、この鉄車も気持ちを通わせ合う事が肝要なのではないか……?
「……よろしく頼むぞ」
 貴公子は真剣な眼差しでママチャリのハンドルを撫でた。冷たく滑らかな手触り。メタリックシルバーな車体がきらりと輝く。
 心が通ったような気がした。
「いざ」
 クローディオは再びペダルを踏み出した。今度は左からだ。
 自転車が前進する。
 身体が流れる感触。
 すかさず右のペダルを踏み込む。
 景色が僅かながら進む。
 ふわりと風を感じた。
「おお……!」
 感動した瞬間、庭先の石に車輪があたり、車体が小さく跳ねた。
 車体が傾き、危うくまた転倒しそうになる。男は咄嗟に反応し、右足をペダルから外し、地面を踏みしめる。
「……危なかった」
 なんとか地面に叩きつけられる前にママチャリを支え、転倒を免れえた。
 やはり不安定な乗り物である。
 馬などは小石など踏んでも、ある程度勝手に自分で姿勢制御してくれるが、この鉄の車はそういう事はないようだった。衝撃が与えるままに車体が流れる。故に、騎手たる己がすべて制御しなければならないようだった。
 そう――無機物。
 そこに鉄の車の意志はないのだ。心を通わせる以前に心が無い。
 この鉄車には心が無いのだ。
「いや、しかし、果たして、そうだろうか……?」
 貴公子は真面目に考える。
 剣もやはり鉄の塊だが、剣の振り方、斬り方は剣を振っていれば自ずと剣が教えてくれる。誤れば欠け、そして折れる。
 使い手を傷つけ、時として命を落とさせる。
 そうやって剣は教えてくれる。
 この鉄車もまた、同様の存在《もの》なのではないだろうか……?
「”ママチャリ”の声に耳を傾けるのだ……」
 クローディオは己に言い聞かせつつ、再びサドルに跨る。
 ママチャリの挙動を全身で感じ取るようにゆっくりと漕ぎ出す。
 ぐらぐらと左右に揺れる。
 安定しない。
 何故?
――恐れるな!
 そんな声が聞こえたような気がした。
 ペダルを踏み込む。
 速度が増す。
 安定する。
――私が真っ直ぐ走るには”速さ”が必要なのだ!
 ママチャリがそう叫んでいるような気がした。
「なるほど……!」
 クローディオはペダルを踏み込む。小石を車輪が踏み、揺れる。だがハンドルと体重移動で重心をコントロールしつつ、恐れずペダルを踏む。
 跳ねた衝撃を尻に伝えつつも、ママチャリは倒れずに走ってゆく。
「聞こえるぞ、お前の魂が!」
 鉄の機構が駆動して吠え声をあげている。貴公子は心技体を制御し、ひたすらにペダルを漕ぎ続けるのだった。


 四半刻後。
 その街のメインストリートでは風をきって快速でママチャリを立ち漕ぎしてゆく、シャール家の若君の姿を多くの住民達が目撃したという。




 了


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / 肩書き】
ka0030 / クローディオ・シャール / 男 / 26才 / ママチャリに心奪われた貴公子

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございます。望月誠司です。
 シュールなコメディという事で仕上げてみましたが、こんな感じで大丈夫でしょうか……?
 ご満足いただける内容になっていましたら幸いです。
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ファナティックブラッド
2015年08月03日

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