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『リゼリオ追跡劇 』
エアルドフリスka1856)&ユリアン・クレティエka1664

 煌く夏の海は青く、カモメが空で鳴いている。
 西方半島が東、自由都市同盟が一市『冒険者の街』と呼ばれるリゼリオは、海岸付近の平地と幾つかの島からなる都市だ。
 二十歳半ばの薬師《エアルドフリス》とその弟子を称している十代後半の少年《ユリアン》は、共に島と島を結ぶ大橋の上を歩いていた。
 混雑とまでは言わないが、なかなか多くの人が往来しており、市の活気の程を良く現している。
 そんな時分だった、
「ひ、ひったくりだッ!! 誰かぁーっ!!」
 突如として悲鳴じみた叫びが響き渡った。
 エアルドとユリアンが振り向くと、そこには転倒している小奇麗な身なりの痩身の青年と、オーモニエール《巾着袋》を手にした十歳程度の薄汚れた童子が、今まさに駆け始めているのが見えた。
「その子供を捕まえてくれっ!!」
「おっと」
 周囲の人々がぎょっとして固まり足を止める中、金髪碧眼の薬師の男は、童子の進路を塞ぐようにゆらりと進み出た。
「天下の往来で物取りとは度胸が良いな――ユリアン」
 エアに合わせてユリアンもまた隣に並ぶ。二人の男が壁となって、童子の進路を塞ぐように立ち塞がり、童子は急停止した。
「了解、師匠」
 エアルドの意を汲んだユリアンは、童子へと近寄り手を伸ばす。
「俺達ハンターが居合わせたのが運の尽きだね。さぁ、大人しく――」
 その瞬間、童子は木造橋の表面を窪ませ割る程の勢いで踏み出し、弾丸の如くに動いた。
 ユリアンの手が空を切り、童子が前進してユリアンの脇を抜け、咄嗟にエアが動いて進路を塞がんとしたが、童子は折れる稲妻の如くに進路を急角度に切り返してかわし、二人を抜きさってゆく。
 単なる童子にはあるまじき機動にエアとユリアンは驚愕を覚えつつ振り返る。少し行った先で童子もまた足を止め振り返っていた。
(あれは……?)
 小柄な童子の髪が見えない手に梳かされているかのように揺れ、足元や周囲に塵が舞い、服がはためいている。
 鋭い黒の三白眼と視線が合った。
 童子は勝ち誇るように、ニヤリと笑った。ガッ! と両腕を交差させてガッツポーズを取ってみせる。
 そして、くるりと踵を返し、駆け出してゆく。青年が「あぁっ、にげるっ」と悲鳴をあげた。
「……ほぉ?」
 薬師はたいそう愉快そうに笑った。あれは、挑発ないし挑戦だ。本気で追って来いと言っている。
「追うぞユリアンッ! あの小僧には色んな意味で"躾け"が必要そうだ!」
 エアが叫び、猛ダッシュで走り出す。
「りょ、了解!」
 呆気に取られつつもユリアンもすぐに反応し駆けてゆく。
 彼の師匠は結構、キレっぱやかった。


 沿岸の街に吹く海風を裂きながらエアとユリアンは童子を追って全力疾走していた。
 石畳が敷かれた大通りを駆ける――往来の婦人の付近を三人が疾風の如くに抜け、婦人は巻きあがったスカートを抑えて「キャー!」と悲鳴をあげ。
 角を曲り――馬車に轢かれそうになり、馬がいなないて急停止して「バッキャローッ! 死にてぇのかッ!」という御者の叫び声を置き去りにし。
 細い路地裏に飛び込み――冒険者風の男女と激突した瞬間、その男の頭髪が吹き飛び――DU☆RAだったのだ――「うわぁぁぁぁあああああ!」「あんた、ハゲてたのっ?!」という絶望と悲壮感が入り混じった叫びに対して「すいませんんんんん!!」と肩越しに謝罪の言葉をぶん投げつつひたすらに走る。
 さようにして、街に巡らされている道という道を走り抜けてゆく。
 追う側のハンター二人の方が若干速度自体は速いのだが、童子はこの街の地形と自らの小柄さの利を理解しているようで、横歩きしなければ通り抜けられないような非常に狭い家と家の間や、塀に空いた穴などを潜り抜けるなどしてなかなか距離を詰めさせない。
(鈍ってるな)
 ちっと舌打ちの一つでもしたい気分で二十代半ばの金髪碧眼の男は胸中で呟いた。
 息が上がり始めている。魔術師ではあるが、体力はある方だったのだが。
(街に居着いちまった所為かね)
 そんな事を苦々しく思う。
「ユリアン、このままじゃあ埒が明かない。覚醒を使ってしまおう。多少無茶やって構わん。回り込め!」
「わかった! 師匠、追い詰めるから宜しくっ!」
 少年の足元より新緑色に光る風が逆巻き周囲に一瞬吹き荒れる。力を解放したユリアンは跳躍するとさらに付近の家屋の壁を蹴って屋根の上まで飛び上がった。
 赤色の屋根の上、風を纏い脚部にマテリアルを集中して加速し、少年は疾風と化して駆け、跳躍し、建ち並ぶ家々の屋根の上を跳躍してゆく。
(いた)
 家々の隙間から下町の道へと小柄な童子が飛び出してきて、弧を描いて方向転換してまた道を駆けてゆく。それに続いて水紋を纏ったエアが飛び出して来るのもみえた。
(この道の先は、確か)
 童子はリゼリオの街並を良く知っているようだったが、それはこちらも同じである。この先は道が┛字型に折れた筈だ。
 地上をかけるエアルドが駆けながらユリアンを見上げて、左腕を時計周りにぐるぐると振って見せるのが見えた。師が言わんとしている事に察しがついたユリアンは頷いてみせると、直角三角形の斜辺をなぞるように、屋根の上を北東へと駆け、跳んでゆく。
(来た)
 三平方の定理的にショートカットして先んじたユリアンは、角から猛ダッシュする少年が土煙をあげながら曲がって来る所を視認する。
「行かせない!」
 ユリアンは少年へと向かって駆け、屋根を蹴り、高々と宙に身を躍らせる。
 が、少し距離があったのと、逃すまいと力んで勢いをつけすぎたのが不味かった。
 ユリアンの身は弾丸の如くほぼ直線的に飛び、小柄な少年のはるか頭上を突き抜け、その奥にある、屋台の、湯気立つ大鍋にジャスト・インする軌道を描いていた。
(――しまったっ?)
 このままでは冒険都市《リゼリオ》風ユリアン煮込みになってしまう。流石にその料理は冒険過ぎる。
 ユリアンが食材への冒涜に歯噛みしかけたその瞬間、眼前に土色の巨大な壁が出現した。
 エアルドフリスが咄嗟に発動させたアースウォールである。
「うぉおおおおおおおお!」
 ユリアンは足を振り上げてアースウォールを蹴りつけると、三角跳びに身を捻りざま軌道を修正。回転しながらそのまま童子へとぶちかましを仕掛けた。
 流石にこの動きは予想していなかったのか、頭上を遠過ぎた直後に壁を蹴って反転してきたユリアンからの体当りをもろに受けた童子は、木の葉のように吹き飛び「うわぁー!」と悲鳴をあげてユリアンともども道に転がった。
 童子とユリアンはすぐに起き上がり、童子は横に後退して間合いを広げる。しかし、その背が家の壁にどん、とぶつかった。
「ふ、ふふ、逃がさないぞ!」
 ちょっと足とか肩とか頭とかあちこち痛かったがユリアンは男の子なので、表情には出さずにビシッと指さして言ってみた。泣かない。
「くっ……よ、予想がつかない変態的な動きしがやる……なかなかやるな……!」
 童子が肩を抑えギリッと歯を喰いしばって戦慄している。
 そんな中、
「さて、お前さんも年貢の納め時だね」
 落ち着いた声と共に、ユリアンの逆サイド、童子を挟む位置にエアルドが到着した。
 童子は巾着を抱いて、左右の二人へと視線を走らせる。
 追い詰められた童子は、直後、意を決したように弾丸の如くにユリアンへと踏み出してきた。
 風と風が唸る。
 勝負。
 瞬間の勝負。
 勝負は、瞬き程の時で決まる。
(――見える!)
 ユリアン、今度は先と違って覚醒している。が、この童子、ただ者では無い。相手も同じように自分の動きが見えている筈だ。
(こう言う時こそ最小の動きで……っ!)
 少年は膝を抜くと滑るように無拍子に動いた。
「あっ?!」
 刹那、ユリアンの手が童子の巾着を握っている方の手を逃さず掴んでいた。
 交差、激突、衝撃。
「くっそー! 離せー!」
 童子は激しく暴れ、空いている方の手や足で殴ったり蹴ったりしてくる。結構痛い。
「はい、そこまで」
 空いている方の腕も、声と共に伸びてきたエアの手ががっちり掴んで捕える。
「うっ……!」
「さぁて」
 薬師は童子を見下ろすと、にっこりと笑った。
「どういう了見で、あんな真似をしたのか、聞かせて貰おうかねえ」


 彼は下町で一人で生きている孤児であり、巾着を盗んだのは生活の為だという。
 わざわざエアルド達を挑発して見せたのは、
「俺は只者じゃないんだ。ああ、確かに、今はただの下町の小僧だ。だけど、将来は世界を揺るがすでっかい男になる筈なんだ」
「……ほう?」
「でも本当にそうだろうか? 俺は疑問に思った。だから、俺は、勝負してみようと思った。あんた達ハンターと。あんた達に勝てれば、俺の力は外の世界でも通用する筈、そう思ったんだ」
「…………お前さん、名は」
「ジン」
「ではジン、そこに座りなさい」
「え?」
「座りなさい」
「は、はい」
「……大きな男というものは、人様の物を無思慮に奪うものではない。もしも、あんたが盗んだこの金が、急病の父母兄弟を救う為の金だったとしたらどうだ。あんたは金を盗んだのではなく、人の命を盗んだ事になる。現実、なりうる。だから一つ問う。奪うにしても、その覚悟が、あんたにはあったか?」
「そ、そんな大事な金ならふつーあんな無防備に持ってねーだろ!」
「普通? それが本当に普通だと、考えたことはあるかね? あんたは広い世界を目指すのだろう? それはいついかなる場所でも普通なのか? 俺が指摘した点をあんたが考慮に入れていなかったように――」
 エアルドが説教を始め、これは長くなるな、とユリアンは遠くの空を眺めるのだった。


 二人は巾着を持ち主に返すと、街の治安組織に童子を引き渡した。
 死刑まではいかないだろうが、何らかの罰則がくだる事だろう。
 別れ際、
「ジン、あんたには、覚醒者の才能がある。あんたがどう生きるか、その権はあんたが持つものだが、あんたが本当に大きな男になるというのなら、その力の活かしかたを考えた方が良い」
 エアルドは童子にそう告げると、その場を後にしたのだった。



 了



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
ka1856 / エアルドフリス / 男 / 26才 / リゼリオの薬師
ka1664 / ユリアン / 男 / 17才 / エアルドフリスの助手

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注、有難うございます。毎度お世話になっております、望月誠司です。
 オリエンタルSUSHIラーメンは、つい出来心で……(目逸らし(
 それはそれとしまして、今回、ジ○ッキー風というからには童子に椅子とか使わせたかったのですが……上手く構成できませんでした。
 終わった後に飲み物奢ったりも入れられず、ぐぅ。
 ここまでで限界一杯。
 色々足りない部分が多いかと思いますが、ご満足いただける基準にまで達していましたら幸いです。
野生のパーティノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年08月03日

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