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『夢の続きは永久の契り 』
天谷悠里ja0115)&シルヴィア・エインズワースja4157
 ―― 左手が握るのは想い
 薬指で繋がるのは愛

 夢に見るのは……――


 夜の帳に浮かぶ月は薄絹越しに顔を覗かせた。
 真っ白なシーツがゆったりと柔らかく波打つ。
 微かな衣擦れの音と共に寝台に滑り込んで来たのは、天谷悠里。
 先に身を沈めていたシルヴィア・エインズワースは、未だに緊張気味に傍寄ってくる愛らしい恋人に頬を緩め、彼女のために場所を空け身を傾けた。
「すみません……」
「大丈夫。まだ眠ってはいませんよ」
 自分の所為で眠りを妨げたのではと気に病んだ悠里にシルヴィアは首を振り上体を持ち上げ、ベッドサイドへと手を伸ばす。
 美しい金糸が後を追うように、シーツの上を流れるのを眺めながら、悠里は、ほぅ……と熱の籠もった吐息を漏らした。
 いくつかの枕を背もたれに腰掛けたシルヴィアの膝の上には小さな箱。悠里はその中身をもちろん知っている。
 シルヴィアは、一度だけちらりと悠里の方へ視線を送ってから、蓋を持ち上げた。
 ルームランプの暖かな光を細かく反射させ煌めくのは――指輪。
 昼間二人で見つけた不思議な雰囲気の店で見つけたものだ。そこの店員が、まことしやかに口にした台詞を思い出す。
「本当だと思いますか?」
「ふふ、どうでしょう? けれど、良夢を願うおまじないは数多くありますから……これもその一つと捕らえれば、あり得ないということはないのではないですか?」
 細くしなやかな指先が、仲良く並んだ二つの指輪のうち一つを抜き取ると悠里の左手をとり口にする。
「おまじない……」
 口内で繰り返した悠里は、そうですね。と、不安の色を取り除き口元を綻ばせた。
「寝る前にお互いの左手薬指にはめ――」
 シルヴィアの言葉をなぞるように、するりと指輪を悠里の左薬指へと滑り込む。
「口づけを交わすと幸せな夢を見られる」
 締め括るように続けた悠里は、もう一つの指輪を同じようにシルヴィアの左薬指へと納めた。
 その手が離れてしまう前に、指を絡め取り優しく引き寄せ、シルヴィアはベッドへと身体を倒す。悠里から微かに漏れた声が尾を引くように続き、シルヴィアへしなだれかかるように横たわり、

二人分の重さを包み込んだベッドが短く軋む。
「私は……」
「はい」
「ユウリが夢にまで見る幸せというものに興味があります」
 額を寄せ顔を覗き込んで悪戯に微笑んだシルヴィアに、悠里はかぁっと頬が熱持つのを感じた。
「それ、は……その」
「夢で、確かめましょう」
 人差し指が、そっと悠里の唇を押し留める。
「今、私たちがすべきは」

 ――おやすみなさいの口づけ……。


「……ぁ」
 視界の隅に白がよぎる。それに気がついたと同時に、ふわっと白に包み込まれ目の前が眩しく開かれた。
「ドレス……」
 驚きに胸を押さえ見下ろした自分の格好はウェディングドレスだ。後ろ姿まで確認するように身体を動かすと、それにつられるようにプリンセスラインを描いたドレスが、柔らかくふわりふわり

と揺れる。
「……ん」
 頬をくすぐり視界の隅に捕らえていたのはティアラから流れ降りてきていたショートヴェールだ。
 夢だ。悠里はその事実に行き当たる。

「ユウリ」
 まるでそれを待っていたかのように掛かる声は……愛しいシルヴィアのもの。
 顔を上げれば、いつからいたのか? それとも最初からそこに佇んでいたのか……繊細な刺繍で縁取られたマリアヴェールの奥から、穏やかな瞳を向けるシルヴィアの姿に悠里は刹那息を呑む。
「お姉、ちゃん……」
 返事はなく口角が僅かに引きあがり瞳が細められる。
 シルヴィアが後一歩の距離を縮めると、美しく整った肢体を包み込むマーメイドラインのドレスの長いドレープが波を引き光が泳いだ。
 二人が互いを見詰めあい、互いが互いの姿に息を呑む。
「愛らしいユウリ……とても良く似合っていますよ。童話に出てくる姫のようだと言うと、有り体で陳腐な誉め言葉になってしまうかもしれませんが」
 そう言ったシルヴィアは他に何か適当な表現はないだろうかと思案気に、手を顎に添えそっと唇を撫でた。
「ユウリ?」
「っあ、ぃえ……その、あ、ありがとうございます。シルヴィアさんも綺麗で……」
 ときめきと緊張に思考が止まってしまい次の言葉が出ない。その……とまごついた悠里にシルヴィアは、ありがとうございます。と愛らしい恋人に破顔した。

 そして、つっとどちらともなく目の前にしていた場所を仰ぐ。晴れ渡った空の青に映える真白の教会。美しい彫りで縁取られた扉には並んだ二人の姿が映る。その中で視線を交わし首肯して、互

いを見。もう一度頷く。

 ――ギ……ギィ……っ

 まるでそれを待っていたかのように観音開きの扉は微かな蝶番の音を響かせて開いた。室内は、ステンドグラスが織り成す繊細な色取り取りの明かりが真っ赤なヴァージンロードを美しく飾って

いる。

 悠里はその情景に瞳を細め眩しそうに見る。
 目を閉じれば今も鮮明に蘇るあの日、自分は心を決めた。シルヴィアへの気持ちを確信し正直になったつもりだ。それなのに――

 僅かな間と逡巡。それを断ち切るように、シルヴィアの指先が悠里の手に触れそのまま滑り込むように繋がれた。
 言葉はなくても悠里にも分かった。二人は一歩踏み出す。


 見上げるほど高い十字架の前。
 恋人たちが永遠の愛を誓う場所……振り仰ぎ悠里は小さく喉を鳴らした。
 全てを捧げたいと想う人が出来た。ただ……それが女性であったというだけ、そう……それだけ――。
 たったそれだけのことなのに……暖かな気持ちの中に溶けない氷を投じているようだ。名を与えるなら……不安……なのだろうか?

 シルヴィアは隣の悠里を盗み見る。言葉に出さなくても彼女の映し出す一縷の不安。迷い。それが手に取るように分かる。
 けれど、この手を離すつもりはない。
「ユウリ」
 ぐぃと悠里の腕を引きその力に促されるように、悠里はシルヴィアの腕の中へと収まる。
 そして向かい合い、ヴェール越しに見つめ合う。
 二人を隔ててしまっているのはこの僅かな薄絹と同じようなもの。
 流れるような所作で、シルヴィアは悠里の顔に掛かるショートヴェールを払い後ろへと流す。
 祭壇の前。
 この神聖な場ですべきことは一つ。シルヴィアは片腕でより強く悠里の腰を引き寄せ包み込み
「ユウリ……誓って……」
 言って空いた手はそっと悠里の頬を撫で、決して何色にも染まることのない漆黒の瞳を覗き込んだ。
 場を支配する清浄とした空気。互いの呼吸が刹那止まる。そして問う。愛の儀式――

「いかなる時もシルヴィアに愛を捧げますか」
「誓います」
 悠里の唇がその音を紡ぐと、額へと柔らかな唇が触れる。
 ユウリ……甘く名を呼び、皇かな悠里の頬の上をシルヴィアの整えられた指先が滑り、手のひらが包み込む。
 碧眼は横から差し込んでくる陽光に空と同じ色を見せた。慈愛に満ちた瞳は、それならばというように重ねて問い掛けてくる。
「――女性と愛し合う道を歩みますか……」
 シルヴィアの胸元に添えられていた悠里の手が拳を作る。
 自身の僅かな躊躇い。それさえも気づき掬い上げてくれるシルヴィアに悠里の胸は熱く強く高鳴る。
「……っ」
 拳の中へと滑り込むようにシルヴィアの指が絡まり、きゅっと握りしめた。
 鼻先が触れる距離でシルヴィアの真摯な瞳が悠里の心の奥底まで覗き込み支配するように見つめる。掛かるシルヴィアの吐息が、音もなく悠里の名を紡いだ。
 その吐息を吸い込むと胸が、きゅっと甘く強く痛み疼く。愛しいと叫ぶ。彼女が、必要だと……――
「――誓います」
 彼女しか愛せないと叫ぶ――
 強く瞼を閉じてただ一途に願い誓う。シルヴィアが笑みを深め頬へ口づけが落ちる。安堵する自分がいる。もう、何も揺らぐ必要はない。
「この夢から醒めても花嫁となりますか」
「誓います」
 シルヴィアの瞳が優しく弧を描く。
「貴女の幸せが此処であったこと、貴女の幸せの形がこの純白のドレスに現れていること……私は嬉しいのです」
 この夢を見るのは必然。驚くことも意外だと感じることも悠里にはなかった。だから、シルヴィアも当然そうなのだと思っていたのに、敢えてそう口にしてくれるシルヴィアの言葉にこの奇跡を

実感する。互いの確かな愛を感じることが出来る。
 私も嬉しい……その気持ちが悠里の瞳にうっすらとヴェールを掛けた。それを拭う様に今度は瞼へと口づけが降りた。
 ――ぽつ、ぽつ……と、シルヴィアの唇が触れた場所から火が灯るように熱が広がっていく。
 重ねられる問いに迷うことなどない。

「シルヴィアさん」
 瞬きが悠里の続く言葉を促す。
「私を……私を、貴女のものにしてくれますか」
 ぐぃ……っ!
 絡め取った手を強く引き、シルヴィアは悠里を強く抱きしめ
「誓います――貴女を心も体も私のものにすると……」
 誓った声が教会内に響き静寂が戻るより早く、シルヴィアは悠里の唇を奪った。
 悠里の体に直接誓いの言葉を証を注ぎ込むように、甘く……深く……。
 喜色に揺らいだ悠里の瞳は何も捕らえない。ただ、互いの熱に浮かされ、まるで呼吸するのに不可欠であるように口付けを求め合う。


「は、ぁ……っ」
 熱の籠もった吐息が儀式を締め括る。
 名残惜しげな想いが無為に音のない言葉を紡ぎ、上げた瞼の先にある瞳は悪戯にきらきらと煌めいた。
 悠里の頬は上気し恍惚とした瞳はうっすらと涙のヴェールに覆われ、甘い口づけを強請るように僅かに顎を上げる。
 恋人の……いや、花嫁の愛らしい姿にシルヴィアは求められるまま、額に祝福を、瞼には憧憬を、頬に厚意を……唇には全ての愛を……この口づけに込めて――。


 薬指を彩った指輪が淡く煌く。
 夢が終わり朝がくる、夢の続きは現実――リアル――で綴ろう。
 もう一度願い誓おう。
 性別をも越え変わらぬ愛を……悠久の愛を……そして、永久の契りを――



【夢の続きは永久の契り:了】




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0115/天谷悠里/性別:女/外見年齢:18/職業:アストラルヴァンガード】
【ja4157/シルヴィア・エインズワース/性別:女/外見年齢:23/職業:インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼ありがとうございます。汐井サラサです。
 不思議な指輪。素敵な指輪ですね。悠里さんの小さな不安も見落とすことなくしっかりと見詰め愛してくれるシルヴィアさんの深い愛情。
 確信しつつも戸惑い、想いを受け入れていく悠里さんの愛らしさ。
 お二人が末永く幸せでありますように……その姿をもう一度描き出すことが出来、とても嬉しかったです。重ねてありがとうございました。
水の月ノベル -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年08月03日

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