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『平凡で大切な夏の一日 』
アルベルト・レベッカ・ベッカーjb9518


 陽射しが、不快な暑さとなって主張する夏。照り返すアスファルトを苛立たしげに蹴りつけながら、レベッカは街を彷徨く。特に目的のない足取りは、自然、涼を求めて繁華街へ――と。

「ん?」

 視界に、金髪が煌めく。電柱を砕かんばかりに握りしめ、美味しそうな匂いの屋台を見つめている人影。
 その見覚えのある後姿に、レベッカはにやりと笑うと。

「きーららちゃんっ!」

 ふーーーっ

「みぎゃああああ!?」

 ゴンッッ!!

 背後から耳元に息を吹き掛ける→驚いて飛びすさる→電柱に頭をぶつける→つまり。

「……あら?」

 目を回して地面にのびる煌爛々に、レベッカは首をかしげた。




「くふふもう食べれないですしぃ……レベッカ?」
「気が付いた?」

 ぼんやりとした視界が、だんだんと覗きこむ顔にピントを合わせる。程よい肉付きの太ももから飛び起き、煌爛々は見慣れぬ場所に目をぱちくり。

「知り合いのレストランよ。今日は休みだけど」
「なんでここいるですし?あとレベッカも」

 ハテナの飛ぶ様子に、レベッカはにっこり笑顔。

「通りすがりに(脅かしたら)きららちゃんが倒れて(しまっ)たから運んだのよ」
「ありがとですし……?んんん?」

 嘘は言ってないが、全て語ってもいない。煌爛々の記憶が曖昧なのをこれ幸いと、レベッカは話題を変える。

「そろそろお昼だけど、きららちゃん、お腹すいてない?」
「うっ」

 途端、目をそらす煌爛々。屋台の前で日課の【匂いでおひるごはん】してたのを、バレたくないらしい。お金がないって悲しい。

「べっ別にだいじょ」

 きゅるるるる〜〜〜

「……………」
「……………」

 無言で見つめ合う。撃退士の反射神経で、レベッカは口元を両手で覆った。

「ちっ、ちがうですしこれはええと隠し芸ですし!!」
「そ、うな、の…すご、すごい……ププ……わね、くふっ」
「ムキィィィーーー!!!」

 抑えきれない笑声が手の隙間から漏れる。表情自体は真顔なのが、いっそ腹立たしい。
 真っ赤な顔でバシバシ叩いてくる煌爛々の右手をそっと受け止めて、レベッカは片目を閉じた。

「そうだ、料理しましょう」



 三角巾巻いてエプロンつけて。気分は調理実習。鼻唄を口ずさみながら、レベッカは冷蔵庫をあさる。

「んー、何作ろうかしら」

 材料はあらかた揃っているから逆に迷う。

「何でもいいですし」

 手持ちぶさたに平静を装う煌爛々だが、視線が置いてあったレシピの、とあるページをチラチラ動く。

「ビーフシチューかしら?」
「………」

「オムライスも作れるわねー」
「………」

「ハンバーg(ガタガタッ)」

「……パスタも捨てがたいわー」
「……………」

 レベッカは無言で冷蔵庫を閉めた。

「レベッカ?いきなりしゃがんでどーしたですし、ふるえてるですし寒いですし??」

「〜〜っは、だっ、大丈夫よ…っ」

 あまりにもあまりにもな煌爛々の反応に、レベッカは呼吸困難。暫し床に拳を打ち付けて、何とか衝動を飲み込むと。

「ハンバーグにしましょうか」

 目元の涙を拭って立ち上がった。




 トントントン。リズミカルに包丁が踊る。

「ほら、こうやってみじん切りに――きららちゃん?」
「な…なみら……とま、どまら、ん、でずじぃー!」

 軽快に刻むレベッカの横で、半分に切っただけの玉ねぎを前に号泣する煌爛々。

「レベッガ〜〜うええ」
「あーダメよ、目を擦っちゃ」

 濡らしたハンカチで優しく目元を拭って。落ち着いた煌爛々に、今度はにんじんを渡す。
 だが、試練はむしろここからだった。

「ピーラーを当てて引いてみて…そうそう、その調子」
「ふふん、まかせるですし!!」

 シャッシャッシャッ……×無限

「れ、レベッカ!にんじんなくなったですし!?」
「…サラダに使うわね」

 シンクにこんもり、山となったにんじんに淡く微笑み。レベッカは次にボールを渡す。

「タネを混ぜて捏ねてくれる?」
「得意ですし!!」

 グッチャグッチャ…ビチャッ…グッチャグチャ…ビタンッ……×無限

「れ、レベッカ!なんかからっぽですし!?」
「……お掃除、頑張りましょうね」

 すごい勢いで顔面に飛んできたミンチを避けながら、レベッカは遠い瞳で悟った。これあかんやつや。

 でも。

「ご、ごめんですし…」

 しょんぼりオーラで俯く煌爛々に、くすりと微笑って。その頬に付いたミンチを拭い、くしゃりと髪を撫でる。

「ねえ、きららちゃん。――一緒に何かするの、楽しいわね?」
「……っ、た、たのしい、ですし!」

 勢いよく上がった顔は、びっくりした表情に彩られ。
 驚きにポカンと開いた口で、一瞬後、煌爛々は必死に言い募る。


 『ともだち』といっしょ、それはとても楽しくて、ちょっぴりむず痒い。


 真っ赤な顔でもにょもにょと呟く煌爛々に、レベッカは悪戯っぽく笑うと。

「きららちゃん、あーん」
「ふお?……むぐぐっ!?」
「レベッカ特製ソースよ。味見係、お願いできるかしら?」
「ふぉへはは、ほくひれふし!!」

 口内に突っ込まれた銀のスプーンを、飲み込む勢いで味わって。ウィンクするレベッカに、煌爛々は笑顔で頷いた。



 テーブルも装い華やかに。素人にしては十分な出来映えのハンバーグが並ぶ。おかわりもたくさんです。

「お口にあうかしら――って、心配なさそうね」
「んぐ!もぐもが――モガッ!?」

 一心不乱にかきこむ煌爛々に、レベッカは胸を撫で下ろす。急ぎすぎて喉につまらせた背を、あわててさすったり。

「にんじん……」
「特製ドレッシングなのに、食べてもらえないのね……」

 いささかオレンジすぎるサラダに躊躇する煌爛々を、泣き落としてみたりして。
 食事は和やかに、お腹も心も満ち足りるまで。


 満腹の心地よい倦怠感が、空間を支配する。
 食後の紅茶を楽しみながらも、その甘やかな誘惑に抗えるはずもなく。微睡みに身を委ねかけるレベッカ。

(うむむむ……)

 その注意散漫な様子をこれ幸いと、煌爛々は必死に悩んでいた。

(ティッシュ、は半分くらい使っちゃったですし……葉っぱ、はちょっと破れてるですし)

 数少ないポケットにぎゅうぎゅうに押し込まれたたくさんの何かを、音をたてないようにテーブルに広げる。セミの脱け殻や蜥蜴の尻尾など、悲しいほど役立つモノがない。

(んむむむなんもないですし、でも貰いっぱなしはよくないですし)

 横目でそっと、レベッカを窺う。貰うだけの一方的な関係は、『ともだち』ではない。


 ずっとともだちはいなかったけど、それだけは知っている。
 やっとともだちができたから、もう、なくしたくはないのだ。


 ……コロン

 知らず、ぎゅっと両手を握り締める煌爛々の目の前に、セミの脱け殻の影から何かが転がり出てくる。

(んんん?)

 窓から差し込む夕焼けのオレンジに、キラリと光を反射する球体。煌爛々はもう一度レベッカを見る。今は伏せられた睫毛の奥、とりどりの感情で煌めく色を思い出して。

(ぴったり、ですし)

 そっと摘まみ上げ、スカートの裾でゴシゴシと磨いた。


 移ろい行く夕陽が、別の窓から顔を出す。ちょうど瞼を焼く眩しさに、レベッカは微睡んでいた意識を浮上させる、と。

「れ、レベッカ!!」
「どうしたの?」

 先程から何やらごそごそとポケットを探っていたらしいのは気付いていたが。終わったのか、やけに鋭い目線で睨み付けてくる煌爛々。
 ――この表情が照れ隠しなのだと、わかるほどの付き合いになれたことが嬉しい。レベッカは笑みの浮かぶまま、先を促す。

「うぬぬぬぬ………あの、えっと、ですし」
「うんうん」
「その…………………手!手を出すですし!!」
「こうかしら?」

 笑顔に不思議そうなオーラを追加しながらも、レベッカは両手をお椀型に差し出す。間髪を入れず落とされたのは、ぽとりとした質感の、何か。

「ビー玉?……違うわね、トンボ玉?」

 穴の空いたガラス玉を、矯めつ眇めつ。
 それはまるで、水面に揺れる波紋を、ぎゅっと閉じ込めて形にしたような。

「レベッカ、の、色ですし!」

 どういう意味、と疑問が顔に出ていたのだろう。煌爛々がそっぽを向いて指し示す先を、レベッカは視線で辿る。顔の上の方――

「…もしかして、眼?」

 角度によって深みを変えるトンボ玉の色合いは、なるほど、口ほどにモノを言うとのことわざの通り。

「い、いいっつもお世話になりやがりますし!!」

 夕陽よりも赤く染まっていく顔に、ああ、と腑に落ちる。脳筋で言葉の足りないこの少女は、どうやらお礼がしたいらしい。

「……ふ、ふふ、うふふふふ――」
「な、何がおかしいですし!!」

 爆笑。込み上げるままに、レベッカは身体をクの字に曲げる。
 滲む涙を拭えば、視界の端に、テーブルに積まれたガラクタ?の山が見えた。

「ほんっっとに、もう――」
「うあああいらんなら返すですしいいいってうええ!?」

 バシバシと抗議してくる拳を絡めとり、引いて。
 黄昏に染まる金髪をかき撫ぜながら、そっと耳元へ。

「……大事に、するよ」
「―――――べべべ別に気に入ったならいいですし!!!!!そんじゃ!!!!」

 パッと離れた手の温もりを、惜しむ間もなく。暴風のように飛び出していく煌爛々。
 爆笑の冷めやらぬレベッカが落ち着いた頃には、夜の帳が空を覆って。

「ところで……これ、どうしたらいいのかしら」

蛍光灯の光に照らされた、テーブルの上に一抱えはあるガラクタの山を前に。レベッカは溜め息をつきましたとさ。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb9518 / アルベルト・レベッカ・ベッカー / 女装ver / 21 / ともだち】
【jz0265 / 鏡国川煌爛々 / 女 / 17 / 脳筋使徒】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご縁を、有難うございます。
日方所持の脳筋アホの子シュトラッサーと、いつも仲良くして頂きまして、重ねてお礼申し上げます。
おかげさまで、うっかり妄想が暴走致しました、反省はしておりますが後悔はしておりません。ただしご意見は受け付けます(小声)。

ジスウと戦いながら楽しく書かせて頂きました、よろしければまた、遊んでやってくださいませ。
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エリュシオン
2015年08月06日

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