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『イタズラな女神から祝福を 』
フィオナ・アルマイヤーja9370

1.
 June Bride。
 日本では『6月の花嫁』と訳されるイギリスの言い伝え。
 6月のヨーロッパは1年の中で最も雨が少ない月、また『復活祭』が行われる月でヨーロッパ全体がお祝いムードとなるので、多くの人から祝福される6月の花嫁は幸せになるだろう、という説。
 ヨーロッパの3月〜5月の3ヶ月間は農作業の妨げになるという理由から結婚が禁じられていたため、結婚が解禁となる6月に結婚式を挙げるカップルが多く祝福も多かったため、多くの人から祝福される6月の花嫁は幸せになれるだろう、という結婚解禁説。
 日本では近年の結婚式場の企業戦略によるもので、雨期に当たる6月の結婚式を増進させようとする目論見‥‥。
 フィオナ・アルマイヤーはハァっと溜息をつくと、読んでいた資料から目を離す。
 夢がない。あまりにも現実的すぎて、結婚という人生最大のステージに立つのをはばかられる。
 そんな諸説の中で一番まともだと思えるのは女神の名前説だった。
 ギリシャ神話の女神ヘラ。ローマ神話の女神ジュノー。
 結婚と出産を司り、家庭、女性、子どもの守護神にして最高位の女神。その女神の名を冠した6月に結婚することで女神の祝福を受けられ生涯の幸せを約束されるという。
 6月の花嫁になるのなら、この理由が一番いい。一番幸せになれそう。
 ‥‥いや、そんな予定は全然ないのだけど。
 気が付けば既に夜も更け。うら若き乙女ゆえ、寝不足は大敵だ。今日の資料まとめはここまでにしておこう。
 ここ数日ジューンブライド関連のイベントが多く、資料まとめも相まって日々色々考えてしまう。ちょっと疲れてしまう。早めに寝よう。
 寝る準備をしてベット脇の小さなナイトテーブルの明かりをつける。
 ふと、そこに手紙を見つけた。
 こんなところに手紙を置いただろうか?
 ‥‥! これはもしかして!
 慌てて手紙を手に取ると、未開封。胸が高鳴る。
 これはまさか‥‥彼からの‥‥!
 抑えきれないトキメキに指が震えながらも差出人を見る。

 ‥‥J・U・N・O‥‥?

 一瞬、眩暈のような感覚を覚え、思わずベットにもたれかかろうとした。
 けれどそこにベットはなく、硬い大理石の冷たい感触が手のひらに伝わってきた。
 見渡せばそこは見慣れた自分の部屋ではなく、太古の神殿のような石造りの立派な建物。そしてたくさんの煌びやかなドレス。どれも年代物だがおそろしく美しい状態だ。
「ここは‥‥?」
「まぁ! いらっしゃい、星の恋人さん」
 聞き慣れぬ声に振り向くと、そこにはにこやかでフレンドリーにフィオナに手を振る女性の姿があった。


2.
「星の‥‥恋人?」
「そうよ? あなたのことでしょ? 噂には聞いてたのよね〜♪」
 豪奢な古代ローマ風の衣装をまとった女性は、フィオナの手を取って花のじゅうたんの敷かれた場所へと案内する。
「自己紹介が遅れたわ。あたしの名はJUNO。一応女神さまなのよ」
 ‥‥‥‥‥‥は?
「そうね、ギリシャでは『ヘラ』とも言われてるわね」
 いやいやいやいや、ちょっと待って。
「女神さまが、私に何のご用でしょうか?」
 フィオナは少しだけ冷静になった。確かに、私の彼は星座を司ってはいるけれど‥‥なんで女神さままで!?
「あたしね、こう見えて小惑星にも名前つけられててね。その関係でちょっと小耳にはさんだの。『星の恋人』がいるって」
 わ、私‥‥いつの間にかとんでもない有名人になっていたんだろうか?
 なんだかスケールが違いすぎてクラクラしてしまう。
「可愛い娘さんでお会いできてうれしいわ〜! ‥‥で、いつから付き合ってるの? どこまでいったの? もうキスとかしちゃったのかしら!?」
 ずけずけと聞いてくるJUNOにフィオナは我に返って、赤くなる。
「あ、あの‥‥それは‥‥」
「あ、やだ。ごめんなさいね。おっきな声じゃ言えないわよね。こそっと耳打ちしてくれればOKよ」
 なんだか普通の女学生のような女神さまだ‥‥。
 そう思いつつ、女神さまにフィオナはこそっと耳打ちする。
「‥‥ホント!? やだ、ドラマチック〜♪ 羨ましいわ! 聴いてるだけでドキドキするわね〜‥‥で、結婚の約束とかは?」
「え!?」
 『結婚』の二文字に、フィオナの心臓の鼓動が飛び上がる。
「ま、まだそこまでは‥‥」
「えー‥‥でもぉ、いい男ってすぐに売り切れちゃうじゃない? だから早めに予約しておく方がいいわよぉ?」
 ‥‥予約って‥‥。
 絶句するフィオナにお構いなく、JUNOは手を打って「そうだ!」と立ち上がる。
 そして、フィオナの手を取って最初にフィオナが立っていた場所へと案内した。
「折角だし、予行練習しましょうよ。結婚式って楽しいわよ〜♪ 花嫁衣裳って綺麗だし!」
「そ、そんなこと‥‥言われても‥‥」
 ためらうフィオナにJUNOはにやりと笑う。
「花嫁さんになりたいって書いてあるわ、顔に♪」
「え!?」
 見透かされた!?
 赤くなるフィオナの手を引いて、JUNOはたくさんの結婚衣装をかき分けていく。
「スタイルいいから、どんなドレスでも似合いそうね〜。いいわいいわ! とっておきのヤツ出しちゃいましょう♪」
 かき分けた先に、光るドアが見えた。
 そして、そのドアを開けJUNOはフィオナを放りこんで扉を閉めた。
「着替えたら、出ていらっしゃいな♪ いいもの用意しておくからね♪」


3.
 プリンセスラインの煌びやかなウェディングドレス。
 ボリュームのあるスカートに負けないオーロラ色のショートヴェール。
 頭を飾るティアラは星屑が散りばめられ、オーロラ色に負けない光を放っている。
 月の光で育ったという花はヴェールやティアラに比べて淡い光だが、心が落ち着きなんだか見ているだけでも幸せな気分になってくる。
 天の川を切り取って閉じ込めたガラスの靴の履き心地はまるで夢の中を歩いているようだった。

「JUNOさん‥‥? 着ましたけど‥‥」
 用意されていた衣装を全て身に着けて、フィオナは恐る恐るドアの外に顔を出す。
 すると、そこにJUNOの姿はない。どこに行ったのだろうか?
 フィオナはそっと外に出る。試着の待ち時間に退屈してしまってその辺を散策でもしているのだろうか?
 花嫁衣装を着たままであたりをうろつくと、人影が通るのを見つけた。
 今の人に訊けばJUNOがどこに行ったのかわかるかもしれない。
「あの、すいません‥‥!」
 フィオナがそう声を掛けると、その人影は振り向いた。

「‥‥フィオナ様?」

 目をまん丸くした彼が‥‥そこにいた。
「あ‥‥」
 言葉に詰まってしまった。まさか、こんなところで会えるなんて‥‥!
 しかも、いつもの格好と違い真っ白なタキシードを着ている。何だかいつも見る彼の姿と印象が違う。
 いつもよりも‥‥ドキドキ‥‥する。
「これは‥‥女神さまに仕組まれましたかね」
 苦笑いした彼は、フィオナの左手を取って片膝をついた。
「本日は思いがけずお目にかかれて光栄です。フィオナ様」
「私‥‥もです」
 なんだか涙が出そうな不思議な気分で、フィオナはそう答えた。
 だが、彼はさらに予想外のことをした。

 フィオナの左手の薬指に指輪を飾ったのだ。

「こ、これっ‥‥!?」
 今度はフィオナが目を丸くする番だった。
 彼は苦笑いする。
「今日、ここに女神さまに呼ばれました。『恋人に贈る指輪を持ってきて』と。まさかフィオナ様がいらっしゃるとは‥‥」
「恋人に‥‥贈る?」
「はい」
 左手の‥‥薬指。そこは結婚指輪の場所だ。
「こ、これ‥‥これは‥‥」
 それ以上を言おうとするフィオナの唇を彼の人差し指がストップをかける。
 そして‥‥

「愛しています。どうかフィオナ様の隣を生涯共に歩くことをお許しください」

 こんな、こんな言葉を誰が他に言ってくれるんだろう?
 いや。彼以外の誰にも言われたくはない。だって、ずっと待ち望んでいた言葉だから。
 答えは決まっている。けれど、それはもう少し後でいい。
 彼の両頬をフィオナの両手で包み込む。優しげに微笑む顔がいつもより潤んで見える。
 交わしたキスが、いつもよりしょっぱいのはきっと気のせいだ。
 そしてフィオナは言う。

「はい、こちらこそ‥‥よろしくお願いします。私も‥‥私も愛してます」

 そうしてもう一度、幸せなキスを交わすのだ‥‥。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女性 / 23 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 フィオナ・アルマイヤー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 6月‥‥水の月ノベル、ようやくお届けいたします。
 け、結婚の約束などという重大なイベントを書かせていただいて‥‥!
 お気に召していただけると嬉しいです。
 ご依頼ありがとうございました。
水の月ノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年08月10日

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