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『● 』
メオ・C・ウィスタリアka3988
 これは、メオ・C・ウィスタリアがクリムゾンウェストへと転移する、数年前の話。
 よく晴れた日であった。部下数名を連れて日本に偵察と言う名の旅行に来ていた彼女は、早速困難に遭遇していた。
 青と緑のロゴで店に入るとやたら独特な電子音が鳴る店である。
 端的に言おう。
 よくわからん。入ってくるなり電子音で威嚇するわ、大量の機械がそこここにあるわ何だで、いまいち要領を得ない。
 むう、と微かに唸ると、隣に人の影。
「ここはね、こうするの!」
「君は……」
 突如現れた日本人の少女。突如とした助っ人に呆然とするメオに、少女は屈託のない笑顔で返した。
「他に何かやりたい事とかある? ……って、外人さんだから日本語わからないか……」
「いや、日本語ならできるから大丈夫だ」
「えっ、そうなの?」
 少女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているが、そのまま頷いてメオは続ける。
「ああ。それで、これを次はどうすれば――」
 とりあえず――何とか事なきを得た。
 少女曰く、困っている外人がいたから見過ごせなかったとのこと。
 ふとメオが傍らに視線を向けると、少女は屈託のない笑顔で笑い返した。
「そうか……いや、ありがとう。助かった」
「えへへ、どういたしまして。お兄さん、日本語上手だね!」
「お兄さん……? 私は女だが」
「へっ?!」
 少女は白く固まりながら、口をぱくぱくと動かしていた。
「あの、その、ごめんなさい……」
「大丈夫だ。気にしてはいない」
 男と勘違いされる事は時々あったし、今の格好は黒の軍服だ。
「しかし、何故私に声を掛けたんだ?」
「困ってたみたいだから。見過ごせなくて」
 それで助けてくれたのか、とメオは少しだけ驚く。
 日本人は優しく、何の見返りも求めずに困っている人間を助けるとは、かねてから小耳に挟んでいた。しかし、本当にそれが自分にも行われるとは。
「――あ、お母さんにおつかい頼まれてたんだった! ごめんなさい、行かなきゃ。それじゃあね、お姉さん。」
「――そうか。
 少女は駆けてゆく。その背中を見てメオは思う。不思議な少女だ、と。
 とは言え、もう二度と会う事はないだろう――そんな考えも、早々にしてなくなった。
 次の日の事だ。
「こんにちは、お姉さん」
「君は――」
 人の顔を覚えるのが苦手なメオであったが、何故だかすぐに思い出せた。
「昨日の……」
「覚えていてくれたんだ!」
 花が咲いたように笑う少女。そうだ、その屈託の無い笑顔だ。
 メオの生い立ちでは、あまり見ることのなかった、明るい顔だ。
「そうだ、お姉さん。時間ある?」
「あるけど……何か?」
「良かった。じゃあね、案内したい所があるの。せっかくだし!」
 メオの手を掴んで、少女は駆け出す。
「あ、ちょ、ちょっと。どこへ?」
「秘密! ついてからのお楽しみ!」
 駆け出す。
 そうして――そうして――滞在中、メオは何度も少女と会う事となる。
 最初は恩人というだけであった。しかし少女の屈託のない明るさがあるのか、次第に絆が繋がってゆく。
 少女に連れられて、様々な場所に行った。
 街が一望できる小高い丘、夕日に煌く川のほとり、祖父がよく連れて行ってくれたという蕎麦の店、波の音が聞こえる海辺、子供達が店先で遊ぶ日本のキャンディショップ、木漏れ日が心地いい雑木林……
 そんなある時であった。偵察という名の旅行も、ちょうど折り返し地点に来たあたりだっただろうか。鯛焼きという餡入りの魚型ケーキを店の軒先のベンチで食べていた時の事だ。
「そうだ」
 思い出したように、少女はカバンを探り始める。
「今日はね、お姉さんに渡したいものがあるの?」
「渡したいもの……?」
「うん。――お、あった」
 首を傾げていると、少女がカバンからあるものを取り出した。
 ぬいぐるみ――いや、よく見れば手を入れるための穴がある。これはパペットだ。
「はい! 私ね、ぬいぐるみを作るのが好きなの」
「これは……」
 鷲のパペット人形であろうか。
 ディフォルメ化されてキュートさを持ちながらも凛々しい顔つき、鋭い嘴、立派な翼、足の鉤爪だってちゃんとある。縫製はしっかりしているし、重量感も程よく、使われている布の手触りもいい。売り物と見間違う程には完成度が高い。
「鷹だからたかし丸!」
「そうか、鷹だからたかし……って、鷹ぁ?」
 どう見ても鷲である。腹に特徴的なタカ羽模様が見られないし、背中の色は茶褐色だし。鷹と鷲、同じタカ目タカ科でも大きさと外見的特長が違うのだ。
「鷲じゃないか……それに別にいいよ。いらない」
「えー」
 少女に鷲……ではなく鷹のたかし丸を突き返す。
「じゃあ、気が向いたら言ってね。ぬいぐるみを作るの、本当に得意なの。だいたいこういうの、持ってるから」
「……多分、ないと思う」
 こんなやりとりは、充実した日々の一ページだと思っていた。
 しかし。
 充実な日々が続いていくという事は、帰郷の時も近づいているという事でもあった。
 もう帰るのか――ホテルの部屋で少し荷物をまとめていると、そんな事がふと頭によぎる。日本にこうして居るのは、指折り数日。
 少女の花咲く笑顔。共にしてきた沢山の事。それらが、すべて過去になる。
「……早いな」
 ふと頭の片隅で、あのぬいぐるみの事を思い出す。
 どうしてだろう。鷲の筈なのに鷹という、あの奇妙なパペットなのに。
「……」
 しばらくの思考の後、メオは呟いた。
「変なの」
 ここで過ごす夜も、あと少し。


 気付けば、帰る日となった。約束していた場所には、いつものように少女がいた。
「メオさん、もう帰っちゃうの」
「ああ。今日の夕方の便で帰る。別れを言いに来た」
「そっか……」
 しゅんとしおれる少女。そんな少女を見てメオも何だか寂しくなっていた。
 恩人はいつの間にか友人へ。
 感じていた恩は、絆に変わっていた。尊く、かけがえのないものへ。
 彼女のことは、きっと一生忘れないであろう。
「ねえ。たかし丸、持ってる?」
「どうしたの? 持ってるけど……」
 首を傾げる少女の横、メオは続ける。
「よかったら、くれない?」
「……うん!」
 見慣れた、花のような笑顔。きっともう見れないだろう、明るい笑顔。
 二人の前に、一台の黒いセダンが停まる。運転席には部下の姿。
「行かないと」
「そっか」
 自動で開いてゆくドアに歩きながら、左の手袋を外して代わりにたかし丸をはめる。
 手がすっぽりと入るたかし丸。指先の動きに合わせ、翼や嘴がぴょこぴょこと動く。
 振り返り、見送る少女に薄く笑いかけた。
「ありがとう、楽しかった。また会おう」
「うん。私も楽しかった。だからまた会おうね、メオさん。約束だよ」
 メオの手には、ひとつのぬくもり。
 少女との絆であるたかし丸が、メオの手によって可愛らしく動いていた。


 さて、後日の話。
 国に帰った後も、メオはなんだかんだでたかし丸をつけていた。要するに気に入ったのだ。
 そして今日もメオは仕事をしない。ぼんやりと、窓の外を見る。
 見えるのは、雲ひとつとない青空。あの時と同じ青空が、ここでも広がっていた。
 あの子は今、何をしているだろうか。元気にまた誰かを助けているのだろうか。仲良くなった証に自作のぬいぐるみを渡しているのだろうか。
「――今日もいい天気だね、たかし丸」
 その翼を広げれば、少女と出会ったあの青空の下へと羽ばたいてゆける。

【終】

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 ka3988/メオ・C・ウィスタリア/女性/20歳/闘狩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注ありがとうございました!
 地味に初の納品でした。お気に召していただけましたら、幸いです。
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川崎コータロー クリエイターズルームへ
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2015年08月10日

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