▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『闇に咲く花達 』
蛇蝎神 黒龍jb3200

 夜空の月を黒い雲が覆っている。
「何処かで見た面だと思ったら……貴様か。思い出したよ。はぐれて力を失った黒い龍」
 金髪の天使は顔を綻ばせた。
 笑み。
 だが、碧眼に宿る光は決して友好的ではない。
「黒霧の冥魔、貴様、まだそんな姿で地球《こんな場所》を這いずり回っていたのだな」
 はぐれ悪魔の蛇蝎神黒龍は、思いもよらぬ顔と思いもよらぬ場所で再会を果たしていた。
 黒い海が揺れ、飛沫が浜に寄せては砕けている。
 夜の砂浜に天使が立っていた。
 北の雪国の海の色――紺碧の瞳は、夏の日本の熱気とは裏腹に、凍てつくような温度を以って、黒髪赤眼の青年を見据えていた。
「なんや、久しぶりやのに、いきなりご挨拶やなぁ。こんな場所いうが、住めばそう悪い場所やあらへんで」
 青年――黒龍もまた口端をあげ笑う。
 言いつつ、腕を振るい、日本刀を出現させる。身の丈ほどもある大業物だ。その切っ先を天使へと向け。
「――それより、こんな場所と蔑む地球《ここ》に、何故、お前がいる?」
 目を眇める。
「まさか俺に会いにきたという訳でもないだろう?」
「ハッ、当然だ。貴様なんぞに構っている時間などない――が、貴様は生かしておくと目障りだからな」
 天使は己の傍らに立つもう一つの影へと視線をやった。
 ぬるい夜風が吹き、雲が流れる。
 暗黒の雲の隙間から蒼白い巨大な満月が出現し、月光に照らされて影の実像があらわになる。
 現れたのは、黒髪黒瞳中肉中背、ワイシャツにジーンズ、やや糸目だが、いたって平凡な顔立ちの、何処にでもいそうな青年だった。
「この場の始末は、お前に任せる」
 青年を見据え、天使は言った。
「承知いたしました……」
「待てや」
 黒龍は制止の声をあげた。
「お前、逃げるんか?」
「言ったであろう、暇では無いと。今の貴様など、家畜に同じ、私がこの手で殺める価値もないわ」
 天使は純白の翼を背から広げて宙に飛び立つ。
 肩越しに見下すように見下ろし、黒龍を嘲笑った。
「せいぜい惨めに鳴いて死ぬが良い?」
 言い残し、天使は満月に向かって飛び去ってゆく。
「おい、ちょいまち――!」
「さて」
 制止の言葉を断ち切るように声が響いた。
「怨みはございませんが、主命ですので、惨殺させていただきます」
 残された青年は、ゆっくりと、無造作に歩き、黒龍へと近づいてくる。
「……名乗りもせんと、せっかちさんやわぁ、キミ」
 黒龍は刀を担ぎ、峰でとんとんと肩を叩きながら苦笑する。
 彼我の距離。
 この時、歩数でいうならおよそニ十歩程度。
「死にゆく者へと名乗るべき名はないのですよ。あぁ、墓標に名を刻みたいなら、貴方のお名前、お伺いしますが?」
 距離が詰まってゆく。
 十五歩。
「いらんわ。死ぬんはボクやなくてキミやからな。そっちこそ、墓が無銘でええの?」
 十歩。
「ええ。僕は既に人ではなく、天の使徒なので――」
 五歩。
「――墓に刻むべき名など、無いのですよ」
 瞬間、眼前に青年が迫っていた。先程まで青年が立っていた浜が爆ぜたかのように砂を巻き上げている。
 尋常ならざる踏切で一気に猛加速して間合いを詰めてきた使徒の右腕が高速で振るわれる。爆ぜた。血肉が四散した腕より銀の刃が飛び出し、月光を照り返し、一条の閃光と化して黒龍の喉元へと襲い掛かる。
「……ッ!」
 奇襲ともいえる一撃に対し、黒龍は体を横に流した。
 閃光の突きが首元をかすめて空間を貫いてゆく。瞬間、突きが薙ぎへと切り替わっていた。かわした筈の刃が、再び首元目掛けて唸りをあげて襲い掛かってくる。
 甲高い金属音が鳴り響いた。闇夜の浜辺に日本刀と直刃がぶつかり火花が散る。
 黒龍の視界の中には、変貌を遂げた青年の右腕があった。
 肘より先の部分が失せ、代わりに西洋剣の刀身のような、銀色に輝く両刃の直刃と化している。それは、黒龍が持つ太刀に匹敵する長大な長さまで伸びていた。
 黒龍は噛み合った刃と刃を支点に抑え込むように巻き込みながら日本刀を斜めに押し込む。
「キミ」
 抑えながら、滑らせる。金属と金属が鳴き声をあげ、火花があがる。
「おもろい腕しとんな!」
 一閃。
 黒龍の刃が薙ぐように振り払われる。青年は後退しながら低く身を沈めた。
 日本刀が使徒の頭部をかすめ空間を斬る。かわされた。黒龍はすかさず太刀を翻し、踊るように踏み込み追撃の振り下ろしを放つ。
 青年は砂地に身を投げ出すように横に跳んだ。宙を跳び大きく間合いを広げ、地を一回転して起き上がる。その時には右手の刃を突き出すように低く構えていた。
 黒龍は無理に追わず全身より爆風を発していた。攻性のアウルが高められてゆく。男は冥府の風を纏い己の破壊力を高めながら、日本刀を両手で八双に構え直す。
 使徒が答えた。
「主様が与えてくださった力です。素晴らしいでしょう?」
 睨みあう。
 使徒の瞳は恐怖も焦りも怒りもなく、ただ冷徹な殺意を宿して黒龍を見据えていた。
(ああ)
 思う。
(こいつは狗だ)
 主に命じられた事を果たす為にこそ息をしている。
「確かにな。おもろいし。けど、それだけやな。戦の得物としちゃ、欠陥品やね、それ」
 黒龍は笑った。
 影が揺らいだ。
 天の猟犬が砂浜を蹴り、また一瞬で間合いを詰めて飛び込み、刺突を放ってくる。
 二度目。
 黒龍は斜行して踏み込みながら袈裟に冥府の風を纏う日本刀を一閃させた。
 刃と刃が閃き、激突し、甲高い音が鳴り響く。刹那、使徒の刃が中頃で切断されていた。砂浜に落ちてゆく。
 相手の得物を破壊した黒龍は、すかさず日本刀を上段に振り上げた。使徒が動いた。さらに左足で一歩を踏み込み、身を捻りざま左腕を突き出してくる。腕が爆ぜた。銀色の輝きが飛び出す。左。左の腕も、仕込がされている。両腕が武器と化している。
 切っ先が黒龍の心臓へと向かって伸びて来る。咄嗟に身を捻る。刃が脇下を掠め、鋭い痛みと共に血を噴出させる。銀の殺意が間髪入れずに翻り、横薙ぎへと変化して黒龍の身に食い込む。
 冷たい異物を感じ、傷口がカッと熱くなる。刹那、それが引き斬られる前に、黒龍は日本刀を手放し、使徒の刃の腹を挟み込むように右手で掴んだ。刃が止まる。動かない。使徒の青年の目が僅かに驚きに見開かれる。
「捕まえたで」
 黒龍は左手にドラグニールF87、竜の名を持つ自動式拳銃を出現させると銃口を使徒の青年へと向けた。
 発砲。
 充填されたアウルが解放されると共に銃声が轟き、弾丸が使徒の身を貫く。
 血飛沫があがり青年の身が揺らぐ。
 黒龍はそのまま引金を、引いて、引いて、引いて、引いた。
 青年は刃をしゃむに動かしながら飛び退き逃れんとするが、黒龍は右手のひらから血を流しつつも、影を集約して傷口を再生させ続け、使徒の腕と一体になっている刃を離さない。
 銃声が轟く度に、弾丸が使徒の肉体を穿ち、肉が爆ぜ、鮮やかな赤が月下の闇に咲き誇った。捕えられた青年は身を出来の悪い人形劇のように躍らせてゆく。
 黒龍は使徒の動きが鈍ってきた所で、その眉間に狙いを定めた。対天の力が凄まじい勢いで凝縮・集中されてゆく。
 目が合う。
 青年の瞳には無念の色があった。
 銃声。
 青年の眉間が割れて血液が噴出し、その双眸から光が消えた。
「ほな、おやすみ」
 黒龍は呟くと銃を消して刃を離し、再び日本刀を出現させて両手で握り、昏倒して倒れている青年の首へと振り降ろした。




 不意にドン、と大気を揺るがす音がした。
「手向けの花にはでっかすぎるやろ……」
 黒龍が見上げると、夜空には鮮やかな炎の華が大輪を咲かせていた。
 花火だ。



 了



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 外見年齢 / ジョブ】
jb3200 / 蛇蝎神 黒龍 / 男 / 24才 / ナイトウォーカー

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 ご発注有難うございます、望月誠司です。
 ご推察の通り字数が厳しい事になってしまいましたので、花火が撃ちあがった所+一言で締めとさせていただきました。
 戦闘描写、スキル名は出していないですが四つ組みこまさせていただいております。コンビネーションはちょっと入れられなかったですが(回復で捕まえつつ属性攻撃を叩き込むなどはある意味連携? ですが)
 ご満足いただける内容になっていましたら幸いです。
野生のパーティノベル -
望月誠司 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年08月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.