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『 『浜辺の出張帽子屋』日記 』
百目鬼 揺籠jb8361)&小野友真ja6901)&紀里谷 ルナjb6798



 容赦ない日差しが照りつけ、気温は毎日限界突破。
「毎日毎日あついんやー! ちょっとは空気読めやぁ!!」
 小野友真は太陽に向かって吠えた。
 だがそんなことをして太陽が手加減してくれるはずもない。
 ヒーローを目指す彼としてはむしろ、太陽とは仲良くしておきたいところだが。改めて、天空の太陽よりは夕日の太陽の方が自分には似合っていると確信した。
 そこにふらりと現れたのは百目鬼 揺籠。
「何をひとりで熱くなっていなさるンですかぃ。暑いのは、お天道様だけで沢山ってもんでしょうが」
 友真が吠えているのは帽子屋『Trick★Star』の店先であり、そこがふたりのバイトしている店なのだから、揺籠が現れること自体には問題はない。
 の、だが。
「ちょ、揺籠さん、どしたんそれ……!」
 友真は笑いを堪えて、揺籠を指さす。普段のゆるりとした着流し姿とは余りにかけはなれた、派手な南国模様のアロハシャツ姿だったからだ。
「どうしたもこうしたもねェですよ。店先で管巻いてたって、お客だってわざわざ真ッ昼間に買い物なんかに来ませンや。稼ぐにはひと工夫が必要でしょうよ」
 煙管を外した唇の端からふうっと器用に煙を吐くと、揺籠はニヤリと笑う。

 店の中で揺籠の提案を聞いた紀里谷 ルナは言った。
「ふうん? がんばってね」
 揺籠はその答えを予測していたか、即座に言い返す。
「勿論、俺は頑張るつもりでいますがねぇ。やっぱり店長サンがいねぇと、売り上げに響くってもんでやしょう?」
 尚、友真は既に準備を始めている。
「稼げて遊べて、最高やーん! な、店長!!」
 準備とは、主にルナの退路を塞ぐこと。店の入口付近に揺籠が居るのを確認し、裏口への進路にさり気なく大きな箱を置く。
 ルナは入口、そして裏口への離脱が難しいことを悟った。
「えっとね。この店でだったら、僕だってお仕事できるけどね。お外で僕みたいな子供を働かせてたら、いろいろ問題があるんじゃないかなあ?」
 6歳児にしか見えない初等部5年生は、そう言って軽く肩をすくめる。
「大丈夫。久遠ヶ原学園島内でそんなことを気にするもんはおらんから」
 友真はルナの脇の下から腕を入れると、ほとんど身体を抱き上げるようにして強引に連れ出そうとする。
「ちょ、ひどい……!」
 いたいけな子供の瞳でうるうると訴えるが、友真は爽やかな笑みで言い放った。
「子供姿で上手い事逃れよとしても、無理やからな。もう知ってるからな」
「じゃあ『出張帽子屋in海の家』ってェことで。しっかり稼ぐとしやしょう」
 揺籠は夏物の帽子を、手早く箱に詰めていく。

 揺籠の提案は、近場の海水浴場で帽子を出張販売することだった。
 根っからの倹約家にして商人気質の彼は、その商売を思いつくや否や海の家の空き店舗を探し、借り受ける算段を整えた。
 この際、店長であるルナの意向は無視。
 商売熱心とは言い難いが、センスは信頼できる店長だからこそ、揺籠もこうしてバイトに入っているのだ。
 商売の熱心さはもうひとりのバイト、友真とふたりでカバーすればいい。
 という訳で、帽子と帽子屋を引きずって、一行は海へと向かった。




 暑い盛りの浜辺は、大盛況だった。
 カップルで、友人どうしで、家族で。皆、思い思いに海水浴を楽しんでいる。
「これだけ日差しが強けりゃ、帽子のひとつも欲しくなるもンでしょうよ」
 揺籠はなるべくつばの広い帽子を選び、販売用の棚に並べた。
「それはええねんけど……使えるんかこれ」
 友真がまじまじと眺めているのは、浮き輪型の帽子である。魚や貝殻のかわいいイラストが描かれていて如何にも海らしいが、何といってもビニール製。日差しを遮る効果は薄そうだ。
「ま、看板がわりにはなるよな。目立つし」
 軒先の人目を引く場所に紐を引っかけてつるしてみると、海風にくるくる回りながら太陽の光を弾いている。思ったよりも看板の役目はしてくれそうだった。
「あれ? ところで店長は?」
 友真は店先から顔を覗かせ、店の脇を覗き、ルナの姿を探す。
 揺籠も大きく開いた窓から顔を出したところで、隣の店との間に器用にハンモックを釣るし、いつの間に買ってきたのか、いかにも甘そうなトロピカルドリンクをすすっているルナを見つけた。
「店長、サボってねぇでちったぁ働きなせぇよ」
「僕の仕事はお客さんが来てからでしょ? 大きな荷物とか、どうせ持てないんだもん」
 しれっと言い放ち、ひとりリゾート気分だ。

 最初のうち、店は暇だった。
 だが日が高くなるに従い、ぽつぽつとお客がのぞいて行くようになる。
「お気に入りの帽子を海で流してしまって。ほら、これ一緒のおリボンよ?」
 半べその子供を連れた若い母親が、そう言ってピンク色のリボンの帽子を買っていった。
「今度はなくさへんようにな! こうして、しっかりゴムかけとくんやで?」
 友真はそう言って、笑顔で子供の顎にぴったり合うようにゴムの長さを調節してやる。
「小さい子供とは気が合うんですかねぃ」
 揺籠がからかうと、友真は鼻で笑う。
「ふふん、俺はヒーローやからな! ヒーローは子供の味方やねんで!」
「えっ、どこにヒーローが居るんですかぃ? てっきりお友達なんだと」
「なんでやねん! 俺かてもう、二十歳やねんで! いつまでもお子様扱いはさせへんで」
 鋭いパンチが繰り出され、揺籠の腹を狙う。
 が、揺籠はひらりとかわすと、手近の帽子をふわりと友真の頭にかぶせた。
「小さいこと気にしてたら、それこそでかくなれませんぜ」
「俺、別に小さないで! この学園の連中がでかすぎるんや!!」
 そうしてじゃれていると、新しいお客が店にやってきた。
「すみません、帽子を見せて頂けますか?」
 綺麗な女性だった。サラサラの長い髪、爽やかな白いパレオが、すらりとした肢体に良く似合っている。
「どうぞどうぞ。リゾート用で良かったですかねぇ?」
 即座に笑顔を作り、揺籠が振り向く。
「ええ、うっかり忘れて来てしまって……」
「でしたらこちらの物なんか、軽くて涼しくていいと思いますがねぃ」
 パレオの白にあわせた、薄い素材のつば広の帽子である。
「こっちもおすすめやで。ほら、肌を明るくきれいに見せる華やかオレンジ。リボンは白のシフォンに替えたらばっちりお似合いな?」
 友真がささっと別の帽子を取り出すと、女性客を鏡の前にさり気なく誘導して当てて見せる。
 その鏡の中、いつの間にか笑顔のルナがいた。
「おねえさんキレイだから、どれも似合うとおもうんだよね」
 女性客はくすくす笑う。
「あら、ずいぶんかわいい店員さんね? じゃあお勧めを教えてもらえるかしら」
 物凄くえり好みした接客ではあるが、何だかんだで割合上等な帽子が売れていく。

 ルナは店の中を見回し、品ぞろえを眺めた。
「うーん、女性用はそれなりに売れてるけど、男ものがいまいちかな。まあ男のお客が来ないから仕方がないけどね」
 そこで大きな瞳が、じっと友真を見つめた。
「な……なんか用かな、店長?」
「友真ちゃん、ビキニ着てよ」
「はぁ?」
 ルナは最初に合った時、真面目に友真の事を女の子と勘違いしたという経緯がある。
 が、勿論今の友真が女の子だとは思っていない。だが反応が面白くて、時々こうやってからかってみるのだ。
「だってさ。この中でビキニが似合うのって友真ちゃんだけだよね。男のお客さん連れて来てよ」
 揺籠がにやにや笑いながら、それに乗っかった。
「きゃー友子さんたら大胆ー! でも良く似合うわよ素敵ー!」
 全然感情の籠ってない調子で囃したてる。
「ん、なわけ、あるかーーーい!!」
 友真が身体を屈めて床を蹴り、弾丸のように揺籠に突進。
「やだー照れなくても……って、あり?」
 いつも通りに避けようとした揺籠だったが、不幸にも床がお客の落とした雫で濡れていた。力をかけた足が滑り、揺籠は一段高くなっている店の場所から転げ落ちる。しかも折悪しく満潮時刻。
「……あっ」
「う わ あ」
 スローモーションで視界から消える揺籠の姿を見送り、友真が苦しげに呟いた。
「揺籠さん……今日のバイト代は俺がちゃんと供養しとくからな……!」
「浮き輪! 早く、浮き輪!!!」
 当然水は浅いが、勢いの強い引き波に身体を持って行かれそうになりながら必死で揺籠が叫ぶ。
「揺籠ちゃーん!」
 ルナが勢いよく投げたのは、さっきまで看板として使っていた浮き輪帽子だ。
「ほら、役に立ったじゃん」
 得意げなルナに、友真は今一つ納得できないという表情だ。
「それやったら最初から浮き輪つっといたらええんとちゃうかな」
「あーーーーーー」
 その間も浮き輪帽子に掴まりながら、揺籠は波に弄ばれ続けていた。



 ようやく戻ってきた揺籠は、かなり機嫌が悪かった。
 まあ苦しい思いをしたのだから、それは当然かもしれない。例え自業自得だとしても。
「……そろそろ雌雄決する時ですかねぃ?」
「やーごめんて。まっさかそこまで泳げんとか、全然知らんかったし?」
 笑う友真の足元に浮き輪帽子を手袋がわりに滑らせ、揺籠はビーチボールを取り出す。
「百々目鬼の火力舐めんなよ!!」
 挑戦を受けたからには、引くわけにはいかない。友真は不敵に笑う。
「勝負? おっけー、しよか……インフィなめんなよ!」
「ふはははは、返り討ちにしてやりまさぁ!」
 すっかりバイトの事は忘れているふたりに、ルナは軽く首を傾げる。
「ヤロー同士の闘いとかつまんない。友真ちゃんがビキニ着てくれないなら、モデル探してくるね」
 そう言って体よく店を離れ、綺麗なお姉さん探しに行こうというのだ。
 が、世の中そんなに甘くない。
「おらああああ、ビーチの精密殺撃見せたらァ!!」
 ズバァン!!
 友真のアタックが思い切りカーブし、何故かルナの後頭部へ。
「!?」
「あれ? 何で店長そんなとこ、に……」
「このぉおおおおおお!!!」
 ルナは思わずあざとい子供のフリも忘れ、本気モードで拾い上げたボールを叩きつける。
「ひょわああああ!?」
「おっとルナさんも参戦ですかぃ? 三つ巴たぁ、楽しめそうですねェ」
 ビーチボールが割れないのが不思議なほどの応酬が、3者の間で繰り広げられたのは言うまでもない。

 やがて凪が訪れる。
 走り回る子供達の姿も消え、海は静けさを取り戻しつつあった。
「あー、めっちゃ楽しかっ……いってぇぇ!!!」
 ごろんと砂浜に転がった友真が、絶叫して起き上がる。
 なし崩し的にうっかり上着を脱いでしまったので、肌が真っ赤に焼けているのだ。
「ま、暫くは我慢するしかねぇでしょうよ」
 揺籠が笑いながら、背中にピタリと冷たい物を押しつけた。
「痛い! めっちゃ痛いけど、気持ちいい!?」
 揺籠が冷えたコーラの瓶を当てたのだ。
「え。なにこれ」
「今日は特別てぇことで」
 揺籠はルナにも甘いジュースを手渡す。
(揺籠さんが……あの守銭奴の揺籠さんが……明日、雪降るんとちがうか?)
 友真はそう思ったが、折角なので有難く頂くことにする。
 ルナはジュースを飲みながら、とろんとした目で海を眺めていた。
「眠い……揺籠ちゃん、おんぶ」
「なに言ってんですかい。ルナさんいい大人でしょうよ……」
「ダメ? あっそ。じゃあ、ゆーm」
「ぜっっっっっっ……たい無理!!!!」
「ちぇー」

 日差しに疲れた身体も、日焼けの背中も、思い出の1ページに残して。
 一度しかない今年の夏に、一緒に過ごした1日を、いつか懐かしく思い出し語りあう日の為に……。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8361 / 百目鬼 揺籠 / 男 / 25 】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 20 】
【jb6798 / 紀里谷 ルナ / 男 / 6 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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バイトに遊びに、全力で夏満喫のご一行様でした。
お楽しみいただけましたら大変嬉しいです。
ご依頼、誠に有難うございました!
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エリュシオン
2015年08月17日

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