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『魂穿つ荒南風 』
白藤ka3768
●染み渡る雨音
 いつだって悪いことが起きるのは、雨の日と決まっていて。
 ぼんやりと思い出されるのは、その日も雨だったと言うことでした。
「敵拠点の制圧、な」
 苦い記憶がちりりと頭を過ぎり鈍い痛みを思い起こさせるのを、白藤は小さく頭を振って追いやって。
「白藤ちゃん?」
 出撃の支度をしていた白藤の親友、椿姫に声を掛けられてはっと我に返ると、なんもあらへん、と微かに笑んで応える白藤。
 リアルブルー、旧諸国で起きている幾つもの紛争の制圧に傭兵として参加してどれ位経ったのかなど、柄にもなく考えてしまっていた原因は、この長雨と、端末で確認して居た作戦概要でしょう。
 テロリスト達、武装集団、ゲリラ、そんな者たちが拠点とするのは、皮肉な程に似たような環境や建物で、1年ほど前に自身が加わりあっさりと制圧した拠点を思い出させる嫌なもので。
「前にも増して作戦の情報をなかなか知る事が出来ず、対策を立てるのも一苦労ですね」
「ま、傭兵な分こちらはまだましやで? あっち引っ張られた奴なんて基本直前までなーんも教えられへんてぼやいとったわ」
 白くもふもふな別嬪さんのご機嫌取りが大変らしいで、そう微苦笑気味に白藤が言えば、椿姫はくすりと笑みを零して。
「其の辺りは傭兵と軍の違いですね」
「作戦に合わして人集めんのやから、そら当然やねんけどな」
 特定の作戦用の訓練延々して、直前まで知らされへんらしいで、白藤が言えば、椿姫はそちらの方が情報は漏れにくいのでしょうけれど、そうちょっと困った笑みを浮かべて。
「やりにくそうやねんけど、どちらが安全かちゅうたら、難しいとこやな」
 そう言って白藤はマスクを被って首元へ下ろし、ゴーグルの具合を確認して居れば、そうそう、と椿姫はにこりと笑って口を開きます。
「白藤ちゃん、今度合わせたい子がいるんですよ」
 穏やかで柔らかな頬笑みを浮かべて言う椿姫に、白藤も知らず知らず笑みを零して顔を向けます。
「ほんま? 誰やろ……楽しみやなぁ、はよ終わらして帰らんとな!」
 前ほど無邪気に笑うことは出来なくとも、支えになる人のお陰か、なんとか白藤は落ち着きを取り戻してやっていけているよう。
 逆に言えば、その分傍から見れば心配なほどに親しい人に依存して保てているような危うさがあり。
「そろそろミーティングですね」
「ほな、ぼちぼち……」
 ある程度支度も済ませたからか、二人は連れだってオペレーションルームへと向かうのでした。

●楔の十字架
 制圧の為に送り込まれた拠点で、白藤達は厳しい抵抗に遭っていました。
「っ、酷いことになっとるな」
 視界の悪い土砂降りの雨の中、その雨に紛れて雨霰と降りかけられる銃弾の雨をかいくぐって建物へと張り付くと、口の中でぼやく白藤。
 強い雨音に幾ら無線であっても通信を辛うじて聞き取るのがやっとで、目的の建物の制圧処か、このままではじりじり押されていて後退しかねない空気。
「ここで下がったら終わる」
 眉を寄せて確りと銃を握り締め直すと、白藤はそのまま建物の中へと押し入ろうと小走りで裏口の扉へと駆け寄りかけて……。
 それは本当に一瞬の出来事、敵兵がいないことを確認したはずの場所、一人の男が潜んでいることに気がつけず、白藤がそれに気がついたのは撃たれた瞬間でした。
 とん、と軽く押された気がして振り返る白藤、それと直ぐ側でまるでゴム毬か何かのように弾む椿姫に一瞬、何が起こったのか分からないように、呆然と仕掛けた白藤は、他の仲間の警告の叫びで我に返って直ぐに崩れ落ちた椿姫を引き摺るように運んで。
「なんで……なんでや……椿姫!」
「泣かないでください……」
 崩れかけたコンクリートの壁の陰、崩れ落ちた椿姫を抱えそこへ飛び込み覗き込めば、白藤はゴーグルを外し抱き起こすと、傷口を必死に手で押さえながらも零れ落ちる涙を止められないで居ました。
 何故椿姫が撃たれたのか、思考が考えることを拒否しかけ頭を振り戦場へと目を向ければ、どの位置から撃たれたのかが今頃分かって、自分が咄嗟に死角から撃たれ、気が付いた椿姫によって庇われたと嫌がおうにも思い知り涙が止めどなくこぼれ落ちて。
 口元が赤く染まり始める椿姫は、それでいてなんとか微笑を浮かべると、震える指をそっと伸ばして頬を撫でます。
「置いていかんといて、うちのこと……なぁ、椿姫」
「白藤ちゃんを置いてなんて、いかないです、から……」
 雨が叩き付けるように激しく降る中、自身の服にも装備にも、そして、足元の雨が作った水たまりにも、じわりじわりと赤い色が広がり染め付けていって。
 雨に冷やされている以上に、腹の底から気持ち悪い冷たさがせり上がってきて、涙を零しながらもただ傷口を押さえるしかできない白藤。
「そうだ……。あの子に、会えたら、伝えて……くだ、さ……」
「なんや……なんて、伝えればええん……?」
 途切れ途切れに言葉を発する椿姫の言葉を聞き漏らさないように必死で白藤は耳を澄ませます。
「愛しているからね、って…。勿論、白藤ちゃんの事も、私、は……」
 ほんのりと微笑を浮かべ続けて、何とか言葉を紡ぐも、椿姫が言葉に出来たのはそこまでのこと、すぅ、っと小さく息を吐き、こぽ、と小さく赤い液体を零し、そして、白藤へと微笑みかけようとしたままの、開かれたままの瞳。
「椿姫……」
 それ以上、白藤も言葉を発することも出来ず、ただ、他の仲間が拠点を制圧して報告するまでの間、ただ亡骸を抱きしめていることしかできず。
「結局……あのまんま……」
 唇を振るわせ窓の外を見れば、あの時のような土砂降りで、風の荒れ狂う雨の日。
 クリムゾンウェストの現在。
 既に数日辛い長雨が続いており、この日は特に色々な物を思い起こさせる大雨で、白藤は立ち尽くしていました。
 手には二枚のドッグタグと、美しい十字架。
 先に失った親友達のドッグタグと、2年前に失った椿姫の遺品である十字架を大切そうに握ると、軽く口付け目を閉じる白藤。
「神様なんて、大嫌いや……」
 椿姫のドッグタグは、彼女の子供の元へと届けられ、白藤に残されたものは手の中で揺れるその十字架だけでした。
 彼女を救うことの無かった、そんな神様の、十字架。
「雨も、大嫌い、や……」
 唇を噛んで窓の外の雨を見つめながら小さく呟く白藤。
 いつだって、悪いことが起きるのは雨の日だと決まっていたから。
 いつまでも悪夢として苛む雨音を聞きながら、手の中で包み込むようにドッグタグと十字架を胸元に抱くと、白藤はいつまでも暗く荒れ狂う外の景色を眺め続けているのでした。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3768 / 白藤 / 女性 / 28歳 /イェーガー】
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2015年08月18日

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