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『とある夏の、小さなデート 』
シグリッド=リンドベリjb5318


「章兄、章兄!」
 夏休みの一日、今日も朝から元気なシグリッド=リンドベリ(jb5318)は、風雲荘の一階にあるドアを開け放った。
 ノック不要かつ誰でも自由に出入り可能なそこは門木章治(jz0029)の個室。
「……ん…シグ…?」
 目を擦りながらベッドからのそりと起き上がった門木は、相も変わらず眠そうにぼんやりしている。
 昨夜はよく眠れなかったのだろうか。
「暑かったですもんねー」
 これで三日連続の猛暑&熱帯夜。予報によれば、それはまだまだ続くらしい。
 聞いただけでゲンナリした様子の門木に、シグリッドは言った。
「あんまり暑いのは困りますけど、でも日本にはこの暑さを楽しむ工夫とか、伝統なんかがあるのですよ」
 例えば金魚鉢。透明なガラスの器に入った水の中で揺れる水草や金魚の姿は、見ているだけで涼しさを感じさせてくれる。
 目で感じるなら他にも観葉植物や寒色系のカットグラスなど、耳で感じるなら風鈴の音や虫の声、鼻で感じるならミント系のアロマなど。
「どれも実際に気温を下げる効果はありませんけど、体感温度は三度くらい下がるらしいのです」
 というわけで。
「今日は涼感グッズのお買い物に行くのです…!」
 場所は前に行ったあの商店街。
「ほら、紅葉を見に行った時の…章兄、すごく気に入ってたみたいだし、まだ見てないところもあるかなって」
「……ああ、そう言えば、また今度ゆっくり見物すると言っていたな」
 それ以来、結局一度も足を運んでいなかったけれど。
「……良い機会だ、行くか」
「はい…!」

 夏のお出かけには、入念な準備が必要だ。
 乾いたタオルと、凍らせた水のペットボトルに濡れタオルを巻いたもの、冷たい麦茶にレモンのハチミツ漬け、虫除けスプレーに制汗剤に日焼け止め――
「……それ、全部持って行くのか…?」
 そのまま軽く山登りにも行けそうな重装備に、門木は思わずそう訊ねる。
 しかし、どうやらこれでも装備を厳選した結果らしく、これ以上は絶対に減らせないとの断固たる主張には、黙って引き下がるしかなかった。
「……なら、せめて半分持つか」
「大丈夫です、帰る頃には軽くなってますから…!」
 その頃には買った荷物でより重くなっているに違いない、とは――言わないでおいた方が良いだろうか。
「あ、それから章兄、ちゃんと帽子も被ってくださいね」
 問答無用で頭に置かれたのは、レトロなデザインの麦わら帽子。
 これで首にタオルでもかけたら、農作業をしている田舎のオジサンにしか見えない事は間違いない。
 だがシグリッドの目には各種フィルタが何重にもかかっているようで、これでも格好良く見える、らしい。
「ぼくはこれなのです」
 じゃーん、ネコ耳付きの麦わら帽子!
「本当はお揃いが良かったのですが、これ以上大きいサイズはなかったのです」
 だって子供用だし。
 でもサイズが合っているなら、誰が被っても問題はない筈なのだ、うん。

 そうして午前中からギラギラと照り付ける太陽の下、二人は歩き出した。
「章兄、歩く時はなるべく日陰を選ぶんですよー?」
 幸いこの久遠ヶ原の人工島には緑が多い。
 いや、人工島だからこそ緑を多く配しているのだろうか。
 眩しい陽射しとセミの合唱の下、途中で買ったアイスを食べながらのんびり歩く。
「えっと、確かここを曲がって…あっ!」
 あったあった、ちゃんとあった。
「ぼく、実はちょっと心配だったのです。あれは夢とか幻とか、そういうもので…もう二度と辿り着けないんじゃないかって」
 でも、ちゃんと現実に存在した。
 見覚えのある骨董品屋の大きな水車も、箸置きを買った店も。
「あの大きな流木のテーブル、まだ売れてなかったのですね」
「……値段も良いし、そうそう売れはしないだろうな」
 言われて値札を見てみれば、通常の相場よりもゼロがひとつ多かった。
 何かの記念にといった特別な理由でもない限り、簡単には手が出せないだろう。
 これが置かれる家の方にも、それに見合った風格のようなものが求められる気がするし。
「ぼくには縁がなさそうなのです」
 いつか、これが似合う渋い男になれたら、その時は――なんて。
「今は小物で我慢なのです。あ、これなんかどうです?」
 シグリッドは流木を薄く輪切りにした木のコースターを手に取った。
 断面に年輪の模様がくっきりと浮き出たそれは、防腐処理を施した以外には全く手を加えていない。
 少しいびつな楕円形は、どれも少しずつ形や大きさ、色合いが異なっていた。
「これ、人数分買っていきましょう…!」
 前に買った箸置きとセットな感じで、不揃いなのに統一感がある。
 それを包んでもらって店を出たら、次はそれに合う夏向きのグラスだ。

 さて、食器類を扱っている店はどこだろう。
 途中の店を冷やかしながら、目当ての店を探して歩く。
 と、シグリッドが声を上げた。
「あっ!」
 目をキラキラさせて指差したのは猫カフェの看板。
「貸切できますって!」
 この前見付けた猫カフェには最後に寄るつもりだったが、店全体を独り占めに出来るなら狙わない手はない。
「予約しましょう、予約!」
 幸い夕方早めの時間帯が空いていた。
 それまでに買い物を済ませて、後は時間いっぱいまで猫三昧!

「ガラス細工の工房があるのですよ…!」
 暫く歩くと、まるで宝石店と見間違えそうな煌びやかなショーウィンドウが目に入る。
 そこにはグラスや皿などの食器類は勿論、動物などの置き物、香水瓶や様々なオブジェ、風鈴などが飾られていた。
 青く透明な球体の表面に地図が彫られているものは地球儀だろうか。
 その隣には群青色に金銀で星が描かれた天球儀。
 どちらも実用性は低いだろうが、インテリアには良さそうだ。
 他にもガラスの中に宇宙を閉じ込めたようなものや、雪の結晶を封じたようなもの、水族館の水槽がそのままガラス細工のミニチュアになったようなもの――
「章兄、風鈴の絵付け体験が出来るって…!」
 ちょうど欲しいと思っていたところだし、これなら自分の好きなデザインが作れる。
 二人は早速申し込んでみた。
「ぼくは勿論、ねこさんにするのですよー」
 透明なガラスには黒猫が似合うだろうか。
 内側に絵を入れるのは少し難しいけれど、そこは流石のおえかき部長。
 二匹の猫が追いかけっこをしているような、楽しげな絵柄の風鈴が出来上がった。
「章兄はどんなのにするのです?」
「……絵は、ちょっとな…」
 立体造形は得意だが、絵はどうも今ひとつ。
 無難に円周に沿って青と白の線を引くだけにしておこう。
「……どうだ、波っぽく見えないか」
「あ、涼しそうで良い感じなのですよー」
 完成したら、絵の具が乾くまでの間に店内を物色、目当てのグラスを探して回る。
「色が綺麗で、シンプルな感じが良いのです」
 棚に並ぶグラスはどれも手作りで、様々な形や表情を見せている。
 一見すると同じように見えるものでも、それぞれに微妙な違いがあった。
 シグリッドは何にでも合いそうな形と大きさのものを選んでみる。
「あのコースターには、少しスモークがかかった感じのが似合うと思うのです」
 色は青系に緑系、それにグレーっぽいもの、紫に近いもの、二色のグラデーションになっているもの――
 皆で自由に使っても良いし、どれかお気に入りを見付けて専用にしても良い。
「ぼくは、この緑のグラデーションが良いのです」
 色のぼやけ具合が最高、なのだとか。
 全部で二十個近く、割らないように持ち帰るのは大変そうだから、後で届けてもらうことにして。
 風鈴だけは自分で持って、二人は工房を後にした。

「まだ少し、予約の時間には早いのですね」
 まだまだ見ていない店も多い。
「章兄、あのお店なんか好きそうなのです」
 指差したのは天然石を扱う店。
 鉱石から隕石、宝石の原石から化石まで、石と名の付くものは全て揃えましたと言わんばかりの品揃えだ。
 綺麗に加工されたアクセサリなどは扱っていないようだが、石好きには却ってそれが魅力的だったりする。

 時間を忘れて見入っているうちに、そろそろ猫カフェの予約時間。
 さあ、猫達と思う存分に遊び倒すのだ!



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5318/シグリッド=リンドベリ/デート!】
【jz0029/門木章治/散歩と買い物】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2015年08月18日

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