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『忘れがたい夏の日 』
ライラ・マグニフィセント(eb9243)&イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)


 ノルマンに長くない夏がやって来る。
 夏が来たともなれば、人々は近場でバカンスを楽しんだり、少し遠出して海でバカンスを楽しんだり、要は、夏をめいいっぱい楽しむべく休暇を取ったりするわけなのだが。
「いぃ〜ち…に〜ぃい…」
 避暑地として選ばれる事は少ないであろうセーヌ河の源流。ノルマンの人々にとっては親しみ深いセーヌ河だが、源流はパリから些か遠い。その上、山あり谷あり挙句の果てにモンスターも出そうな地域ともあれば、寄り付く人は稀だろう。
「さぁ〜ん…」
 源流からやや下った、セーヌ河の上流。下方に葡萄畑や小麦畑が広がる絶景が見える場所で、夏とは思えぬ鎧姿の男達が、土と石が混ざった河畔で逆立ちをして進んでいた。
「はっ…班長…。も、もぅた、たおれま…」
 バタン。1人がひっくり返ると、次々と周囲の者達もその場に倒れていく。
「こっ…この程度で倒れてどうする!貧弱な奴らめ!」
 死屍累累と化している者達の中で何とか立ち上がった男が叫んだが、もう無理ですぅ〜という返事が土の上から返ってくるばかりだ。
「…おや。準備運動は終わったさね?」
 そこへ、源流の方向から1人の女性がやってきた。ライラ・マグニフィセント(eb9243)だ。夫であるアルノー・カロンも一緒である。更には、この場には似つかわしくないと思われる、まだ年少の子供達もいた。
「奥様…。このような過酷…いえ、夏場向きとは言えぬ修行は如何なものかと…」
「あたしが若い頃に参加した橙分隊の修行から見たら、随分楽になったものさね」
 とは言え、周囲の男達とライラは、そう歳は変わらない。橙分隊と聞いて男達は萎縮したが、それもそのはず。彼らはノルマンが誇るブランシュ騎士団に属する分隊のひとつ、橙分隊直属の騎士団の一員なのだ。そして、アルノーはその橙分隊の一員である。
 つまり彼らの上司の1人が、あろうことか彼らの仕事ぶりを見に休暇中に家族連れでやって来た…という、非常に彼らにとっては大変な状況になっていたのであった。
「それで…今日はサバイバル修行と聞いたのだけど…」
「はいっ。我々新人は2日滞在して自給自足で修行を致します」
「しまぁ〜す」
 敬礼した若い騎士の隣に、ライラの子供が立って真似をする。
「お前達。遊ぶのはいいけどね。騎士様達の邪魔をしてはいけないよ」
「は〜い」
 返事も元気がいい子供たちは、あっという間に川辺できゃあきゃあ遊び始めた。
「それじゃあ、アルノー…。あたし達も参加しようかね?」
「自給自足生活?構わないけれど…」
 言いながら、アルノーは新米騎士達へと視線を向ける。
「彼らの取れそうなものは、残してあげようか」
「そうさね」
 裕福な家庭で育つ者も少なくない騎士達だ。アルノーが属する橙分隊でも、生まれや育ちが庶民であったのはアルノーだけである。庶民であれば幼い頃から手づかみで魚も捕るだろう。だが。
「そっちだ!そっち行ったぞ!」
「ぎゃー!滑った!」
「違う!それは石だ!」
 若い騎士達は、川の中でぎゃあぎゃあ叫んでいる。
「とったー!」
「ぴちぴち〜」
 それより少し離れたところで、ライラの子供達は小魚を捕らえて網袋に入れていた。
「皆。水は気持ち良いさね?」
「うんっ」
「急に流れの速くなるところや深くなるところがあるから、注意しな」
 言いながら、ライラは細い竿をしならせる。竿から伸びる糸が弧を描いて川へと落ちると、近場に腰掛けた。
 魚釣りなどお手の物だが、子供達や新米騎士達の動向を注視しながら、のんびりと楽しむことにしたのである。


「おや…珍しいこともあるものだね」
 この辺りに土地勘があるわけではない。その道を選んだ理由も、必然だったわけではなかった。
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が旅の連れと共にその辺りを通りかかったのは、まさしく偶然だ。ただ、ここより下流にある河を臨む景色が大層美しいと聞いていたから…。そんな理由だったかもしれない。
「ありゃ、ライラ達だね」
 この近くにある教会へと向かっていたのだが、道からセーヌの河畔で遊んでいる人々が見えた。子供達の歓声、男達の騒ぎ声、その中に混ざって落ち着いた色合いで動きやすい格好をした娘が岩に腰掛けている。
「近くに居るのは、孫達か。会うのはあたしも久しぶりさね」
 言いながら連れのほうを見やると、連れは多少腰が引けているようだった。
「なぁ…。もう、良い頃合じゃないかね」
 会っても良い頃だろう。そうは言わず、イレクトラは先を歩き出す。
 彼女も、久方ぶりの娘夫婦との再会が、嬉しかったのだ。


「…お義母さんじゃないですか」
 河畔へと降りたところで、すぐに義息から声を掛けられた。
「久しぶりさね。元気だったかい?」
「えぇ。なかなかお会い出来ず不義理で申し訳ありません」
「それはお互い様というやつさね」
 アルノーは、矢で仕留めたらしい兎を手にしている。河のほうへと目をやると、団体様が魚とりをしているようだった。
 娘の作る料理が絶品なのは知っているし、恐らく川辺でバーベキューでもするのだろう。その材料取りを男達が任されているに違いない。
「ところで…そちらの方は」
 いつも騎士の割には控えめな義息だが、何かを悟ったのか軽く姿勢を正している。
「あぁ…。紹介するのは初めてかね。『これ』は…」



 ライラの魚籠には、既に家族では食べきれないだけの魚が入っていた。
 これだけあれば充分だろう。若い騎士達が自分の分を確保できなかったとしても、料理を振舞うことが出来る。勿論、本人達には成長してもらいたいからコツなどを時折教えたりはしたのだが、まだ先は長そうだった。
「それじゃ、母さんは先に山菜採りに出かけるから、皆、余り遠くへ行くんじゃないよ」
「は〜い」
 相変わらず元気に虫捕りまで始めた子供達から離れたところで、ライラの足が止まる。
「…驚いたさね」
「あたしも驚いたさ。奇遇と言うか、なんと言おうかね」
 向こうから歩いてきた母親の姿に、足を止めるほど驚いたというわけではない。母親は相変わらずだったし、その後方を自分の夫が歩いているのを見て挨拶は済ませていることは理解した。問題は、母親の隣に立っている人物だ。
「…父さん」
 呟くと、呼ばれた相手は軽く頷いた。
「白教会に向かっている途中で偶然見つけてね。見つけたのはこの人じゃなくて、ライラ達を、だがね」
「…賑やかだったかね」
 言いながら、ライラは後方を振り返る。眩しい太陽の光が河の水面に反射して、必死の形相で魚を捕っている男達も、笑顔で魚や虫や爬虫類を捕っている子供達も、皆、キラキラと輝き無邪気に楽しんでいるように見えた。
「良いじゃないか。賑やかなのは楽しいさね」
 それは勿論楽しいことだ。両親のほうへと向き直ると、彼らの視線は一際賑やかな子供達へと注がれている。
「良かったら、遊んでやって貰えませんか。賑やかな子たちですが、きっと…」
「そうさね。きっと…喜ぶ。とても」
 アルノーと目を合わせて頷き合い、ライラは河のほうへと声を掛けた。
「皆ー!そろそろ昼にしようかね!」
 声を掛けられて若い騎士たちもぞろぞろと河から出てきたが、真っ先に駆け寄ってきた子供達は不思議そうに初めて会う人物を見上げる。
「お前達のおじいちゃんさね」
「さぁ。孫に思い切り囲まれてこい」
 イレクトラに軽く背を押された男は、たちまち子供達に囲まれた。むしろ飛びつかれている。何だ何だとやって来た騎士達と互いに自己紹介が始まったところで、ライラは自作の簡易かまどを作るべく水際へと向かった。その後をイレクトラがついて行く。
「用意はあたしがやるさね。母さんも孫と会うのは久しぶりだろう?」
「孫も可愛いし大事だけど、たまには…」
 横に並んで石を拾いながら、イレクトラは笑った。
「たまにしか会わない娘に娘孝行も、したいさね」
「母さん…」
「さて、かまどを作ったら、あたしも腕をふるうかね」
「母さんは魚料理だけにしておくれよ」
 言いながらも、さて、どんな料理を作ろうかと笑みが零れる。
 豊富な食材があるわけではないけれども、今ここに奇跡的に集まった皆で楽しめて、そして彼らが喜ぶような料理を用意しよう。

 この何でもない夏の日が、忘れがたいとびきり楽しい日になるように。


 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 eb9243/ライラ・マグニフィセント/女/27歳/お菓子作り職人

 eb5549/イレクトラ・マグニフィセント/女/45歳/船乗り

  − /アルノー・カロン/男/34歳/騎士


 その他大勢


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注を頂きましてありがとうございます。
サバイバル…のはずが余りサバイバルになっておりませんが、家族団らんのほうへと話を寄せさせて頂きました。
お2人の喋り方や呼び方がおかしい場合は修正致しますので、リテイクをお願します。

それでは、またお会い出来ます事を祈って。
ご発注ありがとうございました。
野生のパーティノベル -
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Asura Fantasy Online
2015年08月19日

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