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『共に雨香のひとときを 』
所所楽 銀杏(eb2963)
●雨の日のお昼時
 それは徐々に暑くなりつつあったある雨の日のお昼時。
「雨が続くと少し客足は減るけど……村とかにとっては恵みの雨だな」
 暖簾の境を押し開けて外を眺めて雨空を見上げるのは、この小さな小間物屋の主の沢です。
「本当に……少し、涼しくもなります、し……」
 暑さを指して笑みを浮かべると、そっと沢の傍らに立って雨の通りへと目を向けて、所所楽 銀杏はそう言って笑いました。
 所帯を持って小さなお店を構え、せっせと働く沢と、若いおかみさんとして一緒にお店を切り盛りする銀杏、忙しいながらも穏やかな日々です。
 色々なものを見て知っている銀杏に、伝手と前の御店の老主人から引き継いだ確かな品物を揃えてそつのない接客の沢と、なかなか繁盛しているよう。
「わふ」
「なんだい、奥に入ってないのか、お前達」
「濡れている、です、よ?」
 愛犬で番犬をも勤める柱次と火天の二頭が軒下で尻尾をぱたぱた通るのを見ていたのに気が付いて、小間物屋から続く、住居の土間の方へと促す沢にちょこちょこと中へ入ってから、手拭いで拭おうと沢が歩み寄るのを見計らってぶるぶると水を飛ばす二頭。
「わっ、こら、お前ら狙ってたな?」
 笑いながらわしわしと二頭を拭ってから撫でる沢に、銀杏は『こえをかけてください』と表の札を変えてやってくると、くすっと笑って口を開きます。
「お昼にするです、よ。柱次も火天も……旦那様も」
「お、ありがとう」
 旦那様、と呼ばれるのにちょっぴり照れた様子でお膳の準備を手伝う沢に、銀杏もちょっぴり頬を染めて嬉しそうに微笑みます。
 柱次と火天にご飯を上げて二人も奥の座敷で食事を始めれば。
「そう言えば……」
「はい?」
「その、何かあったら、話してくれよな?」
 そう言ってもぎゅもぎゅと食事を続ける沢に少し不思議そうに首を傾げているも、ふと何故言い出したことか心当たりがある銀杏。
「……」
 内容までは沢が分かっていないのを理解すれば、銀杏は食事を終えてからお茶と、義姉に頂いたお饅頭を用意してちょんと出して一緒に腰を下ろすのでした。

●曇りの夕刻
「銀杏さん、大丈夫?」
「え……ええ、大丈夫……です、よ?」
 沢の姉の御店へ立ち寄ったのはつい先日のこと、少し身体がだるくはあるものの暑さのせいだと思って居た銀杏は不思議そうに首を傾げます。
「そう? 大丈夫なら良いのだけれど……」
「……?」
 何やら気になることがあるのか頬に手を当てて言う奈都は、奥の座敷で近頃の御店の様子を話したり、女性同士で御店の切り盛りで相談をしてみたりと楽しげな歓談中のことでした。
「その、ね? 私の勘違いならそれで構わないし、良かったら見て貰ったら……なんなら先生にこちらに来て頂いて……」
「それなら、帰りに寄ってみるです、よ」
「ごめんなさいね、どうして気になってしまって」
 奈都は銀杏も沢と同じくらいに大事な義理の妹と思っており、何かと気にかけているため、銀杏は奈都が何を気にしているのかまだはっきりとは分からないものの、この御店に出入りしていたときからお世話になっている先生の所に寄っていくことになって。
 お医者様からの帰り道、銀杏は心配してくれていた奈都の居る御店の方へ一度報告した方が良いのか、沢君はきっと喜ぶだろうけれど、などとつらつら考えながら自分たちの御店か、奈都の御店かの分かれ道でちょっぴり悩んでしまって。
「銀杏?」
「沢君……は、先代さんの所、です、か……?」
「ああ、爺さん元気か、ってあの畳やさんが置いてったお土産を届けてきたんだ。銀杏は姉さんの所に行ってたんだっけ。どうしたんだ?」
「なんでもないです、よ」
「ん……そっか。あ、俺持つよ」
 荷物を受け取って一緒に並んで歩き出せばまだちょっぴり言われたばかりのことを告げるには心の準備ができていないため何となく言い辛いことなのかなと察した沢は荷を受け取ってそのまま流し。
「そういえば、お饅頭をお土産に、頂きましたです、よ」
「わ、潰してないと良いんだけど、がっしり掴んじまった」
 あわわとしている沢にくすりと笑うと、二人は並んで幸せそうに自分たちの御店へと帰っていったのでした。

●雨香のひととき
「心配させてしまった、です?」
「ん……いや、あっちの道ってさ、お世話になってる先生の所の方だよな、って……」
 雨の昼下がり、ちょっとばつが悪そうに頭を掻くと、困ったような表情を浮かべる沢。
「本当は何かあったとしても、銀杏が話すまで待つべきだって分かってるんだけれど、病気とかで言い辛かったり、辛い思いしてたらとか考え始めちまったら、さ……」
 とても心配している様子の沢に、傍らに腰を下ろし銀杏はそっと手をとると、はにかんで微笑みながら口を開きます。
「種明かしします、ね?」
 種明かし、と言うのにきょとんとして銀杏を見る沢ですが、銀杏はそっと耳元に唇を寄せ。
「沢君は、今、旦那様で……来年はお父さん、です」
「……」
 言われて目を瞬かせて、はっと銀杏へと顔を向けると心底驚いた表情を浮かべる沢。
「銀杏、その……ほんとう、に……?」
「はい……」
 こくりと頷かれて、がしっと銀杏の肩を掴むとそのまま少々強引にぎゅむっと抱き締めます。
「あぁ、本当に! そうだったのか! なんて嬉しいんだ!」
 なんどもありがとうと言いながら銀杏を抱き締めて喜びをあらわにする沢、抱き締められている腕の暖かさに満ち足りた心持ちになる銀杏。
 暫くすれば、きつすぎたか、御免、と言いながらも幸せそうに銀杏の肩を抱いたままでいて。
「まだ性別も、人数も分からないうちだけれど、お客さんもいないから。今はのんびり……その、名前とか考えたりって」
「うん、雨の日は少し余裕が出来るからな」
「あの雪の日に、子犬の名前を考えたときみたいに……」
 銀杏の言葉に肩を抱いて笑みを浮かべて頷く沢は、懐かしい思い出に目を細めます。
「子育ては自信があります、よ。元気に産む、までは……少し負担かけてしまうかも、ですけど」
「負担なんかじゃないから、任せてくれ。俺に出来ることならなんだってやるからな」
「わふっ!」
 尻尾をぶんぶか振りながら火天も鳴けば、柱次もどことなく得意げな顔で控えながら居て。
「沢君の命を繋げるの、嬉しいんです」
 微笑みながら続ける銀杏。
「どんなおうちにしたいか、ありますか? きっと、二人でそのとおりに出来るって思うんです」
「ん……そうだな、幸せで……笑顔の絶えない家にかな」
「名前はどうする、ですか? エリカ……とか? 女の子の名前は思いつくんです、けど……」
 花言葉は幸福な愛です、という銀杏に男の名前か、と考える様子を見せます。
「蓮……レン……って一人かと思って双子だったら……」
 思わず沢にくすりと笑うと小首を傾げて銀杏は見ると。
「まだ、命に気付いたばかりだから……実感と幸せをゆっくり、積み上げませんか?」
「……ああ、そうだな、ゆっくりと考えることにしようか……」
 しとしとと降る雨の香を楽しみながら、寄り添うと、銀杏と沢は、側に愛犬たちが控える、とある雨の日の昼下がりの穏やかな時間を過ごすのでした。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【eb2963 / 所所楽 銀杏 / 女性 / 21歳 / 僧侶】
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2015年08月20日

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