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『暑さを忘れた休日の過ごし方 』
ペル・ツェka4435)&アル・シェka0135)&イーリアスka2173)&アイ・シャka2762

●珍しき休日
 ペル・ツェ(ka4435)は、お湯を沸かしながらその話を聞いていた。
「可もなく不可もなく。失敗あったら把握しているだろう?」
「怒られるような失敗はしてない筈、です。多分」
 アル・シェ(ka0135)とアイ・シャ(ka2762)の向かいにいるのは、イーリアス(ka2173)。
 3人にとって、胸に抱えている感情は違えど師に位置するエルフだ。
 本当は疾影士になりたかったペルと同じ魔術師である彼は、見た目20代半ばといった所だろうが、アルよりも確実に年上である。
 流れる銀の髪と透き通るような白い肌を持ち、男性と分かる美しさを持ちながら、女性のような美しさも持つ。
 本人もそのことを自覚しているのか、飄々とした中に己の外見への自信を垣間見せることもある。
 外見が中身の全てを構成する訳ではなく、彼の性格は掴みづらいの一言に尽きるのだが。
「アルシェの言う通りではあるかな」
 近況を聞くというスタンスを見せたものの、イーリアスはそのことについて特別な興味を示した様子はない。
 今日は珍しくここにいる全員が休日で用事もなかった為、ここへ集ったのだが。
(不思議では、ありますけどね)
 ペルは心の中で呟き、棚から茶葉の缶を取る。
 ここは、隠れ家のひとつだ。
 暗殺技巧を持つ自分達が気兼ねなく集える場所。
 外観は派手ではないが質素過ぎない趣を持つ古城であり、内装も地上部分はその外観に違わぬものだ。
 が、隠し階段から入ることが出来る地下は頑丈な造りでありながら、その内装は程よく豪奢だ。ペルにはよく分からないが、調度品には品がある。
 配置も計算し尽くされているのだろうと思うが、師であるイーリアスに聞くことはない。
 ペルが師ではあっても人格的に得意ではないイーリアスは、色々理解が及ばない。
(地下なのに、お湯が沸かせるとか)
 地下ではあるが、通気口があるらしく、火を使っても支障はない。
 が、外は暑い夏、この状況なら余計暑くなりそうだが、この付近は地下水脈が豊富らしく、地下から汲み上げた水を城内に循環させることで温度を快適に保たせている……と最初ここへ来た時に聞いた。
 外の暑さをここへ持ち込む必要がないのは、助かるが。
 ペルはそう考えつつ、淹れた紅茶を3人へ振る舞う。
 この中では1番下っ端にあたるペルは、まだ見習いのようなもの。
 イーリアスの傍で従者や小間使いをしつつ、下積みしている為、雑用を行っているのだ。
「少し喉が渇いていたんだよね。ありがとう、ペル」
 イーリアスが笑いながら、優雅な仕草で紅茶が入ったカップに口をつける。
 アルは無言ながらも味わうように飲み、アイは「ペルちゃんは気が利きますのね」とお礼を言ってから飲む。
「いえ。折角用意したんですから、飲んでいただかないと」
 ペルとしては偽りない本心の言葉だが、アイは「可愛い」とくすくす笑うだけ。
 嫌いではない先輩は、ちょっと対応に困る所があり。
 自分からは絡み難いし、アイから絡まれると逃げ難い。
 3人の話は、既に近況から他愛ない雑談へ移っていた。

●ゲームのお誘い
「まだ時間もお茶もあるし、ゲームでもしようか?」
 ふと、イーリアスがいきなり提案してきた。
「ゲーム?」
 アルとアイが口を揃えてそう言うと、イーリアスは肯定の微笑を浮かべる。
 イーリアスが指すゲームとは、彼の訓練の初期に戦術の模擬試験として提示されたチェスのようなボードゲームだ。
 篭城を想定し、攻撃から守り抜くといった形のシンプルなものであるが、攻撃側は1種の駒しか扱うことが出来ないが、防衛側は2種の駒を扱うことが出来る。
 が、防衛側の2種の駒には決まりごとがある為、自由に置くことが出来るとは限らない。
 しかし、攻撃側も駒を置く決まりごとがある為、自由に置くことが出来るとは限らない。
 双方決まりごとを守りつつ、相手の手を読み、より多く駒を配置することで勝敗を決めるという形だ。
 言うまでもなく、攻撃側は襲撃する暗殺者を想定されており、防衛側は城の正規戦力を意味する。2種で兵士と将軍という位置づけなのだとか。
「近況を聞いても漠然としているし、ゲームで実力を見た方が早いじゃないか。抜き打ちテストかな?」
 イーリアスが優男の外見に似合うような笑みを浮かべると、アイが「それならば、受けて立ちます」と立ち上がり、棚のひとつを探し始める。
 諜報を得意とするアイは物忘れが激しい方ではない。
 何処にしまったか全く覚えていないということもないだろうとペルは思い、片付けの手を止めない。
「見つけましたわ。まずは、わたくしと勝負してくださいませ」
「勿論。さて、アイちゃんはどの位腕を上げたかな?」
 ボードゲームを広げるアイにイーリアスが微笑んでいる。
 勝たせるつもりはないだろう。
 ペルが振り返ると、アルと目が合った。
 表情や反応から内心が分かり易いとは言えないアルだが、少なくともペルはこの中では人格的にまともだと思っている。
 今は自分が雑用をしているが、自分がいなかったら彼がこの2人を世話をしているのだろうということは何となく想像がつく。
 苦労人系だろうな、と思うのは、アイの振る舞いで見られる変化の所為かもしれない。
「新しい紅茶を淹れて貰っておいていいか?」
 少しだけ距離を詰めてきたアルがペルへそう依頼した。
 きっと、お替りが必要になるだろう、と。
 アイがこうであるのもアルに原因の一端があるかもしれないが、アイの元々の気質が大きいだろう。
「そうですね」
 イーリアスに負けるつもりがない以上、主にアイが新しい紅茶を必要とするだろう。
 ペルは再び、紅茶を淹れるべくお茶を沸かすことにした。

●鷹の目
 アルは始まったゲームをじっと見ている。
(あまり苛めないで欲しい)
 昔から勝てないと漏らすアイはイーリアスの前では表情が分かり易く変化する。
 より正確に言えば、イーリアスがその言動でアイの反応を引き出しているのだが、アイはイーリアスへの想い故に気づかない。
 見てて面白いから気づかない振りをするイーリアスの人格は師であっても尊敬出来るものではないが、アイの本来の性格を考えれば、心配はしているのだ。
「さて、次はどういう風に守ろうかな♪ アイちゃんなら、きっといい手で攻めてくるだろうし、負けてられないよね」
「勿論ですわ。今日こそ勝ちたいですもの」
 気合を入れるアイの表情は分かり易い。
 目線を追えば、どこに駒を置くかの見当がつく。
 イーリアスが言うには、そういう分かり易さが可愛らしいそうだが。
(少しずつ押されている)
 アルは少数の非正規戦闘を好むからこそ、イーリアスが攻めるようにして守っていることに気づいている。
 意識して表情を一定に保ち、視線を鷹の目で見ている為にどのようにしてゲーム展開を見守っているか分かり辛いが、自分であればどのように盛り返していくか考えている。
 アイの考える時間が、徐々に長くなっていく。
 けれど、ルール上の制限時間は決まっており、イーリアスのカウントがますますアイを追い詰める。
 やがて───
「降参ですわ……」
「ボクの勝ちだね」
 駒を置く場所を失ったアイが降参を口にし、勝たせてあげるつもりなど全くなかったイーリアスが微笑む。
 アルは苦笑を零し、遊ばれたアイの頭を撫でた。
「次はアルシェだよね? 強敵だなぁ」
「……油断はしない」
 まるで自分へ言い聞かせるようにアイと場所を替わって貰うと、アイが隣に座ってきた。
「に〜さま、わたくしの仇を取ってくださいませ!」
 腕にしがみつくように応援の体制に入る。
 応援する気持ちもあるだろうが、イーリアスが勝つ為にしていることは気づいている。
 度合いにもよるが、ある程度はいつものことだと思う為、イーリアスがその応援に期待しつつ、また、自分が意識を逸らすことなく集中を保つ課題としても有用だと止める気もないことにも気づいている。
 先程まで浮かべていた微かな苦笑を消し、表情を一定にする。
「アイシャさん、もうゲームを終えられたのですか?」
「これからに〜さまが頑張りますわっ!」
 新しいお茶をポットに入れてきたペルがストレートにそう言うと、アイが自分ではないのに気合に満ちた返答をしている。
 が、既にアルは集中しており、それらの会話が耳に入ってはいなかった。

●可愛らしき妨害者
 アイはアルの腕にくっつき、歓声を上げて応援をしている……ように見せて、イーリアスが勝つよう兄の集中を乱そうとしていた。
(本当はどちらも応援したいんですけどね)
 本命はイーリアスだが、アルのことも大好きだ。
 この2人がいなかったら、今の自分はいないだろう。
 近づく者は、安心するまで警戒し続ける程度に。
(わたくしから見ても、次の手が読み難いですわ)
 イーリアスもアルも性格は大きく違うが、表情や振る舞いを変えず、読ませない。
 自分も他者相手では欺く為に相手に副う形で演じるが、この2人には大好きであるからか通用しない。
(どのようにお考えなのかしら?)
 アイはイーリアスへ視線を移す。
 イーリアスは飄々とした軽薄な態度を崩さないが、空気の密度が濃いような気がする。
 アルの手を読みつつ、自身の駒の配置を考慮し、守る為に攻める戦略に頭を巡らせているのだろう。
 大好きなイーリアスの力になれればと思うアイもアルの集中を乱す為応援も腕にしがみついて歓声を上げるだけではなく、思考を遮るようにアルへ勝って欲しいとばかりに意見したりと様々だ。
 そうして、ゲームが中盤に差し掛かると、ゲーム開始前に紅茶のお替りを持ってきたペルがイーリアスの番の時に容赦なく言い放った。
「イリアス、紅茶が冷めるんですけど」
 ペルはイーリアスが1人勝ちするだろうと見越しているのか、彼に対する遠慮はないらしい。
 イーリアスも強制介入を咎めるつもりはないのか、ペルから紅茶を受け取り、カップに口をつける。
「紅茶だけ? お酒は?」
「ないです」
「紅茶に1滴位ブランデー入れるとかしてくれてもいいのに」
「ありません」
 イーリアスは反応を楽しんでいるようだが、気づいていないペルはいちいち反応を示す。
 一瞬、アルの目がペルへ向いたが、感情の色はやはり見えない。
(わたくしとゲームしている時は、本気を出してくれないのに)
 自分に対して甘いアルは、ゲームもぎりぎりの所でアイを勝たせてくれる。
 最初から手を抜くのではなく、重要な局面を動かさないといった抜けを作るといった、巧妙なやり方で負けてくるのだ。
 アイはアルに負けたことはないが、本気を出してくれないのかという意味においては少し寂しい。
 自分だって、今みたいに本気のアルとゲームしたいのに。
 イーリアスとアルのどちらかと言われれば、イーリアスを選んでしまうけれど、両方選べるなら両方選ぶし、選択肢がイーリアス以外だったら迷わずアルを選ぶ位、アルのことが大好きだから、仲間はずれみたいな気がしてしまう。
(認めて貰うように、頑張りますわ)
 可愛らしい妨害者の愛は、盲目的に排他的に彼らへと捧げられている。

●見せぬ彼の内
「今日は、アルにしてやられたかな。いや、ペルかもしれないけど」
 ゲームが終わると、イーリアスはそう言って紅茶のカップに口をつける。
 最後の最後まで見えなかった勝負は、アルに軍配が上がった。
(表情を保っていたね。感心)
 アルはアイと違い、表情を崩さない為読むのが面倒である。
 その表情を崩さないのが仕事上映えると思っているが、彼は身内のみの場では比較的穏やかで甘い性質が示すように、結構優しいという欠点があるとイーリアスは思っている。
 それもあり、アイの応援という名の妨害に期待していたのだが、アルは自らの課題とし、逆にその表情を一定にすることを強く心掛けた為に表情がより読み難いものとなってしまった。
 相手の手を読むことが重要なゲームである為、アルが僅かな差で攻め切ったのは評価すべき所だろう。
「人の所為にしないでください」
 ペルがイーリアスの言葉を真に受けて反論してくる。
 虚偽を嫌い、真実を好む性質の新弟子の反応は、実に新鮮で面白い。
「そういえば、ペルちゃんはまだゲームなさってませんね。ペルちゃんなら勝敗はどうなるんでしょう?」
 アイがペルへ話を振る。
 当初、アイはペルを警戒(恐らくライバルとして)していたようだが、そうではないと分かってからは可愛い後輩だと思っているようだ。
「やりませんよ」
「そうなんです?」
 ペルの答えに、どうしてと言いたげなアイ。
 その2人のやり取りをアルが見ているが、アルはペルに対しては割と同情的な色合いが強いようだ。
(被害者って失敬だよね)
 アルへはペルに手を貸さないよう言い含めている為、極力手出ししないようだが、彼を見る目の色にそれが出ている。
 ペルもそれが分かっているからこそ、アルへの評価は悪いものではなく、ちょっと尊敬もしているのだろう。
 皆、自分が拾った可愛い弟子、平等に可愛がっているつもりだ。
「ボクは構わないよ?」
「イリアスの『娯楽』に付き合う必要を感じませんので」
 イーリアスがそう言うと、ペルはあくまで見学者のスタンスを崩さないと返してくる。
 ペルは、イーリアスが勝利に自信があることに気づいているのだ。
 だが、単純に勝つのではなく、楽しんで勝つ……つまり、遊びの要素も入れた上で勝とうと考えるだろうとも気づいており、それ故にゲームそのものではなく、その姿勢に対して釘を刺して拒否してきた。
(その位じゃないと、ボクも面白いと思わないけれどね)
 新弟子は、本当に面白い子だと思う。
 その面白さに免じて、今日の所は止めておいてあげよう。
「なら、ブランデーが入った紅茶持ってきてー」
「ならって何ですか。関係ないじゃないですか」
 イーリアスへペルが理解不能といった表情を向けたのは、言うまでもない。

●休日の終わり
 ボードゲームを片付けた後、ペルが淹れ直した紅茶で人心地つく。
「ペルちゃんもゲームなされば良かったのに」
 アイはカップを手にし、まだ残念そうだ。
 先程まで掃除や後片付けの目処も立てていたペルもイーリアスの援護を受けたアイの言葉でソファに腰を下ろしている。
「しません」
 アイへの対応に困ることもあるペルは素っ気無く言い、自分が淹れた紅茶に口をつける。
 その対応が面白いらしいイーリアスが笑いを噛み殺しているので、「笑うようなことではないですよね」とイーリアスを見る。(が、そのようなことで怯むイーリアスではない)
「けど、休日はいいものだね。こうして皆で集まってのんびりする時間もたまにはないと、つまらないよ」
 イーリアスは飄々とした態度を崩さないまま、結局ブランデーが入っていない紅茶を飲む。
 その仕草からは分かり難いが、イーリアスがこの時間を楽しんでいるだろうことは想像に難くない。
「アルシェには負けちゃったから、今度からは挑戦者のつもりでゲームに臨もうかな」
「断る」
 アルは即答し、紅茶を口にする。
 イーリアスも本気で言ってはいなかったのだろう、残念と楽しそうに笑っているだけだ。
 その楽しさの度合いもどこまで本当かは掴みかねる部分もあるが、掴ませないように振る舞っているからだろう。
「に〜さま、それならば、わたくしの本気の挑戦を受けてください!」
 アイがねだるように腕へしがみついてくる。
 勝たせてくれていると思っているアイは、自分が本気を出していないと思っているのだろう。
 アルとしては本気を出していないと言うより、やり難いと言った方が正しい。
 イーリアスはそうした部分を自分の欠点と把握していることにも気づいている。
 無論、仕事となれば、私心は挟まずにこなすが……。
「に〜さまが本気を出さざるを得ないようにわたくしも頑張りますから、次の休日はわたくしと勝負ですからね!」
「……楽しみにしておく」
 こうなってはもうダメだろうと思い、アルは苦笑で応じた。
 ペルはやっぱりアルは大変そうだと思い、若干同情的に見ていたが、それを面白そうに観察するイーリアスに気づいて、ポットに残るお茶を自分のカップへ注ぎ入れる。
 水の循環により涼やかさが保たれた城内で飲む紅茶は、外に満ちる夏の暑さとは異なる熱さが残っていた。

 これは、夏の暑さを忘れたある4人の休日の話。
 次の休日、彼らがどこでどう過ごすかは、彼らしか知らないことである。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ペル・ツェ(ka4435) / エルフ・男性 / 15歳 / 魔術師(マギステル)】
【アル・シェ(ka0135)/ エルフ・男性 / 28歳 / 疾影士(ストライダー)】
【イーリアス(ka2173)/ エルフ・男性 / 26歳 / 魔術師(マギステル)】
【アイ・シャ(ka2762)/ エルフ・女性 / 18歳 / 疾影士(ストライダー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注いただきありがとうございます。
発注文や実際の納品物を基に外とは異なる空間を表現出来ればと描写させていただきました。
皆様にとって、少しでも良い休日になっていれば幸いです。
野生のパーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年08月24日

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