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『偽りの花嫁様? 』
紺屋雪花(ia9930)&暁火鳥(ib9338)

 それは何年も前の話。
 とあるシノビの里で、一人の少年が行方不明となった。
 少年の幼馴染だった子どもは、彼を探す為にシノビの里を抜け出し、開拓者となった。
 そして少年の面影をもつからくりを相棒に、ずっと旅を続けてきた。
 ……それはただの気まぐれだった。
 いや、違う。少年のことを吹っ切る為に、からくりと婚姻のまねごとをしようとしていたのだ。
 そこに現れたのは、本物の、行方不明になっていた少年――。
 彼の手を、そのとき思わず掴んでいたのは――きっと、運命めいたものを感じたから、だろう。


 ――暁火鳥は幼い頃の記憶が断片的である。
 迷子になって何故かジルベリアにたどり着いてから師匠と出会い、魔術の勉強に没頭していくうちに幼い頃の記憶がどんどん上書きされていって、いまの自分がいる。結果、霞がかった幼い頃の記憶たち。
 ただ、その中にあっても覚えていたのは、男勝りな幼馴染のことだった。いや、覚えていたというのも正確ではない。幼少期の幼馴染の姿が、どうにも忘れられなかったのだ。
 といっても、幼馴染――紺屋雪花と再会したとき、はじめは直ぐに分からなかった。初対面である筈の自分と祝言を挙げろなんて無茶なことを言うお嬢さんだなと、ただそれだけ思っていた。
 まあ、厳密には祝言をあげるようにそそのかしたのは雪花のからくりであり、雪花自身はあずかり知らぬことであったわけではあるが――。
 けれどもその眼差し、香り、そして面影――それらが少しずつ思い出の形を形成していき、そしてピントを結ぶ。そう、幼い頃に別れたままとなっていた、雪花だと気づいたのだ。
 綺麗になったなあとぼんやり思っていたら、そのうち雪花は火鳥の胸にすがりついて泣き出してしまうし、あれよあれよと言う間に勢いに任せて結婚してしまったのだ。
 ――雪花の、本当の性別に気づかぬまま。
 というのも、じつは雪花は男なのだ。
 彼自身がシノビの里を抜けてきた、いわゆる抜け忍である為、ふだんから己の素性を隠す為に変装をしている。特に若い女性の変装が得意で、つまり火鳥が再会した【雪花】はそのとき女装姿だったわけだ。それも、泰風の婚礼衣装を身に纏った姿。
 そんなわけで、成り行きの部分が多いとは言え結婚にまでこぎ着けたくせに火鳥はいまだに雪花のことを女性だと信じて疑っていない。幼馴染だったはずなのに、雪花の性別についてはすっぽりと忘れている、らしいのだ。
 まあ普通男性と結婚するのは女性だから、それで勘違いするというのは良くある話と言えばその通りなのだが。
 ひとはそう言う人物のことをあほの子と呼ぶが、本人は気がついていない。つまるところ、全くもって面倒きわまりない。
 当然、結婚した雪花もその点には頭を悩ませている――と思いきや、本人はかなり楽しんでいる様子。
 どうやら、いつ火鳥が真実に気づくのか、それが楽しくて仕方がないらしい。
 それならそれでからかってしまえ。今までさんざん世話を焼かせた分、そのくらいは許されるだろう――彼はそう思うと、口元を小さく緩めた。
 
「……でも本当、雪花は綺麗になったなぁ。髪も長くなって、その、色気もあって……すごい俺好みに成長してたから、びっくりしたよ」
 火鳥はそんなことを、悪気のない顔で言う。このあたりが既にかなり罪深いのだが、本人はまったく気がついていない辺り、あほの子であるいい証拠だろう。
「そうか?」
 雪花も言われてまんざらではないらしく、ほんのりと頬を赤らめる。女の姿をして火鳥をずっと捜し求めていた雪花は、彼のことについて思い詰めすぎた結果、女性から男性への恋心めいたものも抱いてしまったことがあるのだ。むろん今はそれが錯覚だったことも自覚している。
 だから、こういった火鳥の反応は正直言って鈍いにも程があるとしか言いようがないのだが、火鳥本人はそんな雪花の白い視線にも気づかずにこにこ微笑んだまま。
 ……まあ、自分をみつけてすがりついて泣いている美少女を疑えなんて、難しい話なのだけれど。
「桜の花……綺麗だなぁ」
 歩きながら、はらはらと舞い降る花弁に手を伸ばす雪花。花弁はまるで雪のようで、雪花という名前にひどく似合っているなと火鳥は改めて幼馴染の美しさに頬を染める。天然の上に純情と来れば、ここまでよくもまあ開拓者としてうまくやってこれたものだと心配になるくらいなのだが、まあ、そこは生来のひとの良さというのがいい方向に働いている結果なのだろうとポジティブに考えておく。
「そういえば折角結婚をしたんだから、いっしょに風呂に入らないか」
「え、ええええええっ、風呂……?」
 男性だと気づいていない火鳥はたとえ妻が相手だとしても照れてしまうらしい。
「そのくらい良くあることだろ、なっ」
 雪花はそう言って迫ってみせる。
 ――本人が気づいていないなら、気づかせればいい。思い出させればいい。
 雪花の小さなもくろみだったが――しかし、脱衣場で見た半裸姿に顔をを染めながら、火鳥はこんなことを言ったのだ。。
「胸に詰め物なんて、胸の大きさなんか気にしなくてもいいんだよ。俺もさ、身長を気にしててさ……」
 上げ底のブーツを指さしてクスクスと笑う。
「ほら、これでおあいこだろ?」
「……」
 雪花は絶句した。と言うか絶句するしかなかった。
 まさかそこまで信じ込んでしまっているとは……本当に頭のねじが一本吹き飛んでしまっているのかも知れない……と。
 そんなことも気にせず、火鳥は懐かしそうに言葉を紡ぐ。雪花と出会って、まるで記憶の栓が外れたかのように次々に幼少期の記憶がよみがえりつつあるらしい。それはそれで喜ばしいことなのだが、雪花のことだけはいまだ虫食いの記憶らしい。
 だから、火鳥の中の雪花は今も【女性】と認識したまま。
 それでも、と火鳥は訴える。幼い頃、記憶の向こうに消えてしまった記憶の中で雪花のことは覚えていた、それがよすがとなっていたのだと。
(性別のことはころっと忘れているくせに……)
 ――いや、もしかしたら性別なんて関係なく『大切なトモダチ』として認識していたから、覚えていたのかも知れないが。
「……記憶の中のお前はさ、いつも泣いてたんだ。そして、俺を見つけてくれたときの、お前も。だから誓ったんだ、もう二度と泣かせやしないって。絶対、幸せにするからな、雪花」
 そう言って、火鳥は雪花のことをそっと抱きしめる。
 そこまで言われてしまうと、逆に雪花としても言葉がうまく出ない。
 結婚初夜と言われるその日に、そう言ってくれる人がいるなんて、まるで本当におとぎ話か何かのようではないか。
「……馬鹿」
 そのつぶやきはどういう意味を含んでいるのか。悔しいので、雪花は火鳥の唇をそっと塞いでやる。
 相手が同性で、幼馴染で、しかしそれがどうした。
 これ以上恥ずかしい言葉を口にして欲しくないという気持ちもあるし、このつかの間の幸福を甘受していたい気もする。どうせ明日になれば流石にネタばらしだ、それまでは幸せな時間を作るのが自分の役目なのだろうし、それならばせめて幸せな夢を――。
 しかしその幸せな夢とは一体誰にとって?
 
 翌朝、雪花は早くにおきて桜をぼんやりと見上げていた。
 忘れてしまっているのなら――あのときのことを再現してしまえばいい。
 彼が消えてしまったあの日の出来事を。
 初めてのお使いで迷子になって、そしてふたりで身を寄せ合って桜の根元で一晩を過ごしたときのことを。
 そのすぐあとに火鳥は消えた。まさか一人でお使いに行ってしまうなんて、思ってもいなかったから。それがこんなに長い間の離別になるなんて、思わなかったから――
 そのことは、雪花の心の傷となっている。ずっと、ずっと。
 
「……雪花?」
 火鳥はいなくなった妻の姿を探してふらふらと森を彷徨っていた。
 なんだかこんなことは昔、あったような気がするけれど。
 一体どんなことだった?
「雪花……」
 気持ちばかりがはやる。
 そして見つけた。満開の桜の下で、縮こまってしゃがんでいるのを。
「心配したんだぞ……馬鹿!」
 そう、ちょうど幼い頃のように。
「あのときは俺もお前も、一人息子だからって一族大騒ぎになって……え? あれ?」
 懐かしそうに言いかけて、齟齬にようやく気づいたらしい。雪花はデコピンをお見舞いする。
「だから、俺は男だろうが」
 雪花の言葉に愕然とする火鳥。
「ちょ、俺の純情返して!?」
 そんなこと、雪花の知ったことではない。
 でも、まあ。
 誤解が解けたのは、いいことなのだろう。
 
 
 それからも、二人はいっしょに暮らしている。
 なんだかんだといいながら、幸せなのだろう。
 だがそれは、また別の話。
 
 
 
 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ia9930 / 紺屋雪花 / 男 / 十六 / 花嫁? 】
【 ib9338 / 暁火鳥 / 男 / 十六 / 花婿? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回はありがとうございました。
複雑な設定でしたが楽しく執筆させていただきました。
どうかお二人がこれからも楽しくも幸せな生活を送りますよう。
水の月ノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年08月24日

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