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『■Friendship with you 』
ケイルカka4121)&クレール・ディンセルフka0586


●少女達のカノン
 その町の中心部、広場から通りにかけて開かれた市場では、活気のある賑やかな声が飛び交っていた。
「さぁさ、安いよ。どうだいお嬢さん、一つ買っていかないか?」
「う〜ん……美味しそうだけど、また今度ね〜」
 声をかけられたケイルカ(ka4121)は並んだリンゴやミカンをちらと見るも、笑顔で断り。
「そうかぁ。あ、そこのお嬢ちゃんは、どうかな」
 売り込みに失敗した商人は、早々に次の客へターゲットを移す。
「ほら、あま〜いリンゴだよ」
 何気なくケイルカがリンゴを差し出す先を見れば、相手はまだ幼い女の子だった。
 驚いたのか傍らの母親の後ろへ隠れ、小さな手でスカートをぎゅっと握る仕草に、思わず小柄な少女は微笑む。
(私も、ず〜っと小さい時は……)
 そしてケイルカは、足早に賑やかな市場を通り抜けた。
 目的の場所、ハンターズソサエティまではもう少し。
 もう少し、あと少しで……あの人に、追いつける。
 白く息を弾ませる少女の歩みは、自然と早足から小走りに変わっていた。


  胸に湧き上がり、足を急がせるのは――優しくも暖かい、遠き思い出。


 ゴトゴトと、通りを一台の馬車が行く。
 手綱を取る父親と母親の間に座ったケイルカは、小さな身体を強張らせていた。
 すれ違う人々が気さくに挨拶をし、両親らも短く返事をする。
 しかしケイルカは出来るだけ声をかけられないよう、目立たないように小さくなって、前の方で上下に揺れる馬の頭を見つめていた。
「さぁ、着いた」
 一軒の家の前で父親は「どぅどぅ」と馬に声をかけ、手綱を引いて馬車を止める。
「ケイルカも、いらっしゃい」
 先に御者台を降りた母親が、両手をケイルカへ差し伸べた。
 一人で残るなんてもちろん論外で、両脇を支えられた少女は抱き上げられるようにして馬車を降りる。
 ねぎらうようにケイルカは馬の鼻先を撫で、両親と家の前に立った。
 顔を上げれば、戸口には鍛冶屋の看板がぶら下がっている。
 何処からともなく何かが焦げるような匂いが漂い、そう遠くない場所からカンカンと金属を叩く音が聞こえた。
 妻と娘が揃ったところで、おもむろに父親が扉をノックすると。
「……はぁい」
 幾らかの間があってから、想像していたのよりも、ずっと幼く細い声が中から返ってきた。
 何度か短い咳を挟みながら足音が近付き、そっと扉が開く。
「あ……こんにちは」
 応対に出たのは、ケイルカより少し年上の少女だった。
 以前から面識があるのか、父親は会釈するように頷いて。
「こんにちは。お父さんかお母さんは、いるかな?」
「はい。呼んできますから、中で待っていて下さい」
 促すように、大きく扉が開かれる。
 両親に続いて足を踏み入れたケイルカは、扉を閉める少女をじっと見つめ。
「……お姉ちゃん、ここの人?」
「えっ……うん、そうだよ」
 一瞬だけ驚いた青い瞳が、ふわりと微笑んだ。
「私、クレールって……けほんっ」
「あぁ、クレール! まだ咳が治まってないのに……!」
 小さく咳をした少女の言葉は、慌てて奥から飛び出してきた女性の声でかき消える。
「すみません。主人なら仕事場にいますので、裏に回ってもらえますか」
「分かりました。娘さんは、お大事に」
「ありがとうございます」
 申し訳なさげに夫人が礼を告げ、娘の背中に手を当てて、ベッドへと促した。
 華奢な少女をケイルカがハラハラしながら見守っていると、連れて行かれる間際に彼女はチラと振り返り。
 目が合ったのは、ごく短い瞬間のこと。
 すぐ壁の向こうに二人の姿は消え、父親が大きく息を吐き。
「それじゃあ、鍛冶場へ顔を出してこよう。ケイルカは、お母さんと待っているか?」
 訊ねる父親に、ケイルカは束ねた紫の髪を揺らして頷いた。
 元気のなかった、色白のあの女の子が、また現れないか気にしながら。

 柔らかく暖かいベッドへ身体を預けると、母親がそっと上掛けを掛けてくれた。
「ごめんね、クレール。体調が悪いのに、お客さんが来たことに気付かなくて」
「ううん……心配かけて、ごめんなさい」
 もう大丈夫と笑顔を返せば、母親は安心した表情を浮かべた。
「それより、お客さんが待ってるから……」
「ええ。無理しないのよ」
 優しい手で髪を撫でられ、そうしてクレール(ka0586)は独りきりになる。
 家から出られない彼女のために両親が買ってくれた本が、唯一の友達だった。
 しかし、今は本を手に取る気も起きず。
 ぼんやり外の音を聞いていると、裏の鍛冶場から聞こえる規則正しい金鎚の音が止んで、父親とさっきの客の会話が断片的に聞こえてきた。
 客が父親に対して呼びかける、彼女の家の姓。
 その響きは親しげながら、同時に職人への敬意が込められている。
 ――いつか私も、あんな風に呼ばれてみたいな。
 かざすように天井へ伸ばした手は、細く弱々しい。
 父親の、逞しくがっしりした腕とは大違いだ。
 それどころか、さっきの女の子の腕よりまだ頼りない。
 初対面でおっかなびっくりな様子だったけど、眩しいお日さまと柔らかな土の香を思い出させる、元気そうな女の子。
「私と、同じくらいの歳の子……」
 ぼんやり漂う思いを遮ったのは、外からの賑やかな声。
 おそらく、あの一家が帰るところだろう。
 そっと、窓から外を窺うと。
「あ……」
 両親に挟まれるように馬車の御者台に座った女の子が、ちょうど顔を上げていた。
 見上げる眼差しはクレールに気付いたのか、にっこりと笑顔になって。
 自然と彼女も微笑み、小さく手を振る。
「外に出たいな……友達、欲しいな……」
 遠ざかっていく馬車を見送りながら、ぽつりとクレールは呟いた。


  それは小さくとも大きな、最初の決意。
  そして胸に灯った想いが、もう一つ。


 馬車の荷台では鍛冶屋から受け取った新しい農具が揺れ、車輪の音にカタコトと新しいリズムを加えている。
 行きは不安げだったケイルカの表情も、帰りはうって変わって楽しげだった。
「いったい、どういう心境の変化かしらね」
 突然の娘の変化に、まだ驚いた様子の母親が父親へ笑って訊ねる。
「さぁな。でも先方も喜んでいたようだし、いい機会じゃないか。家も近いし、一人で遊びにやっても安心だ」
 片方の手は手綱を握ったまま、大きな手がわしゃりとケイルカの頭を撫でた。
「よかったな、ケイルカ。友達が出来そうで」
「うん!」
 人見知りが激しく、友達もいない幼い少女には、それこそ一大決心だった。
 でも元気のない様子と自分に向けられた微笑みが、どうしても気になり。
「あの……私、また遊びに来ていい?」
 家路につく直前。
 御者台に乗せようとする父親の手を振り払い、ケイルカが切り出した、鍛冶屋の夫妻への願い。
「私、さっきのお姉ちゃんに、会いたい」
 最初は驚いた風だった夫妻は互いに顔を見合わせ、それから娘の名を教えてくれた。
 加えて彼女は身体が弱く、病弱なせいであまり外へ出られないことも知った。
「私がお見舞いに来たら、あのお姉ちゃん、元気になるかな?」
「そうね。ケイルカの元気を、少しでも分けてあげられたらいいわね」
 娘の思いやりに母親も目を細め、家に帰りつくまでお見舞いの相談に始終した。


  それが、二人の親交の始まり。


 8歳のクレールと、6歳のケイルカ。
 友達のいない同士の二人は、すぐに仲良しになった。

「これ、お父さんと作った野菜なの。食べたらきっと、元気が出るから」
「庭で咲いた花を持ってきたよ。お姉ちゃんは、どんなお花が好き?」
「今日は、馬の『てーてつ』を打ってもらうんだって。畑の道具も使いやすくて、お父さん喜んでるし、何でも作れるおじさんって凄いね」

 両親が持たせてくれるお見舞いを持って、何度もケイルカは鍛冶屋を訪れるようになった。
 何故かすっかりクレールに懐き、畑のことや家族のこと、家の周りの出来事や飼っている動物たちのことをアレコレと話してくれる。
 病床に臥せってばかりのクレールは、外の話を楽しげに聞き。

「ケイルカのお父さんの野菜、とっても美味しかったよ」
「いつか馬車に乗って、みんなでピクニックに行きたいね」
「この間、お母さんが新しい本を買ってくれたの。ケイルカちゃんも、一緒に読む?」

 お礼にと本棚に並べた絵本を広げ、まだ字が読めないケイルカの為に読んで聞かせた。
 ケイルカの語る『外の世界』に、クレールは胸を躍らせ。
 クレールが教えてくれる『本の世界』に、ケイルカも目を輝かせる。
 早く外で遊べるようになりたくて、クレールは少しずつ身体を動かし始め。
 クレールを真似て絵本を読み上げていたケイルカは、いつしか字を覚え、どんどんと教わる知識を増やしていった。
 身体が丈夫になるにつれてクレールの行動範囲は家の外へと広がり、近くの子供達と青空格闘術教室で身体を鍛え始めるに至った。
 教室で出来た沢山の友達をクレールはケイルカにも紹介し、一緒に遊ぶうちにケイルカの人見知りは自然となくなっていた。
 時に、クレールが体調を崩してしまうこともあった。
 このまま以前のように、ベッドから起き上がれなくなるかもしれない……そんな不安が頭を過ぎれば。
「お姉ちゃん、笑って〜」
 そのたび心配したケイルカが見舞いに来て、励ましてくれる。
 なにより、クレールが笑顔を見せると返ってくるケイルカの笑顔と元気に、力づけられた。


  そうして、幾つかの季節が巡った頃。


 クレールは広げた自分の手をじっと見つめ、そして決意を込めて機杖を握った。
 幼い頃は細かった腕も、今では杖を自在に振り回せる程になっている。
 ただし、それでやっと『人並み』だ。
 未だ個性のない自分に何が出来るのかと思い悩み、出した結論。
 それは……。
「本気だな、クレール」
「うん、手加減なしでお願い。それから、私が勝ったら……」
 いつも金鎚を振るう手に、彼女と同様の棒を握った父親が頷き。
 息を詰め、クレールは杖を構える。
 かつて狭い部屋から飛び出したように、新しい外の世界へ旅立つ為に――彼女は自分の殻を破ろうとしていた。

「それじゃあ、またね」
 何気なく繰り返される、約束。
 道端で出会った友達にケイルカは手を振って別れ、通い慣れた鍛冶屋に向かった。
「クレールちゃん、遊びにきたよ〜!」
 いつもの様に声をかけるが、明るい返事はない。
 代わりに開いた扉から、日頃クレールが可愛がっている弟が申し訳なさそうな表情を覗かせた。
「もしかしてクレールちゃん、身体の具合が悪いの?」
 訊ねても項垂れた弟は首を横に振り、心配顔のケイルカを中へ招き入れる。
 待っていた友人の母親は憔悴した様子で、ただ短く明かした。
 あの子は、クレールは行ってしまった……と。
 何も言わず、突然いなくなってしまった理由はケイルカには分からない。
 彼女の家族が話してくれたのは、父親との一騎打ちに勝ち、旅立ったということだけ。
 ぽろぽろと涙をこぼすケイルカをクレールの母親は慰め、少女の両親に迎えを頼んだ。
 馬車で揺られての帰り道、過ぎる風景のどこを見ても友人の姿はなく、ケイルカは空を仰ぐ。
「いつか……必ず、会いに行くからね。お姉ちゃん」

 乗り合い馬車の中で、クレールは出発の時間を待っていた。
 深く呼吸を整えて目を閉じれば、家族と……妹のようなケイルカの顔が浮かんでくる。
「帰ってくるから……必ず」
 やがて御者の掛け声がして、馬車は重く動き出す。
 目を開けると、窓の外では生まれ育った風景が滲みながら流れ去っていく。
 ぐぃとクレールは顔を拭い、遠ざかる故郷を胸に刻み、まだ見ぬ道の先を見つめた。


  「クレールがハンターになった」という風の噂がケイルカの元に届くのは、それから後のこと。
  そして旅立ったケイルカが姉妹のような友人と再会を果たすのは、更にもう少し先のお話し――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID / 名前 / 性別 / 外見年齢 / 種族 / クラス】

【ka4121/ケイルカ/女性/16歳/エルフ/魔術師】
【ka0586/クレール/女性/19歳/人間(クリムゾンウェスト)/機導師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、ライターの風華です。ご依頼いただいた「野生のパーティノベル」を、お届け致します。
 姉妹のような幼馴染の物語、少し柔らかめの風合いでお届けしましたが如何でしたしょうか。特にお二人の家族に関しては、いろいろアドリブを入れていますので、心配だったり何だったり……。
 もしキャラクターの描写を含め、思っていたイメージと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 このたびはノベルの発注、誠にありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
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2015年08月25日

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