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『ホワイトストーカー、参上! 』
斉凛ja6571


 斉凛(ja6571)はメイドである。
 メイドとは、ご主人様の陰となり日向となり、誠心誠意を尽くして仕え従う存在。
 そして目下、彼女のご主人様は「我が心のアイドル」門木章治(jz0029)その人であった。

 門木がアイドル?
 そう疑問を持つ者も多いことだろう。
 確かにアイドルという呼称から連想されるイメージは若くて可愛く、或いはカッコ可愛いキラキラな存在であるのが一般的だろう。
 くたびれた中年のオッサンをアイドルとは普通、言わない。

 だがしかし、アイドルとは偶像である。
 それは本来なら不可視不可侵である筈の対象に具体的なイメージを与えて具現化したもの。
 即ち具現化の過程に於いて、個々の存在には本来なら有り得ない筈の属性が付与される事もままあるわけで――

 早い話が、自分がそれをアイドルだと思えばそれで良いのだ。
 オジサマもネコも妖怪も、無機物だってみんなアイドル。
 他の人がどう思ったところで、そんなの知ったこっちゃない。
「素敵なオジサマは心のアイドルですわ」
 そう言って、門木を遠くから見つめる凛はほんのりと頬を染める。
 それで良いのだ。
 素敵、という辺りに疑問符を付けたくなる気もするが、価値観は人それぞれ。
 因みにアイドルと恋愛は別腹である。
 恋愛対象外だからこそ、その一挙手一投足にキャーキャー騒いで悶え転がる事が出来るのだ。

 ところで、アイドルの追っかけには常に「ある問題」が付きまとう。
 人気者であるが故に、お近付きになる機会を掴むのが難しく、またそれ以上に名前と顔を覚えてもらうのが難しいという問題が。
 上手く声をかける事が出来たとして、それっきりで終わってしまうかもしれない。
 何しろファンの数が多いのだから、その中で名前と顔を覚えてもらえる相手など、ほんの一握りにすぎないだろう。
 自分がその「一握り」に入れる自信はなかった。
「わたくしでは、先生に相手にしてもらえないかもしれませんわ」
 せっかく意を決して声をかけても、あっさりスルー……なんてことになったら、ちょっと暫く立ち直れないかもしれない。

 よって、結論。

 アイドルは 遠きにありて 想うもの
               ――凛

「わたくしはメイドですもの」
 メイドにはメイドなりの、やり方がある。
 そう、「陰となり日向となり」の、陰の部分だ。
 ご主人様に気付かれないようにこっそりと、まるで空気のように最高のサービスを提供する、これぞメイドの本懐。

 というわけで――


・Mission1

 門木は今日も、科学室に籠もっていた。
 必要がない限り滅多に外へは出ないし、必要があってもなかなか重い腰を上げようとしない。
 食事も大体、空腹を我慢しているうちに就業時間が終わるという有様だ。
 しかし、それでも特に問題はなかった。
 何故なら、門木が必要なものを呟くと――例えはメモ帳が足りないだの、ボールペンが切れかかっているなどと呟くと、数分後にはそれがきっちり補充されているのだ。
 腹が減ったと思った次の瞬間には、机の上に食事が用意されている事も珍しくない。
 大抵は温かい紅茶にサンドイッチ程度だが、時には手の込んだ料理が湯気を立てている事もあった。
 科学室には小人さんがいるのだろうか。


・Mission2

 その日の放課後、門木はまっすぐ家には帰らずに、商店街へと寄り道をしていた。
 頼んでおいた本が入荷したと、書店から連絡があったのだ。
 学校からその書店までのコースはいくつかあるが、有能なメイドはご主人様が選ぶ道順をしっかり把握していた。
 まずは先回りして目立った危険がないことを確認し、ご主人様が姿を現して以降はこっそりと、後になり先になって周囲を警戒する。
 行く手に躓きそうな石があれば物陰から狙撃して粉砕、排除。
 難癖付けて絡んで来そうなチンピラがウロウロしていれば、釘バットで強制排除――いや、手荒な真似はしない。
 ただ、スカートの中から取り出したそれを両手に一本ずつ軽々と持ち、派手にブン回すだけで、チンピラどもは勝手に逃げて行くのだ。
「わたくし、まだ何もしておりませんのに」
 戦うメイドさんは、不思議そうにかくりと首を傾げる。
 彼等が言っていた「こいつヤベェ」とは、一体どういう意味なのか。
 道端で泣いている迷子がいれば先回りして保護し、一緒にお母さんを探してあげる。
「門木先生が同じことをしたら警察に通報されてしまいそうですし」
 哀しいことに、人は相手を見た目で判断する生き物なのである。
 その他、目に付く限りのありとあらゆる危険を排除し、遠ざける。
 もちろん、ご主人様に姿を見られてはならない。
 手助けをしている事を気付かれてもいけない。
 そう、メイドとはニンジャだったのだ。


・Mission3

 何やら難しそうな分厚い本を抱えて、門木が書店から出て来る。
 後はまっすぐ家に帰るのか、それとも何か他にも用事があるのだろうか。
 凛は引き続き、気付かれないようにこっそりと尾行を続ける。
 しかし。
「……疲れただろ、どこかで少し休んで行くか」
 ぴたりと立ち止まった門木は、何処に潜んでいるのかわからないストーカーに向けてそう言った。
 いつから気付いていたのだろう。
 正体がバレてしまったからには、ミッション失敗――?


 数分後、凛と門木は喫茶店の一角で向かい合って座っていた。
「……今日は…いや、いつも…かな。ありがとうな」
 予想もしなかった礼を言われ、先程までの戦うメイドニンジャはどこへやら。
 凛は俯いたまま頬を染め、落ち着かない様子であちこちに視線を彷徨わせている。
「……内緒にしておきたいなら、黙っていた方が良いのかとも、思ったんだが…」
 でも、ちゃんと礼を言いたかったから。
 気付いていると、伝えたかったから。
 見返りを求めての事ではなくても、相手に感謝されれば悪い気はしないだろう。
「……反応なんか、期待してなくても、さ。迷惑だったんじゃないか、とか…もしかしたら嫌われたかもしれない、とか。不安になったりするよな」
 俯いた凛の頭をそっと撫でる。
「……大丈夫、迷惑になんか、思ってない」
 ただ少し、心配にはなるけれど。
「……無理は、するなよ。自分の為に使う時間も、大事にしてくれ…な」
 その上でまだ余裕があるなら、これからも喜んでお世話してもらおう。
「大丈夫ですわ、わたくしにとっては、その……」
 もじもじと、花も恥じらう夢見る乙女は、小さな声でそっと告げた。
「門木先生こそが、何よりの癒しですもの」
 そして活力剤であり、元気の源でもある。
「……そ、そうか」
 うん、まあ、それなら良い、けど。
「……で、何にする?」
 どれでも好きなものを選んで良いと、門木は凛の目の前にメニューを広げた。
「……お前が作るものの方が、美味いだろうけど、な」
 たまには他の店で食べてみるのも、勉強にはなるだろう。
「……なあ、凛」
 名前を呼ばれて、凛は思わず顔を上げる。
 覚えられていた事に驚くと同時に、じわじわと嬉しさが広がってきた。
「……お前の店、キャスリング…だったか」
 しかも店の名前まで。
「……今度、寄らせてもらって良いかな」
 こくこくと、目眩がするほどに激しく頷いて、凛は目を輝かせた。
「勿論ですわ、是非いらしてください」
 漸く緊張が解けたのか、ふわりと笑みを浮かべる。
 いつもの柔らかな微笑。

「先生の為に特別メニューをご用意して、お待ちしておりますわね」

 憧れのアイドルが自分の店に来てくれる。
 そう考えただけで、凛は天にも昇る心地だった。

 あ、そうそう、店にサイン色紙とか、飾らせてもらって良いかな――?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ja6571/斉凛/メイドニンジャ】
【jz0029/門木章治/あいどる】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

門木のサインとか、誰得なのかと(
イメージの齟齬などありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

では、お楽しみ頂けると幸いです。
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エリュシオン
2015年08月26日

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