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『決闘、校舎裏 』
川内日菜子jb7813)&玉置雪子jb8344


 川内 日菜子(jb7813)は「あの時」の事を思い出していた。
「……クソったれ……」
 握り締めた拳に視線を落とす。
 殴りつけた時の感触は、まだ鈍い痛みとなって残っている。
 自分に向けられた瞳の色も、瞼の裏にはっきりと刻まれていた。
 いや、そんなはずはない。
 気のせいだ。
 痛みや記憶が具体的な形となって、この身に残されているわけではなかった。
 それでも、忘れない。
 小さな女の子ひとり救うことが出来なかった、ちっぽけな自分の不甲斐なさを。
 けれど、悔やんだところで時間が戻るわけでもない。
 やり直せるはずもない。
「だったら、前に進むしかない」
 強くなって、ただひたすら強くなって。
 人としても、撃退士としても。
 二度と同じ事を繰り返さない為に。
「あんなクソ映画、リバイバル上映もリメイクもいらない」
 脚本も演出も、全部作り変えてやる。


 玉置 雪子(jb8344)はじっと鏡を見つめていた。
 近頃なんだか肌の艶が悪くなってきた気がする。
 ブラシに付く抜け毛も前より多くなったのではないだろうか。
 この髪の色では見分けが付かないが、もし自分が黒髪だったら、あちこちに白髪が目立ち始めているのかもしれない。
 体力も以前より確実に落ちていた。
「あと何年、生きられるのでしょう……」
 つい弱気な言葉が口を衝く。
 自分が短命種族の血を引くことは知っている。
 残り時間がそれほど多くないであろうことも理解している。
 覚悟は出来ていた。
 けれど、怖くないと言えば嘘になる。
 いや、はっきりと――怖い。
 怖くてたまらない。
「でも、こんなみっともないところ……誰にも見せられませんね」
 雪子はタフで明るい戯け者のヲタキャラとして通っている。
 悩みなんて何もない、いつでも「フヒヒ」と笑って気楽に世の中を渡っている、おちゃらけたピエロ。
 仮面の下に、こんな臆病で弱々しい素顔が隠れているなんて、誰にも知られたくない。
 だから、笑う。
 そんな自分を笑いながら走り続ける。
 誰にも追い付かれないように。
 追い付かれて化けの皮を剥がされないように。


 そんな二人は犬猿の仲だった。
 いや、犬と猿の方がまだマシかもしれない。
 それは顔を合わせれば喧嘩になるほど仲の悪い者同士の例えだが、二人の場合は喧嘩にさえならなかった。
 何しろ互いに巧妙に接触を避け、関わらないようにしているのだから。
 ぶつからなければ摩擦は起きない。
 その代わり、化学反応も起こらない。
 平行線はどこまで行っても決して交わることはない。


 しかし、ある日。
 二人は顔を合わせてしまった。
 しかも、二人ともちょうど心の中に雑多な思いを詰め込んで、爆発寸前になっている最悪の時期に。

「良いところで会ったな、玉置」
「川内先輩、乙でーす。先輩も依頼探しですか?」
 斡旋所に掲示してあった一枚の依頼書の前。
 互いに気付かなかったふりをして通り過ぎることも出来ない距離に立ってしまった。
 普段、二人が好んで参加する依頼の傾向は殆ど重なることがない。
 しかしその日はたまたま、同じ依頼に興味を引かれ――そして、あと一歩のところでそれを逃してしまったのだ。
 その悔しさも相俟って、二人は一触即発。
「ここじゃ迷惑になる。顔を貸せ」
「利子百倍で返してもらえるなら喜んで、フヒヒ」

 そして向かった校舎裏。
「先輩、校舎裏に呼び出して愛の告白ですねわかります」
「ふざけるな」
 雪子の人を食ったような態度と口調に苛立った日菜子は、手近な壁を拳で叩く。
「壁ドンなら叩く場所が違いますしおすし」
「ふざけるなと言っている」
「フヒヒ、サーセンw」
 その返事に、日菜子のイライラは爆発寸前。
「大体あんたの事は前から気に入らなかったんだ」
「あら奇遇ですこと、雪子もその言葉そっくりお返ししますね」
 その言葉に拳を上げかけた日菜子に対して、雪子は更に言い募る。
「殴りたければどうぞ、お好きなように。ほんと感情任せで直情的、鬱陶しくて暑苦しい脳筋ですこと。これだから体を動かすしか能のない体育会系はw」
「言わせておけば……っ」
 日菜子の拳に炎が燃え上がる。
「自分こそ表に出ようともしないでコソコソ隠れてるだけのネズミだろうが」
「心外ですね、雪子のどこがニートに見えるのでしょう。本当にありがとうございました」
 まあ確かにネトゲに費やす時間と労力、そしてリアルマネーは計り知れないが。
「そういう意味じゃない」
 しかし日菜子は首を振った。
「あんた見てると腹が立つんだ、悲劇のヒロイン気取ってるつもりか?」
「何ですかそれ、言いがかりも大概にしてほしいですしおすし」
「茶化すな。見えていないとでも思うのか?」
 日菜子は雪子の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「本音を隠してピエロを演じているのが痛々しくて、その自分に酔ってる感じがイラつくんだ!」
 バレていた。
 この何も考えていない、感情だけで突っ走るしか能がないと思っていた女に。
 それは雪子に少なからぬ衝撃を与えた。
「自分に酔ってなど、いません」
 雪子の口調が変わる。
 今までの戯けた口調は鳴りを潜めた。
「私はただ、素顔を見られるわけにはいかないから」
 付き合いのある友人達も、知っているのはこの仮面だけ。
 その下にある素顔を見せても良いと思える相手は……いるかもしれない、けれど――怖い。
「でも、あなたは私とは違います。慕ってくれるひとに囲まれながら、全部一人で背負い込もうとする……理解不能です」
「一人で背負うのは当たり前だろう、それくらいの強さがなければ、完璧でなければ、また……同じ事を繰り返す」
「それが馬鹿だと言うのです。あなた一人で世界中のひとを全部、助けてまわるつもりですか? それが出来るとでも思っているのですか?」
 多くの人に頼りにされ、期待もされているだろうに。
 力を貸してくれる仲間も多いだろうに。
「私は……私なんか、ただの愛玩動物ですから。ひとに愛でられるばかりで、私の力を必要としてくれるひとなんて、どこにもいない」
「だから、そういうウジウジしたところが大っ嫌いなんだよ!」
 日菜子は握った拳を震わせる。
「誰だって辛いことや悲しいことはある。でも、あんたはそれを錘にして引きずり続けるだけで、少しも前に進もうとしない。どうしてそれを糧にして、少しでも高いところに行こうとしないんだ!」
「……行って、どうするのですか」
 これだから嫌いなのだ、この真っ直ぐに熱すぎる女は。
 そばに来られると、氷の仮面が溶けてしまう。
「どうせ、もうすぐ死んでしまうのに」
「……っ」
 女の顔を殴るのは、ヒーローとしてあるまじきことだ。
 その考えが脳裏をよぎった時にはもう、拳が突き出されていた。
 右ストレートが雪子のすました顔を抉る。
「やりましたね……」
 吹っ飛ばされて尻餅を付いた雪子は、その手に砂を握って立ち上がる。
「か弱い女の子を殴るなんて、しかも顔を狙うなんて、信じられなせん……この、直情メスゴリラ!」
 握った砂を日菜子の顔面に向けて思いきり投げ付けた。
「くっ、目が……っ」
 怯んだ隙に、お返しとばかりにボディに一撃。
 日菜子が身体を折り曲げたところで更に、髪を掴んで額に渾身の頭突きを喰らわせた。
「こ、の……誰がメスゴリラだ、バカキ氷!」
 その手を振り払い、痛む目を無理やり開けて標的を探す日菜子。
 そこに飛び込んで来た拳を受け止め、掴んだ手首を返して捻り上げる。
「い、た……っ」
 その痛みに、雪子は思わず握り込んでいた石を取り落とした。
「物騒な物を仕込んでるじゃないか」
 こういう時、ネットでは「さすがニンジャ汚い」と言うのだったか。
「正確には、汚いなさすが忍者きたない、ですしおすし」
 雪子のテリトリーに踏み込もうなんて百万年早いし草不可避w


 そうして、殴り愛は続く。
 拳で語られる言葉は口よりも雄弁に何かを語った。
 互いが抱える不安や悩みが何であるのか、そんなもの訊ねはしないし聞きたくもない。
 が、何となくわかった気がして、ほんの少しだけ気心が知れたように感じた。
 だからといって、互いの印象が変わることはないし、犬猿の仲は相変わらずだけれど。

 いや――漸く犬猿の仲になれた、と言うべきだろうか。

 決して交わることのなかった線が今、交差した。
 この先はどうなるかわからない。
 このままずっと、離れていくだけかもしれない。
 それでも、この衝突はきっと新しい何かを生み出したことだろう。

 それが例え取るに足らない、ほんの小さく些細なものだったとしても。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 
【jb7813/川内 日菜子/熱血ヒーロー】
【jb8344/玉置 雪子/氷結ヒロイン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

お一方は初めて書かせていただきましたが、口調等これで大丈夫でしょうか。
イメージの齟齬などありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

では、お楽しみ頂けると幸いです。
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エリュシオン
2015年09月03日

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