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『恐怖!実録のろいのやかた 』
リーゼロッテ 御剣jb6732)&イザベラjb6573)&ソルシェ・ロゼjb6576


 お化け屋敷。
 夏の風物詩、一家に一台とまで言われるほどのメジャーな存在であり、夏にでもなれば若者達のイベントのひとつとなる。
 そんなお化け屋敷の前に、明らかに若者と思われる3人が立っていた。
「ここね…」
 リーゼロッテ 御剣(jb6732)が鋭い表情でその建物を見上げる。
「ここですねぇ…」
 のんびりとイザベラ(jb6573)もリーゼロッテに倣って見上げたところで。
「あ。あんなところにお化け」
「えぇぇぇっ!どこっ!?」
 少し後方に立っていたソルシェ・ロゼ(jb6576)に言われ、リーゼロッテは挙動不審なまでにきょろきょろ辺りを見回した。
「じょーだんだよっ」
 くすくす笑いながら、ソルシェは先に立って建物の裏口へ向かって歩き出す。
 そのお化け屋敷は、この辺りでは最も巨大と謳っていた。高さは3階建てで、入口から出口まで1時間かかると言われる広さだ。ともなればこの季節は連日大賑わいで、人手不足に悩まされているということだった。
「…だからって、旅費稼ぎでどうしてお化け屋敷なの…」
「ソルシェさん。どうしてここだったんですか?」
「バイト料ふんぱつ、って書いてあったから」
 面白そうだから。という理由もあるのだが。
 3人がホラー満載なこの場所にバイトをしに来たのは、3人で行く夏バカンス旅行の費用稼ぎの為である。余り時間もない中でソルシェが探してきたこのバイト。現地に着くまでリーゼロッテもイザベラも詳細な内容を知らなかったのだが…。
「一度受けた仕事なんだから…。頑張るよ。うん」
 建物内から聞こえ漏れて来る悲鳴を気にしないよう、これは仕事と念じるリーゼロッテであった。


 3人が与えられた仕事内容は、掃除である。
 お客も1時間も中に居るとなると、飲食物持込をしたり、混乱して器物破損をしてみたりするものなのだ。勿論、持ち込みも器物破損もお化け役を殴ってしまう傷害も、禁止はされている。
 広い広い建物内で、持ち込まれて捨てられたゴミを拾ったり探したり壊れたセットを発見したりする仕事は、リーゼロッテからすると、『よりによって…』という内容だ。勿論偽物だということは分かっているが、本物がもしかしたら出るかも…と思ってしまう。
「お化け屋敷でも、メイド服が制服なんですねぇ…」
 掃除役だからとメイド服を着せられた3人だったが、夏という事もあって少し暑い。バイトの先輩から担当地区の地図を貰い、それに沿った従業員専用扉へと向かった。大きく息を吸って吐き、意を決して(リーゼロッテのみ)彼女達は戦場へと足を踏み入れる。
 そこは、薄暗い空間だった。床も壁も天井も汚してあるようだったが、特別驚くような置物は今の所見当たらない。遠くから悲鳴は聞こえるものの、3人が担当したその場所では、とりあえず周囲に人は居ないようだった。
「ソルシェ、あっちをやるね〜」
「あ。ソルシェさん。1人で行ったら危ないです…」
「一緒に行きましょうか?」
「へーきだよ。2人はいっしょにおそうじしててね」
 にっこり笑って…と言っても、薄暗くて笑顔すらちょっと怖いのだが…ソルシェは、2人から離れて掃除用地図を見たときに発見した小部屋に入り込んだ。
 その小部屋はテーブルセットが置いてあり、一見リビングか休憩室のように見える。だが周囲には血糊が撒かれており、壊れかけの時計が壁に飾られていた。
「…しばらく、ここにいてね」
 ソルシェは背負っていたリュックから、べっとりと血糊がついた人形を取り出してテーブルの上に座らせる。首元に飾られたギザギザにカットされているリボンをきゅっと結びなおし、小さく頷いた。
「うん。かわいい」
 人形に微笑みかけると、ソルシェは小部屋を出て2人の元へと戻る。そっと様子を見守っていると。
「てっ…ててててて」
「てててて?」
「ててて手が!手が落ちてますっ」
「…く、苦し…リーゼさん喉輪絞めるのやめ…」
 落ちてますと言われた場所には、確かにマネキンの手が落ちていた。だがそんな事より怪力でもってイザベラの首を絞めるリーゼロッテを何とかしないと、イザベラ自身の首が落ちかねない。
「…にんぎょうの…手、です、からっ…」
「本当?良かったぁ…」
 心底安堵したようなリーゼロッテから解放され一息ついたイザベルの背後へと、ソルシェは自然に歩いて行く。
「人形の手?」
「はい。マネキンさんの手が落ちてたみたいで」
「あれー?」
「こ、今度は何ですか…?」
「さっきおいておいた、おにんぎょうさんがいなーい。おさんぽにでもいったのかなー?」
「人形が散歩?」
 思わずイザベラは微笑んだ。
「もう、ソルシェさんったら。人形が勝手に歩くわけぇ」
 そしてそう言い掛けて。
「あぁぁぁ!リーゼさん後ろ後ろぉー!」
「…リザさん。私が怖がりだからって、また脅かそうとして…」
 もう騙されないと決意したリーゼロッテが小さく首を振ったのだが。
「あ。おにんぎょうさん。こんなところに居たんだ〜」
 リーゼロッテの後方に向かって無邪気に話しかけたソルシェを見て、くるぅりと振り返った。振り返ってしまった。
「ギャァァァ!!!」
 そんなリーゼロッテの視界には。廊下の向こうから歩いてくる人形の姿が何体も映ってしまっている。
「南無大慈大悲観世音菩薩悪霊退散んんんっ」
 ふらふらと僅かに横揺れしながらやってくる人形群に、イザベラもぞわぞわと産毛が立つ思いをしつつ、メイド服の大きめポケットからなにやら袋を取り出した。そしてその中身を、勢い良く。振りかぶって相当な勢いで人形へと振りかける。
 何故そんなものをポケットに入れておいたのかは誰も知らないが、実に荒々しいまでに白い、某メーカーの塩である。白い粒がきらきらと床に散ったが、人形はそれにつるっと足をとられることもなく、歩みよってくる。
「こっち来んなオラァァァ!!!」
 いつの間にか刀を出していたリーゼロッテが、ぎゃあぎゃあ言いながらそれを振り回し始めた。
「リリリリーゼさん、あぶ危な…」
 その刀はむしろイザベラのほうに向かって振り下ろされている。
「おにんぎょうさん、ふえちゃった〜。すごい、すごーい」
 そんな阿鼻叫喚な光景の中、ひとりぱちぱち拍手をしながらソルシェは笑顔だった。眩いばかりの良い笑顔である。薄暗くて余り見えはしないが。
「増やしたの、ソルシェさんじゃないですよね?!」
「知らないよー。ゆーれいとか?」
「幽霊!!」
 その言葉に真っ先に反応して、思わず天井に刀を突き刺してしまったリーゼロッテ。
「ぎゃあああああ!抜けない!抜けないいぃぃぃ!!」
 渾身の力を籠めて、彼女は刀を振り回そうとした。
「何と言うことでしょう。天井が見事に割れていくではありませんか」
「何の実況解説!?」
「ダメですよ!幽霊が出たからって天井壊したら、上の人が落ちてきちゃいますよ!」
「大サービスだね〜」
 のんびり楽しんでいたソルシェだったが、いつの間にか3人は人形に囲まれている。そこでふと、彼女は気付いた。割れた天井…と言っても上階までは到達していないようだが、上階の床とこの階の天井の間には当然隙間がある。ダクトが通っているその空間に生息していると思われる生物は、虫とネズミくらいのものだろう。
 だがそこに、黒い蝙蝠の羽のような影が映っていた。
「あ。悪魔」
「悪魔!?」
 その言葉にも真っ先に反応したのはリーゼロッテだ。そしてその声に影も反応したようだった。すいと動いて、音もなく降りてくる。
「…気付かれたか…。人形を操り人々を恐怖に陥れその隙に魂を頂こうという我が計画を見破るとは、さすが撃退士…。かくなる上は」
「いつもの100倍増しで死ね!!ブラッドイーター!」
「口上くらい述べさせ」
「悪霊退散!悪い悪魔退散!」
 自らの最上級の力でもって敵を葬り去ろうと、凄まじい勢いで敵に襲い掛かるリーゼロッテと、どこから取り出したか分からない塩をひたすら投げつけるイザベラ。幽霊を偽装した罪は、この瞬間だけは何より重いのである。
「くっ…こうなったら、せめて他の人間を道連れに…」
「させるかぁ!」
 どかばきぐしゃ。
 こうして、人間の最大の敵のひとつが、またこの世から姿を消した。こうして人々の平和は守られたのである。

 建物の半壊と同時に。


「…やりすぎましたね…」
 我に返ればそこは、嵐の去った後のような内部破壊跡地と化していた。恐らく外壁に傷はついていないので外からは分からないが、建物内の破壊状況を確認すべく歩き回っても、他の誰とも出会わない。
 あれだけ暴れれば床も天井も大揺れだろうし、破壊音はするし、お客も従業員も建物の外に逃げたのだろう。悪魔とも叫んでいたから、この建物周辺から避難したかもしれない。
「はぁ…。この広さを直すのは、大変ですよね…」
 いや、暴れたのは自分なのだが。自分なのだが、ただ悪魔が出てきただけなら実にスマートに対応したであろう自信はある。幽霊騒ぎなど起こさなければ、こんな事にもならなかっただろうに…。
「そうですよねぇ…。直さないとダメです?」
「ダメでしょう…リザさん…。こんなに怖い思いしてここで働いていたのは、バイト代の為ですよね…。このままだと私達、クビどころかバイト代も貰えなくて、下手をすると弁償も…」
「こんなかんじ〜?」
 明るいソルシェの声に、2人はそちらへと振り返る。半ば割れかかっている壁の割れ目を覆うようにして、白いフリル付きレースがひらひらと揺れていた。上を見れば、割れかけた天井にはハンガーが掛けられ、キラキラビーズを散りばめたドレスがそのハンガーに収まってゆらゆらしている。
「…修繕…?」
「とりあえず、私はお掃除しちゃいますね〜」
 箒を持って来てまる〜く掃きだしたイザベラ。時折、落ちている人形のバラバラパーツを何故か廊下備え付けの棚に並べている。
「うん…頑張ろう…」
 一度壊してしまったものは二度と全く同じ形には戻らない。
 ならば自分達の出来る精一杯で頑張って、せめて営業を再開できるようにしよう。
 リーゼロッテはそう決意し、後片付けと修繕に全力を注ぐことにした。


 そこには、この辺りで最も巨大と言われるお化け屋敷があった。
 そして今そこには、この辺りで最も呪われそうと言われる呪いの屋敷がある。
 外見は比較的普通のお化け屋敷。
 だが一歩中に入ればそこは、斧で割ったような傷があちこちに残る壁が至る所にありつつも、何故かその傷跡全てにひらひらレースが飾られているという謎の演出があり、一見『何だお化け屋敷じゃないのか』と思わせつつも、その割れ目の中に人形が妙な方向を向いて転がっていたりする。
 少し奥へと入ると、『○○の塩像』という看板を持った彫像が斜め立ちをしており、『何で斜めなんだろうっていうか塩って何だ』と思わせた客に向かって唐突に、看板で叩こうと襲い掛かってくる…ように見えて、その首がぽとっと落ちたりする。
 確かにお化け屋敷だ。ホラーだ。だが意味の分からない、コンセプトが読めないホラーなのである。
 そんなわけで、そのお化け屋敷は『呪いの館』と呼ばれるようになってしまった。
 その事で売り上げが上がったかどうかは…経営者と一部従業員しか知らないことである。


「呪いの館?何の話です??」
 数日後。無事バイトも終えてバイト代を貰った3人は、巷で噂の呪いの館話を耳にしていた。
「さぁ…。占いの館じゃないですよね」
「リーゼー。イゼベラー。フルーツポンチできたよー」
「は…はぁーい」
 本当の呪いの館は、今この瞬間の、3人が集うこの家かもしれない。
 一瞬、そんな考えがよぎったかもしれないが。

 とりあえず、次の旅行が楽しみではある3人であった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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jb6732/リーゼロッテ 御剣/女/20/ルインズブレイド
jb6573/イザベラ/女/18/アストラルヴァンガード
jb6576/ソルシェ・ロゼ/女/12/ダアト
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エリュシオン
2015年08月28日

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