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『A house dog and owner 』
テオドール・ロチェスka0138)&アルマンド・セラーノka1293

 魅惑の微笑み通り(Charm Smile Load)の中腹にある建物の地下に在る『charmante』。
 その店には今、『clause』の札が下げられている。
 いつもなら蝋燭とダンスステージが客を待ち構えるこの店は、本日から長期休業に入る。
 何、心配することはない。長期休業と言っても経営不振や店主の夜逃げとは関係ない。ゴシップの類とは無縁の単なる大規模改装が行われるための長期休業だ。
 つまり普段は忙しなく(?)働く微笑み通りの従業員も、暫くは忙しさと無縁の長期休暇――つまりバカンスを楽しむと言うわけだ。まあ、その予定があれば……だが。

   ***

 人のざわめきや魔導バイクの音、時折怒鳴り声なども響く午後0時。
 普段ならそれらの音を子守唄に眠りを貪り続ける真昼間にテオドール・ロチェス(ka0138)は起きた。
「ふぁぁあ……今、何時……」
 大きな欠伸を零して起き上がった彼が真っ先に手にしたのは、店の客が置いて行った時計だ。
 クリムゾウェストではお目に掛かれない精巧な作りの時計はリアルブルー産だろう。正確に時を刻むそれを眺め、彼はゆっくりと起き上がった。
 水を飲み、服を着て、髪を整えて、靴を履く。
 まるで真人間にでもなった気分で身支度を整える彼は、準備を整えたのと同じくらいスムーズに家を出ると弾む足で街を歩いた。
 いつもなら夜に歩く街。スリルと快感が、訪れる者を魅惑の道へと誘うこの街が、昼間になると少し違った表情を見せるのをテオドールは好いていた。
「今日も良い天気ー♪」
 ふふ〜ん、と上機嫌に鼻歌を零し、慣れた足取りで街を行く。そうして路地を曲がると彼の目的は見えた。
「セラー、起きてるー?」
 呼び鈴も鳴らさずに開けたドア。そこから顔を覗かせる男に、昼食の準備をと卵を手にしたセラことアルマンド・セラーノ(ka1293)が振り返った。
「あ、起きてたー♪ セラー、デートしよー!」
 満面の笑顔で部屋に飛び込んで来る大男。
 その姿に溜息を零すと、アルマンドは持っていた卵を置いて抱き付こうとする彼の頭を押した。
「呼び鈴くらい押せ。で、何するって?」
「デート♪」
「デートねぇ……」
 こうして誘われるのは何度目の事か。
 この男曰く「2人で出掛けるものは全てデート」らしい。その言い分には若干の違和感があるが、特別断る理由もない。
「まあいいか。特にプランがないなら買い物に付き合え」
 テオは荷物持ちな。そう言葉を添えて上着を羽織るアルマンドとテオドールは昔馴染みで腐れ縁だ。
 2人とも微笑み通りで店を持つ店長で、アルマンドの店も大規模改装で長期休業に入っている。つまり彼も暇を持て余していた1人な訳だ。
「何買うのー?」
 アルマンドの部屋を出た直後、テオドールはそう問うて市場への道を歩き始めた。
 向かうのはこの辺りで一番大きな市場だ。
 だいたいの品物が揃うのは勿論、見た事もない異国の品なども置いてあったりする。中にはリアルブルー産の意味の分からない機械もあるがこの辺は趣向品として高いのであまり興味はない。
「今日の目的は店に置く酒だな。っと、あの店だ」
「おー! 何か高そうなお酒がいっぱいあるねー♪」
 美味しそう。と、テオドールが目を輝かせるのも無理はない。
 店に並べられた酒の種類は膨大。安酒から高級な酒までピンからキリまで存在する。
 その中でアルマンドが目を付けたのは黒塗りの瓶に入った細い酒だ。見るからに「高い」と主張するその酒は帝国領から仕入れた酒だと言う。
「葡萄……とも違うな。何が材料なんだ?」
「俺も飲んで良いのー? いっただっきまーす♪」
 試飲した直後、2人は目を見張って波打つ酒に視線を落とした。
 口の中で鋭く刺さるアルコールを後からくる香りが打ち消してゆく。上品で鼻から抜ける香りが独特の酒。その酒をもうひと口飲んで、アルマンドはこの酒が何から出来ているか悟った。
「花か……少し香水に近い香りがする。これはご婦人方に喜んで貰えそうだ」
 そう。この酒は花を発酵させて作っている。
 帝国領の一都市で、ある領主が特別に作らせた酒らしい。数も多くなく希少な品だと言う。
「この酒を貰おうか。ああ、あといつものも頼む。それと――」
「あ、これも買ってこー!」
「ん? そんな安酒俺の店には置かないぞ」
「俺が飲むのー♪」
 ニコニコと上機嫌で数本の酒を手にしたテオドールに面食らう。
「だったら1本にしろ」
 そう言ってデコピンを喰らわすものの彼も負けてはいない。
「ぶー……絶対飲むー! セラと飲むー!」
 酒を抱えたまま頬を膨らませる大の大人に「ぷっ」と吹き出した。
 結局これだ。
 ダメだと言っても、ムリと言っても、いつも彼には負けてしまう。
「2本だ。それ以上は却下……これで折れないなら買わない」
 どうする? そう問い掛けた彼に、テオドールは渋々頷き、抱えていた酒の数本を商品棚に戻したのだった。

   ***

 時刻は午後8時を回るだろうか。
 夜の帳が下り、見慣れた風景が広がってゆく。
 子供の姿は消え、大人たちが娯楽を求めて街を彷徨う時間。歓楽街にも賑わいが見え始める中、テオドールとアルマンドは昼間歩いた道を戻っていた。
「だいぶ遅くなったな。重くないか?」
「ん、大丈夫ー♪」
 そう応えたテオドールの腕には買い集めた荷物の数々が抱えられている。
 久々に巡る市場は思いのほか楽しく、ついつい買い過ぎてしまった。
 結果、荷物持ちのテオドールには負担が掛かった訳だが、彼にはこれから大きな利点がある。
 だからだろう。少しの労働くらいはなんのその。上機嫌に歩き進めながら、2人は歓楽街を抜けてアルマンドの部屋へ戻って来た。
「たっだいまー♪ んー、疲れたー!!」
 荷物を置いて速攻でソファにダイブ。
 その姿に笑いながら、アルマンドは買ってきた荷物の中からパスタや果物など、酒とは別の食材を取り出した。
「飯作ってやるから、それまで大人しく待ってな。買い物に付き合って貰った礼だ」
「はーい♪」
 そう。これがテオドールの利点だ。
 大好きなアルマンドの手料理と酒が頂ける最大のご褒美。それを想像して転がっていると、直ぐに美味しそうな匂いがしてきた。
 今日のメニューはイタリアン。とは言ってもかなり手抜きのイタリアンだ。
「まずはサラダな。スティックも用意したから好きなのを食え。あとはパスタだが……酒に合せるならアッサリにするか」
 良く見ればソファに転がるテオドールの前には彼が買った酒が2本置かれている。
 1つはワイン、1つは蒸留酒と言った所か。
 どちらも濃い味に合わせるよりは、薄めの食べ物に合せて酒の旨味を味わう方が良さそうだ。
「テオ、ワイングラスを出してくれ」
 言いながら手早くパスタを盛りつけて行く。
 そうして彼の元に戻ると、アルマンドは夜の喧騒をBGMに酒の入ったグラスを傾けた。

   ***

 どれだけの時が過ぎただろう。
 緩やかな時の中で、少しずつ外の喧騒が静かになってゆく。
 そんな中、アルマンドの首が僅かに傾いた。
「セラ、そのまま寝ると風邪ひくよー?」
「ん……わかってる……」
 大丈夫。そう言いながらも頭が眠りを貪ろうとしていた。
 ウツラウツラする思考の中で何とか立ち上がると、アルマンドは自身のベッドがある場所へと歩きだした。
 そんな彼の背に、テオドールの声が響いてくる。
「ねー、泊まっていいー?」
「……ああ」
「やったー♪ じゃー、一緒に寝よー♪」
「……ダメ」
「えぇー?!」
 まるで子供みたいな声にクスリと笑う。
 それでも許可は出さずにベッドに横になると、首元を締めるボタンを緩めてシーツを被った。
「何でー? 一緒に寝よーよー!」
「ダぁメ……」
 クスクス笑う自分の声に、たぶん酔っているのだと判断する。
 元々酒に弱くはない。ただ単純にテオドールとの酒飲みが久しぶりで、しかも連休中だからと言う油断で飲み過ぎただけだ。
 こういう時、人は何をするかわからない。だからこそ自衛も含めてガードは厳しくしておく。
「テオは、ソファ……おやすみ……」
 まるで飼い犬に言い聞かすように言い放ち、アルマンドは目を閉じた。
 その姿にテオドールの目が見開かれるが反論は零さなかった。
「セラ、今日はありがとー」
 囁き、髪を撫でて寝ている事を確認する。
 そうしてソファを振り返ると、テオドールは何食わぬ顔でアルマンドのベッドに横になった。
「ん、よゆーで入れるー♪ おやすみー、セラ♪」
 ちゅっとキスを落して目を閉じる。
 たぶん彼は許してくれる。そんな確信を持って、テオドールは眠りに落ちた。
 
 そして翌朝――
「なっ……何で、ここに……」
 ベッドで目を覚ましたアルマンドは同じくベッドで横になるテオドールを見て驚愕した。
 記憶の限りでは、彼にはソファで寝るように指示したはずだ。
 なのに彼はベッドで寝ている。しかも腰に巻き付く様にして、だ。
「……っ、やられた……」
 溜息を吐くが仕方がない。
 そもそも酔って先に落ちたのは自分だ。彼を咎めるのはお門違いと言うものだろう。
「仕方のない奴だ」
 そう零すと、アルマンドは朝から2度目の溜息を零して再びベッドに頭を沈めた。
 今日も店は休みだ。ゆっくりと休もう……。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0138 / テオドール・ロチェス / 男 / 24 / 人間(クリムゾンウェスト) / 疾影士 】
【 ka1293 / アルマンド・セラーノ / 男 / 24 / 人間(クリムゾンウェスト) / 猟撃士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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2015年08月31日

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