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『根無し草の根っ子 』
八意・慧(ib9683)&ジャミール・ライル(ic0451)

 ミーン、ミンミンミーン……。

 部屋に響く蝉の声。その声を聞きながら冷茶に手を伸ばした慧は、読み進める本の頁を捲って笑みを零した。
「良い物語ですね。これを翻訳して書き起こせば、あの子たちも読めそうです」
 そう零して想い描くのは、文字の読み書きを教えている子供たちだ。
 世界から護大が消え、ゆっくりだが周囲の状況は変わり始めている。
 各国の王達はお互いの国を支え合うべく動きだし、大きな仕事を終えた開拓者達は少しずつ別々の道を歩み始めている。
 慧の周りでも、開拓者を辞めて別の仕事についた者も居るし、以前のまま開拓者を続ける者も居る。
 皆それぞれの道を歩んでいるが、きっと全員が満足の良く生き方をするだろう。
 そして自分も――
「さて、ここまでにしておきましょう」
 区切りの良いところで顔を上げた慧の目に、陽の光が飛び込んで来る。
 読み始めた頃はもう低い位置にあった陽が今はすっかり真上だ。
「そろそろ昼食の準備をしなくてはいけませんね。ジャミールも呼んで準備を……って、そんな場所で何をしているんですか?」
 立ち上がり、一歩を踏み出そうとして驚いた。
 先程からあまりに静かで気にしていなかったが、まさかそんな所にいるとは思わなかったのだ。
「んー……考えごとしてたー」
「考えごと?」
 それはそんな場所でないと出来ないものなのだろうか。
 そう慧が思うのも無理はない。何せジャミールは慧のすぐ後ろで横になっていたのだ。しかもうつ伏せの状態で。
「考えごとならもっと別の場所でも良いでしょうに……踏んでしまいますよ?」
「んー」
 心此処に非ず、と言った所か。
 上の空の返事をする彼に苦笑しつつ立ち上がる。この様子ではジャミールに手伝いを頼む事は出来なさそうだ。
 慧は一瞬だけジャミールを見遣ると、1人静かに台所に向かった。
 今日の献立は蕎麦だ。
 昨日近所の蕎麦屋が届けてくれたもので、娘がお世話になっている礼だと言って置いて行ってくれた。
 そこの蕎麦屋は近所で美味しいと評判なので、茹で方さえ間違えなければきっと美味しいだろう。
「後は茹であがりを待つだけですが……そう言えば、ここ数日様子がおかしいですね」
 呟き、鍋から顔を上げて振り返る。
 相変わらずジャミールは横になったままで、何となく様子がおかしい。
 縁あって居候させているのだが、基本は彼の自由にさせていた。その為、ふらっと居なくなって、ふらっと居続ける事が多かったのだが、ここの所そうした素振りがない。
 思い返せば一週間以上家にいるのではないだろうか。
 単純に仕事がないだけなら問題ないが、彼の場合は広い交友関係がある。それ関係で出掛ける事もあるのだがそれすらないと言うのは異常だ。
「ジャミール。具合が悪いのならお粥を作りましょうか?」
 既に2人分茹でてしまったが、もし具合が悪いのなら無理に食べさせる訳にはいかない。
 そうを掛けた慧に、ジャミールが仰向けに寝転がった。
「おそばたべたいー」
「あ、そう…ですか……」
 蕎麦は食べれる。
 返事もある。
 なら問題ない……の、だろうか?
 思わず首を捻りながら蕎麦を盛る。そうして戻って来ると、机に蕎麦を置いて立ち上がる気配のないジャミールに手を伸ばした。
「悩みがあるのなら聞きますよ。あなたは私の大事な教え子ですからね」
 具合が悪くないのならそういうことなのだろう。
 微笑みながら顔を覗き込む慧に、ジャミールの目が瞬かれた。
「……勿論無理にとは言いません。ただもしあなたが思い悩み苦しんでいるのなら、その苦しみを取り除く手助けをさせてください。あなたがどう思っているかはわかりませんが、私はあなたの師であるのですから」
 そう言って彼に手を取り、半ば無理矢理立ち上がらせる。
 少しだけ自分よりも低い背の彼を見る目は穏やかだ。
「さ、食べましょう。食べながらなら話し易――」
「ねー、せんせー。俺のこといらない?」
「はぁっ!?」
 一瞬、食べてもいない蕎麦が口から出そうになった。
 思わず上げた声も、いつもの自分とは異なりすぎる。
 慧は狼狽える自分の口を押えると、マジマジと彼の顔を見詰めた。
「……開拓者楽しいけど、なんか違うなぁーって最近思ってて、それだけ、よくわかんねぇから飽きた。だからせんせーのものにして?」
 ね? そう首を傾げられて「良いですよ」と直ぐに返事が出来る訳がない。
 そもそも彼の言う言葉の意味が不明だ。
 だが先程悩みを打ち明けるように言った手前、何も答えない訳にもいかない。となると、彼の真意を確かめた上で言葉を返すべきだ。
 慧は僅かに冷静になった頭を回転させると、平静を装って問い掛けた。
「……ジャミール。先生のもの、というのはどういう意味なのでしょう? 出来るだけ正確に教えて頂けると助かるのですが……」
 彼の返答が的を得ないのは承知しているし、真面な返事が返ってくる可能性も低い。
 それでも彼の真意が知りたい。
 そう見詰める眼差しに、ジャミールは少し首を捻ると考えるようにしながら言った。
「んー……困ってることお手伝いするから、俺をそばにおいてーみたいな?」
「お手伝い……つまり、恋仲と……いう訳でもなさそうですね」
 何となくだが、彼の言いたいことがわかって来た。
 彼は此処に来る前、各地を転々として来た。定住地を持たずふらりと踊り歩き、その日その日を自由に生きる。
 確かに彼にはそうした生き方が合っていたのだろう。
 だが時と共に人の考えは変わる。そしてその時が彼にも訪れたのだろう。
「私のもの……と言う意味とは少し違いますが、私のお手伝いをしてみますか? 私の文字を教えるという仕事の手伝いをしつつ、私の子供として傍にいてみますか?」
 定住地を持たないか、と言う誘い。
 これはジャミールを養子に迎えると言う意味でもある。
 この言葉にジャミールの目が輝いた。
「なる! せんせいーの子になるっ!!」
 ほぼ2つ返事で頷く彼に笑みが浮かんだ。
 背格好も大人のそれなのに、ジャミールは本当に無邪気で子供のようだと思う。
 そんな彼の頭を撫でながら言い聞かせるように囁く。
「では、これからも私の傍に……構いませんね?」
「うん!」
 頷きと笑顔。その双方を見て、自分の答えは間違っていなかったのだと確信する。そして昼食を食べ牢と彼を促そうとした時、次の言葉がそれを遮った。
「じゃー、これ全部外して?」
「は?」
 面食らう慧に差し出されたのはジャミール自身だ。
 彼の体には無数のアクセサリーが飾られている。まさかこれを全部外せと言うことか?
「これ全部客に貰ったやつだしさ。全部外して、せんせーだけの俺にして?」
「全部……ですか?」
「そう、ぜんぶー♪」
 ジャラジャラと音を立てるアクセサリーの量は膨大だ。
 そんな事をしていれば蕎麦は伸びてしまう。と言うか、蕎麦は既に伸びかけて表面がパサついている。
 このままだともう一度湯通ししなければ美味しくない。否、現時点で味の質は落ちているはずだ。
「食べ終えたら外します――っ!?」
「今がいいのー♪」
「ちょ、放しっ」
 言葉を遮って抱き付いて来たジャミールに目を見開く。
 こうしている間にも蕎麦は犠牲になってゆく。慧はジャミールを振り解こうと努力したのだが、更に聞こえてきた声に動きが止まった。
「これだけ付けてればそれで良いから」
 耳元で囁かれる声に視線が動く。
 そうして捉えたのは以前慧が贈ったブレスレットだ。
 それを見て納得した。
 彼は目に見える形で誓いが欲しかったのだ。言葉だけでは足りない。証のような誓いが。
「わかりました。その代り、蕎麦を茹で直すのは貴方にも手伝ってもらいますよ」
 良いですね? そう言い聞かせ、慧は彼のアクセサリーに手を伸ばすと、ジャミールの満面の笑顔が飛び込んで来た。
「せんせー、大好きー♪」
 
―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib9683 / 八意・慧 / 男 / 24 / 巫女 】
【 ic0451 / ジャミール・ライル / 男 / 24 / ジプシー 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
野生のパーティノベル -
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舵天照 -DTS-
2015年09月01日

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