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『生まれてきてくれて、出会ってくれて、ありがとう! 』
矢野 古代jb1679)&亀山 淳紅ja2261)&小野友真ja6901

●お酒の先輩
「ゆーま君、おめでとーう!」
「淳ちゃんありがとー!!」
 クラッカーを鳴らす淳紅に友真は両手を広げ、頭の上に構え待機する。クラッカーを床に投げ、両手を限界まで振りかぶった淳紅が教室の隅にまで届くほどの音を立てて、ハイタッチをかわした。
 そして2人とも「いった!!」と手を振り、笑いあう。
 友真が手をあげれば、淳紅もそれに応えてまたもハイタッチ。懲りずに派手な音を立てては手を振りながら、笑い合っているその姿はお互い、童顔も相まって箸が転がるだけで笑う中学生のように見えてしまうが、れっきとした二十歳である。
 ひとしきり笑い終えた後は2人してしゃがむと、淳紅がクラッカーのゴミをちまちまと拾い集め、友真の手にある空となったクラッカー本体に詰め込み始めた。
「二十歳と言えば、お酒が飲める歳ちゅーことやけど……そんでな、ゆーま君。成人おめでとう会ってことで、今夜くりださへん?
 自分が大人の呑み方ってやつを教えたるで!!」
 淳紅が自信満々に、立てた親指を自分へビシッと向ける。
 その額に飲酒の初心者マークが貼りついているとも知らず、友真は目を輝かせ「おー」と感嘆の声を漏らしていた。
「そんなら、よろしゅーな。淳ちゃん先輩さん!」
 しゃがんだまま、身体全体で深々とお辞儀をすると、手の中のクラッカーからゴミがボトリと落ちるのだった。
 それに2人して笑い声のような悲鳴をあ拾い集めながらも、淳紅は今夜どこに行くか、まだ少ない情報をひっくり返してめまぐるしく候補をあげていく――が、やはり自分の知識だけでは足りない。
(今夜の主賓はゆーま君やからな……やっぱこんな時、頼りんなる人を呼ぶに限るんよな)


 冷房の利いた室内、ソファーで横になって本を顔の上に乗せて眠っていた甚平姿の古代が、メールの着信音で目を覚ます。本がばさりと床に落ち、拾い上げようとして身をぶるりと震わせ、少し冷やし過ぎたとエアコンを止めた。
 それから携帯を手にして、メールに目を通す。
「亀山君か……そうか、小野君も二十歳になったのか。
 これはあれだな、二十歳の記念にお酒デビューするからというお誘いなんだろう」
 淳紅の感慨深いだのなんだという、年上風をびゅうびゅう吹かせている部分を読み進めそう予測してみると、案の定、最後にそんな旨が書いてあった。
「小野君のためだから、小野君の好みに合いそうな店か……難しい注文だな。
 好みもまだわからないし、アルコールにどこまで耐性があるのかもわからないが――頼られている以上、わかりませんという回答はなるべくしたくはない……ああ、小野君にぴったりの店があったな」
 店の位置を思い浮かべ、集合に適したわかりやすいところをメールで淳紅に伝える。
 本を拾い上げ、ついてしまった折り目を無駄とわかりつつも指で戻しては本を閉じて、テーブルの上に置いた。時刻を見るまでもなくまだまだ早い――が、色々とやっておかねばならないなと、首を鳴らす。
「まずは、うちのお姫様のご機嫌取りをしておかないとな」




●楽しく飲むコツ
 追い出されるように家を出てきて待ち合わせ場所へ逃げるように、予定よりも早く辿り着いてしまった古代だが、そんな事をおくびにも出さず、大きくて目立つ看板の横、街灯にもたれながら本に目を通していた。
『矢野さーん!』
 声に本から目を離すと、友真の姿を確認。そして身長差のせいで気づくのが遅れたが、淳紅の姿も確認した。
「随分お待たせしました!」
「いや、俺がね、早く来すぎただけで……」
 そこまで言いかけて、はたと気づいた。
 待ち合わせ時間を、すでに30分ほど過ぎている。
「出るのが遅れて走ってきたんですけど、来る途中、淳ちゃんが買うモンあるって言うてたから、コンビニに寄ったんな。そんで外でたら、向かう方向を間違えてしまったんや……」
 全力で反対方向を走ってしまった、それから気づいてそこからもやはり全力で走ってきたのだろう。淳紅も友真も、薄っすらとは呼べないほどに汗をかいていた。
「待ったという気はしていないから、大丈夫だよ」
(本気で全力疾走してきたのか……2人とも、若いな)
 そっと本をポケットにしまい込む古代だが、汗をかいても楽しそうに笑う若者2人を見て、今更ながら「あっこれ、俺がアウェイなのでは」と考え始めてしまう。
 だが今ここで考えても、もう遅い。今こそ、大人の余裕を見せる時である。
 そのために少しは涼しいリネン素材とはいえ、暑い思いをしてまでスーツを着てきたのだ。
「いつ見ても矢野さん、落ち着いてるしシュッしててかっこええなぁ」
 友真のその一言だけで、ガッツポーズを取りたくなるほどには古代の心にも少年が潜んでいるのだが、涼しい顔を貫き通す。
 襟を正すと背筋を伸ばし「さあ行こうか」と、先陣を切って颯爽と歩きだすのだった。

 居酒屋の目の前で、看板を見上げる友真の目は宝石のように、これまでにないほど輝いていた。
「海鮮、ヒーロー……やって!!」
「魚介こそ正義って意味合いらしいけど、ここのマスターのセンス、嫌いじゃないねえ」
 ニカッと笑う古代に友真は何度も頷くが、目は看板に釘付けである。
 古代が暖簾をくぐり、看板を凝視する友真を淳紅が引っ張ってなんとか予約と書かれている席へと着く。完全個室のせいか、誰しも気が緩んで呑めや歌えやの大騒ぎである。
 その雰囲気に若干そわそわしている淳紅だが、きょろきょろと見回して「へー」を連呼する初心者の前で余裕ぶっているなと、古代の目から見ても明らかであった。
「とりあえず、まずはやっぱりビールいっておくかい?」
「せやなぁ、最初はみんなとおそろのがええな……ちょいと先トイレ行ってくるわ」
 友真がいそいそとトイレへと向かっていく間に、淳紅は古代へ顔を寄せた。
「今回もよろしくお願いします」
「今日は大丈夫かい。手本になるつもりだろう?」
「今度はちゃんと、うこんのお世話になりますから」
 コンビニに寄ったという話を思い出し、なるほどと納得する古代だが、同時に不安も覚えた。
(これさえ飲めば大丈夫、なんて過信しなければいいんだがな……)
 友真が戻ってくるのと同じタイミングで、ビールが3つ運ばれてくる。お通しは少量だが川エビのから揚げと、なかなかに贅沢であった。
 各自の前にビールが置かれ、3人が取っ手を握ったところで1皿だけ先に料理が運ばれてきた。
「それは、小野君の前に」
 古代が手で示すと、店員が友真の前にことりとその皿を置いた途端、友真は信じられないという表情を作り上げる。
「ホタテ刺しやぁぁぁあ!」
 クリーミーな白みを帯び、肉厚のプリッとした見事なホタテ――結構な量が、皿にはあった。
「ささやかなお祝い、ということでね。
 予約する時にすぐ出してもらえるよう、頼んでおいたんだよ」
「え、これもしかして全部、俺――僕がいただいていいってヤツです?」
 古代が頷くと、友真は二度目の信じられないという表情でホタテと古代を見比べていた。
「めっちゃありがとうございます!!」
「すぐホタテといきたいだろうけど、まずはビールで乾杯してから味わってごらん」
 笑う古代が「というわけで亀山君、音頭はよろしく」と淳紅に声をかけるが、言われるまでもないとすでに立ち上がっていた。
 もちろん淳紅の手には、ビール。
(あ。この雰囲気、もうかなりテンションあがってるな)
「ゆーま君成人おめでとうの会! いえーい!!」
 ジョッキを突きだす淳紅に合わせて、友真もジョッキを突き出し返す。ジョッキとジョッキが激しくぶつかり合う直前、さりげなく古代がジョッキを持つ手に隠し持ったコースターを差し込んで、割れないように配慮していた。
 淳紅と友真が、お互い競い合う様にビールを仰ぐ。
 汗をかいていた若い2人が、まだ飲み慣れていないビールをぐんぐん喉に流し込んでいくのを古代は少しだけ観察して、それから自分もビールを仰ぐ。
 しばらく嚥下する音と店の喧騒だけが3人の間に広がっていたが、真っ先に根をあげたのは、本日の主賓、友真であった。
「ぷぁッ……ノド渇いとっても、やっぱ苦いのは苦手やな」
「味は慣れなのと、味よりのど越しだからね。まあ初感想はみんなそんなもんだ。
 さあそれより、ビールの味が残っているうちにホタテを口に入れてみるといい」
 口元に笑みをたたえた古代に促され、友真はまずおしぼりで手についた水滴をふき取り手をこすりあわせると、ふんわりと香るワサビを箸先にちょっと付けてはホタテに乗せ、小皿の醤油にチョンチョンとつけていざ、口へ。
 その途端、友真は時が止まったように身を固めた。
「……なんやコレ――」
 そう言ってはビールをぐっとあおり、もう一切れ。
「なんや、コレ」
 またビール。そしてまた一口。
 それからまた「なんやコレ」と言っては交互に繰り返すと、あっという間に2人前くらいはあったと思われるホタテも、ジョッキの中身も空になった。
 言葉もなく、ホタテの無くなった皿に箸を乗せ、少しさびしげな眼をしていた友真はやがて顔をあげ、はっきりと言った。
「俺、生まれ変わったらホタテになって、美味いって言ってもらう」
「それ、ゆーま君食われてるやな」
 ジョッキを空にして白いひげをおしぼりで拭っていた淳紅の冷静なツッコミが入るも、「本望や!」と言い切った。
「こんな美味いもんになって美味い言ってもらえんなら、十分幸せやん?
 しかも、そのままでも美味いのにビールの苦みが口におる時に、ホタテが飛びこむだけで、むっちゃ甘くなるとか……もう地球のお宝とちゃう?」
 同意を求められても古代は「んー?」と答えるだけだが、淳紅は「せやんな!」と見えない太鼓を叩いていた。
 そしてもちろんこれだけに終わらず、続々と運ばれてくるホタテ料理。
 バターと醤油の匂いが芳しい焼きホタテ。茶色い衣に包まれて、タルタルソースの添えられた、ホタテフライ。しっかりと煮込まれ、白かった御身が薄く醤油色に染まったホタテ煮と、様々な顔を見せつけるホタテに友真はもはや言葉も見つからない。
「ゆーま君なら、これも飲んどかあかんやつな」
 淳紅が友真に見えない位置で店員から受け取り、そして景気のいい音を立てて友真の前へ。
 ジョッキの縁にレモンが添えられ、透けるような黒の液体の上では、やや黒みのかかった泡が気持ちよく派手に踊っていた。
「コーラやっ……?」
 喜びかけた友真だが鼻をヒクヒクと動かし、眉根を寄せて首を傾げる。
「なんかぁ、いつもと匂いがちゃうな」
「匂いでわかるもんなんやな……コーラ割りってやつや。甘いカクテル系も呑みやすいかもしれんけど、ゆーま君ならこれかなって」
「さすがや、淳ちゃん」
 がっしと固く手を握りしめあう2人に、古代は少し顎を指で掻いた。
「あー……ほどほどに、な?」
「大丈夫やで。今呑んだ感じ、自分の酒の許容量もわかってきたんで――でも一応先に言うときます。矢野さん、ごめんな……」
 古代に向けて首を垂れる友真だが、淳紅が立ち上がり「歌いまーす!」と告げると、そちらに身体ごと向けて「じゅーんちゃーん」と声援を送るのだった。
 ホタテ以外の刺身をツマに、日本酒をちびちびと進め始めた古代がひっそりと覚悟していた。
(コークハイをあのピッチで呑むなら、すぐにできあがりそうだな……)
 どちらも自分の限界をわきまえているかもしれない――が、それは素面での話。酔いが回ってから自制が利かないのが、飲酒の初心者というものである。
 最初こそは2人ともコーラとは違った味わいにちびりちびりと進めていたが、やてがゴクゴクとノドをならして普通のコーラを呑む感覚でコークハイを流し込んでいく。
 空になったグラスはどんどん下げられるから、間違いなく2人とも、今、何杯目なのかすらわかっていないだろう。いつしか2人は肩を組み、互いの皿の美味そうなものを口に運んだり、飲む速度を競い合ったりしている。
 しかもとうとうコーラとウィスキーを別に頼んで、淳紅が独自に混ぜ合わせて友真に渡し、自分の分も作るのだが、どんどん大雑把になってウィスキーの分量が増えつつあった。
 控えめに歌っていた淳紅も、今では店の隅々にまで声を響かせていて、あきらかに加減を見失っていた。
 店員から「もう少し声を落としてもらえますか」という注意に、ただひたすら古代1人だけが「すまない」を繰り返している。
 そして完全にできあがって気持ちよく歌って淳紅に「日本一!」と、最初は合いの手を入れていた友真は時間が経つにつれ、顔がどんどんテーブルに近づいていき、いまでは顔を横に向け、頬が完全にテーブルの上に乗っていた。
 目を閉じ、今にも寝てしまいそうだと古代が少し不安になっていると、顔を赤くした友真がぽつりと「4年かぁ」と漏らした。
「ひーろーめざして、もう4年なるけど……俺、全然ひーろーらしくなった感じしないなぁ。
 まだまだ力不足やなって感じるもん。俺ももっと頑張らななー……」
 目を閉じたまま苦笑して頬をぽりと掻く友真の独白で、一瞬にして空気が静まりかえった。
 あれだけ騒いでいた淳紅も、頭がぐらぐらと回っているが、正座して友真の次の言葉を待つ。古代は途端に始まった真面目な空気に、酔いを醒ました方がいいかと、店員に温かいお茶を3つ頼み、友真の言葉に聞きいった。
「みんな守れるんが一番やけど、俺ん力じゃ足りないって事も多いんよな」
「けど、そうやってみんな守ろうと頑張っている小野君の姿は、紛れもなくヒーローなんだと思うよ。
 そんな生き方をしている小野君を、俺はかっこいいと思うし、好きだよ。だから、自信を持っていい」
 さらりと言ってのける古代に、淳紅は「せやなーせやなー」と何度も頷いていた。
 友真の言葉が完全に止まり、寝息でも聞こえてくるのではないかと思うほどの長い沈黙――突如がばっと起き上がって、グラスを掲げた。
「……やーだ照れるー! 淳ちゃんいえーい!」
「いえーぃぃ!!」
 淳紅と乾杯をかわした瞬間、友真がかなり痛そうな音を立ててテーブルへ頭突きを食らわせる。
「……小野、君?」
 古代が呼ぶも反応はなく、かわりに聞こえるのは寝息であった。器用にグラスを掲げたままだったので、古代はその手からグラスをするりと抜く。
 乾杯して放置された淳紅だが、とりあえずもうほとんどウィスキーなコークハイに口をつけ――顔が蒼くなった。
「あかん、やばい……」
「待て、待つんだ亀山君! トイレまで耐えきろ!」
「トイレ、どこ……」
 淳紅とは別の意味で顔が蒼くなっている古代が口を押える淳紅の空いた手を引き、靴を履くのももどかしいと素足のままトイレへ引っ張っていった。
 バタバタとした騒ぎに、テーブルに突っ伏したまま、わずかながら意識を取り戻した友真。
(淳ちゃん……根っこは俺と似てるとこあるよな。きっと……こんなこと言われへんけど)
 意識がまた遠くに行こうとしているギリギリで、古代の顔も思い浮かべた。
(あんな信頼できる大人に、俺もなれたらええなぁ)
「今日はめっちゃ幸せや――ありがとな……」
 そうして友真は、微睡みに身を任せるのであった――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 36歳           / たまにシリアス】
【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 二十歳やで       / 先輩、落ち着け】
【ja6901 / 小野 友真 / 男 / 二十歳なりました / ホタテヒーローの稚貝】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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長らくお待たせいたしました、すみません。小野さんは聞き及んでるイメージでの構成となりましたが、どうでしょう。
今回はちょっとシリアス込みでしたので、最後ちょっと静かに締めてみました。シリアスパートをもう少し長くする予定があったのですが、ちょっと字数を増やし過ぎてしまったので、このように落ち着きましたが、いかがだったでしょうか。お楽しみいただけたのなら、幸いです。
またご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
野生のパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年09月02日

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