『夢にまで見る夢のような出来事 』

クラーク・エアハルト（ga4961）

　目を開けたわけではないのに、世界が唐突に始まった。
　季節を感じさせない、ぎらつく太陽。人類を拒絶するかのような、深い森林。穏やかだが全く果てのない、広い海。それらが一斉に情報として入ってきたが、それでも今、自分が見ている『そこにたたずんでいる自分』は違和感を感じ取る事無く、すんなりと受け入れているように見えた。
（ああ、夢ですか。これは）
　水着にパーカー姿の自分が見えているクラークは、冷静にそう判断する。
　夢の自分が「凪さん」と呼ぶと、ずっとそこにいたのか、それとも今出現したのかわからないが、凪が立っていた。あの自信に満ち溢れる笑みではなく、少し怪しい、艶のある笑みを浮かべて。
　肌も白いがさらに白いビキニで包まれた、それほど大きくはないが決して小さくもない、見惚れてしまう形の良い胸。腰のくびれは高い位置に引き締まって張りのある見事な尻によって、さらに強調されていた。そしてやや筋肉質な感じを受けるがすらりと伸びた細い手足は、指先まで綺麗に整っている。
　そんな指先を凪は自分の口元に運び、舌先でひと舐めする。
「クラークさん――鬼ごっこしましょうか」
　そんな宣言と共に踵を返し、走り出す――ここでクラークと『そこにいる自分』の意思が１つになった。
「いいですよ、凪さん。ただし古来より、鬼に捕まった女性は鬼に食べられる運命にあることを、お忘れなく」
　走って追いかけるクラークだが、左右へ振り回されたり砂地に転がった障害物を巧みにかわす、自分よりも小柄な凪の俊敏さには離されずついて行くのが精一杯であった。
「ここは、自分の得意分野で勝負を挑むとしますか」
　小銃がクラークの手の中に現れ、逃げる凪の背に向けて撃った。
　火薬の炸裂音ではなく、気の抜けたような音と共に撃ちだされたそれが、凪の背に当たるという直前で、凪は僅かに身体を傾け、まるで軌道が見えてるかのように脇を素通りさせた。
　クラークはどこからか小さな注射筒を取り出し、１発撃っただけの小銃に次弾を込める。
「さすがですね、凪さん。野生動物も真っ青な直感任せの回避を用いられては、弾速の遅いこいつでは当てられる気がしませんよ」
「当たる気、ないですから。けど、私を捕まえてみてください、クラークさん」
　方向を変え、草丈は短いのに木々の生い茂る森へと凪は逃げ込んでいった。
　その後を追いかけるクラーク――かと思われたが、凪とは別の方向に向かって森へと入っていくのだった。


　追ってこないクラークに、凪は後ろを振り返って様子を伺いながら森を歩いていた。
「まさか諦めた、ということはないですよね」
　クラークは必ず、自分を捕まえに来る。諦めるはずがない。何が何でも自分を捕まえ、そして欲望の赴くままにぶつけてくるはずだと、期待にも似た確信めいたものを不思議と凪は抱いていた。
　捕えられ、されるがまま好きにされる自分を想像し、凪は自分の胸の内が熱くなるのを感じて身をよじると、その横を振り子のようにものすごい勢いで枝が通過していった。
　そして避けた先へ１歩、踏み込んだ途端、凪は左足を軸に後ろへ回転して地に着けたはずの右足を無理にその場から退かせると、右足のあった位置の草を縛りあげたツタが上へと跳ね上がっていく。
　それと同時に、上からツタで編んだ網が降ってくるのだが、まさしく振り子の如く戻ってきた先ほどの枝に手を伸ばして掴むと、その勢いに身を任せてその場から離脱する。
　手を離し、飛んでいった凪は草地に足をつけるのは危険と思ったのか、木から木へと蹴りながら飛び移り、砂地と岩盤だらけの開けた場所を目指して軽やかに移動していく。
　そして最後のひとっ跳びと、枝を掴んだその瞬間、枝が切りこみの入っていた根元からいとも簡単に折れた。
　落下を始める凪の足元の砂地には、そこに何かが仕掛けてあるのかわからないよう人為的に均した跡があると、落下しながらも凪は冷静に観察すると、折れた枝を砂地に突き立て、空中で静止した。
　そのチャンスを見逃すはずもなく、姿を現したクラークだが、逃すはずはないと凪も予測はしていた。
　だが凪がクラークの姿を見つけた瞬間、砂煙をあげ、爆発的な加速でトラップが仕掛けてあると思われていた均してある砂地を踏み込んで、一気に懐へ飛び込んできた。
　クラークの手が凪の胸に伸びる――が、それよりも先に凪は腕に力を込め、枝から跳んでいた。
「惜しかったですね――ッ！」
　クラークへ告げた凪が、跳んだ先の岩盤の上で膝をつく。
　力が入らない身体で頭をよじり、凪は自分の肩を見ると、注射筒が刺さっていた。
　それはクラークが小銃で撃っていた物だと凪はわかっているのだが、いつ撃たれたのかわからない。というか、今は凪の正面にクラークがいるというのに、横からそれは飛んできたのだ。クラークと凪以外に誰もいないこの無人島で、クラークと連携する協力者などいるはずもないのに。
「弾速が遅い、と言いましたよね？　だから予めこいつを逃げる先に撃ってから、自分がこいつよりも早く走った――ただそれだけですよ」
「つまり私は、自分から当たりに行った、ということです、か……」
「そういうことです」
　常人にはまずありえない事をやってのけたクラークは笑顔を向け、凪も弱々しく笑みを返す。
「いやあ、なかなか大変でした。どこで引っ掛かってもここに来るように計算しつつ凪さんにまず効きはしないトラップを森に仕込み、砂地をフェイクで均しておいて、この炎天下の下、岩場の影に身を潜めるのは」
　凪を追いかけなくなったのはほんの短時間のはずだが、たったそれだけの時間に考え抜き、これだけのものを仕込んだクラーク。直感と力任せに走りがちな凪には、到底マネのできない事であった。
「さて。これも言いましたよね、鬼に捕まったら食べられると」
　クラークは真顔で笑みをこぼし、へたり込んでいる凪の両手首を左手で掴み上に吊り上げ、そして岩盤の上に押し倒す。
「この筋弛緩剤は即効性ですが、持続時間が短いのが玉にきずなんですが……切れた頃にはもう、立つこともままならないくらい、力なんか入りませんよ」
　凪の縦長で綺麗なヘソへ口づけをすると、肌の表面をゆっくりと唇でなぞり、ブラのフロントホックを器用に歯で外した。右手ではショーツの飾りではない紐をほどく。
　凪は身体が熱くなっていくのは、じりじりと背中を焼く岩盤のせいではない事を自覚しつつ、頬を朱に染め、吐息が熱くなっていった。
　クラークが顔を起こせば、すぐ下には明るい日の光を浴び、輝くような肌をした凪がいる。ブラもショーツも、申し訳程度にただ乗って隠しているだけに過ぎない。
　そしてとうとうクラークは――……


　目を開ければ、辛気臭いテントの暗い天井が見えた。
　薄手の毛布にくるまっていたクラークは、身を起こす。もう慣れたとはいえ、身体がところどころ痛く、硬い地面の上で横になっていた事を抗議してくる。
「なんという夢を……」
　目元を隠す様に左手を覆い被せ、右手でポケットをまさぐり、壊れたサングラスを取り出した。自分に合ったサイズではない、大事な大事な思い出の詰まった、サングラス。
　今となっては唯一、凪が確かに居た事を示す物である。
「凪さん……もう少しだけ早くに出会っていたら――いや、よそう。あの出会いに、これ以上を望んではいけない」
　サングラスを再びポケットへ。そして立ち上がった。
（そう、出会えただけでも良しとしなければ……ずっと、忘れませんよ。凪さん――）
　そしてクラークは凪のいない戦場へ、強く１歩を踏み出すのだった。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga4961　／　クラーク・エアハルト　／　男　／　３１歳　／　紳士的にケダモノ　】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせしました、凪との真剣鬼ごっこ編ちょいエロ風味をお届けいたします。
さすがに長らくＣＴＳから離れてスキルに関してはほとんどがわからなくなってしまいましたが、それでも何とか１つだけ使わせていただきました（たぶん縮地？）。もっとも、クラークさんが取得しているかまでは定かではないのですが、そこはＩＦノベルということで。
蔵倫の様子を伺いながらもできる限りまで艶っぽくはしてみたのですが、いかがだったでしょうか？
ＣＴＳ完全終了まで残りわずかですが、またご縁がありましたらよろしくお願いします。

野生のパーティノベル

楠原　日野

CATCH THE SKY 地球SOS

2015年09月02日