『 ウィンドウショッピングは漢女＜オトメ＞のたしなみ？ 』

Non＝Bee（ka1604）＆ロス・バーミリオン（ka4718）

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　人はそれを運命と呼ぶのかもしれない。
　絢爛豪華な商都、極彩色の街ヴァリオスでも最も華やかな一角。
　Non＝Beeは思わず足を止めた。
　喧騒がすぅっと遠ざかっていくような感覚。
　人波から飛び出て目立つ美しい赤髪が揺れて、紅玉の瞳がこちらを振り向いた。
　互いを隔てる物が全て、遠ざかっていく。

「うわ、でっけー姉ちゃんだなおい！？」
「ねえ……ちゃん、だと……？」
　立ち止ったふたりはそんな声も気にしない。
　片や、なめらかな赤褐色の肌に艶やかな黒髪、しなやかな肢体に婀娜な和装の筋肉質ドワーフ。
　片や、長い髪をちょっと変わった簪で纏め、ダークスーツを纏った均整の取れた長身の人物。
　どちらも妙に色っぽい雰囲気を漂わせているが、どう見ても男。
　まあそんな訳で、ほとんどの人が立ち止まったふたりを避けて行き、結果的にふたりきりになったというのが真相ではあるが、そんなことはどうでもよくて。

「何かしら？」
　赤髪の人物の印象深い強い瞳が、疑念と、そして僅かな興味を湛えていた。
　Non＝Beeはふわりと、花が咲きこぼれるように微笑む。
「ごめんなさいね。前に何処かでお会いしたかしら？」
　まあ実際、飲んだくれているときに会っていたとしたら、どれだけ印象的な相手でもキレイさっぱり忘れている可能性が高い訳だ。
　相手はふっと、口元を緩める。
「いやあね、そんな堂々とナンパされたら困っちゃうわ」
　赤いマニキュアの爪が、長い髪を掻きあげた。だがその声に嫌みはない。
　Non＝Beeはその言い草にころころと笑う。
「あらとっても素敵な方だもの、口説かれるのは慣れているんじゃないかしら？」
「……参ったわね。本当の事を言うと、私もあなたとは初めて会った気がしないのよね」
　ダークスーツは軽く肩をすくめ、改めてNon＝Beeを見る。
「運命かしら？」
「そうかもしれないわね」
　互いにくっくと笑いだす。
「ふふ……私はロス・バーミリオン、お医者さんよ。そうそう、ロゼってよんでね♪」
　ロゼと呼ばないとぶちかますぞ。そんな無言の圧力が籠っていた。
「あたしはNon＝Beeよ、よろしくねえん」
　それは志を同じくする魂の共鳴。
　漢女と漢女の邂逅に、それ以上の言葉は必要なかった。


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　意気投合したふたりの漢女が向かったのは、落ちついた外観のとあるブティック。
「ここがそうなの？」
　ロス……じゃない、ロゼは興味深そうに看板を見上げた。
「ええ。あたしも一度来てみたかったんだけど……ほら、なんだかひとりだと入りにくくて」
　恐らく普段は閑静な店構えなのだろうが、ガラス窓には『夏物最終処分』『店内全品値下げ』等の派手な文字が躍っていた。
「あたしたちにぴったりのサイズもみつかるんじゃないかしら？」
　そういってNon＝Beeは扉を開ける。

　――そこは戦場だった。
　サイズ大きめの衣服を取り扱う専門店であるため、まるでクリムゾンウェスト中の屈強な女戦士が集っているのかと思う様な有様である。
「すごいわねえ……」
　ロゼが興味津々の風情で目を見張った。
　戦うに有利な体格は、お洒落するにはサイズが揃いにくい、デザインに不満がある、と色々と面倒。ある意味では賞金首よりも、値下げになった素敵なドレスの方がずっと価値があるのだ。
「ふふっ、これならあたしたちも参加できそうよねえ、ロゼちゃん？」
　既にお互いをあだ名で呼び合う程に打ち解けている。
　Non＝Beeは早速一枚を手に取る。ドレープを寄せたトップスは、夜明けの空のような濃紺とオレンジのキモノ風グラデーションだ。
「あら綺麗な色。それにのんちゃんに良く映えるわねえ」
　ロゼが吟味するように僅かに身体を引いた。
「そうかしら？　でももうちょっと華やかな方が好みなのよねえ」
「ああ、そうかも。生地もちょっと重い感じよねえ。じゃあこっちなんかどう？」
「まあとっても素敵！　確保しておこうかしらん♪」
　Non＝Beeは嬉しそうにロゼが手渡した一枚を胸にあてた。


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　この間にも次々と新たな戦士が参戦。だがロゼは彼女たちの隙を突き、新たな獲物を手にしていた。
「ふっ、私にかかればこんなものよ」
　手にしたのは美しい薔薇色のタイトなドレスだ。
「あらとっても素敵よ。早速着てみましょうよ、きっと似合うわ」
　Non＝Beeは片手に服を抱え、もう片方の手でロゼの腕を引っ張って試着室へ向かう。

「他には何かいい物が見つかったかしら？」
「ふふっそうねえ……」
　ロゼは確保した服を広げる。大人びたシックなデザインでありながら、華やかな印象の物が多かった。
「ほんと、どれもよく似合いそうだわ。あたしは和物が好きだから、つい同じような物になっちゃうのよねえ」
「でも自分に似合う物を分かってるのって、大事なことだと思うわよ？」
　だがNon＝Beeはふうっと小さく溜息をつく。
「ロゼちゃんは色っぽいわよねえ。スーツを着ていても滲みでる色っぽさっていうのかしらん？　素敵よねえ」
　勿論、自分自身がその点で劣っているとは思わない。適度な自負心とライバル心は、自分を美しく保つためには必ず必要だ。負けない。私は綺麗。そう思う心が自分を律し、努力する原動力となる。
「うふふ……そりゃまあ、もういい歳だもの……」
　心なしかロゼの頬が軽く引きつった。
　Non＝Beeは品よく笑いながら、軽くロゼを小突く。
「え？　うそお、ロゼちゃんてばそんな冗談ばっかり」
「……とりあえず、のんちゃんより十歳程は上だと思うわ」
　正確な年齢は決して口にしない。知った者の記憶を消すこともやぶさかではない。
　だが聞いた範囲の内容で、充分Non＝Beeは戦慄した。
「まあ、すごいわ……！」
　オネェ道は険しく厳しい。若い間はともかく、美しさを保ち続けるには想像を絶する努力が必要だろう。
　Non＝Beeは先駆者に心から敬意を抱き、これからも一層頑張ろうと心に誓うのだった。


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　シャッ！
　仕切りのカーテンが開くと、ドレス姿のロゼが仁王立ちしていた。
「のんちゃん！　ごめんなさい、やっぱり黒の方お願いッ！！」
「任せてちょうだい！」
　Non＝Beeは素早く身を翻し、ロゼが試着したドレスの色違いを持ってくる。
「有難うっ！　これだけ試したらのんちゃんに代わるわねっ」
「いいのよ、ゆっくり着替えてねえ」
　ふたりが確保した試着室には、既に衣装の山が出来上がっていた。
　黒のレースに赤のベロア、サーモンピンクのオーガンジーに、スミレ色のサテン、薄紅色のジョーゼット。ありとあらゆる美しいものが混然一体となって奇怪なオブジェを作り上げている。
「お待たせっ！　次はのんちゃんの番よ」
　とっかえひっかえで満足したのか、さっきより頬が輝いて見えるロゼが出て来た。
「じゃあ失礼するわね」
　たおやかな物腰で試着室に消えるNon＝Beeを、ロゼはじっと見つめていた。
（すごいわ……ドワーフと仲良くなれるなんて）
　クリムゾンウェストにはいわゆるドワーフのイメージを裏切る容姿の者も多いが、流石にNon＝Beeの存在はレア中のレアだ。
「どう、のんちゃん。お手伝いは必要かしら？」
「ちょっと待ってねえ」
　着物の脱ぎ着は大変だ。幾ら慣れていても、洋服程ぱっと脱ぐ訳にも行かない。
「ふう、ちょっと狭いわねえ。仕方がないけど。どうかしら？」
「あら素敵じゃない！」
　着物風にデザインされた華やかなドレスだった。鳥が歌い花が咲き乱れる楽園を纏い、Non＝Beeが微笑んだ。
「ああちょっと待ってね、こっちがこう……」
　ロゼは帯風のサッシュの具合を直し、そのついでに密かにNon＝Beeの肉付きや骨格を確かめる。
（……できればもう少し詳しく調べたいけど、流石に服の上からじゃここまでよね！）
　この一瞬、医師属性のロスに戻っているロゼ。
　リアルブルー出身者としては、異種族の体の構造が大いに気になるのだ。
「……はい、これでいいわ。それにしてもやっぱり、種族？　それとも若さかしら？　立ち姿が違うのよねえ」
　筋肉が強いのだろうか。Non＝Beeのおっとりした立ち居振る舞いにも関わらず、ロゼにはどこか力強く見える。
「でもねえ、筋肉がすぐに付いちゃうのは悩みでもあるの。ほら、素敵な服も似合わなくなっちゃう」
　悲しげに頬に手を当てるNon＝Beeに、ロゼがぐっと詰め寄った。
「だめよ、あきらめちゃ！　そう、体質改善！　お水をしっかり飲むのよ。それもいいお水をねッ！」
「お水ね！　わかったわ、あたしがんばる！！」

　……そうして脱ぎ散らかした服の山が残された。
「あ、私、ちょっと仕事の時間が……」
　ロゼが切り出すと、Non＝Beeもはっと顔を上げる。
「あら私も。そろそろお店を出なくちゃ」
「なあに？　イケメンとデートの約束なの？」
「うふふ……ちょっと待たせるぐらいがちょうどいいとは思うけど」
「やだわあ、のんちゃんてば結構悪女ね！」
　等と言いつつ、ふたりは揃って店を出た。
　そう、綺麗な服を楽しむとは言ったが、買うとは誰も言ってない！
「じゃあね。今度はゆっくりお茶でもしましょうね」
「ええ。今日はとっても楽しかったわ！」
　手を振って、それぞれに歩き出す。
「仕方がないわよねえ。お酒を買うお金がなくなっちゃうもの」
　Non＝Beeは軽い足取りで、そのまま別の店へ。
　同志と楽しむちょっとした気分転換が、また今日のお酒を美味しくしてくれるだろう。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1604　／　Non＝Bee　／　漢女　／　25　／　ドワーフ　／　機導師】
【ka4718　／　ロス・バーミリオン　／　漢女　／　32　／　人間（ＲＢ）　／　舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ＣＷ最強クラスの漢女と漢女の運命の出会い、如何でしたでしょうか。
お楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました！

ＷＴツインノベル

樹シロカ

ファナティックブラッド

2015年09月04日