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『『育てる』 』
蘇芳 和馬ka0462

 蘇芳和馬の朝は、欠かすことなき鍛錬から始まる。
 小太刀の二刀術と抜刀術を修めてリアルブルーでは師範代という位置にあった和馬は、最近では小太刀の鍛錬を特に増やしている。
 ――なぜならば。
「この動きであれば、グリューエリンの剣術にも応用できるか……」
 和馬には今、弟子がいる。
 ゾンネンシュトラール帝国軍で、軍属のアイドルとして活動する少女。家名の象徴だという古い装飾の二振りの剣を携え、悩んだり転んだり考え込んだりしながら、帝国と家名復興という自分自身の野望のために、走り続ける炎色の髪を持つ少女。
 彼女と出会い、そして武術師範としてアドバイスを送る立場になって、和馬は己が二刀流の使い手であることに感謝した。自分の武術を、彼女の武術として応用できるから。
 思い付きをすぐに書き留められるよう用意したメモ帳に、思いついた内容を書き込んでいく。あとでしっかりと毎日の訓練メニューにして、愛弟子に渡す予定だ。
(……俺は、変わったな)
 ふ、と口元に浮かぶのは、苦笑いか、それとも。
 強くなるため、己が剣の道一本でどこまで行けるか確かめるため、鍛錬を積んでいるのは変わらない。けれどひたむきに己の強さだけを見据えていたその瞳に、今は育てる者としての慈しみも確かに宿る。
 蘇芳和馬、彼を変えた少女の名は――帝国軍属アイドル、グリューエリン・ヴァルファー。

 既に父と息子の――否、師弟の剣の稽古は、常に『真剣』であった。
 触れれば斬れる。けれど触れそうになれば途中で剣を止めるだけの、気迫を乗せて放たれた剣を避けるだけの技量は、師はもちろん弟子もとうに身に着けていた。
 鋭い金属音が、風切り音が交錯し、二つの影が銀光を纏って離れ、接し、又離れる。
 それはもはや決められた舞踊のようであり、けれど一つ本気になれば互いの命を奪うことができるという緊張感を常に孕んでいた。
 ――その、しばし後である。
「和馬よ、そろそろ弟子を取らんか。……いや、取れ」
「お断りします」
 師の顔と親の顔、半々で告げた父親の言葉に、一考の余地もなく和馬は首を振った。
 もう、和馬が師範代となってから、何度も繰り返されたやり取りである。
「……私は、己の強さのみを見つめるために剣を振っている。弟子を取るには、相応しくないでしょう」
「それよ」
 刀の手入れをする和馬の、少し離れて隣に座った父が、静かな声で告げる。
「弟子を取るというのは、己を新たな階梯まで高めるためでもあるのだ」
「……どういうことです?」
「それは、お前が実感してみねばなんとも言えぬ。弟子を取って初めて、わかることだ」
 己に弟子を取らせるための詭弁であろうか、と一瞬よぎった考えを、振り払う。あくまで父の顔は、研ぎ澄まされた切っ先のように真面目であったのだから。
 ――それでも、諾とは言えなかった。
「少なくとも自分がどこまで行けるのか確かめるまで、誰かを教える立場になるつもりはありません」
「……そう、か」
 父の声がどこか寂しげに響いた気もしたけれど――その頃の和馬には己とその剣、ただそれしか見えていなかった。

 剣の道一本でどこまで行けるのか。それを追い求める和馬が軍学校に入学したのは、必然であっただろう。熱心な学習と鍛錬により、特に近接格闘術に於いては非常に優秀な成績を修めて卒業、新兵として配属された先こそが、地球連合宙軍が建造した初の惑星間航行用戦略宇宙戦艦『サルヴァトーレ・ロッソ』。
 クリムゾンウェストへ原因不明の転移を果たした宇宙戦艦、そのものであった。

 このクリムゾンウェストという世界でハンターとなった和馬は、まさに水を得た魚であった。
 覚醒者として得た能力を生かす術は、身体に染み込んだ武術と叩き込まれた戦闘知識によってあっという間に身に着けた。剣の道にて何ができるか確かめるのに、戦いに満ちたこの世界以上の舞台はなかった。
 ――そんな彼が『帝国軍三等兵の少女を、軍属アイドルとなるよう勧誘してほしい』という依頼を受けたのは、どのような心の運びであったのか。けれどその出会いが、彼の道を変えた。
 グリューエリン・ヴァルファーというその少女は、視野は狭く頑固なところはあったが、けれどひどく真面目で真っ直ぐで、どことなく危なっかしくて、ひたむきであった。彼女と剣を交わし、言葉を交わし、そして弟子として面倒を見ようと決めたときには、もう惹かれていたのかもしれない。
 がむしゃらに頑張るだけだったグリューエリンに基礎トレーニングを教え、同じ二刀術を修める者として戦い方を惜しみなく伝授した。己の知識を、技術を、残らず伝えようとひたすらその方法を考えた時――和馬は、はっとした。

『弟子を取るというのは、己を新たな階梯まで高めるためでもあるのだ』

 剣の振るい方を教え、戦いの技術を教えているうちに、新たな技を探し、研鑽し、それがグリューエリンに合っているかを考え――それを通して己の剣を磨いてもいたことに、和馬は気付いた。
 弟子に無様な姿は見せられぬと、常に背筋を伸ばして生きること――それが無理ではなく自然体になっていることを、己の体と心で感じ取った。
 教える相手の存在によって、己が教えられる。己を伸ばすことができる。
 それに気付いた和馬がグリューエリンの指導にますます熱を入れたのは自然であっただろうけれど――熱心になったゆえに想い入れが増したのか、その想いゆえにさらに指南に力が入ったのか、どちらであったのかは和馬にも定かではない。
 ただ、師弟感情を越えたその心情を自覚はしても、告げるつもりはなかった。
 少なくとも、彼女がアイドルとして、そして『ヴァルファー』の名を継ぐ存在として、一人前になるまでは。
 彼女がヴァルファー家――旧帝国からは裏切り者、新帝国からは敵前逃亡者という不名誉を背負った家名の復興という、大願を成し遂げるまでは、その想いは告げぬと決めた。
 ――それほどに、大切だった。

 礼儀正しく誰の名にも敬称をつける彼女に、呼び捨てにして構わないと言ったのは、想いを自覚してからであっただろうか――。
 未だそれに慣れぬ様子で、けれど己を『和馬殿』と、師だと慕うグリューエリンが可愛くて仕方ないからこそ、師弟としての感情以外は胸に秘めて。
 それは剣の道を極める上でもひどく充実していたし、弟子の成長を見る上でも心が躍ったし、そして密やかに胸をときめかせ仄かな恋の痛みを感じることすらどこか楽しかった。
 訓練メニューを作り終えて、和馬は今日も訓練場へと向かう。そこでは愛弟子が、炎色の髪を持つ少女が、既にウォームアップを始めているはずで。
 さぁ――今日のグリューエリンは、どんな輝きを魅せてくれるのだろう。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0462/蘇芳 和馬/男/18/疾影士】
【kz0050/グリューエリン・ヴァルファー/女/16/闘狩人】
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2015年09月07日

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