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『実録・とある生徒の自主休日 』
矢野 胡桃ja2617)&ja1969


 こちらは久遠ヶ原島の独立系TV局、ガハラTVです。
 本日は我が局で一番の視聴率を誇る人気番組「素顔の撃退士」の取材に、矢野 胡桃(ja2617)さんのお宅にやって参りました。
 この番組を初めてご覧になる方の為に申し上げますと、これはタイトルを読んで字の如く、今をときめく新進気鋭の撃退士に密着取材、その素顔を白日の下に晒してしまおうという企画であります。
 本日のターゲットは矢野胡桃15歳、現在の専攻はダアト、影では陛下と呼ばれ、またある時はももんがに変身するとも、ももんがが本体であるとも言われているとかいないとか。
 ただひとつ確実なのは、彼女が自他共に認める「学園一のファザコン」である事でしょうか。
 そして本日はそのお父様がご不在ということで、取材にお邪魔させていただいた次第であります。
 いいえ、正確にはお邪魔はいたしません。
 予め仕掛けさせていただいた定点カメラと超小型ドローンに搭載されたリモコンカメラによって中の様子を捉えるのです。
 この番組は撃退士の飾り気のない素顔をお届けする事を第一としております。
 故に大切なのは、カメラの存在を忘れて頂くこと。
 ああ、勿論プライバシーはお守りいたしますよ、これは盗撮ではありませんからね。
 それに、この番組は生放送ではありません。全て事前に、ご本人の目でチェックをしていただく事になっております。
 その結果、公開不可となった映像はその場でデータを消去しておりますので、どうぞご安心を。


 さてさて……ただいま、お約束した午前9時。
 寝室にお邪魔させていただきました、定点カメラを見てみましょう。
 いや、まだ安らかな寝息を立てていらっしゃいますね。
 その寝顔が何とも言えず可愛らしい――え、なんです、ここはカット? 残念ですが仕方がありませんね。

 ――午前10時――

 えー、まだ起きる気配がありません。
 事前のインタビューによりますと普段は早寝早起き、規則正しい生活を心がけていらっしゃるという事でしたが……父上がご不在の隙に命の洗濯という事なのでしょうか。

 ――午前11時――

 あっ、定点カメラに動きがありました!
 胡桃さん、ようやくお目覚めのようです!
 朝に弱いのでしょうか、朝と言うには遅すぎる気もしますが、暫くぼんやりと天井を見つめたり、寝返りを打ったり、ごろごろだらだらしています。
 起き上がるのも面倒、しかしまた寝るのも面倒といった様子です。
 しかしここで動きがありました。
 ひくひくと鼻を動かした胡桃さん、のそのそと起き上がり、スリッパをひっかけ、パジャマのまま部屋を出て行きます。
 カメラも後を追ってみましょう。

 ぺたぺたとやる気のなさそうな足音を響かせながら、やって来たのはリビングルーム。
 テーブルの上にはトーストとスクランブルエッグ、野菜ジュースが用意されています。
 今日この家には胡桃さんの他には誰もいない筈、これは父上が出かける前に用意して行ったものでしょうか。
 いいえ、お待ち下さい……湯気です、トーストとスクランブルエッグから湯気が出ています。
 ということは、それは出来たて作りたて。
 一体誰が用意したのでしょう。
 お断りしておきますが、番組のスタッフではありません。
 そしてこの謎を解きたくても、カメラはご本人がいらっしゃらない部屋には入れないのです、ああ無念!
 しかし胡桃さん、その怪現象に全く驚かず、さも当然のように受け入れているご様子です。
 この家ではこれが日常なのでしょうか。
 何も気にせず、当たり前のように食べて――ただし食欲はあまりない様子ですが……おや、ここで何か探し物でしょうか。
 ぱたぱたと手で顔を仰ぐ仕草をしながらエアコンを見つめ、その視線をテーブルの上に落とします。
 どうやらエアコンをつけようと、リモコンを探しているようです。
 が、見当たりません。
 胡桃さん、だるそうに立ち上がって部屋のあちこちを探し始めます。
 ソファに置かれたクッションの後ろや、テレビのリモコンが置かれた籠の中、サイドボードの上、テーブルの下――
 しかし、どこを探しても見当たりません。
 諦めて溜息と共にテーブルに戻って来ました。
 が、するとそこに!
 なんということでしょう、最初に探した筈のテーブルの上に、リモコンが置かれているではありませんか!
 しかも、どんなウッカリさんでも見落としようがない、ど真ん中に!
 胡桃さん、まだ寝ぼけていたのでしょうか、それともリモコンがどこからともなく勝手に現れたのか――いやいや、そんな筈はありません、魔法でもない限り!
 しかし胡桃さん、慌てず騒がず驚かず、さも当然のように、それどころか現れるのが遅いとでも言いたげにそれを手にし、スイッチを入れました。
 涼しい風が吹いてきたのでしょう、エアコンの吹き出し口に向かってとても良い笑顔を見せ、リモコンをなでなでしています。
 外はそろそろ暑い盛りとなりますが、部屋の中は天国なのでしょう。

 ――午後1時――

 胡桃さん、勉強中です。
 今日は平日ですが、学校へ行く気は全くありません。
 先程まで読んでいた本を脇にどけて、今は国語の教科書を開いています。
 が、何やら不機嫌そうに眉を寄せてパタンと閉じました。
 どうやら教科書には文学作品の途中までしか載っていない事がご不満のようです。
 そう言えば先程読んでいた本も、その一部が教科書に採用されていましたが……そうですね、いくら面白い作品でも抜粋では魅力半減どころか殆ど伝わりません。
 しかし、こうして教科書の続きを自主的に読もうとする生徒は一体どれほど存在するのでしょうか。
 おっと、今度は世界史の教科書を開きました。
 年表や資料集を開いて、ノートを出して――おや、シャーペンの芯が切れているようです。
 しかしここでも気が付けば、机の上にちゃんと用意されていました。
 そう言えば先程のブランチもいつの間にか片付けられていましたが――あっ、今度は三時のおやつです!
 ほかほかと湯気を立てたふわふわパンケーキと紅茶のセットが現れました!
 一体これはどうなっているのでしょう、カメラが余所見をしていたわけではありません、なのに出現の瞬間が捉えられませんでした!
 実はこの家には、未来の科学を先取りした最先端すぎる超技術が隠されているのでしょうか。
 それとも魔法か、はたまた――幽霊の給仕でも存在するのでしょうか。

 ――午後5時――

 余り身が入らない様子で英単語の書き取りをしていた胡桃さん、案の定シャーペンを握ったままノートに突っ伏して寝落ちてしまいました。
 どうやら胡桃さん、勉強の好き嫌いが激しいようで、傍らに積まれた理系の教科書には埃が被り、もう何ヶ月も開かれた形跡がありません。
 それどころか新学期に配られてから一度も開いた事がないのでは――ああっ、今度は胡桃さんの肩にタオルケットが掛けられています!
 そして「ピピッ」というエアコンが切られた音と共に、カラカラと窓を開ける音がします。
 そろそろ夕方、涼しい風も吹いて来る頃合いですから、部屋の空気を入れ換えようという事なのでしょう。
 しかし問題は、それが全て自動で行われているように見える事です。
 カメラを近付けてみても、窓もカーテンもごく普通の作り、センサーや動力が付いているようには見えません。
 なのに何故、部屋の様子を感知して、適切に窓やカーテンを開け閉め出来るのでしょうか。
 ホラーです、ミステリーです。

 ――午後7時――

 胡桃さん、もぞもぞと動き出しました。
 突っ伏していた顔を上げ――額と頬が赤くなり、皺が刻まれています。
 ノートにはヨダレの跡も……あっはい、ここはカットですね、心得ております、はい。
 と、ノートと教科書が消えて、代わりに夕食が現れました。
 ご飯に味噌汁、おかずには和風のあっさりしたものが少々、いずれも食欲を刺激するような工夫が施されているようです。
 やはり何も気にせず黙々と食べる胡桃さん、食が細いにも関わらず残さず食べているところを見ると、この幽霊給仕はよほど彼女の好みを知り尽くしているのでしょう。
 ええ、もう良いです、この家には幽霊の給仕がいるんですよ、それもとびきり優秀な給仕が。
 食べ終わった食器が忽然と消えるのも当然、頃合いを見計らって絶妙なタイミングでお風呂の用意が出来ているのも当然、湯加減が丁度良いのもこれまた当然。
 風呂上がりに冷たい麦茶が用意されているのもまた至極当然ですよ。
 勿論、起きた時にはぐちゃぐちゃだったベッドがシーツを交換され、掛け布団は陽に干されてきちんと整えられている、なんて事があっても、もう驚きませんとも、ええ。

 ――午後9時――

 のんびりTVを見ながら麦茶を飲んで、いつの間にか手元に置かれていたフルーツゼリーを食べたら、そろそろおねむの時間です。
 ソファから立ち上がった胡桃さん、大きくひとつ伸びをしてから寝室に――と、その前に。
 キッチンに寄って何かを作っています。
 コップに何かを一滴たらしました、あれは「にがり」でしょうか。
 続いて冷蔵庫から麦茶のポットを取り出して、コップに注ぎます――ああ、そういえば麦茶ににがりをほんの少し入れると、ただの麦茶が熱中症対策用のミネラル麦茶になると聞いた事があるような。
 胡桃さん、それを自分で飲むのかと思ったら、どうやらそれは幽霊への差し入れであるようです。
 今日も一日ありがとう、お疲れ様、という事でしょうか。
 幽霊も熱中症にかかるとは寡聞にして存じませんが、これは仏壇やお墓にお供え物をするのと同じ感覚と思えば良いのでしょう。
 それとも、幽霊給仕は実は幽霊ではなかった、とか――?


 ともあれ、本日最初にして最後の「仕事」を終えられた胡桃さんは、そのままベッドでおやすみなさい。
 それではカメラも、ここでおいとまさせていただく事にしましょう。
 取材の様子は30分番組に編集の上、後日ゴールデンタイムに放送される予定になって――

 え?
 放送中止?
 え?
 ご本人からの中止要請?
 お父上には見られたくない、と?

 そんな、せっかく取材したのに――!!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 
【ja2617/矢野 胡桃/ぐーたら主人】
【ja1969/三瀬 無銘/ちゃんと忍んでる忍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

ぎりぎりまでお待たせし、申し訳ありません。
相方さんの登場禁止、及び第三者視点でということで、このような形にしてみました。
イメージの齟齬などありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

では、お楽しみ頂けると幸いです。
野生のパーティノベル -
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エリュシオン
2015年09月14日

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