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『 遭難!? そうなんです!!(Side:B) 』
ミィリアka2689)&岩井崎 旭ka0234)&イザヤ・K・フィルデントka1841)&エリー・ローウェルka2576)&セレスティアka2691)&ウォルター・ヨーka2967)&フローラ・ソーウェルka3590


 某月某日。
 見上げたクリムゾンウェストの空は、見知らぬ空であった。
 それはまるで、リアルブルーからこちらの世界に流れ着いて来た者が初めて目にした大空のような。
 青く澄み渡り、風も無く、無駄なものもなく、そして雄大であった。
 目の前には真っ白な砂浜に打ち寄せる、美しい波打ち際。
 その先に広がる大海原はどこまでも遥かに通じ、この世界の広大さを物語っていた事だろう。
 燦々と降り注ぐ太陽は、記憶に残る暗雲が嘘であったかのように世界を照らし、波間に照り返す輝きが、散りばめた宝石のように美しかった。
 なんと素晴らしい光景、景色に心も奪われるというものだ。
 ――普通であれば。
「ええと……予定通り、南のパラダイスに到着です!」
 場の空気を取り持つかのように口にしたエリー・ローウェル(ka2576)の言葉で、きらめく海を遠い目で眺めていた十数人のハンター達ははっと我に返った。
「青い空、綺麗な海、最高のロケーションで何も言う事なしですねえ」
 そう、ケラケラと笑みを浮かべながらウォルター・ヨー(ka2967)がエリーに続く。
 とは言えどちらかと言えば彼の言葉は、気を取り直して〜といった感じのエリーのそれよりもどこか状況を楽しんでいるかのような様子。
 確かに彼の言うとおり、ロケーションは完璧であった。
 エリーの言葉を借りれば、まさしくパラダイス。
 ただ、問題が一つだけあったのである。
「で……結局の所、ここはどこなのでしょう?」
 そう、平坦な口調で語るフランシスカ(ka3590)に、ハンター達は一斉に改めてその現実を直視する事となったのである。
 事はそう……果たして何日前の事なのだろう。
 ことこの状況となってはそれすらも定かでは無い。
 いつも談話室に集まるメンバーで海に遊びに出かけていた彼らは、船で最近人気だという観光ビーチへと向かっていたその道中であった。
 突然の嵐に見舞われ、あえなく荒れ狂う海に身を投げ出される。
 そこから記憶を無くして、ふと気がつけば、今のこの状況である。
 水平線の果ての、どことも分からぬ島の海岸にポツリと立ち並ぶハンター達。
 大海原には船影も無く、ただただ悠久に時間だけが流れ過ぎていた。
 正直、話がぶっ飛びすぎて状況を飲み込めていないような人達も居るであろうその中、海に投げ出された全員が全員、同じ場所に漂着したという事だけでも奇跡。
 もっとも、荷物もほとんど波に飲まれてしまったようだが……
「あらあら……困りましたねえ。とりあえず、助けが来るまで野宿でしょうか」
「マジか! でもまぁ、皆一緒ならなんとかなるか……?」
 さも当然のように出たセレスティア(ka2691)の「野宿」と言う言葉に、岩井崎 旭(ka0234)がピクリと反応を示していた。
 実際の所、船も無ければ帰る手段も無いわけで、助けが来るのを待ち続けなければならない事は避けられない状況であったのだから。
 それでも、奇跡的に皆一緒と言うだけでどこか安心もできると言うもの。
 とりわけ、リアルブルー出身のハンターであれば遭難はこれに始まった事ではないのだ。
「四の五の言っても仕方ない、わね……落ち着いて、今を受け入れないと」
 金刀比良 十六那(ka1841)は自分に言い聞かせるようにそう口にして頷くと、手ごろな流木を1本手に持ち、白い砂浜に突き立てる。
「とりあえず、一番大事なのは水よね。この森の先に、水場でもあれば良いのだけれど……最悪、海水から作るしか無いかしら。なんとか、蒸留設備を整える必要はあるけれど」
 砂浜の上に「水」と一言書いて、大きくぐるりと円で囲む。
 チラリと視線を向けた島の先には、鬱蒼としたジャングルのような密林が広がっており、ここからではその入り口の先も見えない様子。
 海岸の周囲は岩場に囲まれているものの視界一杯に広がった森から見れば、この島は結構広いようにも見え、ここからその全体像を把握するのは不可能であった。
「水と来たら、次は食料だよね。こう言うときはやっぱり……狩り?」
 その隣に大きく「食べ物」と書き記したミィリア(ka2689)。
 最後の言葉を口にしながら、その瞳は太陽を照り返す波間のようにキラキラと光り輝いていた。
「まー、これだけ鬱蒼とした森があるなら何かしら食べられそうなものは生えてるよな。きっと。俺、そう言うのは得意だぜ?」
「あたしはまぁ、せっかくの海なら魚でも狙ってみますかね」
 腕を組んで密林に視線を這わせる旭とは対照的に、海のほうへと視線を向けるウォルター。
「んなこと言って、サボるんじゃないだろうな〜?」
「そ、そんなわけがありやせんよ?」
 ジト目で聞き返した旭に、ウォルターは魚のように泳ぐ目で口笛を一つ。
 決して、海が綺麗だから早く遊びたいとか、そんな気持ちがあるわけではない。
 断じて無い。
 きっと。
「私達が食材探しに出ている間、あちらでとりあえずの拠点の準備をしてくださるそうですよ。採って来たもので調理もしてくださるみたいです」
 ハンターの輪の中から帰ってきたセレスティアが、ほんわかとした様子で微笑んだ。
 コレだけ人が居るのだ、できる作業は分担してやろうと、そう言うことらしい。
「彼氏さんとはご一緒でなくても」
「こう言う状況ですから適材適所ですよ。岩井崎くん達だってそうしてますし。それに……信じてますから」
 フランシスカの問いに、セレスティアはやんわりと答えると眩しい笑顔を見せる。
「じゃあ密林探検、張り切っていってみよう!」
 輝かせた瞳そのままに、大腕を振って歩き出したミィリアを先陣にしてハンター達は未開の森へと足を踏み入れて行くのであった――
 

 足を踏み入れた密林は、強い日差しの当たる海岸線とはうって変わってひんやりとした空気に包まれていた。
 入り口の付近こそ潮風で木々が揺れる事もあったが、奥へと進むにつれて次第に勢いは弱まり、ついにはそよ風1つ吹くこともなくなっていた。
 シンとした静寂の森の中に、ガサリガサリと木々や鬱蒼とした雑草を掻き分けて進む5人の影。
 時折聞こえる、鳥のような小動物のような、聞いた事も無い生き物の鳴き声が頭上を木霊する。
 獣道はあっても人の敷いた道のないその熱帯の密林は天然の迷路のようなものである。
「これ、見たこと無い植物だけど……食べられるかしら?」
「どうだかなぁ……喰えるヤツに似てる気もするけれど、実際喰ってみないとなんとも」
 目の前の木の幹を這う蔦に成った赤い果実をつつきながら、十六那と旭はうんと首を傾げる。
 密林は、生い茂る木々の存在が示すが如く生命の宝庫であり、少し歩くだけでもさまざまな植物や実を目にする事が出来ていた。
 怪しげな色をしているものもあるが、今は大事な食料。
 見てくれよりも「食べられる」というその一点のみを重視して、探索は行われてゆく。
「いっそのこと舐めてみるか? 毒があっても舐めたくらいじゃ実害は無いだろう。舌は痺れるかもしんねーけど」
 実際にキノコ等の毒を見分けるために行われる方法のひとつらしいが、流石に多少気は退ける。
「とりあえず摘んでだけいきましょう。毒なら毒で、使い道もあると思いますし」
 横からエリーがプチリと果実を毟り取ると、捲りあげた服の裾に放り込む。
 既に大きく膨らんだ裾の中には、様々な種類の実やキノコなんかが雑多に放り込まれていた。
「大分集まりましたね。一度海岸に戻りましょうか?」
 同じように上着の裾を袋にしたセレスティアは、ずっしりとしてきたそれを見ながら問いかける。
「そうね。あいにくコッチの方面には水源は無いようだし……海岸から離れすぎる前に、別の方向を見ておきたいわね」
 来た道を振り返り、十六那もまたその提案に同意を示していた。
 既に波の音も聞こえなくなって久しい。
 見知らぬ土地で、天然の迷路の中、行く当ても無くさまよい続ける事はあまり褒められた事では無いであろうから。
「ん……? いや、ちょっと待ってくれないか?」
 一行が元の獣道を引き返そうとしたその時、不意に旭が道の傍らにしゃがみこんでいた。
「どうしたでござるか?」
 興味を持ったミィリアが同じように腰を屈めて、彼の手元を覗き込む。
 視線の先にあったのは、丸い泥団子のようなものの塊。
「こりゃ、動物の糞だな」
「フン!?」
 ミィリアは思わず飛びのくも、すぐにまたおそるおそる肩を寄せた。
「あんまり乾いてねーし、最近のものかも……近くに居るかもな」
 生き物の痕跡を前に、うんと腕組をしてそれが「何」のものであるかを考える。
 糞のサイズからして比較的大型。
 もちろん哺乳類。
 単一個体のものである所を見れば群れるような生物ではなく、個別にひっそりと暮らすような種類。
「――それはもしかして、彼の事でしょうか」
 不意に、フランシスカの抑揚の無い声が響き渡る。
 その声に弾かれたように、彼女の視線の先を追う旭達。
 ジャングルの茂みの中、小さく開いた草木の隙間から、怪しく光る眼が2つ。
 「彼」は荒い鼻息の音を立てながら、ゆっくりと、茂みから姿を現したのだ。
 ずんぐりとした体に短いながらも発達した脚。
 口からは大きな牙が2本、天に向かって生え、丸い鼻からは蒸気が目に見えるほどに熱く荒い息が吐き出される。
 それは巨大な――イノシシであった。
「こ、こう言うのはちょっと……想定外ね」
 引きつった笑みを浮かべながら、じりりと半歩後ずさる十六那。
「あらあら……どうしましょう?」
「どうしようったってそりゃ……逃げるんだよ!」
 眼前に現れた人間大はイノシシを前に、旭の声で弾かれたようにしてハンター達は来た道を引き返す。
 それに呼応するかのようにして、イノシシもまた大きな雄叫びを上げて突進してくるのだ。
「――って、なんで逃げるの!? 戦えば良いよね!」
 急ブレーキを掛けて迫るイノシシに対峙するミィリア。
 精霊への祈りを捧げ、いざ覚醒――しようとするも、何も起こらない。
「え、あれ? なんで?」
 慌てふためく彼女を前に、イノシシは一層怒り狂った様子で牙を大きく振りながら、その眼前へと迫り行く。
「い、一時撤退!」
 切り替えは素早く、結局先行くみんなの姿を追って、獣道を駆け出していた。
「何で追って来るのよ、もう!」
 息を切らせながら、そう悪態を突く十六那。
「もしかして、コイツの臭いに惹かれてるとか……?」
 旭は懐に抱えた木の実達に視線を落とした後に、背後のイノシシへと視線を投げかける。
 臭いに釣られてやって来ているのではないか……その思考に至るのは必至である。
「そう言うことなら、貴重な食料ですが……えいっ!」
 セレスティアが、自分の持つ木の実を1つ、後方へと投げかけた。
 木の実はコロコロと獣道を転がり、イノシシの方へ。
 イノシシは寄って来る木の実を前に、大きく飛び跳ねると――着地と同時にそれを踏み潰していた。
「悪い、どうやらコレも違うらしい!」
 咄嗟に謝った旭であるが、他の者達も流石にツッコむまでの気力は残っていなかった。
「ええい、こうなったらヤケでござる! 覚醒できようが出来なかろうが! 武器があろうがなかろうが! ミィリアが懲らしめてやるんだから!」
 痺れを切らしたように、もう一度急停止してイノシシへ対峙するミィリア。
 足を踏みしめ、大きく手を広げ、その突進を待ち構える。
「さぁこい! 逃げも隠れもしないよ!」
 突っ込んできたイノシシの2本の牙をそれぞれ手で掴み取ると、真正面からその勢いと対峙する。
 勢いで後方へ押し込まれながらも、脚に力を込め、真っ向から勝負。
「な、なかなかやるね……でも、ミィリアだって伊達に死線を乗り越えていないんだから!」
 いつしか拮抗した2人の力に、まるで鍔競り合うようにその姿が硬直する。
 一瞬でも力を緩めた方が押し込まれる。
 ミィリアも、そしてイノシシもまた、野生の感でそれを感じ取っていた。
「お手伝いします! これ、お願いします!」
 一杯に抱えた果物や野菜をセレスティアに受け渡し、エリーが駆ける。
 背の低いミィリアの背後から追いかぶさるようにして、同じくイノシシの牙をつかみ込むと、勢いをそがれてなお強靭なイノシシのパワーが直に伝わってくるのを感じた。
「ミィリアちゃん、せーので行きますよ!」
「わかったでござる! せぇぇぇのぉぉぉ!」
 同時に、2人の脚が強く大地を蹴る。
 否、それはより強固に足場を固めるための「シコ」。
 足場を、体勢を整えて、全身に力をこめる。
 ぐらりと、イノシシの巨体が揺れた。
「「チェェェェェストォォォォォオオオオオ!!」」
 掛け声と共に、一気にイノシシの巨体を振り投げるミィリア。
 否、どちらかと言えば転ばせた程度であるが、それでも、彼女の小柄な体からすれば投げるといって差し支えは無いだろう。
「フラン、お願い!」
「分かりました」
 立ち上がろうともがくイノシシを前に、ゆらりとフランシスカの影が揺れる。
「命は巡ります、私達の重要なタンパク源になってください」
 そう告げるフランシスカの下、イノシシが震える瞳で最後に見たのは振り下ろされる彼女の手斧の鈍い輝きであった。
 
 一方その頃、海岸の岩場でウォルターは一人水着に着替え、元気に準備運動としゃれ込んでいた。
「いやぁ、奇跡だね。たまたまボクたちの水着だけ流れ着いてるのを見つけたなんて」
 拠点を作りながら、他の漂流物が無いか探していた海岸のハンター達が見つけたらしい。
 なぜが水着だけが漂着してぷかぷかと波打ち際に浮かんでいるその様子は、奇跡とも奇妙とも言いきれない、なんともいえない光景であったと聞く。
「さて、それじゃあひと泳ぎ――じゃなかった。浜辺のヌシでも目指して、いっちょ頑張りますかっと」
 ザブンと白い波を立てて、彼の体は澄んだ海の中へともぐりこんでいた。
 飛び込んですう瞬、ゴーグルから覗く景色にウォルターは目を奪われた。
 澄み切った海水は不純物が無く、空から差し込む日差しが水中を優しく照らす。
 それほど深くは無い海底には広大な珊瑚礁。
 その間には、色とりどりの魚たちが群れをなして泳ぎ回っている。
(いやぁ、綺麗だけど……流石に食べられそうには無いかな)
 小魚たちを前にそれを食料としては見ずスルーすると、より深いところへと潜って行く。
 どうせ取るならしっかりおなかに溜まるもの。
 そうでなければ……波に身を任せて、ぷかぷか海を漂うだけだ。
「あーいや、なんかもう、これでいいんじゃないかな。気持ち良いし」
 水面に浮かび上がり、青い空を見上げて漂う。
 適当に時間を潰したら、珊瑚にひっついてた貝でも持てるだけ取って帰ろう。
 今はもう少し、この心地よい波の音と雲の流れを眺めていたいと、そう思うのであった。
 

「はー、おなかいっぱい!」
 パンパンに膨らんだおなかを叩いて、ミィリアは砂浜に身を投げ出していた。
 食事当番のハンター達がこしらえたのは、ミィリア達が手に入れてきた食材を使った、大雑把なバーベキュー。
 調味料も何も無い遭難生活だ、とりあえずは火を起こして焼くので精一杯である。
 それでも、海の塩で多少は塩気を付けて焼き上げたイノシシの丸焼きや、甘い果物はそのお腹と心を満たすのには十二分な役目を果たしてくれた。
 加えてどこから拾ってきたのか鉄製の鍋で煮込まれた、潮鍋の貝スープもペコペコのお腹には染み渡るものであった。
「なぁ、ウォルター。あのグニグニしたナマコみたいなの、いったいなんだったんだ……? というか、喰ってよかったのか?」
「さぁ……とりあえず、珊瑚の合間をぐにぐに動いてたんで取ってきた次第でありやすよ」
 満足げな女性陣とは一変、どこかどんよりとした雰囲気の男性陣。
 ウォルターが海で取ってきたと言う謎の軟体生物を、とりあえず鍋にぶちこんで、とりあえず塩で味を付けて、とりあえず食ってみたら、とりあえず美味しくなかったらしい。
 ナマコやホヤのように分かりやすい海の味でもすればそれはそれで美味しいのだろうが、こう、中途半端にタンパクで、中途半端に潮の味がして、かといってしょっぱい訳でもなく、甘いわけでもなく、なんと言うか、全てにおいて中途半端の味であったそうな。
 あと、焼いたくせにグニグニとグミのような食感が歯にまとわりついて、どこかゼラチンのような食感もあって、顎に嫌な感覚が残っているらしい。
 そんな食感を忘れるべく、がつがつと焼きイノシシの肉にかぶりつく男達。
「んまい! しかしフランよー、獲物持ってたんならもう少し早く出して欲しかったぜ」
 大きな肉の塊を食いちぎるようにしてほお張りながら、旭は海を眺めるフランへと視線を投げかけていた。
「それは、皆さんが逃げてましたので、ここはそういうものかと」
「いや、まあ、それは反射的にな……」
 実際の所、あの時覚醒できなかった理由はよくわからない。
 ただまあ、今の所支障は無いのでそれは頭の隅に置いておくことにした。
「そう言えば、水着が流れ着いていたんですよね? せっかくですし、ひと泳ぎしませんか?」
「さんせーい! 食べた分のカロリーは消費しないと! あっちの人達にも伝えて来ますね!」
 セレスティアの提案に、エリーががたりと立ち上がってうんと身体を伸ばして食事の後始末に掛かるグループへと掛けて行く。
 予定は狂ってしまったが、もともとバカンスのつもりで来たのだ。
 こんな素晴らしいビーチを前に、はしゃがなければウソである。
「じゃあ早速着替えに行こう! ほら、十六那も!」
「わ、私はこれだけやってから。飲み水の確保は大事だもの」
 バーベキューの残り火で海水を蒸留している十六那の袖をひっぱって、ミィリアがずるずると連れ立とうとする。
「行ってこいよ。それくらいなら俺達が見てるぜ?」
「じゃあ、あたしも一緒に……」
「ウォルターは俺と一緒に水の番な。っていうか、付いて行くにしても全く自然じゃねぇよ! そもそもあんた、もう水着じゃねーかよ!」
 旭の激しい突っ込みに「じょ、冗談ですよ」とたじたじながらも、どこか心残りありそうな様子のウォルター。
「ほら、旭達もそう言ってくれてるし、ね!」
「わ、分かったから、袖、ひっぱらないで。服もコレしか無いんだから」
 こちらもまたたじたじと言った様子で、十六那はミィリアへと連行されてゆくのだった。
 

 青い海、白い砂浜。
 遭難と言う状況は抜きにして、ロケーションは最高。
 太陽もまた、自分達を祝福してくれているかのように燦々と空に煌いている。
「いっちばーん!」
 駆け出した砂浜から、ジャバジャバと海に突撃するミィリア。
 その後に続いてエリーとセレスティア、そして他の女性陣達も海水へと飛び込んだ。
「つめたーい! 最高ですね!」
 降り注ぐ太陽光こそ熱いものの、脹脛くらいまで浸った海の水はひんやりと身体の熱を奪い取りる。
 両手で掬い取って空に放り上げると、キラキラと光る水滴となって頭上から降りかかり、それがまた気持ちいい。
「ほんと、こんな状況でさえなければね」
 波打ち際に座り、十六那はちゃぷちゃぷと押し寄せる波に手を浸す。
 それだけでも実際気持ちのよいものであったが、なんと言うかこう、海に飛び込んではしゃぐ皆ほど気乗りはしていなかった。
「イザヤさんとフランさんもコッチに来ませんか〜?」
 遠く、手を振るセレスティアに小さく手を振り返して、それでもなおちゃぷちゃぷと波と戯れる。
「フランは、セティ達の所に行かなくて良いの?」
「私、泳げませんから」
 同じように海岸に立ってくるぶしまで押し寄せる波に身を任せながら、遠く水平線を眺めるフランシスカは、それが唯一最大の答えだとでも言いたげに短くそう答えた。
「でも、この水着というものは良いですね。動きやすくて涼しいです。辺境部族の恰好に近いものがありますね」
「まあ、用途は違うでしょうけどね」
 言葉を返すも、それからしばしの間。
 波の音と、はしゃぐ女性陣の黄色い声が遠くこだまする。
「この海の先に、私達の街や王国があるんですね」
 不意の言葉に、十六那は驚いたように顔を上げた。
 フランシスカは相変わらずの無表情で、それでもどこか全てを見通すような視線でじっと海の先を見つめていた。
「世界は、広いですね」
「……そうね。でも――」
 みんなと一緒なら、どこに行っても大丈夫。
 そんな言葉が喉から出掛かって、十六那は慌てて口を噤む。
 言葉は飲み込むように、自分の心に仕舞い込んでいた。
「おーい! 漂着物にビーチボールあったんですけど、皆でやりませんかー! 浅瀬なら、泳げないフランちゃんでも遊べると思うんですけれど!」
 どこから流れて来たのかビーチボール片手にブンブンと手を振るエリーを遠く、先ほどもそうしたように手を振り返すと十六那はすくりと立ち上がって、お尻についた砂を両手で払った。
「行きましょうか、皆が呼んでいるし」
「はい」
 フランシスカもまた抑揚無く頷くと、じゃぶじゃぶと波を掻き分けみんなの待つ方へと駆けて行くのであった。
「いやぁ、いい眺めですねぇ。眼福眼福」
 そんな婦女子達のはしゃぎっぷりを遠目に、ねっとりとした視線を投げかけるウォルター。
 その頭を、ゴツンと旭の鉄拳が捉えていた。
「いったたた……何も殴る事無いじゃありやせんか!」
「妙な色眼鏡で皆の事を見てるからだろーがっ」
 ぷっくりと膨れた頭を手のひらで摩るウォルターに、一喝。
「それに、俺のモンに手を出したらただじゃおかねーからな」
 ふんと腕を組んで鼻を鳴らすと、遠く皆と戯れる婚約者に視線を配る。
 彼女が手を振ってくれたように見え、こちらも手を振り返してみせた。
「おー、妬けますねぇ。ご馳走様でやす」
 ウォルターはじっとりとした視線でからかうように見上げると、旭は慌てて小さく咳払いをひとつ。
「皆呼んでるみたいだから、行くぜ。ウォルターは行かないのか?」
「いきやす!」
 取り繕うように口にした旭に、ビシリと超反射で立ち上がり、何故か敬礼も加えるウォルター。
 本当に、調子だけは良いもんだどほとほと呆れる旭であったが……その横っ面を何かが直撃した。
 反動で、思いっきり水面にダイブ。
「な、なんだ!?」
 いや、痛くは無い。寧ろ柔らかい。
 慌てて周囲を見渡すと、ビニール製のボールがぷかぷかと周囲を漂っていた。
「油断するとは、旭もまだまだよのぅ、でござる!」
 眼前には仁王立ちでフフンと胸を張る(無いと言ってはいけない)ミィリア。
「早く来ないと、皆待ちくたびれちゃってるよ! あ、ボール持ってきてね!」
 それだけ言い残してキャッキャとみんなの方へ駆け戻るミィリア。
「やったな……こうなりゃ、本気で相手してやるぜ!」
 旭は飛び起きるように立ち上がると、浮かぶビーチボールを手に、ジャブジャブとその後を追う。
 炎天下、見知らぬ土地でのサバイバル。
 それでも、いつものメンバーはいつもの通り。
 変わらない風景が、そこには広がっていたのであった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2689 / ミィリア / 女性 / 12歳 / 闘狩人】
【ka0234 / 岩井崎 旭 / 男性 / 17歳 / 霊闘士】
【ka1841 / 金刀比良 十六那 / 女性 / 17歳 / 魔術師】
【ka2576 / エリー・ローウェル / 女性 / 19歳 / 闘狩人】
【ka2691 / セレスティア / 女性 / 19歳 / 聖導士】
【ka2967 / ウォルター・ヨー / 男性 / 15歳 / 疾影士】
【ka3590 / フランシスカ / 女性 / 20歳 / 聖導士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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のどかです、この度はご注文本当にありがとうございました。
そして、体調不良により納品が遅くなってしまい大変もうしわけございませんでしたっ。
その分、可能な限りのクオリティ向上には努めましたので、お楽しみいただけましたら幸いです。

基本的にはそれぞれで読んでいただいて問題ございませんが、せっかく連名で発注いただいておりますので、2つで1つの作品になるような形で構成をさせていただいております。
「Side:B」を出発点に「Side:A」とそれぞれ1シーン(●の区切り)ずつ交互に読んで頂くと、良い感じに時間の流れに沿ってお楽しみいただけるようになっている……ハズです!
きっと!

長くなりましたが、改めましてこの度はご注文ありがとうございました。
是非機会がございましたら、またのご縁をお待ちしております。
野生のパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2015年09月15日

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