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『 下僕たちの楽しいお泊まり会 』
青空・アルベールja0732)&七種 戒ja1267)&〆垣 侘助ja4323)&ラドゥ・V・アチェスタja4504)&ギィネシアヌja5565


 夏も盛りを過ぎ、心なしか日暮れも早くなってきた。
 夜の闇に生きる種族であるラドゥ・V・アチェスタにとっては、一日が長くなった、というところか。
 久遠ヶ原島の中央から少し離れた静かな一角に、彼の邸はあった。
 開け放した窓からは蜩の声が届き、流れ込む風も微かな秋の気配を纏っている。だがまだ庭園の土は昼間の熱を溜めこんでおり、温かく生気に満ちた水の匂いが鼻孔をくすぐった。この屋敷の庭師である〆垣 侘助が、夕刻の水やりに勤しんでいるらしい。
「精の出ることであるな」
 庭師の働きぶりをそう評し、静かに窓辺から離れる。
 そこに青空・アルベールからの連絡が入った。
「あ、起きてたかな? ちょっと相談なんだけど、今度皆で泊まりに行ってもいいかなー?」
 賑やかな明るい声が語る言葉に耳を傾けるうち、ラドゥはほんの少し口元を緩めた。
「何事かと思えば斯様な用件か。態々了承を取る程の事でもない、好きにせよ」
 そう答え、暫く後に通話を終えると、ラドゥは形の良い顎に手をあて暫し考え込む。
「とはいえ、朝食ぐらいは用意してやらねばならぬか」
 ひとり呟くと、彼にとっての朝食、つまりは一般的には夕食に何をふるまってやろうかと、楽しい考えにふけりつつ。皆が泊まる為の部屋の掃除に取り掛かる。

 通話を終えた青空は忙しかった。
「何をしようかな、何を持って行こうかな。うん、みんなの都合とか希望とかもきかないとだな。みんな喜ぶと思うのだー!」
 そして次々と仲間に声をかける。
 まだ天魔の動きは激しく、いつ出動要請があるかも判らない状況だ。それだけに夏季休暇とはいえ、あまり遠くへ遊びに行く気分にもなれない。
「それでも今年の夏は今年きりなんだし。何か楽しいこと、少しいつもと違う過ごし方をな、したいよなって!」
 思いついたが吉日、主に電話すると即座に快諾。
 こうして『吸血鬼の館、一泊二日のお泊まり会』が実現することとなった。
 これはもう一刻も早く、皆に知らせる必要がある!
 青空は早速、連絡を取り始めた。
「あ、なたねえ! 今、主殿にお電話したのだけど……」
 電話の向こうで七種 戒の絶叫と物の倒れる派手な音が響いた。
 どんな予定があっても間違いなく、参加するだろう。
 続いて。
「あ、ネア? あのね、今……」
 電話の向こうでギィネシアヌの以下略。
 こちらも確実に予定は開けて来る。
「あとは、と……」

 霧のように優しく地面を濡らして行く水の行方を目で追いながら、侘助は通話ボタンを押した。
「どうした、青空」
 青空が語る内容に耳を傾け、侘助は頷く。
「ん……なら俺も、構わないだろうか。ああ。ああ、わかった」
 電話を終え、改めて広い庭園を見渡した。
 少しずつ夜の色に塗りこめられていく、彼が手塩に掛けた庭。
「……夜にはどんな風に見えるのか、そういえば見たことはなかったな」

 こうしてメンバーが確定したのである。



 そして当日。ラドゥが起きる時間を見越した集合時間に、侘助を除いた下僕三人は門前に集まった。
「ついに我が君の館にお泊りなのだ! 遅刻するわけにはいかないからな!」
 ギィネシアヌはパジャマを入れたリュックを背負って、三十分前ぐらいには到着していたらしい。
「お泊り……お泊り……主殿のお屋敷をたんのうするべく徹夜に備えてがっつり寝るか、主殿のお屋敷のベッドをたんのうするべくがっつり徹夜してお邪魔するか迷った結果、昨夜は一睡もできなかったんだぜ……」
 という状態で、意味不明なことを呟き続けているのは戒である。大丈夫か、色んな意味で。
 青空はニコニコしながら、ふたりを見ていた。
「楽しみだよなー! んじゃこの呼び鈴を……」
「待つのだ!! まだ心の準備が……」
「俺が押すのである!!」
 戒が青空の腕を抱え込んだ隙に、ギィネシアヌがダッシュで呼び鈴に手を伸ばした。
「あああーーー!!!!」
 戒の絶叫を後に、ギィネシアヌは飛びはねるような足取りで門内に駆けこんで行った。

 アプローチの両側には綺麗に整った低い植え込みがあり、その向こうには柔らかな緑の芝生が広がる。周囲には薔薇のゲートや、自然に見える形に植え込んだ黒みがかった赤い矢車草、ジギタリス、その他名前のわからない大小様々な花が揺れていた。
「侘助ー!」
 青空が手を振ると、花の中からぬっと侘助が立ち上がった。
「ああ、もうそんな時間か」
 手には摘み取った花ガラや剪定した小枝を持っている。
「庭師殿ぉーーー!! きみも今日はお泊りか!?」
 何故か益々テンションを上げる戒。今にも植え込みを飛び越えんばかりだ。
 だが侘助は相変わらず表情を変えず、すぐに作業に戻ろうとする。
「つれないのもまたよいものだ……」
 戒が噛み締めるようにして呟いた。そして植え込みを蹴り飛ばしたら怒られると思いだして、ひとまず大人しくなる。
 青空はさらに声をかける。
「まだお仕事中だったかー。お手伝いしようか?」
「いや、大丈夫だ。もう少し片付けてから行く」
 言葉少なではあるが、青空にとっては気心の知れた友人のこと、その気性は良くわかっている。
「うん。では先にお邪魔して待ってるのだ!」
 ひとまずは別れる。侘助が仕事に情熱を傾けているのだから、そこを邪魔するのは野暮というものだ。

 一方、玄関に辿りついた戒とギィネシアヌは。
「主殿! ほんじつわおひがらもよく!!」
 目をキラキラさせた戒は挙動不審だった。無意味に前後左右に動き回り、はしゃぎまわる大型犬のようである。
「我が君には邪魔でなければいいのであるが。今日はおしぇわ、あいや、お世話に……」
 噛んだ。ギィネシアヌも流石に緊張と興奮で平静ではいられないらしい。
「良く来たな。大したもてなしは出来ぬが、好きに過ごすと良い」
 そんなふたりに、いつも通りの悠然とした態度でラドゥが応じる。
「おじゃましますぅううううう!!!!」
 踵を返したラドゥの後を、戒とギィネシアヌが互いを押しのけるようについて行く。


 通されたのは居間だった。
 落ちついたアンティーク風の家具が並び、上飾りのついた分厚いカーテンが高い窓をすっぽりと覆い隠している。いくつもの燭台で蝋燭が揺れ、幻想的な陰影を作り出している。
「ふおー、なんだかカッコいいのだ!」
 青空が素直に感想を述べた。良く遊びに来ている屋敷なのに、今から泊まるのだと思うとなんだか違って見える。
「好きなところに座ると良い」
 そういって一度部屋を出たラドゥが、暫くして戻ってくる。手には大きなお盆を持って。
 そしてクロスを敷かれたテーブルの上が、あっという間に賑やかになる。
 色とりどりのカナッペ、ケチャップたっぷりのパスタ、胡瓜のサンドイッチ、ショートブレッド、その他諸々。手軽に摘めるような様々な料理が並ぶ。
 なんだかんだでサービス精神旺盛なラドゥだ。
 ギィネシアヌは後を追ってキッチンに辿りつき、おずおずと声をかけた。
「我が君、お盆を運ぶぐらいは俺も手伝えるのぜ」
「そうか。では皿を割らぬように気をつけるが良い。怪我をしてはつまらぬゆえな」
「うむ! 気をつける!」
 嬉しそうにお盆を受け取り、ギィネシアヌは張り切ってお盆を運ぶ。
「でわ私はデザートでも作ってしんぜよう。おっ、こんな所に都合よくオレンジが……って何ィっ!?」
「切って皿に盛っていけばいいな?」
 侘助が戒の手を掴んでいた。
「いやいやここはひとつ、私が腕をふるってコンポートなどをだね……」
「主が既に食卓を整えている。待たせるのか?」
 残念ながら、そう言われると反論できない。こうして侘助は戒の魔の手からオレンジを救い出したのだった。



 食卓は大いに賑わった。皆の健啖ぶりに、ラドゥも満足そうに頷く。
 そうしてお腹いっぱいになった後は皆で片付け、後はゆったりおしゃべりを……というだけで済むはずもなく。
「なにか、なにか主殿とあそびたい……!」
 戒がお皿を拭く青空の背後から覆いかぶさる。
「直接言ってしまえばいいと思うけどなあ?」
「そこは察してくれまいか。直接はちょっと恥ずかしいってゆう、こう、可愛い乙女心だろ?」
「えーと……」
 答えに困り、流石の青空もちょっと複雑そうな表情になる。

 まあそれでも一応、それとなくラドゥに話を向けた。
「遊びか。カードぐらいしかこの家には置いておらぬが」
 トランプの事である。
「トラ……いや、カードか。ではここはポーカーでもどうだね」
 精一杯のキメ顔で戒が提案する。
「私が勝ったら、明日まで皆は私の事を清純な戒様と……」
「必要ならばディーラーを担当してやろう。但し賭けるのは無しだ」
 ラドゥがカードをシャッフルしながらそう言った。
「主殿ォ……!!」
 くずおれる戒。
「賭けは禁止なのか……」
 ギィネシアヌがちょっと困った様な顔で言った。
「プリンを作ってきたのだ。勝者にプレゼントしたいと思ったのだが」
「プリンか。それならまあ良かろう」
「有難う、流石は我が君!!」
 まあ青空がプリンが好きだからという理由は大きいが。ギィネシアヌの目論見は、ラドゥや侘助がプリンをつつく様を見てみたいというところにもあったりするのだ。

「配るぞ」
 ディーラーのラドゥがカードを卓に滑らせる。
「では本気出して行くぜ!」
「よーし、負けないからな!」
 ガバッと飛びつくギィネシアヌと青空、何処かの映画で見たような仕草でちらりと手札をめくる戒。
「交換四枚!」
 ギィネシアヌの勝負は大技だ。数字の小さな手札は不要なのである。セコい手で上がることをよしとしない(自称)魔族としての心意気である。
「えーと……私は三枚を交換なのだ」
 青空はいつも通りの笑顔を崩さないので、手が悪いのかどうか全く分からない。
 だが複雑な思考をしている訳ではなく、とにかく運が良ければ手ができるだろう位の遊び方だ。
「一枚だけ交換で……」
 戒は流し目で言った。そして互いの手を開くや否や、吠えた。
「っしゃーーーー! つーぺあ!!!」
 三と五のツーペア。物凄く安上がりである。
 だがポーカーの場合、それでも他に誰も上がらなければ勝ちなのだ。
「残念なのだ……!」
 青空は交換でもう一枚くれば嬉しいな〜という狙いのワンペア。
「まだまだ勝負は終わっちゃいねえぜ!」
 ギィネシアヌは潔くノーカード。ちなみに残した一枚はスペードのAだった。
「よし、もう一度!」



 皆がポーカーに興じる間に、侘助は庭に出ていた。
「成程。夜にはこんな風に見えるのか」
 月の光の元、手入れした庭は影絵のようだった。
 普段はラドゥが起きるのとほぼ入れ違いに帰宅する為、この光景を見たのは初めてだった。良く考えてみれば、この館の主が庭を見るのは夜である。今回の誘いを受けた一番の理由は、夜の庭を見るためだった。
 見上げれば主の部屋。あの部屋から庭を見下ろし、何を思うのか。
 侘助が草木意外に心を動かされるのは、この世でたった二人。昼の光そのもののような友人と、夜空にかかる月のような主のみ。
「少しあちらを刈り込んでおくか……」
 愛用の剪定挟を持って庭を横切っていく。

 暫く作業に没頭していた侘助だったが、ふと違和感を覚えて顔を上げる。
 目に入ったのは女の顔だった。
「あ、私のことは気にせず。お仕事を続けるといい」
 気になるに決まってる。戒が侘助の作業をじっと見つめていたのだ。
「……カードをしていたのではなかったのか」
「侘助がいないから捜していたのだ! でもお仕事だったのなら仕方ないな」
 青空が懐中電灯で足元の芝生を照らす。
「ここは踏んでも大丈夫だったのかな?」
「ああ。気にするな。芝は多少踏んだ方がいい」
「よおおおし! では、憧れの!!」
 戒が唐突に芝生にスライディング。そのままゴロゴロと転がっていく。
「大草原の、ちいさな、私!」
「あ、カイ先輩ずりぃ。俺もやるのだ!!」
 ギィネシアヌも一緒になって転がった。
 よく手入れされた芝生は、夜になってもまだお日様の匂いが残っているようだった。
「ここで持ってきた花火をだな……アッ嘘です、冗談です、殺さないでください」
 侘助が大きな剪定挟をカシャカシャ鳴らすので、戒は思わず土下座する。
「……あちらに石造りの部分がある。辺りに飛ばさないように気をつけろ」
「〆垣先輩有難うなのだー! 花火、花火だぜ!!」
 ギィネシアヌが戒を引きずって走っていった。

 闇に光がはぜる。
 それはラドゥの私室からもよく見えた。
 赤や青や緑の光が踊り、弾けては一瞬で闇へと消えていく。
 ――それは長い寿命を持つ種族から見た、人間の生涯にも似ていた。
 だがその無軌道なまでの美しさは、はかなく、そして愛しい。



 月は天空を通り抜け、西に傾きかけていた。
 青空はソファに掛けながら、前後に揺れている。
「そんなところで寝ては風邪をひこう。寝室に行きなさい」
 ラドゥに声をかけられ、眠い目をこすりながら青空はこくりと頷いた。
「もっと起きていたかったけど……そうする」
 青空が心から滲みでるような笑顔を向けた。
「ラドゥおやすみなさい!」
 家族の意味をこの主によって知った。だから、一日の終りにこう言えるのがとても嬉しい。
「お休み。良い夢を見るが良い」
 その声に送られ、寝室に向かう。そこでふと思い出し、持ってきた荷物に忍ばせた物をそっと階段の踊り場に置いた。
「私の代わりに、ここでラドゥをみていてほしいな」
 手作りの猫のぬいぐるみが、ちょこんと腰かける。いつか、青空が「強くてかっこいい」存在になる日まで。

 自室に引き取ったラドゥの後を、二つの影が追い掛ける。
「しーっ、我が君に気付かれるぞカイ先輩!」
「わかってる!! でも夜中には主殿はこんな風に過ごしているのかと思うと……!」
 ギィネシアヌと戒はパジャマ姿で、抜き足差し足、ラドゥの私室辺りを伺う。
「折角のチャンスなのぜ、例え怒られても全部見届ける……!」
 例えば寝室とか! 寝室とか!
 ラドゥが消えた部屋の、隣の部屋の扉をそっと開く。続きの間なのか、真っ暗だ。
 そこの小さな扉を少し開くと、果たして書き物机に向かっているラドゥの姿が見えた。
 お互いの口をお互いの掌で塞ぎ、戒とギィネシアヌは顔を真っ赤にしている。
 蝋燭の灯を受けたラドゥの姿はどこか神秘的ですらあった。
 さらさらとペンを走らせる音だけが部屋に響く。
 暫くうっとりと見つめていたふたりだったが、突然の声に我に返る。
「貴様らは夜には眠る種族であろう。いい加減に寝なさい」
 とっくにばれていたらしい。
「「ご、ごめんなさいいいいい!!!!」」
 怒られたのもある種のご褒美。ふたりはダッシュで逃げながらも、嬉しくて顔は満面の笑みを浮かべていた。

 遠ざかる足音に、ラドゥは小さく微笑む。
「さて、夜が明けるまでにもう一仕事せねばならんか」
 朝、起き出した下僕どもは、さぞや腹をすかせていることだろう。
 ラドゥはキッチンに降り、朝食用のサラダやキッシュやマフィン、スープなどを手早く用意する。
 静かな屋敷に、起きている者の気配は既にない。
 そしてラドゥはふと気になるのだ。
 ――腹を出して寝てはいないか、きちんと掛け物を被っているか。
(後で少し見回ってやらねばな……)
 皆が夢から戻ってくる前に、ラドゥの一日は終わる。
 日記に今日の出来事をしたため、西へ沈む月と共に眠りにつくのだった。



 翌朝起き出した下僕達は、キッチンのテーブルの上に流れるように美しい主の文字を見つける。

『朝食は好きに取ること。余った物は持ち帰りたければ持ち帰って良し』

 その裏にはびっしりと、なにが用意してあり、どう食べればよいかの説明が記されていた。
 心づくしの朝食が大変美味であったことはいうまでもない。
「さすが主殿なのだぜ……! 本当は一緒に食べられたら良かったのだけどな」
 ギィネシアヌはつくづくと、主にプリンを食べさせられなかったことを残念に思う。
 だがまた次の機会がきっとある。いや、作って見せる!
「よし。ではこのお礼に私が何か作っておくとしよう」
 戒が立ち上がると、青空が袖を強く引いた。
「なたねえ。次にもお泊まり会がしたければやめておく方がいいと思うのだ」
「く、そんなことには……!」
 窓の外からは、庭で立ち働く侘助が鋏を扱う音が聞こえていた。
 下僕たちの一泊二日は、大変有意義だったようである。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0732 / 青空・アルベール / 男 / 18 / 良き下僕】
【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 19 / はしゃぐ下僕】
【ja4323 / 〆垣 侘助 / 男 / 20 / 愚直な庭師】
【ja4504 / ラドゥ・V・アチェスタ / 男 / 21 / 館の主】
【ja5565 / ギィネシアヌ / 女 / 14 / なつく下僕】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました、吸血鬼の館・お泊まり会の一幕となります。
館や庭の雰囲気などかなり好きなように描写致しましたが、皆様のイメージと大きく違っていないようでしたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
野生のパーティノベル -
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エリュシオン
2015年09月18日

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