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『それは『燃え盛る』恋 』
イグナーツ・V・シュナイデンka5014

 今となってはもう昔の話だ、と男は笑った。
 その横顔を赤く照らしたのは、皓々と燃え盛る炎であった。

 男が誰よりも、何よりも、どんな存在よりも愛したのは。
 とても美しい、炎のように赤く輝く瞳を持つ人だった。
 その人も、今よりは若かったあの頃の男も、寒いのは苦手であった。凍えるような冬の日は、特に吹雪の日などは、温かな炎が燃え薪が音を立てる暖炉の前で、二人並んで腰を下ろし、時間も忘れて語らったものだ。
 小さな身の回りのこと。大きな世界のこと。明るく華やかな話。暗く重苦しい話。真剣な言葉から、冗談を連ねたような言葉まで。ほとんどが他愛のないものだったけれど、楽しくてたまらなくて、話題が尽きることなどなかった。

「君は本当に仕方のない人だね」
 ある日仕事に失敗して落ち込んだ男に、彼女は微笑みと共にそう言った。
 簡単な雑魔退治と聞いていた依頼を引き受けて、何人かのハンター達と共に出かけた男は、強力な歪虚の襲撃に逢い、やむなく撤退し何とか付近の村に急を告げて、ボロボロになって帰還したのだ。
 実力不足を悔いて嘆いているところに、愛する人の言葉にさらに落ち込んでしまいそうになった彼を炎色の瞳で見つめて、穏やかに彼女は言ったのだ。
「ハンターに重傷の者はいたが、犠牲者は誰も出ていない。それに、近場の村の避難だって、無事に終わってるんだろう? 何よりちゃんと情報を持ち帰ったことで、これから皆であの歪虚に対して策を練ることができる。君は功を立てたんだ。それはあの場で無謀な戦いを挑んで討ち死にすることよりも、ずっと素晴らしいことだよ」
 それなのにへこんでいるとは、本当に仕方のない人だね。
 そう微笑んだ彼女の瞳は、炎に照らされて、まるで炎そのもののように優しく揺らめいていた。

 ――あのときも。
 そう、あの最期のときも。
 彼女の瞳は炎を映し、それ自体が炎であるかのように煌いていた。
「すきだよ、イグナーツ」
 最後にその一言だけを残して、さっと身を翻し燃え盛る炎の中に消えていった、あの人。
 ――すきだよ、と言ったのは。己の名を呼んだのは。彼女だったのだろうか。それとも……炎だったのだろうか。
 今となっては――どちらも同じことだ。

「だから、以来俺の恋人は炎なのさ」
 そう、男はうっすらと微笑んだ。
 それは誰よりも、何よりも熱くこの身を焦がしてくれて。
 けれど近付きすぎれば、共に燃え上がり身を滅ぼすのみ。
 ああ、それは――そう。
「ほら、最高に良い女だろう?」
 ――まあ、あんたには分からないだろうが。
 そう、まるで酒場でグラスを傾けて独りごちるかのように、言い放った男が立つのは酒場ならぬ戦場。手に持つのは強い酒をロックで注いだグラスではなく、ぬらりと炎に照らされて、それ自体が炎のようにも見える――
「なに、安心しろ。今のあんたは最高に美しいさ」
 張り付いたのは昏い笑み。最高温度の炎のように輝く白刃、一振り。
 胴体から離れて転がり落ちるその首に、ひどく熱のこもった視線を男は注ぐ。
 嗚呼――それはなんて美しい姿。

 火炎性愛、ピロフィリア。
 炎そのものに『女』を見出し、恋に狂った男。それはまるでリアルブルーの神話に名を残すサロメの如く。
 愛するものがあるゆえに、人を愛することはできないけれど。
 その首斬って美しく、仕立てることは出来るだろう。

 薄絹纏って踊った褒美に愛する人の首を得た女の如く。
 炎を愛でて躍る男は、何を得られるというのだろう――。

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【ka5014/イグナーツ・V・シュナイデン/男/23歳/闘狩人】
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2015年09月18日

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