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『喰らえっ、大鰻! 』
ガルフ・ガルグウォード(ia5417)


 ガルフ・ガルグウォード(ia5417)は参っていた。それもとことん参っていた。
 何故なら、今日は彼にとって厄日と言っていい。行く先々で彼の求めるものは手に入らず、次行く店で数は両手の指を超える。
 だから、絶対ここで何とかお願いしますと必死に祈りを捧げて暖簾を潜る。だが現実はあぁ無情。
「えーっ、此処も売り切れなの!?」
 店の外まで届く声――裏手で彼の龍・淨黒が干肉を食んでいたが、その声に慌てて顔を上げる。が当の本人は今それどころではない。
「終わった…俺が何したってんだよ…ただ、ただ鰻が食べたいだけなのに…何故、どうして……何処にもないんだ――!!」
 心底悔しがる彼に店主が困り顔を浮かべる。
「あんた本当に鰻を求めてんだな…しゃあない。見たところ開拓者っぽいし一つ、頼み事を聞いてくれるかい?」
 店主の言葉に彼の目が輝く。
「あ、うん。任せて! 鰻の為なら何でもする! するから鰻を、どうか鰻を食べさせて下さい!」
 
 という事で所変わって空の上。
 店主曰く、最近ここらの漁場でアヤカシが出たとか。
 姿が鰻である事からヌシに憑りついているのではないかと予測されている。そこでガルフは相棒と共に一路教えられた漁場に向かう。
「なぁ、淨黒。でっかい鰻が獲れたらお前にも食わしてやるからなっ」
 淨黒の背で彼は終始ご機嫌だ。何たってヌシとくればその大きさも普通以上だろうと期待は高まる。
「うっなぎ、うなぎ〜♪ これで腹いっぱい鰻が食える〜♪」
 すきっ腹にとりあえず水を流し込んで…暫くの後彼らは問題の漁場に到着する。
 そこは彼らにとってとても見慣れた場所…そう、彼らの拠点のある山なのだ。
「しっかし、灯台下暗しだよな。鰻ってこんな近くにもいたんだ」
 てっきり海だと思っていたが、この時期はこちらの方が狙い目らしい。
 近くの岩に座り、早速準備に入る。漁であれば籠を沈めて入るのを待つらしいのだが、今は夕方。
 これから活動を始める鰻らを手っ取り早く狙うには釣るのが一番。予め借りてきていた針を糸につけて、後は餌だ。
(えーと、確かミミズでいいんだっけ?)
 土の柔らかい所を軽く掘り、見つけたミミズを針に宛がう。抵抗するミミズであるが弱肉強食。これも定めだ。
「淨黒、もう少しの我慢だぞ」
 半ば自分に言い聞かせるようにそう言って早々と糸を垂れる。
(できれば早めにお願いします!)
 そう祈りを込めて…彼の鰻釣りは始まった。


 鰻は夜行性で本来ならミミズを主食とはしない。
 しかし、動くものに食らいついてしまう習性があり、これを利用して行うのが鰻釣りの基本だ。
 引きは少し独特で強引に引っ張れば糸切れでアウト。忍耐がとても要求される。
(まだかなぁ…)
 日が沈みそうになる中、空腹と疲れが彼を眠くさせ頻りに欠伸が出るのを彼は必死に噛み殺す。
 そこで音がした。ちりちり…と糸の先につけた鈴の音に後方の淨黒も顔を上げる。ガルフは逸る気持ちを抑え、慎重に糸を手繰る。水面にはニュルリとした魚影――間違いない。あれは鰻だ。糸に纏わりつくように抵抗するものの彼との力の差が明らかで。
「よっしゃっ、釣ったど―――!」
 最後は豪快に引っ張り上げるとその反動から鰻が宙に弧を描く。サイズはそこそこ。が次の瞬間、

 ザッパーーーン

 それは目を疑う様な光景だった。釣り上げた筈の鰻がそれの口に収まり、糸は易々と食い千切られる。
 その怪魚、いや大鰻の体長は大凡五mを超え、胴回りは淨黒の爪よりも太い。
「ま、マジかよ…」
 その姿に度肝を抜かれてガルフは唖然とする。
「グルルッ」
 だが、相棒のその声にはっと我に返った。
(淨黒のあの表情…間違いない。あの鰻、瘴気持ちだっ!)
 野生の本能と開拓者の勘――何より肌がそれを感じ取る。それにだ。奴は重大な禁忌を犯した。
「フフッ、俺の鰻を横獲って、ただで済むと思うなよ……行くぞ、淨黒!」
「グォォォォォッ」
 ガルフの声に淨黒が吼える。そして主を背に乗せ、水面に消えていった大鰻を追う。
 巨体のお蔭で大鰻の追跡はそれ程難しくない。が向こうも馬鹿ではなく川底に移動し、岩の隙間や泥地を探し逃げる。
「やばっ、奴隠れる気だ! なぁ、淨黒。火炎でいぶり出せないか?」
 そこでガルフは指示を出し、その場目掛けて炎を噴射させる。けれど水面が壁となって効果は薄い。
「くっ、だったら」
 彼は店主の言葉を思い出し、相棒から飛び降りた。
 はっとする相棒を余所に、着地と同時に彼は水蜘蛛を発動し水面を地面同様に走り抜ける。
 きっと下にいる大鰻にはまだ辛うじてそれがきらきらと煌めいて見えている事だろう。
(さぁ、こい。俺の夕飯…)
 疾走する中で脳裏に浮かぶのは調理後のたれ薫るあの光景。淨黒は先回りし、様子を窺う。
 潜ろうとした大鰻だったが、やはり本能には抗えない。ガルフの影を見つけると再び浮上してくる。
 そして彼の足をとろうと二度目の跳躍――ガルフもそれをかわすように跳ねて、川辺で宙返りするは一人の忍び鴉。
「四足之夜咫鴉の名に於いて、お前の魂(俺の腹の中に)誘い導く!」
 落下ざまに素早く印を結び、出来上がった術を大鰻の口に放り込む。その瞬間、大鰻の口に吸い込まれたそれは激しくスパークし、辺りをも一瞬光が埋める。がその後はぷすぷすと音を立て活動停止。纏わりついていた瘴気は蒸発するようにヌシ鰻から抜け落ち消えてゆく。
「決まったぜ」
 無駄に恰好いい決め台詞を残し、彼はスマートに着地する。が淨黒からは『お主、決め台詞の使い処はそこで良いのか』と冷ややかな視線。けれど、彼は気にしない。ウキウキ気分で仕とめた鰻の方に視線を移して、
「あ……」
 そこで出たのは素っ頓狂な声。さっきの体長と体重であればその場から動く事もなかったであろう。
 しかしだ。瘴気によって肥大していた体も元に戻ればただの鰻。ヌシといえど死した鰻は水流には抗えない。
(主よ、追いかけないでよいのか?)
 グルルと低く鳴いて淨黒が問う。
「え…あ、待って、俺の鰻! 俺のヌシ様ぁ〜〜〜」
 その声にガルフが慌てて駆け出す。それに続くように淨黒も翼を羽ばたかせた。


 そうして事件は解決? 店主はヌシ鰻を御神酒で浄化し、彼に約束のうな重をご馳走する。
「う、嘘じゃないよな…夢、でもないよな…」
 念願の鰻を前に頬を抓って、感じる痛みに彼は安堵する。
 出されたお重は特別大きく照りでキラキラ光る鰻の蒲焼はその存在感だけで彼を至福の世界へと誘い、後から来る芳醇な香りは意識を天国へと導く。
「さぁ、どんどん食いなよっ。何たって大物だ。まだまだあるからよぉ!」
「えー、本当ですか!」
 その言葉に彼は歓喜した。うな重の食べ放題なんて贅沢すぎやしないかと内心不安にもなるが、今はこれを堪能する他ないだろう。
「では、いっただきまーす」
 両手を合わせて食材に感謝し、御飯と鰻を一緒にぱくり。
 するとまず広がったのは染みたタレの甘みと鰻の焦げた香ばしさ。大物は味も大味でイマイチだと言う人もいるが、ヌシと名のついたこの鰻は栄養を蓄え脂も適度にのっていて、ガルフが今まで口にした鰻のどれよりもうまい。ふわっふわの身と程よく焼かれた皮目との味のバランスも絶妙で、つい手が止まらなくなる。
「親父さんお替りっ!」
「あいよっ」
 あっという間に平らげた空のお重を前に店主が笑顔で応じる。
 そして次が来るのを待つ間に窓を覗けば、外にいる淨黒は素焼きにされた鰻を頬張っている。
「あいつもいっぱい頑張ってくれたもんな。少しはこれで恩返しできてるかな?」
 いつも自分を支えてくれる大事な相棒――この鰻だって彼がいたからこそ捕まえられたともいえる。
(これからも宜しくな、淨黒)
 幾分表情を緩めて食べている淨黒を眺め、ガルフが心中で呟く。
 そうして、彼は思う存分鰻を堪能すると再び山小屋へと帰って行くのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【  ia5417 / ガルフ・ガルグウォード / 男 / 20 / シノビ 】
  ※淨黒はia5417の相棒龍

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは。
発注誠に有難う御座いました、奈華里です。
指定がありませんでしたので相棒さん視点でも良いかと思いつつ、
戦闘と食事描写に注力をとの事でしたので、やはり第三者視点におさめました。
ギャグ要素も忘れないように心掛けましたが如何でしょうか?
少し戦闘シーンの設定変更となってしまいましたが、気に入って頂けたら嬉しいです♪
それでは。
野生のパーティノベル -
奈華里 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年09月28日

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