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『 キラキラの記念日 』
ルピナスka0179)&エヴァ・A・カルブンクルスka0029)&ネグロ・ノーチェka0237)&ルーゼティア・ルーデルクラフトka0890)&新那ka1576


 空は青く青く澄み渡り、初秋の気配。
 夏の間に頑張りすぎた太陽も、そろそろ落ち着きを取り戻しつつあった。
 だが静かな郊外にあるギルド『七色の細腕<カラフルマニアクス>』の日常は相変わらずだ。
 建物の窓から、銀髪の若い女が顔を出す。暫く周囲を伺うように視線を巡らせ、続いて腕が、そして足が窓枠にかかる。
「この窓が一番だと思うんだけどな」
 ひとり呟くのは、ギルドマスターのルーゼティア・ルーデルクラフトである。
 世界を放浪中に異界の船の噂を聞きつけ、興味の赴くままに訪れたリゼリオで素晴らしい職人技に目を奪われたのが最初の切欠。
 ルーゼティアは、まるで魔法のように素材を変化させていく彼らの手技に、心から感動した。
 もっとこの煌めきを見ていたい。もっと近くで。
 その思いから、様々な技量を持った職人に集まってもらうべく、この建物を用意したのだ。
 が、元来の性質が風来坊。
 机の上に積み上がった様々な手紙や報告などの書類、訪れる来客、その他もろもろの手続き。
「……無理!」
 ルーゼティアはキラキラ輝く職人技は大好きだったが、それらを支える裏方仕事はあまり好きではなかったのだ。

 という訳で、こうして仕事を放り投げて抜けだすのはもはや日常となっている。
 にもかかわらず、ギルドが運営できているのは何故か。
「あ。来た」
 ルーゼティアが呟き、ひらりと窓から飛び降りる。
 その視界の端には赤い瞳の娘が映っていた。
「今日は適当なところまで、しっかりついて来るんだぜ?」
 聞こえないように小さく笑い、ルーゼティアは走りだす。
 頬を紅潮させて必死に追ってくるのは、エヴァ・A・カルブンクルスだ。
 彼女がギルドマスターをこうして監視し捕獲しているお陰で、最低限の仕事は回っているという訳である。

 ルーゼティアは裏庭を横切って走っていく。
 それを追ってエヴァが建物を回り込んだところで、突然現れた義弟のネグロ・ノーチェとぶつかりそうになった。
「……!!」
 驚くエヴァ。ネグロも驚いているようだ。
 エヴァは身振り手振りで、いつも通りにギルドマスターが逃げ出したことを訴える。
「わかった。俺はこっちを探そう」
 ネグロはいつも通りに静かに頷く。その背中には大荷物。
 エヴァの視線が訝しげに見ているのに気付いて、ネグロはぶっきらぼうに付け加えた。
「宿屋の主人に頼まれた。置いたらすぐに追いかける」
 そう言って踵を返してしまう。
 エヴァは他に誰かいないかと見渡すが、誰もいない。
 このままではルーゼティアはどこかへ逃げてしまうだろう。
『捕まえたら速攻帰ってくるから、書類の用意はよろしくね』
 ネグロに走り書きのメモを押しつけ、駆け出した。

 エヴァの背中が、街道の方へ小さくなっていく。
 建物の中にある工房の窓から、ぬいぐるみが顔をのぞかせて小首を傾げた。
「行ったね」
 続いてぬいぐるみを腕に掴まらせたルピナスが顔を出す。
「計画通りってとこかねぇ。騙すみたいでちょいと気が引けるけどな!」
 作業の手を休めて椅子から立ち上がり、新那が伸びをする。
「ま、どうせならびっくりする顔が見てぇもんな」
 ニヤリと笑う新那に、ルピナスもおどけたように肩をすくめて見せた。
「貴重な時間が逃げてしまう前に。急いでとりかかろうか」
 そこにほとんど音も立てずにネグロが入ってきた。
「ギルマスから連絡をもらった。場所はここで良かったのか?」
「あ、ネグロ君! 久しぶりだねー。今日はよろしくね」
 ルピナスが人懐こく笑いかけるのに、ネグロは静かに頷く。
「キッチンに案内してもらえると助かる」
「俺達も行くよー。あ、こっち新那君。こっちネグロ君!」
「よろしくな! オレはちょっと出かけて来るから、飾り付けは頼んだ!」

 三人はいそいそと工房を出て、それぞれの目的地へと急ぐ。



 ルーゼティアは街道を通りかかった荷馬車に乗せてもらい、街に出る。
「さってと。後はしばらくぶらぶらしてたら、向こうが嗅ぎつけてくるだろうさ」
 普段ならこうして逃げ出した後は、早々に近くの酒場に引っ込むのだが。今日ばかりはそのまま市場に足を向ける。

 様々な店が並んでいる市場は、活気に満ちていた。
 値段交渉の声もどこか明るく響く。
「そうだ。先にちょっと見ておくかな」
 ひとり呟き、ルーゼティアは店先を覗いて回る。各地方から集められた食べ物や酒、それに工芸品。異界の船、サルヴァトーレ・ロッソから持ち出されたリアルブルーの品物だって珍しくない。
 それらを面白そうに眺めて歩き、気がつけばそれなりの時間が経っていた。
「ん? 珍しいな、まだエヴァが……」
 追いついてこない。
 そう思って顔を上げたルーゼティアの表情が強張った。
「あ……れ……?」
 可愛い笑顔を浮かべるエヴァがそこにいたのだ。
 但し片手には捕縛用の縄、もう片方の手にはライフルを持って。
「……ってまておかしい、なんかゴツイの持ってますねエヴァさん……?」
 じりじりと距離を詰めて来るエヴァ。それに合わせるように、ルーゼティアも後じさりする。
(逃げようとしても無駄よ?)
 言葉よりも雄弁に、エヴァの全身がそう言っていた。
 ルーゼティアはくるりと身体の向きを変える。既に本来の目的はどこかへ消えた。
 このままでは命が危ない。

 いや、エヴァは仕事をさせようというのだから、本気で殺すはずはないだろう。
 まあ事務仕事をするのに、足は要らないけどな!

 そこからは本気の追いかけっこ。
 ハンターは本来の意味でのハンターになり、エヴァは機敏に人々の間を縫って、着実にルーゼティアとの距離を詰めていく。
 ルーゼティアは必死で逃げる。
 折角街まで出て来たのに、好きな酒も飲まずに帰れるか!!

 市場を抜け、細い路地を抜け、ときには建物の中を通り抜けて。
 街中を右往左往しつづけ、喉の渇きを覚えたルーゼティアは、とある看板に惹かれて足を止めた。
「あー……オアシスの幻が……」
 ふらふらと誘われるように店に入っていくルーゼティア。そこは小さな酒場だった。



 一方、工房では。
「他でもないエヴァちゃんの誕生日、楽しい日にしようね!」
 ルピナスが工房の入口のホールを片付けながら、鼻歌を歌っている。
 そう、実は今日はエヴァの誕生日なのだ。
 この工房が誕生するきっかけとなったのが、ルーゼティアとエヴァの出会い。
 ならばここに集う皆にとっても記念すべき日ではないか。
 けれどルピナスは、お誕生会というモノを本当には知らない。だからどうすれば楽しくなるのかは、皆に教えてもらった。
「みんなでご馳走を食べてー。プレゼントをあげるんだよね。エヴァちゃん、喜んでくれるかなあ?」
 声を持たないエヴァは、声の代わりに全身で感情をあらわす。
 それはこちらの心に、声よりも強く深く訴えかける。
 だからこそ笑っていて欲しいと思う。
「うーん、社交会とかこんな感じだろ……?」
 工房で作られたしっかりしたテーブルに、華やかな刺繍のテーブルクロスをかけた。
 その上には花瓶を置いて、エヴァが好きそうな花をいっぱいに飾った。
「あとは、っと……」
 大きな紙袋から取り出したのは、色とりどりの紙で作った飾りだ。ルピナスは手先が器用だった。
 紙をつないだ鎖には幾つか切り紙細工が下がっている。折った紙で作ったナプキンホルダーは、テーブルのみんなの席に。エヴァの座る席には、紙のお花で作った冠も。
「うん、喜んでくれるといいなあ」
 ルピナスは飾り付けを終えて、キッチンへ向かう。

 キッチンではネグロが忙しく立ち働いていた。
「えっとー、運ぶぐらいは手伝うよ!」
 ルピナスが声をかけると、ネグロが半分だけ顔をこちらに向ける。
「フライドチキンとサラダはもう運んでもらっていい」
 そう言っている間も、大きな鉄板鍋を忙しく振り続けている。
「わかったよー! 他に何かあったら言ってね? あ。お酒の用意しておかなきゃ」
 料理は得意な人の邪魔をしない方がいいだろう。
 ルピナスはそう判断し、運ぶほうに専念する。

 ワインを抱えて戻ったルピナスは、テーブルの上に置かれた巨大な箱に驚いた。
「すごい、これがケーキ?」
 箱の陰から新那が顔を出す。
「ここのケーキはめちゃくちゃうめぇんだぜ!」
 その顔は輝くばかり。なんといっても、いつかはと憧れていた巨大ケーキを買う立派な理由ができたのだから。
 店の人に「どなたかの結婚式ですか?」と笑顔で聞かれたが、気にしない。
 そう、箱の中身は超豪華版のケーキなのだ。
「すごいなー。エヴァちゃんもびっくりすると思うよ!」
「へへへーっ。でもこの部屋の飾りもすげえな!」
 新那も職人であり、手先は器用なのだが、センスがイマイチなのである。
 それでも繊細な紙細工の数々が並んでいる様子は、本当に綺麗だと思った。
「そろそろエヴァさん帰ってくるかな?」
「たぶんね。 ……あ。馬の蹄の音?」
 揃って窓に張り付くと、愛馬にルーゼティアをくくりつけたエヴァが戻ってきたところだった。



 荷馬車に乗りこむルーゼティアの姿を確認したエヴァは密かに工房に戻り、愛馬に跨って後を追った。途中で上手く荷馬車をやり過ごし、先回りして街に入ったエヴァは、逆にルーゼティアの到着を待ち構えていたというわけである。
 結局、ルーゼティアはいつも通りに上機嫌で酒場にいるところを呆気なく捕らえられ、縄で縛りあげられてしまった。
「エヴァ……これで腕がしびれたら、仕事はできないと思うんだぜ……?」
 一応ルーゼティアはそう抗議してみたが、銃口を鼻先に突きつけられては黙りこむしかない。
 そのまま馬に乗せられて工房に戻ったところで、ルピナスと新那が迎えに出て来た。
 エヴァに分からないように密かに目配せを交わす。万事うまく行った!
「ルールーお帰り!」
 ルピナスが笑いを堪えながら、ルーゼティアが馬から降りるのを手伝う。
 新那はエヴァの背中を押すようにして、工房へ。
「エヴァさんもお疲れさんだぜー! ささ、中へ中へ」
「……?」
 そうしてエヴァの前で扉が開いた。

「……!」
 思わず目を見張る。
 そこは普段のだだっ広いホールではなく、パーティー会場だった。
 蝋燭の灯が優しく灯り、綺麗な細工の紙飾りの影が揺れている。
 テーブルの真ん中には三段重ねの見事なケーキ。プレートにはチョコレートの文字で『エヴァさん お誕生日おめでとう!』とあった。
 エヴァはちらりと、傍らで微笑むルーゼティアの顔を見やった。
「ま、今回はそういう事」
 ルーゼティアは笑って軽く肩をすくめる。
「ほらエヴァちゃん、座って座って!」
 ルピナスがエヴァを席に座らせ、頭に紙製の花冠を乗せた。
 そこに香ばしい匂いが漂う。
 平たい鉄鍋をさげたネグロが入って来て、いつもよりももっとぶっきらぼうに呟いた。
「お帰り、姉さん。それから、誕生日おめでとう」
 目の覚めるような鮮やかな黄金色のパエリヤが、湯気を立てていた。


 全員が改めて席について、お誕生会が始まった。
 ルピナスが奏でるリュートの響きが、ホールを満たす。
 エヴァはそれに耳を傾けながらも、思わず豪華なケーキに見入ってしまう。
 新那が照れたように笑っていた。
「びっくりした? 黙っててわりぃとは思ったんだけどな」
 よく見ると、プレートにはエヴァに似た女の子の顔も描いてあった。
「ケーキ屋さんが描いてくれたんだぜ。可愛いだろー?」
 ちなみに新那は極度の甘党で、エヴァの分とは別にホールケーキを自分用に三つ確保している。ニコニコ顔はそのせいでもあるのだ。
「あ、それからこれ、オレからのプレゼント。良かったら使ってくれなー」
 ちょっと微妙なセンスではあったが、胴部の細工が見事な新那お手製のペンだった。
 エヴァは思いの籠った細工を、隅々まで眺める。
「お誕生日おめでとう、エヴァちゃん! 俺からはこれねー」
 ルピナスが小さな包みを手渡した。
 開けていい? と小首を傾げるエヴァに、ルピナスが大きく頷く。
 中から出て来たのは貝細工の耳飾りだった。
 大きく目を見開くエヴァに、ルピナスが頭を掻いた。
「気に入ってもらえるか分からないけどねー。女の子はこういうのいっぱい持っててもいいと思うんだ」
 エヴァは耳飾りを握った手を、胸に大事そうに押し当て、こくこくと頷いた。
「私からはこれ。あんたに捕まる前に買っておいて良かったぜ!」
 からかうように笑い、ルーゼティアは小箱を差し出した。
 それは蒼の世界の画材であるクレヨンだ。
 どんな風に描けるかは分からないが、エヴァには画材であることはすぐに分かった。一本を取り出し、興味深そうに眺める。
「このギルド『七色の細腕』の始まりは、エヴァの作り出すキラキラとの出会いだったからね。エヴァにはもっと沢山のキラキラを創り出してもらおうと思ってさ」

 微笑むルーゼティアは、次にびっくりする。
「エヴァ……?」
 エヴァが突然席を立って、頬に口づけしてきたからだ。それからおでこを押しつけて、腕に力を籠めて。精一杯のありがとうを、エヴァは次々とみんなに伝える。
 本当は、何か企んでいることは薄々知っていた。
(だってみんな、隠しごとが下手なんだもの)
 追いかけている間もやはり、ルーゼティアはいつもと違っていた。
 それでも気付かないふりを通していた。
 けれどまさか、こんなに素敵なプレゼントを用意してくれていたなんて。
 エヴァは目尻に滲む涙を指先で拭い、いつも持っているスケッチブックを広げる。
 貰ったばかりのクレヨンの中から選んだのは、赤。
 新しい画材で最初に描くものが、今、決まったのだ。

 エヴァが自由に腕を動かし、大きな大きなハートを描く。
 柔らかなクレヨンが描くハートは、とても暖かそうだった。
 それをみんなに開いて見せて、エヴァはスカートの裾をつまんで軽くお辞儀する。
 みんなありがとう。
 みんなだいすき。
 声に出さなくても、文字にしなくても、このハートはきっとみんなの胸に届くだろう。
 誰からともなく、拍手が起こった。
 四人の拍手はホールの天井や壁に響き、喝采となって降り注ぐ。


 ネグロの心づくしの料理は、とてもおいしかった。
 エヴァはそれをスケッチブックに文字で綴る。
『サラダも、パエリヤも、チキンも、ポテトも、とっても美味しかったわ!』
 ネグロは相変わらず表情を変えないまま、ぼそりと呟いた。
「時間が余りなかったから、簡単な物しかできなかった。……あと、プレゼントは何か好きな物を言ってくれ。用意するから」
 首を振るエヴァ。こんなにいっぱい貰ったのだから、欲しい物など無いと。
「ひとつだけだ。遠慮するな」
 エヴァは少し悩んで、なにがいいかを少し考えさせてほしいと綴った。
「そうだよエヴァ! くれる物は貰っておかなきゃ! というわけで、もう一杯〜!」
 上機嫌のルーゼティアがグラスを突き出すと、ルピナスがボトルを持ち上げる。
「はい……ってあれ? もうワイン空っぽになっちゃった」
「えー、お祝いの席にお酒がないってのはありえないよ〜? もーちょっと飲ませて〜!」
 酔っ払って普段より少しおねだりの仕草も可愛らしいルーゼティアだったが、その目の前に、トンとスケッチブックが立てられた。
『お仕事に触りますよ! そろそろルルーはお酒ストップです』
 その上から、エヴァの目がじ〜っとルーゼティアを見つめている。
「え、お祝いだもん、今日はもういいでしょー!?」
 再びスケッチブック。
『それとこれとは話が別です! それにお仕事を溜めた分は、明日に辛くなるだけですよ?』
 正論すぎる正論。
「エヴァ〜!! さっきみんなにありがとうって、涙ぐんでたじゃないか〜!!」
『だからこれからも工房のために、しっかり頑張るつもりですよ!』
 新那がケーキをほおばりながら笑う。
「ああ、確かに。工房がしっかり運営していけるように、これからもエヴァさんにはしっかりマスターを管理してもらわないとなー!」
「おい新那。それはどういう意味だ」


 つまりは、これからもみんなで一緒に。
 素敵な出会いが作り出した、キラキラの日々をずっと――。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0179 / ルピナス / 男 / 21 / 人間(クリムゾンウェスト)/ 疾影士】
【ka0029 / エヴァ・A・カルブンクルス / 女 / 18 / 人間(クリムゾンウェスト)/ 魔術師】
【ka0237 / ネグロ・ノーチェ / 男 / 15 / 人間(クリムゾンウェスト)/ 猟撃士】
【ka0890 / ルーゼティア・ルーデルクラフト / 女 / 24 / ドワーフ / 疾影士】
【ka1576 / 新那 / 男 / 18 / エルフ / 猟撃士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼いただき、誠にありがとうございます。
お誕生日当日を過ぎてしまい、ちょっと悔しいという本音は置いておいて。
大事な日のエピソードをお任せいただき、大変光栄です。
これからもずっと、毎日がキラキラでいっぱいのギルドでありますように!
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2015年10月02日

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