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『語り継がれる伝説へ 』
小野坂源太郎(gb6063)


 悲鳴。怒号。闇夜に炎が揺らめく。
 焼き討ちに遭った武家から、幾十という人々が逃げ惑う。
「…………くっ……もはやこれまでか」
 主を喪い、同胞を喪い、浜辺へと追い詰められた鎧姿の老武者が、砂に足を取られながら走り続ける。
 七十を超える齢でありながら身体は筋骨隆々とし、身の丈は六尺六寸を超す。
 武家を支え続けた忠臣として名を馳せた男であった。
 ――観念しろ!
 敵対する侍たちが居丈高に叫ぶ。
「……許さぬ」
 追い詰められて尚、銀の目はギラギラと怒りに燃えていた。
「許さぬ、この恨み必ずや晴らしてくれようぞ」
 幾百年の時を超えようとも、復讐は必ずや。
 



 砂浜は、足腰の鍛錬によい。
 足首までを熱砂に埋め、小野坂源太郎は今日も今日とて鍛錬をしていた。
 普段と違うのは、今日に限って伝説の褌を締めていること。
 締めた者の感情に反応し、大いなる力と肉体を与える褌――それをはきこなすことこそ、心身を磨き上げることに結び付くと思い至ったからだ。
 振り返れば、褌の持つパワーに翻弄された者の多かったこと。
 源太郎は、彼らと時にぶつかり、時に理解しあい、今日という日まで鍛錬を重ねてきた。
 切磋琢磨。
 その言葉に尽きる。
 源太郎も恐らくは、一人きりであったならいつかは褌の力に飲み込まれていたに違いない。

 ――ミ、ツケ タ

「むん?」
 後ろ――否、上空?
 どこからともなく声が響いた。
 源太郎はポージングを決めたまま、視線だけを動かす。
『ミツケタ……コレゾ、我ノ身体…… 幾百ノ……時ヲ待ッタ甲斐ガ……アッタ……』
「!? この霧は……!!」
 足元から、ずるりと黒い霧が立ちのぼる。
 それはみるみるうちに源太郎の体を取り巻き…………

「ふ、ふっふっふ…… 待ちわびた…… 我が肉体、その転生する時を…………!!」

 復讐に燃える銀の瞳。しわがれた声。それは、源太郎であり源太郎ではなかった。
 幾百年もの昔、この浜辺で命を落とした老武者のそれであった。
「さあ、恨みを晴らしてくれようぞ!!!」
 黒い怨念を纏い、源太郎が叫ぶ。
 無念、怒り、悲しみ、歓喜、様々な感情が彼の体内で渦巻いている。
 伝説の褌は想いに共鳴し、持ち主へ力を与える。すなわち巨大化だ。
「どこだ…… どこに居る! 隠れず出て来い!!! 我が仇よ!!」
 平穏な浜辺が、一般客たちの悲鳴で彩られた。
 源太郎の身体はそれを気にすることもなく、一歩、また一歩と、都心部に向かい突き進んでいった。




「どこじゃああああああああああ!!!!」
 源太郎に憑依した老武者が叫ぶ。
 探せと叫べど、仇は姿を見せない。
 年月を経て全てが『変わった』ことを、彼は理解していない。或いは拒否しているのか。
 自身の身体が転生した時こそ、仇討ちが成ると信じて待っていたのだ。ずっと、ずっと、待っていたのだ。
 それが、よもや過ちだったなど!!
 拳を振るう、ビルが枯れ木のように折れて崩れる。
 足を踏み鳴らす、道路が容易く瓦解する。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 血涙を流し、老武者は都市部を破壊して回る。

「ちょーっと待ったぁああ!! アンタ、何してるんだ!?」

 そこへ、臆することなく一人の男児が現れた。
「テレビで見て驚いた……。アンタ、こんなことするヒトじゃないだろ!?」
 それは、かつて褌の日に、源太郎に締められた若者であった。その後は志を一新し、心身の鍛錬に勤しんでいた。
「待たれよ、若者……。様子がおかしい」
 やや遅れて到着したのは、異国の老人であった。マッスルビーチで大暴れした後、家族の無事を知り落ち着いた過去がある。
「あの時と……似ておる」
「あの時って……爺さんが暴れた?」
 男児は、源太郎と協力して暴れる老人を鎮めることに一役買っていた。当時のことを思い出す。
「家族を喪ったと思い、我を忘れる……か。でも、あの人に限って、そんな……」
 信じたくない。源太郎が、そんな弱い男だなど。
 何度も何度も、窮地を救ってきたではないか。
 伝説の褌を締める心構えを、誰よりも知っていたではないか……!!
「リーダー!! どうしましょう!!!」
「お前ら、来てくれたのか!!」
 男児の下へ、仲間たちが駆けつける。
 褌の日によこしまな思いを重ね、結果的に源太郎に『教育』された若者たち。その後は心を入れ替え、体を磨き上げることに精進していた頼もしい仲間だ。
「様子がおかしい、きっと本人の意思じゃない……。何者かに操られてるんじゃないか?」
「操る……? デビルか」
 異国の老人が眉を顰める。その国で言うならば悪魔、日本で言うなら……
「……幽霊 そうか、何かの霊が乗り移ったのか!!」
 源太郎は、マッスルビーチ然り浜辺での鍛錬を好む。水場には、落ち武者のエピソードがあっておかしくない。
 悪い偶然が重なった、と考えることも出来よう。
「みんな…… 力を貸してくれるか。あの人に罪なんて似合わない」
「もちろんじゃ」
「「応!!!」」

 我を見失った時、真っ直ぐな力で。屈強な筋肉で。道を示してくれたのは他でもない源太郎だ。
 想いに応える褌に負けてしまった自分たちへ、正しい鍛え方を教えてくれたのは源太郎だ。
 その彼が、苦しんでいるというのなら……

 伝説の褌、伝説のポージングパンツたちが、持ち主の心に応じて光を放った。




(これは……『わし』がしておるのか!? むむ、させぬ、させぬ……!!)
 その一方、体の内側で、源太郎自身もまた戦っていた。
(老武者よ、ぬしの無念はわかる。じゃが、この力は復讐には使わせぬ!!!)
「あああああああああああああ!!」
「止めろぉおおおおお!!!!」
 内と外の葛藤で、源太郎の身体が叫びをあげる。その間に、若者たちは源太郎の脚へ全力のタックルを。
「俺たちが抑える間に、正気を取り戻してくれ! アンタならできるはずだ!!」
「おおおおおおおおお」
 男児の声が、内部の源太郎に響く。
 こんな状況で、自分を信じてくれる者がたくさんいることに心が震えた。
 
 ――褌が、熱い

 源太郎の内なる心にこそ、伝説の褌は反応を見せたのだ!!

 巨大化、そして巨大化。
 爆発的な肉体の変化に、取りすがる男児や老人たちも必死だ。しかし、ここで離してなるものか。
「戻ってこぉおおおおおおおおおおい!!!!!」


 ――大きな力には、それに伴った強き心が必要なのじゃな。それが在る限り、褌は無限に応えてくれるだろう――




 周辺が、まばゆい光に包まれる。
 それが収束するころ……
 瓦礫と化した都心部に、倒れる源太郎や男児、異国の老人に数名の若者たち。
 『伝説の褌』は、全てを凌駕する源太郎の『心』によって爆散していた。
「ああ…… わしのポージングパンツが……」
 老人が残念そうにぼやくも、それも笑いに飲まれていく。
「『伝説の褌』……恐ろしくも、多くを学ばせてくれたの……」
「アレがあったから、アンタに出会えた。でも…… アレがなくたって、筋肉は鍛えられる」
「ふっ。小僧が知った風なことを」
 男児の頭を、源太郎が小突く。そして、皆へ礼を告げた。

「此度は、わしの鍛錬不足で手間をかけさせた……。が、皆の熱い気持ち、しかと届いた。礼を申す」

 鍛錬は、ひとりで出来るものだと思っていた。事実、一人でやってきた。
 けれど……その成果は、決して一人だけのものではない。
 切磋琢磨し、認め合うことで更に進化していくのだ。
「あの褌が無くとも、恐らく未来は安泰じゃ……。だがもし、いつかまた」
 今回のようなことがあれば――

 ……それは、きっと。
 再び、『伝説の褌』が源太郎たちの前へ現れ、その心と強さを試すのだろう。
 何故か、そんな気がしてならなかった。



【語り継がれる伝説へ 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb6063/ 小野坂源太郎 / 男 / 73歳 / ファイター】

ゲストNPC
【鎧姿の老武者】
【褌の日の男児】
【異国の老人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました!
褌ファイト・完結編! お届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
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2015年10月05日

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