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『平和に錆びぬ刃達 』
ルナフィリア・天剣(ga8313)&藍紗・バーウェン(ga6141)&アルト・ハーニー(ga8228)&狭間 久志(ga9021)&カララク(gb1394)&エルファブラ・A・A(gb3451)&希崎 十夜(gb9800)&D‐58(gc7846)

 その日はよく晴れていて、海面から黒煙と共に巨大な水柱が何度も立ち昇る姿がとてもクリアに観測され、近くの陸地では地面が振動していた。
 海底火山の噴火――世界規模で見ればそれほど珍しい事ではなく、近隣住民こそは少し騒いだものだが、おおむねいつもの日常が流れようとしていた……が、突然ピタリとやんだ噴火に観測者達は首を傾げ、調査が必要だなんだと言っているうちに別のレーダーが同じ座標に新たな反応を見せた。
 ここ数年、見た事もないような大規模の反応を――


 コスト削減や生産面から軽量小型化が進むこのご時世に逆らい、かなり大型で多脚のパピルサグII・カスタム“ネルガル”が高高度を飛行していた。
 昔と違い、飛行用の形態にならなくとも、空の航行と戦闘に十分な速度を保てるようになっていて重力を完全に無視して動ける慣性制御も昔以上の精度を誇り、無音でホバリングも可能にしているほどだ。
 ただし、このネルガル1機に限っての話である。
 1人の技術者が1から組み直したそれは明らかに今の人類の技術水準を超えていて、きな臭い噂まで飛び交っているが、そんな噂も性能テストの名目で協力するようになった今は、表で聞く事はなくなった――それがかえってきな臭いと、裏ではより一層噂されているが、そんな事、生みの親でありパイロットのルナフィリア・天剣には関係ない。
 だが、つまらない項目を消化するだけの性能テストでネルガルの性能がわかるものかと、日々、フラストレーションを溜めていた。
 性能を知るには、今が平和過ぎだ――
「むう……ちょっと退屈」
 コックピットの中で、ルナフィリアがそう漏らしていた。
「ルナ、不謹慎だぞ」
「ありゃ、エル姉に聞かれてた」
 ネルガルに追いつき、ぴたりと銀色の機体が並行する。
 ルナフィリアの姉であるエルファブラ・A・Aの乗るそれは、外見がすでにまるで別の物だが、それでも識別では一応、骸龍改“フェルシェンレーレ”となっていた。
 すでに弄られ過ぎて、元のパーツなどネジ1本とて残っていないだろうが、それでも骸龍なのである。ネルガルの速度に追いつけるはずもないのだが、追い上げて並行できるほどの加速も有しているが、骸龍なのだ。
 本当にまったくもって、一応、としか呼べない。
「せっかく人類が平和を勝ち取り、残党もほとんど見かけなくなって世界が落ち着きを取り戻してきたというのに、機体の性能がフルに生かせず燻ぶり続け、さらには新たなKVをなかなか必要としない頭の固い連中がトップに収まるこんな平和がつまらないなどと言っては、ダメだ」
「それきっと、エル姉の本心も混じってる」
(あ、この前の設計はまた却下されたんだな。エル姉……)
 これでいくと自分は運がいい方かと、わりと自由に自分の研究が許されていて資金や技術を横から流してくれる人物を、ルナフィリアは頭に思い描いていた。
「さて、そろそろお喋りするのは――」
 通信からエルファブラの声が途切れ、フェルシェンレーレからのデータリンク承諾がモニターに映し出さる。
 許可に触れると、ネルガルよりも遥かに高感度のセンサーを搭載しているフェルシェンレーレが取得した情報が、モニターに展開された。
 つい先ほど海底火山の噴火があったという情報は視界の隅に止まったが、まるで関係ないなと思っていたその座標と全く同じ座標。
 そこから浮上してくる大きな反応に、そこから広がる無数の小さな反応。
「エル姉、これって……」
「ああ。この反応はおそらく――」
 2人そろって遠くの海を見ると、海の中から黒い物体が津波のように押し寄せ、遅れて大きな球体が海面に顔を覗かせた。もはやレーダーで確認するまでもなく、見覚えのあるそれと光景に、エルファブラは言葉を続けた。
「バグアのプラントだ」


 様々な最新鋭機が海へ向かい飛行する中、旧式の中でも旧式に分類される軽量小型のKV『ハヤブサ』が混じっていた。飛行能力だけは進化を続けているはずの最新鋭機と比べても、それは全く劣らぬ速度である。
 そしてそのハヤブサは、あまりにも有名すぎた。
 戦場にハヤブサありと言わしめたミスターハヤブサ――狭間 久志の“紫電”であった。
「緊急要請ってのは穏やかじゃないね……しかも、漂う空気があの頃のまんまだ。これは相当、気を引き締めないと」
 眼鏡のブリッジを指で持ち上げ、表情を引き締めた久志だが、ふと、脳裏に自分の嫁の怒った顔が浮かんだ。
「……緊急要請で呼ぶ暇もなかったし、僕だって偶然居合わせたに過ぎないんだけど……なんで誘ってくれなかったんだって、後で怒られるかなぁ」
「久しいな、ミスターハヤブサ」
 回線から流れてくる聞き覚えのある声に、久志は思わず「カララク!」と声のトーンを上げてしまった。
「君も来てたのか!」
「この近くでちょうど『仕事』の真っ最中に、最優先緊急要請がきたのでな。久しぶりにこいつを動かしてきたわけだ。
 俺は久志と違い、生身の方がメインだからな」
 周囲に目を走らせた久志は白と黒と灰色のシュテルン・G“シバシクル”を見つけ少し速度を落とすと、互いに距離を縮めていく。
「あいも変わらずハヤブサのようで、なによりだ」
「リミット解除だなんて久しぶりすぎて、ちょっとブランクが気になるけどね。そういうカララクも、まだその機体なんだ」
「こいつの正規バージョンアップに関わり、戦役を戦い抜いた半身だからな。愛着あって然りだ――見覚えのある機体と言えば、向こうにもいるぞ」
 パネル操作で座標と画像を久志に送りつけると、久志が「ああ」と漏らした。
 画像に映っているのはそのほとんどを銀色に染め上げ、翼の縁が焼けたような紅色をしているフェニックスA3型、そしてパーソナルエンブレムから、フェニックスライダーと呼ばれていた希崎 十夜の“Rei−Crusader−”であった。
「希崎さんか、懐かしいなぁ」
 呼びかけようと直接回線を開くのだが――
「今更こんな戦場に鉢合わせるとはな……全力全開で行くぜ……ッ! 俺とフェニックスなら行ける――!」
 呼びかける前に最大加速で行ってしまい、あっという間に豆粒となってしまった。
「盛り上がってたなぁ……ま、僕らも行きますか」
「そうだな。当てにしてるぞ、ミスターハヤブサ」
 紫電とシバシクルも、加速を開始する――


「うむ。参った」
 ディアボロのMK−2として開発され、決戦機として名高いヴァダーナフで空を行くのは、山の中で趣味の陶芸(主に埴輪)に勤しみ過ごしていたアルト・ハーニーであった。
 傭兵稼業の傍らというか、趣味の為の資金集めに傭兵稼業をやっているにしかすぎない。
 つまりこうしているということは、そろそろ資金が危ない頃合いであり、傭兵の仕事をしなければいけないというわけだが――
「うむ。参った」
 傭兵としてそれなりに名は知れているだろうが、それでも常に傭兵稼業で戦場に身を置く連中ほどでもなく、今のご時世では臨時の傭兵を雇ってくれるところも稀になってきてしまった。
 平和なのはいい事だ。
 趣味の陶芸に没頭できるから。
 だが――
「うむ。参った……む、なにやら雲行きが怪しいか」
 海上に黒い雲が広がっているように見えたが、それが雲の動きではない事に気が付いた。なにより地上からKVが何機も飛び立ち、空を駆けている者達もそこを目指している。
 そしてこの空気――かつての戦争で、感じたものである。
 そこに、緊急回線が割り込んできた。
『繰り返す、現在海底より先ほどの海底火山噴火によって起動されたバグアプラントが浮上。多数のキメラと無人機を展開中。近くの能力者各位へ、これの鎮圧を要請する。繰り返す――』
「バグアのプラント……懐かしい響きだ。
 これは行かねばなるまい、ハニー達のためにも!」


 地面が揺れ、何事かと家の外に出た帽子をかぶった女性が、遠くの水柱が消え、かわりに不安な気配のするモノが噴き出てくるのを感じ取っていた。
 思わず家の中へ「家から出てはダメ」と釘を刺すほどに、その不安は膨れ上がる。
 海が見渡せる丘の上に建っているその家の横を、とても珍しいことにKVが横切っていった。
「我にKV性能テストの参加を頼んできた時は何事かと思ったんじゃが、さすがじゃの。未来の義妹殿の直感は」
 通り過ぎていったのは、藍紗・T・ディートリヒ――のちに藍紗・バーウェンとなる彼女の機体、アンジェリカ改“朱鷲”。民間企業の宇宙ステーションで1年の大半を過ごしている藍紗だったが、今回、ネルガルの性能テストに参加してきてくれと未来の義妹にして所属している企業の社長に頼まれたため、こうして地上を走ってきたのだった。
 頼んできた理由が「嫌な予感がする」と、実にあいまいだったのだが、それがまさかこんな事態になるとは思ってもいなかった。
 朱鷲が通過すると草がざわめき、空へ吸い込まれるように女性の帽子が飛んだ。
 揺れてたなびく、腰まで伸びた蒼い髪を押さえる女性――かつてD−58と名乗っていたが、今ではある人が58にちなんで呼んでくれた『イツハ』を名乗っている彼女は、金色の瞳を黒い海と空に向けていた。
 そっと左手の薬指の指輪に触れ、空から家へと瞳を向ける。
 強い決意を込めた瞳で、イツハは頷いた。
「……護りたいと思うもの、たくさん増えましたから」
 大きなガレージの扉を開けるとそこに、頭部と翼は尖鋭化されて西洋の竜を彷彿させるフィーニクス“バイネイン”が、たたずんでいるのであった――



 現場に到着するも、空ではほとんどの機体のレーダーが無効化されていた――が、エルファブラのフェルシェンレーレだけは違った。
「キューブワーム対策なぞ、とっくの昔に完了している。
 各機に告ぐ。全ての索敵は我に任せ、各々、相対する敵へのみ集中しろ。我の得た情報は強制リンクで流し込む」
「その声って、もしかしてエルさん?」
 フェルシェンレーレの横を紫電とシバシクルが過ぎ去っていくと、エルファブラも「久志か」と名を呼んだ。
「随分久しい限りだが、のんびりできる状況でもあるまい。頼りにしている、前線は頼んだぞ」
 素っ気ない物言いで、交わした言葉はただそれだけだというのに、ずいぶん昔に憧れた相手からの頼りにしているという言葉で久志は「〜〜〜〜〜っ!」と声にならない喜びに打ち震え、操縦桿を握る手に力が入る。
 ルナフィリアも「久しぶり」と声をかけたのだが、今の浮かれた久志には聞こえていないようだった。
「すまんな。色々と久しぶり過ぎて熱くなっているのだろう」
「カララクも久しぶり――いや、いいよ。それに接敵すれば冷静になってくれるんだろうし」
「だな。それでは、また戦闘の後で」
「うん。杞憂だろうけど死なないでね……久々だな、仲間と飛ぶのも」
 どこか嬉しそうなルナフィリアの声。
 そして専用回線が切れ、様々な通信がごちゃまぜで流れてくる。しかし、一度目を閉じて開いたカララクの耳に、余計な雑音などもはや一切聞こえない。
「――ゆくぞ」
「紫電、リミット解除よろしく」
 カララクの静かな声で一気に冷静さを取り戻した久志がAIに呼びかけると、『了解シタ、ヒサシ』と音声ナビが答え、紫電は長い事かけられていたリミッターがすべて解除された。
 フラフラとやってきた小型のヘルメットワームが、フェザー砲を収束しているそこにシバシクルのライフルが着弾し、収束されたエネルギーが暴発して小爆発が起こした時、すでに紫電が真下にいた。
 真下すれすれを高速で飛行し、電子に覆われた翼が、小型ヘルメットワームを腹部から真っ二つに分断する。旧式ではなく本星型だと言うのにもかかわらず、あっけなく小型ヘルメットワームは撃墜され、墜落していく。
「相変わらず良い腕だ。ブランクは杞憂だったな」
「カララクもね」
 紫電が上昇し、クルリと一回転しては減速してシバシクルの真横へ。そしていざ前線へというその前を、アルト機が横切っていく。
「ふ、俺の愛機……空飛ぶ埴輪号はこの程度の奴らには負けはせんさ!
 空ではハンマーで殴れないが、今日は飛びたい気分なんでな。同じぐらいの衝撃をミサイルで与えてやる!」
 埴輪のオーラを纏った埴輪号が味方機の間も縫うようにすり抜け、一気にバグア軍勢の前へ躍り出ると、先端がドリル状のミサイルを4発、全て発射。
 それに加え、12個のコンテナのうち3つが開き、合計300発のミサイルが噴煙をまき散らし空を埋め尽くす。
 ドリル状のミサイル4発が大型ヘルメットワームを後退させるほどの衝撃を与え、機体内部に潜りこむと大爆発を引き起こした。そして300発のミサイルは、その周囲を取り囲むように浮かんでいたマンティコア型のキメラに次々と命中しては爆炎の華を散らす。
 黒煙を上げて落下を開始する大型ヘルメットワームを見下ろしながら、空飛ぶ埴輪号は旋回する。
「はっはっは、どうだ、凄い衝撃だっただろぅ! おっと、たんまだ。狙い撃ちするのはなしという話にしてくれ」
 旋回する空飛ぶ埴輪号を、小型ヘルメットワーム達が次々と淡い紅色の光線、プロトン砲で追い回す。
「そのまま真っ直ぐ!」
 十夜の声に空飛ぶ埴輪号は、味方陣営へと上下左右に動き回りながらも真っ直ぐに戻っていくと、Reiが入れ替わりで前に出た。
「協調は久しぶりだ――出し惜しみなんてしない……! 相棒との最高のパフォーマンス……最後まで全力全開だ……ッ!!」
 正面から飛んでくるプロトン砲の雨をロールと上下の動きですり抜け、先頭のヘルメットワームがプロトン砲を撃つと言う瞬間、Reiは人型へと変形しグングニルを突き出すと、グングニルのブースターで機体がさらに加速し、残像を残してプロトン砲を撃たせる前に刺し貫いていた。
「まだだ、まだ止まらない!」
 身体全体で貫いたReiは先頭のヘルメットワームが爆発するより前に蹴り、再びグングニルのブースターを加速させて次のヘルメットワームを貫く。
 それでもまだ、止まる事を知らない。
「2体、3体、4体、5体!」
 5体目のヘルメットワームを貫いてから、飛行形態へ移行したReiがその場から離れると、5体のヘルメットワームがほとんど同時に爆発霧散するのであった。
「さすがにみんな、やるなぁ」
「そのままハーニー機と希崎機は大型と小型、それに護衛として存在する少量のキメラが入り乱れる中央戦線にて斬りこみ、久志とカララク機は中型ヘルメットワームが大部分を占める左翼攻め、ルナは単騎で右翼のキメラ大隊と、キューブワームを」
「了解、エル姉。変態軌道を見せつけてくる」
 エルファブラの指示にネルガルが右翼へと向かうと、今更ながらに久志はルナフィリアがいるのに気が付いた。
「あ、あれてんてんだったのか……」
「久志、左翼は中型ヘルメットワームが大多数いる上に、数の比率で言っても地獄のように厳しい戦いになると思うが」
 一拍おいて「汝らなら勝てる」とエルファブラが断言する。
 久志がぶるりと震えた。
 唇を噛み、緩みそうになる頬を引き締め、左翼に紫電を向けるとモニターを睨み付けた。
「エルさんの言葉、全面的に信じますよ――行こうか、カララク」
「ああ、お互い地獄には馴れっこだからな。フォローは任せろ、ミスターハヤブサ」
 紫電とシバシクルが地獄へと旅立つのを確認すると、エルファブラはふいと完全に浮き足立っている人類の大隊へと目を向けた。
 かつての戦争を知らない世代が大多数を占めていて、その他大勢としか認識していない、クルメタル社製新型テスト機ヨロウェルIIで構成されたクルメタル・テスト・スコードロン(CTS)と、ドローム社製新型テスト機S−04ヴァリスで構成されたドローム・テスト・スコードロン(DTS)達への通信を、向こうの意思を無視して強制的に開いた。
「実戦を知らない汝らはあそこに向かっても、死にに行くだけだ。脱出装置があろうとも、安全に脱出できるとも限らないのが戦場というもの……せいぜい取りこぼしを拾うのだな」
 反感と不安が一斉にエルファブラへと集中するが、全く意に介した様子も見せず、モニターに映る取りこぼしを目で追った。
「1機くるぞ」
 その瞬間、誰もが言葉を失い、身動き一つとれずにいる。
 向かってくる1機へ気を引くためのバルカンを放つと、予定通りに反撃のプロトン砲がフェルシェンレーレに襲い掛かってくるが、予測された反撃を急降下でかわす
「無人機ごときの攻撃など、掠りもするものか……!」
 煙幕を焚きながら急降下してその範囲を広げると、もう一度バルカンを撃って居場所を知らせたのちに急上昇。プロトン砲がバルカンを撃った位置を通り過ぎ去り、今度はモニターを見ながらタイミングを合わせ再び急降下する。
 最大加速で降下するフェルシェンレーレの目の前に、ヘルメットワームが撃ってくださいと言わんばかりにがら空きの上部を見せながら通過していく。
 そこへ容赦なく、機体の加速に乗せて本来射出速度が遅い巨大なミサイルを放り投げるように置いてくると、急旋回してミサイルがヘルメットワームに突き刺さり大爆発を引き起こす前に離脱する。
「この武装は飾りではないのだぞ――さあ諸君。汝らも今と同じような動きができるか?」
 返答は、ない。
 飛行や戦闘訓練を受けているとはいえ、安全に配慮した訓練など何の役にも立たないのだと、衝突の危険も顧みずに撃墜してみせたエルファブラは身を持って彼らに教えた。
 それでも彼らは、前線で戦う者達の圧倒的な数の差に不安をぬぐえずにいると、エルファブラは感じ取り「少し昔の話だ」と切り出した。
「かつて人類はたった1機のバグア機を落とすことすら、ままならなかったことがある――大事なのは数ではない。各個の機体性能と、それを熟知した熟練のパイロットは、簡単に数を凌駕する。
 ……ほうら、地上がちょうどいい例だ。見ているがいい。人類がバグアを相手に圧倒する様をな――」


 ビームコーティングが施された巨大な斧と大きな盾を構え地上を疾走する重装歩兵が如き姿の朱鷲。背面の長距離ビームライフルを下向きに回転させて、右の脇から現れる砲身を半身になって進行方向へ突き出した。
「今日は制限なしなのじゃろ? くかか、久方ぶりに血が騒ぐのぅ」
 溜められたエネルギーが砲身の先端から一直線の光線となって、ゴーレムの胴体を貫く。それでも十分だと言うところに加速をかけて詰め寄った朱鷲の巨大な戦斧が、胴体と胴体を泣き別れさせる。
 爆風が朱鷲を包み、そこにもう1体のゴーレムが手にした巨大な刃を振り回して爆炎ごと朱鷲を叩き斬った――つもりだったが、その刃は煙を薙いだだけに過ぎなかった。
 そのゴーレムの横腹に、大口径粒子砲の口がつけられる。
「この姿から鈍重と思うたか? あてが外れてすまぬのぅ」
 収束された粒子がゴーレムの横腹を吹き飛ばし、下半身だけがその場で地面に倒れていった。
 横から飛んでくるプロトン砲を盾で受け止め、ざっと目でその数を追う藍紗は「面倒な数じゃのぅ」とぼやき、盾で防ぎつつも機体を横一列に並んだ大群の正面に向ける。
 腰を落とし、ライフルを腰だめに構えたまま突進しようとしたところで、アラームと通信が。
「射線に気をつけてください。貫きます」
 これまでにも似たような言葉を聞いた事がある藍紗は、声に聴き覚えがあろうが無かろうが、朱鷲の足を止めた。
 その直後訪れた光の濁流が、横一列に並んでいたゴーレムを呑み込み蹂躙し、破壊し尽くす。
「かか、懐かしい光景じゃのぅ。誰かは知らぬが、見事じゃな」
「ありがとうございます。私は……イツハと申します」
 放熱し、急速冷却の始まるプロトディメントレーザーの砲門が閉じ、機槍を構えたバイネインが残像を残しつつもブースターで一気に大群の中へ突撃し、2体の頭部を貫く。
 そこに数体のゴーレムがサーベルを振り上げた。
「しゃがめぃ!」
 バイネンが反応し、腰を落としながらの急旋回。その頭上を斧の刃が横に振りぬかれ、ゴーレムをまとめて薙ぎ倒す。
 斧を振り回した朱鷲の背後にいるゴーレムへ、急旋回していたバイネンの機槍が胸を貫き、体当たりで突き刺さって動かなくなったゴーレムを引きはがすと、蹴りつけて動き出そうとしていたゴーレム達に仲間の残骸を喰らわせてやった。
「……真後ろと左30度右45度、お願いします」
 イツハの指示だけを信じ、後ろも見ずに後ろへ倒した粒子砲を発射し、当たったかどうかさえ確認せず、朱鷲は前へ前へと出る。その後ろでも、バイネインが前へ前へと突き進む。
 粒子砲で焼き払われたゴーレムをバイネインは肩で押し込み、残骸を盾に敵の中央を突っ切っていった。
 分断されたゴーレム達はできてしまった空間を補い合うように、バイネインの通った後に密集してバイネインを追いかける――と、バイネインはすでにふり返って構えていた。
「……通します」
 藍紗はレーダーに目を落とすと、バイネインの直線から逃れるように真横へと全力で飛んだ。
 その直後、再び光の濁流が朱鷲のすぐ横を通り抜け、バイネインと朱鷲の間で直線に並んでいたゴーレム達と、朱鷲の先にいた何体かが呑みこまれ、ゴーレム達は塵になるように砕け、滅んでいく。
「しょせんは無人機じゃな。学習能力が足りなさすぎるわい――雑魚はすっこんでおれ! 強者はおらんか!」
 藍紗が一喝し、まとめて数体の足を切り落としてその胴体に柄を突き立て沈黙させていた。
 そこにエルファブラの通信が。
「プラントの方角よりそちらに、データにない2機が向かっている。気をつけろ」
「ほう……こんなご時世に、バグアの新型機かえ?」
 強者を望んだ藍紗は幼い外見に似合わぬ笑みを浮かべたが、一瞬にして引き締め、盾を突き出していた。
 その直後、すでに二度見た光の濁流が襲い掛かり、盾に圧力がかかった瞬間、盾を押しのけるようにして全力でスライドするように真横へ移動する。
 濁流に取り残された盾が、朱鷲の代わりに見るも無残な姿へとなり替わっていく。
「今のは……私、じゃないです」
「わかっておる――なるほどの。新手の2機、これは確かに強者じゃな」
 視認できる距離になってイツハと藍紗の見たものは――色の抜けたアンジェリカ改と、フィーニクスであった。


 ネルガルがマンティコアの振り下ろされる前足に合わせて何もない空を蹴ると、速度も落とさずありえない角度で方向を変えた。
 瞬間的なGは能力者と言えども耐えきれるはずもないのだが、涼しい顔をしているルナフィリアはマンティコアを無視して、多数のミサイルを放った。
「……っ、ちょっと飛ばした数、多くてきついかも」
 ぼやくルナフィリアが頭で軌道を描くと、ミサイルは真っ直ぐ飛ぶのではなく、ルナフィリアの思い描いた通りの軌道でマンティコアの群れをかいくぐり、最後方に位置するキューブワームへピンポイントで突き刺さり、爆散する。
 続いて開いたコンテナから、先ほどとは比べ物にならない数のミサイルが空を埋め尽くす。
 吸いつくようにマンティコア達へとミサイルは飛来し、着弾と同時に爆炎ではなく凝縮されたエネルギーが膨れ上がり、マンティコアの身体を削り取ったかのように消滅させる。
「オリジナルと違い、爆発して広がるエネルギーの範囲を狭め、ベクトルを内側に向けて濃度を高めてみたけど……悪くない。無断で弄ってみた甲斐があるや」
 クルメタル社にばれたらヤバい話だが、証拠はこの場で使い切る事にして、残り3基のコンテナを解放し、450発ものミサイルはネルガルの正面全てを埋め尽くすには十分だった。
 前方で大量虐殺している最中、後ろから、わずかながらの振動。
 ネルガルにマンティコアの前足が当たっている――かのように見えるが、その前足は機体の装甲に触れるほんのちょっと手前で、みえない力によって阻まれていた。
「どうかな、擬似フォースフィールドの出来具合は。二重構造にして、一層目でお前達のフィールドを中和して、2層目で防ぐっていう単純な仕組みなんだけど」
 マンティコアが言葉を理解するはずもなく、通らぬ攻撃を何度も繰り返す。
 そのマンティコアの胴体を、ネルガルの胴体に仕込まれている鋏で挟み込んだ。挟みの内側が高熱を発し、マンティコアの皮膚から焼け焦げる匂いがしたかと思うと、たやすく胴体を断ち切った。
「フォースフィールドが無効化できるってことは、こういう事もできるってね――あれ、おかしいな。もう打ち止め?」
 マンティコアの死骸が海へ次々と落下し、任された空域にはすでに自分くらいしか浮かんでいない。
「むう……しょせんキメラじゃ、あっけなさ過ぎるか。仕方ない、向こうの手伝いでも……」
 途端、変態軌道で現れたのは、色のないパピルサグII――いや、ルナフィリアにはそれがネルガルと全く同じ姿をしていると気づけた。
 そいつが空を蹴り、軌道を変えた直後、ブーストで一気に距離を詰めてくる。
 鋏での突きだったため、二重フィールドで防げると思ってしまったルナフィリアは激しい衝撃に身体を揺さぶられた。
「シザースがやられた……? 二重フィールドを二重フィールドで中和してきたってことは、やっぱりこいつ……!」


 エルファブラの予言通りに、中型ヘルメットワームの大軍をたった2機で落した紫電とシバシクルだが、今現在、苦戦していた。
 全力機動を見せる高速の紫電と全く遜色ない動きで、色のない紫電が動き回り、ブレードと化した翼をこすりつけてこようとするのを紫電はギリギリで間に合ったロール回転でかわす。
「今のは危なかった……あんな動きができるパイロットが、プラントに残っていたのか?」
「生体反応はないから無人機のようだぞ」
 通信から流れるエルファブラは「おそらくだが」と、話し始める。
「どうやらプラントが自己防衛の為に、交戦記録から戦い方と機体をコピーしたようだな。バグアの技術であれば我々が数年かけて作りあげた技術全て、一瞬で盗めるのだろう」
「つまり、今のは僕の動き……!」
 久志は眉間に皺を寄せ、不愉快を露わにする。
「つまり、俺は俺と戦っていると。無人とは思えん動きを見せるのは、そういうことか」
 シバシクルの前にも、色なしシバシクルがいる。
 だが、カララクには全く憤りも焦りもない。徹底して中距離を保つ色なしシバシクルの攻撃は、自分が決定力不足でずっと紫電の高速軌道による撹乱戦法のフォローをしていた時そのままであり、それ以上の物がない。
 それならば――
「先ほどに無い動きを、みせればいいだけのことだ――シュテルンの万能性と即応力は、パイロットあってこそだと見せてやろう」
 ライフルを撃ちながら前に出ると、やはり向こう変則的な軌道で後退を始める。
 そこに、これまで練力温存のために使わなかったブーストで急加速して一気に距離を縮めながら、12枚の翼と4つの推力可変ノズルを使用して、エネルギー循環を高めると前方の装甲を強化した。
(ここで俺なら……)
「変形して方向転、そして撃つ」
 カララクの言葉をなぞる色なしシバシクルが変形して振り返り、ライフルの銃口むけると撃ってきた。だがそれは強化された前方の装甲で散らされ、そして零距離からの射撃。
 かわしようのないその一撃に腹部装甲を貫かれた色なしそこへ、船首が突き刺さる。
「こんな扱い、滅多にしないのだがな」
 突き刺さったままブーストをかけると、シバシクルの機体が色なしの身体を突き抜けるのであった。

 カララクが決着が着いた頃。まだ紫電同士による高速回避合戦は続いていた。
 どちらも紙一重を狙い、紙一重をかわす――果てがないように思えるその戦いに、久志はヤバい気配を感じていた。
「こっちの集中が切れた瞬間、負ける、か……そんなヤワな集中力じゃないけど、機械には負けるからね」
 こうなってくると正攻法ではダメだと、腹をくくった。
 腹をくくった久志は高速機動しながらもミサイルをその場へ置いてくるように射出し、大きく旋回すると今度は普通に射出する。それは容易くかわされ、わずかな隙となった自分に向かってくる――のは想定済み。
「いくよ、紫電!」
『ブーストポッド作動、エンジン臨界点カウントスタート』
 AIの音声が流れ、紫電の翼が電磁に包みこまれると、制御が厳しい姿勢のままブーストで機体を傾かせながら、正面から来る色なしへと向かっていく。
 そして交差すると言う直前、紫電は翼面超伝導流体摩擦装置を限界まで使っての急減速横回転ロール。機体がきしむほど無理な制動は殺人的なGを生み出し、久志ですら制御できないほどとなる。
「久志ッ」
「大丈夫!」
 シバシクルが援護に動く前に、久志はそう叫んでいた。
(ここで――来る!)
 紫電のロールした先で、撃ってあったミサイルとミサイルが衝突して爆発を引き起こすと、その爆風で煽られた機体は逆回転ロールを始め、一旦は離れた色なしのほぼ真横へスライドする様に移動すると、久志は気力を振り絞り何とか船首を向けた。
 真横からの強襲に色なしは対応できず、紫電の翼によって横から両断されるのだった。
(海の中では散々見た手だけど、まさか空中でやる日が来るなんてね)
 苦笑いを浮かべる久志。カララクの「いい歳して無茶をする」という言葉に、思わず笑ってしまった。
「ご苦労。だが終わったのならば、プラントのこの座標の制圧をお願いしたい」
 エルファブラの声と共に、モニターへプラントの見取り図と座標が映し出される
「カララク、こっちは制御がまだちょっと厳しいから、下は任せたよ」
「ああ、分かった。先に降下する……バーニア全機、最大出力!」
 まだ回転が止まぬ紫電を残し、シバシクルは四連バーニアをフル稼働させて、真下へと降下していった――


「ふむ、見事なほどに空飛ぶ埴輪号だ!」
 空飛ぶ埴輪号がミサイルを撃てば色なしもミサイルを撃ち、相殺する。螺旋を描いて急上昇すれば、その軌道をピタリとトレースして追いかけてくる。
「だが残念かな、お前には魂がない!」
 太陽を背に、空飛ぶ埴輪号が人型へと変形すると突如、日食が始まった――かのように見えたが、それは下から見上げると丁度すっぽり太陽を隠すほどに巨大な円形の何かだった。
 空飛ぶ、いや、空飛ばない埴輪号の手から柄が伸び、ジョット噴射で飛んでくるその円形の何かが、色なしの撃ってくるミサイルなどものともせず力の限り真っ直ぐに振り下ろされた。
「はぁにぃぃぃ・くら〜っしゅ!」
 もう逃げ場がないほど超巨大なハンマーが、上昇してきた色なしの船首に当たった瞬間、さらにハンマーの噴射が強まって圧力に耐え切れなくなった色なしは空中でその全長を10分の1にまで縮め、自由落下を開始するのであった。
 どこから出したわからぬハンマーをどこかにしまうと、空飛ばない埴輪号は空飛ぶ埴輪号へと変形して、何食わぬ顔で空を飛ぶのであった。
「ハンマーで殴れないと言ったな!あれは嘘だ!」

 加速を始めるReiと色のないRei。お互いが接触すると言う瞬間、同時に人型へと変形していた。
「相棒を、コケにするな!」
 グングニルの先端同士が、ぶつかり合う。
 衝撃に両機とも吹き飛ばされながらも、ミサイルの応酬。赤い力場を作り出してそれを蹴り、飛行形態へ移行して再び前に突進するが、色なしは人型のままで迎えうってきた。
「くそ、まがい物め……!」
 急旋回の急上昇でグングニルの直撃を回避するReiだが、機体の動きが少しだけ鈍くなり始めていた。
「練力がもうあまりないな……向こうはそこまで設定していないから、何度でもスタビライザーを発動させてくるって話か」
 不条理極まりない気がしたが、相手はバグアだ。そんな事はしょっちゅうあったじゃないかと、昔を思い出して上りすぎた頭の血を冷ます。
(久しぶりの全力戦闘に覚醒全開でいたから、少しだけ積極性に意識が引っ張られ過ぎたか。どんな危地でも冷静さを保つのが、本来のスタイルだろう?)
 自分への戒めに、一度、一瞬だけ目を閉じた。
 この高速戦闘で一瞬目を閉じる行為が自殺行為だと知っているが、それでもその価値が十夜にとって十分あった。目を開けた時、目の前に色なしがいたが、なんのことはない。グングニルを突きだした腕の脇をすり抜けるようにして通り抜けた。
「練力がもうあまりないではなく、あと少しある。十分だ――相棒と俺の力を合わせれば、これくらい」
(敵は練力のみならず、弾切れすらないかもしれない。それならば……)
 Reiの砲門が全て開き、ミサイルなども含め全ての弾を狙いも定めず一斉に放出する。そしてブーストをかけ、回避しながら向かってくる色なしへと再び突撃した。
 人型へ変形するReiの大型のエンジンが更なる唸りをあげる
 色なしも変形して踏み込んでくるのだが、残弾もなくなり質量が少しだけ軽くなった分だけ踏み込みの早くなったReiの一歩が色なしの作り上げた力場を踏みこんだ。
 色なしが次の力場を作成するその一瞬、グングニルを持つ腕をグングニルで突き刺し、身体を守る物を失わせるとReiは色なしをただ横に蹴った――ミサイルの雨が降り注ぐそこへ。
 蹴った先に力場を作っていたReiはそれを踏み台に横へ飛び変形すると、飛び交うミサイルを避けながら全速でその場から離れていった。
 Reiの後方で爆発する音が連続して鳴り響き、モニターに映る反応が消えたのを確認すると、安堵の息を吐く。練力切れのアラームも、まだ鳴ってはいない。
「――ちょっと、無理しすぎたか」


「さすがに我は強いのぅ!」
 自分を褒めているのではなく、色なしを褒めている藍紗。先ほどから一撃必殺の斧と直線レーザーが飛び交い、さすがに冷や汗が止まらない。
「……このままじゃ、勝てない。けど……勝たなきゃ」
 セイバーでしのぎを削りあっているバイネインと色なしだが、どちらも隙あらばフィークス・レイとプロトディメントレーザーを織り交ぜているが、練力の縛りがある分、自分の不利をイツハは理解していた。
「あの手を使うしかないようじゃな……イツハ殿、たいみんぐがしびあじゃが、ヌシを信頼するぞ」
「よくわからないけど……任せて」
 今まさに育まれた信頼関係が、2人の間にはあった。だからこれは上手くいくと、藍紗は何一つ疑わない。
 じりじりと移動しながらも斧を振り、色なしに斧を振らせる藍紗は、自分のコピーであるならば4回振った後、ほんのわずかに次の攻撃が遅れる事を知っている。
 つまりあと1回、余分にこちらが動ければいいだけだ。
「すたびらいざぁ発動、そしてえんはんさぁも同時起動じゃ」
 4発振り終わった直後、朱鷲だけがもう一度だけ斧を振る事が許され、斧のビームコーティングがさらに分厚いものとなり、それを振りかぶると、色なしへ向って全力でぶん投げた。
 盾を構えていた色なしは盾のおかげで切断はされなかったものの、斧の勢いの押され斧ごと機体がぶっ飛ばされる。そしてその先にはバイネインの色なしが、フィーニクス・レイを撃とうとして佇んでいた。
 巻き込まれる形で2機が衝突し、それでも全力投球された斧は勢いを失わず、2機を強制的にまとめてあげている。イツハは照準を2機が飛んでいく方向へ向け、その一瞬を待った。
「これで、お終い」
 静かに呟き、トリガーを引くイツハであった――


「うーん、もう少し苦戦するかと思ったんだけどな」
 皆が苦戦を強いられている自分のコピー機色なしだが、ネルガルの前にいる色なしネルガルは足も鋏も全てもぎ取られているのに対し、ルナフィリアの乗るネルガルは最初の一撃以降、まるっきりの無傷であった。
 自分のコピー機だと悟ったその瞬間から、ルナフィリアはネルガルのセーブ機能と、人としての自分の限界を、やめた。
 政府のキメタリミット以外にも自分で決めていたセーブ運転を解除すると、ネルガルは中にいる能力者すら耐えきれないものに設定している超高速軌道が使えるようになる。
 そしてルナフィリアは自己変異の研究も進めている――つまりはそういうことだ。
 色なしが悪あがきと言わんばかりに600発のミサイルを一斉に撃ちだしたが、撃った瞬間、ネルガルのプレスリーから放たれた光速のレーザーが屈曲して、全てのミサイルをほぼ同時に撃墜する。
 そしてプレスリーから放たれたレーザーは、ネルガルの横に停止して、ありえない事に常駐していて、しかも蛇のようにうねうねと蠢いている。
「面白可愛いよね。半分は好奇心だったんだけど、エネルギーに生命を持たせてみたんだ。つまりこれは、エネルギー生命体レーザーってわけ」
 こんな事を説明できる相手もいないので、独白する様に色なしへ語りかけていた――と、そこへカララクの「プラント上の座標、制圧完了した」という通信が流れる。
「エネルギーの流れ上、そこの真下にプラントを起動している装置があるはずだ。全機集中攻撃開始せよ」
「何だ、もう終わりそう。仕方ない、お別れだね」
 エネルギー生命体レーザーが鞭のようにしなると、色なしを縛り上げ、もはやレーザーとしても規格外であった。
 レーザーの端を持つと、ネルガルは回転を始め、引っ張られてなす術もない色なしが大回転する。
「でっかいの突っ込むから、みんな退避して」
 ルナフィリアが注意喚起すると、ハンマー投げの要領で、色なしをプラントに向け、全力で投擲するのであった――




 功労をたたえられた8機のうち7機が、地上で集結していた。
「終わったようだな……イツハ殿と言ったか。地上での活躍、感謝する」
「護りたかった、だけだから……」
 地上でエルファブラが労うと、イツハはそれだけしか語らない――が、ほんの少し嬉しそうな表情を浮かべる彼女は、もはや昔のような冷たい印象は持ち合わせていなかった。
(ちょ、ちょっとくらいならエルさんと、世間話してもいいよね……?)
 久志がいつ口を開こうかタイミングを計っているなと、カララクは肩をすくめる。
 十夜が地上に降り立ち、無謀が過ぎて無駄に機体を傷めてしまったなとReiを見上げ、そしてふと辺りを見回した。
「あれ、アルトさんはもう行った?」
「かか、あれなら『埴輪が今俺に降臨してきた』とか言うて、山に向かっていったわい」
 ルナフィリアも地上に降りようとしたが、それよりも先に緊急通信が再び入ってきた。
『現在、触発されたのかバグアプラントが世界各地にて次々と浮上を開始。至急、世界各地に応援を要請する』
「……だって」
「休む暇もなし、か――久志、行くぞ」
「え、あ……うん」
 カララクがシバシクルに乗りこむと、少し残念そうな顔と安堵の表情を同時に浮かべる久志も紫電に乗り込んですぐに飛び立った。
「俺もまだ、やれる事があるはず……行ってみます。皆さんお元気で」
「我の方はちょっと先に、色々補充してこようかの。ほほ」
 続いてReiと朱鷲が行ってしまった。
「イツハ殿、汝はどうする?」
「私はこの地に大事な人達がいますので……残ります」
「そうか――それではまたいつか会おう、戦友。行こう、ルナ」
「んじゃ、そゆことで」
 フェルシェンレーレとネルガルが飛び立つと、戦友と呼ばれて少しだけ懐かしさと嬉しさが込み上げてきたイツハは、目尻に涙を溜め、手を振って見送るのであった。






 ネルガルの中でルナフィリアは考える。
 今回、明らかに己の限界を超えた先に到達していた者がいた。つまり、普通の能力者ではもう扱えないはずのネルガルも、実は扱えてしまうのではないかと。それはつまり、扱えるように自分を弄ったルナフィリア自身、まだまだ人の範疇なのかもしれない、と。
 完成に近づいていたかと思ったが、まだまだ先が見えない事に今回気づけたのは、大きな収穫だった。
 ならばまだまだ、研究は続けなければいけない。自分の目標のためにも。
「私は到達してみせる、人を超えた域へ」




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga8313 / ルナフィリア・天剣  / 女 / 20年の夏 / 人外に近いモノ】
【ga6141 / 藍紗バーウェン    / 女 / 20年の夏 / 実は逢瀬のついで】
【ga8228 / アルト・ハーニー   / 男 / 20年の夏 / 埴輪の神が降りてきた】
【ga9021 / 狭間 久志      / 男 / 20年の夏 / またろくに話せなかった】
【gb1394 / カララク       / 男 / 20年の夏 / 己を超えた】
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【gc7846 / D−58       / 女 / 20年の夏 / 幸福を護るために】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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おまたせして申し訳ありませんでした、納期日延長にさらに遅延とはお恥ずかしい限りです……内容の方は相当読みごたえのあるものとなりましたが、いかがだったでしょうか。途中、ノリが強すぎて字数が止まらず、ちょこちょこと削っておりますが、このボリュームです。きっとCTS愛が漏れ出た結果です。
CTSはもうそろそろ完全に終わってしまいますが、それでもこうやって作品は残りますので、時折眺めてやってください。
ご依頼、本当にありがとうございました。それではまたどこかでご縁がありましたら、よろしくお願いします
野生のパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年10月07日

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