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『●ひと夏の千夜一夜物語 』
真野 縁ja3294)&大狗 のとうja3056)&櫟 千尋ja8564

 さあ、夏が来た。

「海なんだよー!」
 鍔広の麦わら帽子を抑えながら、真野 縁が歓声を上げた。
 白浜の向こうに広がるコバルトブルー。
 まばゆい程の陽差しが、海面を反射しきらきらと輝いていた。
「いい天気だね、絶好の海日和だよ!」
 空を見上げた櫟 千尋も瞳を細める。
 抜けるような青空は、いつもより濃い色で 地平線の彼方では入道雲がもくもくとわき上がっていて。
「夏だ!海だ!満喫するのにゃ!」
 そう言って砂浜で大きく跳ねるのは、大狗のとう。透き通った海を前に、今すぐにでも飛び込みたいとうずうずしている。
 縁、千尋、のとうの仲良し三人娘は、夏になると毎年お祭りや旅行に出かけていた。今年は皆で綺麗な海が見たいと、南の島にやってきたのだ。

 まずはお決まりの、水着披露。
「せっちゃん、その水着よく似合ってるんだね!」
 千尋が身につけているのは、オレンジ色のセパレート・パレオ。お揃いのシュシュで髪を高く結わえている。
「おお、なんだか千尋大人っぽくなったのにゃ!」
 人妻になった親友は、以前よりも何だか大人びて見える。いっそう笑顔が輝いているのは、彼女が幸せな証拠だろう。
 続いて縁が披露したのは、ミントグリーンの縦縞水着。彼女の白い肌を焼きすぎないよう、露出度は控えめのデザインだ。
「縁のもかわいいのなー!」
「この髪飾りもすっごく綺麗だね!」
 千尋が注目したのは、明るい金髪を飾る月下美人。いつもは白菊を飾っているのだが、今日は夏の花を意識した。
 そしてのとうが身につけるのは、赤にオレンジの水玉がちりばめられたビキニ。健康的な小麦色に、鮮やかな赤色がとてもよく映えている。胸元は弾けんばかりの――
「さすがのと姉……」
「胸囲の格差社会なんだね!(戦慄)」
 のとうの大ボリュームな胸に、千尋と縁は慄く。これも毎度恒例の行事である。

 そうして水着披露が終われば、早速海へとまっしぐら。
 夏の陽差しですっかり熱くなった砂浜を、三人ははしゃぎながら駆けてゆく。
「おおお気持ちいいんだね!」
 寄せる波に足を浸した縁が、歓喜の声をあげた。火照った身体に海水の温度は心地よくて。
「すっごく綺麗な海だね……すごい、あんな遠くまで底が見えるよ!」
 浮き輪を抱えた千尋が、感嘆のため息を漏らす。透明度の高い海中は、数メートル先まではっきりと見通せるのだ。
「よーっし、水のかけ合いっこだ!」
 きゃあきゃあ言いながら、三人は波際でひとしきり水飛沫を上げる。しばらくすると、のとうは沖の方角を指さした。
「あっちにもっと魚がいるみたいなのにゃ。ちょっと行ってくるぜ!」
 泳ぎの得意な彼女は、シュノーケルを身につけざぶんと海に飛び込む。二人が見守る中、あっという間に沖へと泳いでいった。
(おおお、気持ちいい……!)
 水深が深くなるにつれ、海底がどんどん遠のいていくのがわかる。けれど透明度が高すぎて、自分が空を飛んでいるような錯覚を覚えてしまうのだ。
 もっと、近くで見てみたい。
 のとうは大きく息を吸い込むと、思いきって潜ってみた。

(凄いのにゃ……)

 海底一面に広がる、珊瑚の群れ。
 目前を泳ぐ、色とりどりの魚たち。
 あまり人を怖がらないのか、手を差し出すとゆらゆらと近寄ってくる。
 ふと頭上を見上げると、昇る泡とともに海面が煌めいているのが見えた。

 その頃、浮き輪にすっぽりと納まった縁と千尋は、浅瀬でちゃぷちゃぷと揺られていた。
「気持ちいいんだよー……」
「何だか眠くなるね……」
 辺りは波の音と、時折はしゃぐ人の声。遠くに霞む水平線を眺めながら、二人がついうとうとし始めた時だった。

「――おや、奇遇ですね」

 聞き覚えのある声に目を開くと、頭上を大きな影が横切った。縁は弾かれたように立ち上がろうとして、思わずひっくり返る。
「うやや!?」
「縁ちゃん!?」
 海中に放り出された縁は、上も下もわからなくなってしまう。軽くパニックになる彼女の手を、誰かが引いた。
「相変わらずですね、あなたは」
「大丈夫であるかー?」
 海面スレスレの位置で宙に浮く、巨大な黒猫。そしてその背で縁の手を取っているのは――

「ミスター!」
「レックス!」

 青年姿のマッド・ザ・クラウンが、いつもの微笑を漂わせている。相棒のフェーレース・レックスが、ぴんと髭を張った。
「久しぶりであるな!」
「レックスー! 会いたかったよー!!」
 千尋が満面の笑みで猫悪魔に抱きつく。
「ふたりとも元気だった? わたし元気だよ!」
「吾輩もクラウンも元気いっぱいである。千尋も元気そうでなによりであるぞ!」
 もふっと胸毛に顔をうずめると、レックスも頬ずりを返してくる。ちっともかわらない、柔らかな温かさ。その背に引き上げられた縁も、めいっぱいの笑顔でクラウンにハグ。
「ミスター会えて嬉しいんだね!」
「おやおや、濡れてしまいますよ」
「うやや、ごめんなんだね!」
 慌てて離れる縁に微苦笑を浮かべたクラウンは、ふかふかのタオルで縁を包んでやる。そこへ素潜り中だったのとうが海面に顔を出した。
「おおお!? 何だかでかい毛玉が……」
 レックスの姿を目にし、彼女は思わず叫んだ。

「にゃんこぉぉぉ!」




「ああ、君らが噂の」
 浜に上がったのとうは、子供姿に戻ったクラウンとレックスを交互に見て合点した様子になった。
 詳しい説明がなくとも、縁の表情を見れば一発でわかる。想い人ならぬ想い悪魔を前に、ハートのエフェクトが出そうな勢いだ。
「よし、二人とも一緒にバーベキューするか?」
「ええ、いいですね」
「吾輩魚は大好きであるー!」
 のとうの提案に、悪魔達も二つ返事で了承。それを聞いた千尋と縁は大喜びだ。
(ほんとに嬉しそうだな、二人とも)
 悪魔達との再会を喜ぶ友を、のとうは微笑ましく見守っていた。
 彼らのことは、二人からだけでなく他の友人、依頼書経由でも知っている。大切な親友がどれほど彼らのことが好きなのかも。
 ちゃんとわかっているからこそ、表に出さずとも静かに見守っていたいのだ。

「じゃあ、今から準備を始めなくちゃだね!」
 張り切る千尋に縁も頷いてから、何かに気づいた表情になる。
「うやや? 今のままだとお魚が足りないんだね……誰か捕ってきてほしいんだよ!」

「むふん、吾輩水は苦手である!」
 レックス、まがお。
「私も海は眺めるのが好きですね」
 クラウン、微笑。
「縁は泳げないんだね!」
「わたしも素潜りとかは無理かな!」
 縁と千尋、笑顔。

「というわけで、お魚獲りはのとにお願いするんだよー!」
 全員に熱いまなざしを向けられ、のとうはこほんと咳払いをする。
「なんか乗せられた気がするけど、まあいいのにゃ。よーっし、俺が美味しい魚とってきてやるのだ!」
 魚獲り用のモリと網を手に、再び海中へと戻っていく。
「じゃあわたしたちはここで、バーベキューの準備だね!」
 千尋が海の家でバーベキューセットを借りてくると、縁は野菜やイカなど他の魚介類を仕入れてくる。
 四苦八苦しながら火をおこす二人をクラウンは興味深そうに眺め、レックスは若干髭を焦がしながら応援。
 のとうが網いっぱいの魚を手に戻って来た時には、すっかり準備が整っていた。
「いっししし! 大量、大量!」
「うややのと凄いんだね……!」
 網の中をのぞいた一同は歓声をあげる。イシダイにカワハギ、メバルにアコウなど美味しい魚に加え、サザエや大ぶりの二枚貝、アワビの姿まである。
「ほう、どれも美味しそうではないですか」
「のとう、礼を言うであるぞー!」
 悪魔ふたりの目はぴっちぴちの魚たちに釘付け。心なしか爛々として見えるのは気のせいだと思いたい。
「ここは豪快に丸ごと塩焼きだね!」
 千尋が網の上に獲れた魚を所狭しと並べていく。しばらくすると炭火で魚が焼ける香ばしい匂いが広がってきた。
「そろそろ食べ頃なんだね。美味しそうなんだよ……!」
 ぱかっと開いた二枚貝に醤油を垂らしながら、縁はよだれが垂れそうなのを慌てて隠す。
 そうして焼き上がった魚や貝をお皿に載せると、クラウンに差し出した。
「はい、ミスター食べてなんだね! 熱いから気をつけてなんだよ!」
「うん? ひょっとして君、猫舌なのか?」
 焼き魚を頬張りながら、のとうは意外そうに問う。
「ええ、そうですよ」
 そう返したクラウンは、皿の前で魚が冷めるのをじっと待っている。
「へぇー悪魔も猫舌だったりするんだなー」
「レックスも熱いのやっぱり苦手かな?」
 千尋の問いかけにレックスはほんの少し誇らしげに。
「吾輩、クラウンより平気であるぞ。この魚は大変美味であるな!」
 そう言って丸ごとばりばり、あっという間に食べきってしまう。
 皆で食べる新鮮な海の幸は、幸せと夏の味。

 お腹がいっぱいになったら、次は別腹のデザートだ。
「デザートはスイカ割りだよ!」
 千尋の宣言に、クラウンが興味深そうに。
「ほう。スイカ割りとはなんですか?」
 どうやら初めてらしい悪魔たちに、三人はルールを説明しながら実演してみせる。棒を手にしたのとうが、目隠しをされ身体をくるくる回転させた。
 そうやって平衡感覚を鈍らせてから、周りの誘導を頼りにスイカへ近づき……。
 ぱかん!
「こうやって、目隠ししたままスイカを割るのにゃ」
 見守っていたレックスはむふん、と髭をそよがせ。
「のとうは上手いであるな! 吾輩も負けないであるぞ!」
 対するクラウンは数メートル先に置かれたスイカを見つめ。
「要するに、あれを割ればいいのですね?」
「うに! うまく割った人が勝ちなんだね!」
 縁の返答にどこか愉快そうに袖を振ると、うなずく。
「いいでしょう」
 次の瞬間、彼の周りを黒煙が覆い始めた。あれ、この煙ってもしかして……と千尋達が思う隣で、のとうがぽかんとした表情になる。
「その煙は……ちょおおおお!?」
 現れたのはタキシード姿の青年。何故か巨大な大鎌を手にし、いつの間にか目隠しまでしている。
 大人姿に変身したクラウンは、舞うように身体を回転させてから大鎌を構えた。
「ちょっクラウンその鎌はもしかして」
「では、いきますよ!」
 皆が止める間もなく、勢いよく振り抜いた!

 \みんなふっとんだー/

 広範囲の衝撃波が、周りにいたメンバーを巻き込んでスイカを吹っ飛ばしていく。
「スキルとか使うの禁止だからーーー!」
「クラウンずるいであるーーー!」
 千尋と一緒に吹っ飛んでいるレックスが抗議の声を上げる。見送るクラウンは微笑したまま肩をすくめ。
「そう言うことは、先に言ってください」
 のとうと縁は宙を舞いながら、真っ二つになったスイカをキャッチ。
「スイカゲットぉおおおおお」
「一番大きいのはもらったんだね!」
 さすがは食べ物のため(訂正線)撃退士らしく、砂浜へ見事な着地を果たす。
 レックスに捕まった千尋は、そのまま海上をひとっ飛び。
「びゅーんと飛ばすであるぞ!」
「わあああ早いね!!」
 沖までちょっとした空中遊泳をしてから、陸地へと戻ってきた。
 そんなハプニングを楽しんだら、最後は皆でスイカを美味しくいただく。
「やっぱり夏はこれなんだね!」
 大きな一切れをぱくっと囓れば、しゃくしゃくとした歯触りと、みずみずしい甘さが口いっぱいにひろがる。

 デザートを楽しんだら、砂浜でのんびりとひと遊び。
 貝殻を探したり、砂のお城を作ってみたり。
「わたしアレやりたい! 砂に埋めてもらうやつ!!」
 千尋は砂浜にごろんと寝転ぶと、まな板の上の魚状態になった。
「ナイスバディに持っちゃってー!! お任せするわ♪」
 ちょっとセレブ風に気取って見せる千尋に、縁とのとうは悪ノリ。
「へいお客さん、何割盛りにしやしょ?」
「特盛りでお願いするわ♪」
 注文を受けた二人は、あれよあれよという間に砂を千尋にかぶせていく。
「吾輩も手伝うであるー!」
 レックスの大きな手ですくった砂がこんもりと盛られ、のとうが器用に形を整えたらできあがり。
「いっしし、やっぱり形良くしないとな!」

 \バイバイーン/

「ふおおせっちゃん、超ナイスバディなんだね!」
 完成した『特盛り』を前に、縁がサムズアップ。スコップ手にしたのとうも満足げな笑顔で断言した。
「おお千尋すげぇ! 世界を狙えるぜ!」
「ほんと? のと姉のサイズ越えたかな?」
 千尋の問いかけに、見守っていたクラウンがいつも通りの微笑でツッコむ。
「越えたというか、そういうレベルの話ではない気がしますが」
 満足げな縁たちの視線先。千尋の胸の上には高さ30cmもの『おっぱいタワー』が出来上がっていた。




 肌に触れる空気が、ほんの少しひんやりとしてきた。
 楽しい時間はあっという間。
 気がつけばすっかり陽は落ちて、夜の始まったビーチの頭上には満天の星空が瞬き始めている。
「最後はみんなで花火! なんだね!」
 縁が取り出したのは、持参していた手持ち花火セット。最初は撃ちあげ花火やロケット花火ではしゃいだり、手に何本も持ってダアトごっこをしてみたり。
 残すは線香花火だけになった時には、宵もだいぶ深まっていた。
 人気の無くなったビーチは、昼間とは打って変わって、潮騒の音だけが穏やかに聞こえてくる。
 小さな火花を見つめながら、縁はぽつりと呟いた。
「線香花火って、なんだかちょっとしんみりするんだね……」
 花火は大好きだけれど、これが終わればクラウン達ともお別れ。
 大好きなひと達と過ごす時間は、楽しくて、幸せで。
 いつまでも続けばいいのにと思うのに、気がつけば終わりの時間が来てしまう。
 そんな縁を慮ってか、千尋とのとうが彼女に寄り添う。
「今年も楽しかったねー」
 橙色の小さな火花を見つめながら、千尋も呟いた。
 久遠ヶ原に来てすぐに出来た親友たち。毎年色んなことをしながら、ひとつひとつ思い出を重ねてきた。
 のとうは二人をぎゅっと抱き締めて、星空を見上げる。
「綺麗な星なのにゃ。来年も一緒に見ような!」
 またこうやって、めいっぱい思い出をつくろう。
 そして夏の終わりを名残惜しみながら、また来年もと約束しよう。
「のと、せっちゃん、ありがとなんだね」
 縁は嬉しそうにそう伝えてから、今度はクラウン達を振り向く。
「ミスター、レックス、今日は楽しかったかな?」
「ええ。楽しかったですよ」
「もちろん吾輩もであるぞ!」
「縁も楽しい思い出できたんだね、ありがとう!」
 彼女の言葉に、猫のような瞳がゆるやかに細まる。
「私もあなた方へ礼を言いましょう」
 そう言ってクラウンが、大きく袖を振った刹那――

 夜空に大輪の花が咲いた。

「吾輩たちからの礼であるぞー!」
 見たことが無いほどの大きな花火が、ひとつ、またひとつ。
 クラウンが袖を振るたびに、レックスが空を駆けるたびに、光が踊るように生まれ夜空を彩ってゆく。
「おおお、凄ぇな……!」
 次々と咲き誇る天火に、のとうはぽかんとなっている。
「ふおおお綺麗なんだね……!」
「クラウンー! レックスー! ありがとー!」
 大きく手を振る先で、悪魔の姿が小さくなっていく。
 その背を見つめながら、心の中で願う。

 ――また、いつか。

 ひと夏の夢物語を、その胸に。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/夏の夢】

【ja3294/真野 縁/女/12/ミントグリーン】
【ja3056/大狗 のとう/女/21/水玉レッド】
【ja8564/櫟 千尋/女/18/オレンジ】

参加NPC

【jz0145/マッド・ザ・クラウン/男/5/魚】
【jz0146/フェーレース・レックス/男/−/魚】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
元気な三人娘と悪魔たちの夏休み。楽しんで書かせていただきました!
満喫していただければ幸いです。
野生のパーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年10月08日

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