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『愛を想う夜の夢 』
フィオナ・アルマイヤーja9370

1.
 薄暗い部屋の天井に両手をかざす。
 いつもの私の手。けれど左手の薬指に光る指輪。
 7月の風が窓の外からふんわりとカーテンを揺らす。7時過ぎたにもかかわらずまだまだ外は明るく、行き交う人々の声も明るい。
 約束の指輪がこの指に煌めいている。
 フィオナ・アルマイヤーはいまだに夢の続きを見ているような気分でベッドに横たわっていた。
 その指輪を見るたびに、現実であると思う。けれど、同時にまだ夢の中にいるのではないのかとも思う。
 時は折しも七夕の夜。年に一度の恋人たちの逢瀬の日。
 街の至る所に大きな七夕の飾りが施され、ところどころに大きな笹と短冊が置かれていた。
 小さな子供が一生懸命書いたであろう願い事。
『いもうとがほしいです』
『おもちゃが買ってもらえますように』
 ふと途切れた人通りにフィオナは思わず足を止めて願い事の短冊を読んだ。つたない字で、大学生のフィオナにしてみたら笑ってしまいそうな願い事。けれどどれもこれもきっと大事な願い事なのだ。
 七夕は本来、機織りに秀でていた織姫に手芸の上達を願う日だという。
 けれど、今の七夕は織姫と牽牛の1年に1度の恋の逢瀬に合わせて願い事を捧げる日になっている。
 どんな願いでも叶う訳ではないだろう。けれど、私の願いは叶えてもらえるのではないだろうか?
 途切れた人通り。色とりどりの短冊を見つめるうちに、フィオナも置かれていた短冊と筆ペンを手に取っていた。
 書きたいことはただ1つ。

『彼と結ばれますように』

 そう書いて笹に括り付けていたら、通りの向こうから走ってくる子供の声が聞こえた。慌ててフィオナは小さく手を合わせその場を去った。
 ‥‥どうかしている。
 少し前の自分なら七夕に願い事など非科学的なことだと笑っただろう。ましてや子供のように願い事をするなんて‥‥。
 それでも、願わずにはいられなかった。
 織姫、あなたなら私の気持ちがわかるでしょう?
 恋人に会いたいときに会えないあなたなら‥‥。


2.
 純白のウェディングドレス。オーロラ色のヴェール。
 女神のささやかな悪戯によって必然的に引き合わされたあの日。
 花嫁衣装に身を包んだフィオナ。タキシード姿の彼。フィオナの薬指にはめられた指輪。
 彼は戸惑わなかった。
『愛しています。どうかフィオナ様の隣を生涯共に歩くことをお許しください』
 彼の唇がそう言った。彼の目がフィオナをまっすぐにとらえていた。真剣なプロポーズ。
『私も‥‥愛しています』
 ずっと待っていた言葉を、ずっと伝えたかった言葉で返した。
 『好き』ではない。『愛してる』という言葉。心の奥からの言葉。
 そのまま結婚式ができてしまいそうな厳かな宮殿の中で静かに約束を交わした。
 夢のような時間だった。何度でも思い返しては赤くなって泣きたくなって、心の中が熱く満たされた気分になる。
 ゆっくりと天井にかざしていた左手の薬指を間近に見つめる。
 あの時、彼がフィオナにはめてくれた指輪だ。
 プラチナシルバーの台座にサファイアをはめた、シンプルだが洗練された指輪。
『フィオナ様の瞳の色と同じ色を、と思いました』
 彼がそう言って笑ったのを思い出す。それだけフィオナを想って選んでくれた指輪なのだと、思った。
 今度会えた時、指輪のお返しにプレゼントを贈ってもいいかもしれない。フィオナを想って選んだように、今度はフィオナが彼を想って贈る。
 そう思ったら少しだけウキウキとしてきた。
 彼を想うことがこんなにも楽しく、愛おしく、幸せなことなんて思わなかった。
 もしかしたら、織姫もこんな風にずっと思い続けているのかもしれない。恋人に会えるその日を夢見て。
 年に1度。でも、待っているその日までもが愛おしいのかもしれない。
 フィオナだって次にいつ会えるのかはわからない。けれど、こんなにも温かい気持ちでいられるのなら待つ事だってできる。
 彼と、必ず会えるのだとフィオナは信じているから。彼を信じているから。
 今は会えないけれど、彼は必ずフィオナに会いに来てくれる。抱きしてめくれる腕も、交わしたキスも全てフィオナは知っている。
 だから待っていられる。
 ‥‥織姫。私、あなたの気持ちがわかるかもしれない。
 あなたもきっと、必ず会えると信じているから1年という長い時間も待っていられるのね‥‥。


3.
 ふと、フィオナは我に返る。
 『信じる』なんて、そんな言葉が簡単に出てくること。
 『七夕』なんて、そんな子供じみた伝説を自分と重ねてしまうこと。
『最近のフィオナさん、なんか雰囲気違うよね。前はなんか近寄りがたいって感じだったのに‥‥』
 学園に入ってからのフィオナの知人が、そう言ったのを思い出す。
 ‥‥実際、フィオナも自覚はあるのだ。
 あれだけロジカルだった自分の思考に感情的な部分が出てきていることは。
 でも、けしてそれは悪い事じゃないのだと今のフィオナならわかる。
 人が持つ感情、友情や愛情は決してマイナスじゃない。感情は適切な説明ができるものだけではなく、自分ですらわからないことが多い。
 でも、それでいいのだと思う。
 会うたびに好きになる。会えない夜が淋しくても、次に会う時にその淋しさは何倍もの幸せになる。マイナスの感情ですら、プラスになって返ってくる喜び。1人ではけして味わえない感情たち。
 そうした感情が徐々にフィオナの性格を丸くした‥‥と思う。
 まぁ、だからといって弱い者いじめを見逃すとか、ディアボロに情けをかけるというのはまた話が違う。
「‥‥本質はストイックでピュアなんですから‥‥!」
 思わずぐっと力がこもって口から出た言葉に、フィオナは少しだけ苦笑した。

 会いたい‥‥。
 薬指の指輪に口づけをする。
 真っ暗になった部屋の中、フィオナはベッドの上で丸くなる。
 タキシードを身に纏った彼の姿がまぶたに浮かぶ。
 大丈夫。あなたとの約束があるから。私はあなたを待っていられる。
 待つ時間の寂しさが少し心を痛くしても、あなたは私の特効薬だからたちまちそんな傷は治ってしまう。
 抱きしめられた胸の温かさも、唇の柔らかさも、あなたが触れた場所全てが覚えている。あなたがくれる愛の心地よさを
 色々なところにあなたと行きたいのです。
 まだまだ話したいことがたくさんあるのです。
 私のことを、もっと知ってほしいのです。
 あなたのことを、もっと知りたいのです。
 あなたとたくさんのことを共有したいのです。
 私はわがままでしょうか?
 あなたにこんなにも会いたいと思うのは、わがままでしょうか?

『わがままではないですよ』
 彼の声を聞いた気がした。
「‥‥よかった、です‥‥」
 そう呟いて、フィオナは微笑んで眠りにつく。
 恋しい人との甘い夢を見て、会えない時間すら幸せに変える。
 いつか彼と同じ夢を見ながら、同じベッドで眠れる日を夢見る。
 それはきっと幸せな夢。

 そして、いつかくる未来‥‥。


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女性 / 23 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 フィオナ・アルマイヤー様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は野生のパーティノベルへのご依頼ありがとうございました。
 甘く恋人を思い出す夜。七夕へのお祈りは届いたのか‥‥?
 少しでも甘く感じられたなら幸いです。
 ご依頼ありがとうございました!
野生のパーティノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年10月09日

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