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『南の島の甘い休日 』
水鏡 絵梨乃(ia0191)&泡雪(ib6239)

 そういえばもう結婚して三年。
 アヤカシもいまは残党狩りというかたちが多くなり、魔の森も少しずつ、しかし確実に消えている、そんな日々。
 芋羊羹大好き娘である水鏡 絵梨乃と、狐の獣人である泡雪のふたりも、いまは開拓者であるということを忘れて、いたくのんびりと過ごしていた。
 三年も経てばお互い落ち着きがでるだろうと思ったら大間違い。
 いまだふたりは触れるとやけどしそうな程にお熱い関係のままだ。おはよう、いってきます、ただいま、そしておやすみの際には甘い口づけを毎日のように交わす。習慣になってしまっているので、これが当たり前だという認識になっているのかも知れない。
 ――だからだろうか。
 結婚をして三年目になる今年、どちらからともなく旅行に行こう、と提案したのは。
 
 行くならやっぱり南のリゾートだよね、と絵梨乃。
 そしてその言葉に頷き返す、泡雪。
 行き先はすぐにきまった。そうなれば行動も早い、これが開拓者というもので。
 必要な宿泊道具や着替え、それと水着、これをさっそく用意して、出発だ。
 三回目の結婚記念日の、思い出作りへと。
 
 ◇
 
「うわぁ……綺麗ですねっ、海! ね、絵梨乃様!」
 泡雪が思わず歓声を上げる。
 普段はメイド服に身を包むことの多い彼女だが、今日は可愛らしいフリルがついたデザインのビキニタイプの水着だ。普段は慎ましやかに服の中に閉じ込められている胸元も、きゅっとくびれた腰のラインも、露出度の高い水着のおかげでしっかり見えている。
「うーん、眼福」
 一方の絵梨乃はと言うと楽しそうに目を細めながら、妻の姿を見つめていた。
 絵梨乃の服装も露出度多めのビキニタイプだが、清楚な雰囲気の泡雪の水着に比べると少しばかり派手で、自己主張のつよいものになっている。胸元の強調されるデザインの為、もともとそれなりの大きさの胸も二割増しに見えるくらいだ。
 ふたりが並び立つと美女のコンビ。若い男性たちならきっと放って置くわけもない、と言うくらいだ。……まあこのふたり、夫婦なのだけど。深いことを考えたらいけない。
 少しばかりシーズン最盛期を過ぎた浜辺は落ち着きを取り戻しつつあったが、それでも南のリゾート地ならばほどよい熱気が心地よいし、水に入っても火照りやすい肌には気持ちいい。
「絵梨乃様、水着、よくお似合いですよ」
「もちろん泡雪もね。ボクが用意した水着、よく似合ってる」
「え、そ、そうですか?」
 絵梨乃に褒められて、泡雪はかぁっと頬を赤く染める。
 そんな初々しい妻に、絵梨乃はちょんと軽く口づけてやった。
「絵梨乃様、皆さんが見てますよ」
「気にしない気にしない。泡雪がかわいいから、ついね」
 絵梨乃は悪びれもせずそう言ってのける。泡雪も口ではそう言いつつも決して悪い気はしないので、すぐに笑顔を浮かべた。
「それよりも絵梨乃様、びーちばれーでもしませんか? せっかく浜辺に来たんですし」
「うん、いいね!」
 泡雪の提案に、絵梨乃も嬉しそうに頷く。
 結婚しているとは言え、ふたりともうら若き乙女。浜辺にいる若い男性たちも思わず目の保養、なんて思ってしまうくらいである。……流石にその仲睦まじすぎる様子に、声をかけてみようという勇気ある殿方はいなかったようだが。
 それに気分を少しよくしたのか、絵梨乃はふと思い立って泡雪を抱え上げる。いわゆるお姫様だっこというやつだ。波打ち際をのんびりと歩いてみれば、打ち寄せる波が絵梨乃のくるぶしあたりにあたってなんとなくくすぐったい。
 絵梨乃はくすくすと微笑みながら歩く。ついつい笑顔がこぼれてしまうのは足元のくすぐったさだけではなく、いとしい妻の恥じらいを含んだ視線が可愛らしくてたまらないからだ。
「人に見られます、絵梨乃様〜」
 泡雪のほうは本当に恥ずかしそうに、まるで子猫か何かのように緊張し縮こまっているが、そんな様もまた愛らしい。
 それに、いやよいやよも何とやら。
 泡雪は照れくさがっているけれど、本当の意味でいやがっているわけではないのは一目瞭然だ。
 だからこそ、絵梨乃もちょっと大胆な行動に出られるというわけで。
 そろそろあかね色を帯びてきた太陽の光を浴びながら、若い二人はその太陽の沈む様子をぼんやりと見つめていた。
 
 
「あ、花火ですね、絵梨乃様!」
 宿に戻ってふと空を見上げると、そこには大輪の炎の花。それも途切れることなく次々上がって思わず目がそれを追いかける。
 絵梨乃はそっと泡雪の肩を抱き寄せ、目を細めた。
「泡雪と一緒にこんな素敵な夜空を見ることが出来るなんて、本当に最高の結婚記念日だね」
 その言葉は少し照れくさいが、想いは間違いなく本物。
 言われた泡雪も、少し頬を染めながら絵梨乃の肩にそっと頭を預ける。幸せですよ、と言いたげなように。
「そろそろ料理も食べにいこう。それとも温泉が先がいいかな?」
「こちらのお料理は南方らしい海鮮を扱っているとも聞いています。先に食べましょう、絵梨乃様」
 絵梨乃の提案に、泡雪が二つ返事で了解する。
 宿の料理は泡雪の言うとおりに南方風にアレンジされた、しかし二人の口にも合うものになっていた。それもかなり豪華、と言うほかない。
 せっかくの結婚記念日だからとちょっとばかり奮発したのだ。
「ほら、泡雪、口を開けてー」
 絵梨乃に言われるまま口を開けると、エビのぷりぷりした食感が泡雪の口に飛び込んでくる。
「わ、これ、おいしい……」
 絵梨乃も泡雪に、同じようにして? と目で訴えてみる。
「で、では、絵梨乃様、あーん、です」
 少し恥ずかしそうに泡雪が言うと、絵梨乃は差し出された魚の活き作りを舌で堪能する。
「ほんとだ、これはおいしいねー。芋羊羹もあれば完璧」
「絵梨乃様、芋羊羹は食後にいただきましょう」
 ちゃんと用意してあるらしいあたり、本当によくできた妻である。
 
 そして温泉!
 ふたりが向かった時間帯は幸運にも他に人がおらず、まるでふたりだけの為に用意されたかのような錯覚に陥る。
「お背中流しましょうか?」
「うん、頼むね」
 日常的な会話だが、その会話のなんと幸せなことか。
 ふたりでゆったりとくつろげる温泉は、また格別なのだった。
 
 
 風呂上がりのひととき。
「絵梨乃様、すごくいま幸せです」
 泡雪はふっとそんなことを呟く。
「突然どうしたの?」
 絵梨乃が不思議そうに尋ねる。
「いえ、もう結婚してから三年も経つのに、毎日とても幸せなんです……今は、とくに」
 いままでのことを思い出しながら、泡雪はそっと微笑んだ。それを見て、絵梨乃も小さく頷き返す。
「……そうだね。ボクも同じ気持ちだよ、泡雪」
 幸せというのは人に分け与えてもらうものなのか、それとも人に分け与える為のものなのか。
 その真実は分からないけれど、ふたりがいま幸せなのは揺るぎようのない事実で、思わず視線が合う。
 どちらからともなく瞼を閉じ、柔らかな唇同士が触れあう。
 言葉を重ねるよりも、傍にいること。
 これがきっと何よりの幸せなのだと、ふたりは知っているから。
 
 
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia0191 / 水鏡 絵梨乃 / 女性 / 二十歳 / 新婚三年目】
【ib6239 / 泡雪 / 女性 / 十五歳 / 新婚三年目】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注ありがとうございます。
久々の舵天照の世界、楽しく書かせていただきました。
若い夫婦(この単語が適切か悩むところではありますが)の、これからも幸せであることを、舵天照に関わったひとりとして応援し祝福していきたいと思います。
では、どうかお幸せに。
重ねて、ありがとうございました。

追記
泡雪さんのお名前の表記を間違ってしまい、申し訳ありません。
訂正させていただきました。
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舵天照 -DTS-
2015年11月04日

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