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『●続く世界は今日も素晴らしい 』
黒羽 風香(gc7712)
 人とバグアとの間で長きに渡って続いた大戦から何年が経っただろう。
 あの頃少女と呼ばれる年頃だった“彼女たち”も、今はもう“立派な女性”として世界にしっかり足をつけ、そして前へ歩き続けている。
 あの日、あの時から、ずっと──。

 ──西暦XXXX年。
 日本某所のとある喫茶店。この店は、開業してまだ数年だが、誠実な営業ぶりから地元の客に愛されており、常連と呼べるような馴染みの顔も随分増えた。
 店自体の雰囲気が良いのも理由の一つだろう。外観も内装も落ち着いた色調やデザインで統一されており、流れるBGMはたいそう心地が良い。インストゥルメンタルが多いのは、店を切り盛りする女性の一人が弦楽器を得意としているからなのかもしれない。
 そんな喫茶店の扉にかかっているのは『本日休業』の看板。しかし、どういうわけか店からは良い香りが漂ってきている。店の奥を見てみれば、ランチの仕込みをしている女性が一人。黒羽 風香(gc7712)──先述の店を切り盛りする女性、その人だ。
 調理をしている様子の彼女は僅かに口角が上がっており、心なしか上機嫌そうに見える。単純に料理が好きなのかもしれないが、今日に限っては特別な理由があった。
 少女が待ち兼ねた客人が、この日、この店を訪ねてくる予定があるからだ。

「おはよう、風香! あー、クーラー効いてて涼しいー……。日本の夏はハードだよ」
 気持ちの良いベルを鳴らして店の扉が開いた気配がすると、入口から変わらない、懐かしい声が聞こえてくる。
 客人は、店に入るなりふんふんと鼻を動かし始めている。彼女の名はジル・ソーヤ(gz0410)。かつてバグアとの戦いにおいて新たな人間兵器を開発すべく、研究され、推し進められた後発クラス『ハーモナー』の被検体で、その第一号となった少女だった。
「いい香りだね、何作ってたの?」
「看板メニューという程でもないですが、ナポリタンとオムライス、それと特製のサンドイッチを。ウェルカムランチでもと思って」
 早速飲食物の匂いにつられるあたり、相変わらずだと風香は苦笑する。少女が火を止めて入口まで出迎えに行くと、もう一人の少女が漸く店に足を踏み入れた所だった。
「ここが風香の喫茶店ね。聞いてはいたけれど、外観もとても立派だわ」
「ちいさい店ですけど、ね」
「とっても素敵よ」
 ほわりと笑って、バニラ・シルヴェスター(gz0406)が「改めて、おはよう。久しぶりね」と付け加えるように挨拶をした。
 彼女たちが特に密接に関わりを持ったのは、バグアとの大戦の最中に勃発したオーストリア事変だった。ジルの故国でもあるオーストリアがたった一人のヨリシロに掌握されかけた、最悪の事件。それに端を発し様々な出来事があったが、それらの事件の起点となったのがジル。それらの事件を担当したオペレーターがバニラ。そして、その事件に深く関わり、解決へと導いた傭兵の一人が風香だった。
 大戦のさなかも時折交流を持っていた彼女たちだが、戦後になってからの方が、よりお互い気兼ねなく交流を図ることができたのだろう。久しぶりの再会であっても、戦時よりずっと身近に互いの存在を感じられる。
 他に客もいない静かな店内、日当たりのいい窓際の席で料理を広げると、3人は揃って昼食を摂り始めた。
「ジルさんが丁度日本に来ると聞いて、お誘いしてしまったんですが……バニラさんはご都合大丈夫でしたか?」
 遠路はるばるありがとう、と感謝を述べながら風香が訊くとバニラは首を振る。
「勿論よ。風香の結婚式の時はお店に来られなかったから、ずっと気になっていたの。本部も随分落ち着いたし、これでも戦時はがんばったから、有給はいっぱい残ってるのよ。それにしてもジルは何で日本に居たの?」
「旦那さんの帰省だよ。『家族みんなで日本の海に行かないか』って言ってくれて、旅行も兼ねてるんだ」
 おいしそうにナポリタンを頬張るジルを見て、風香がくすくす笑う。
「旦那様と二人きりで、と思ってましたけど、ご家族でいらしてたんですね」
「そうそう。今日は風香のとこに行くって言ってきたんだけど、『風香くんによろしく』ってお父さんが言ってた。旦那様も以下同文ね」
「ふふ、そうですか。お義父様は元気にしてますか?」
「とっても。軍に復帰してからはなおのことだよ。今日は、家族の男3人で釣りに行くんだって」
 次から次へ、話題は途切れる気配がない。けれど、店の空気も手伝ってかとても穏やかな時間が流れていた。
「風香、結婚生活はどう? もう随分落ち着いたのかしら」
「そうですね、余り結婚前と後で大きな変化はないですが……」
「そういう“変わらないの日常”って、幸せだと思わない?」
 バニラの問いに、風香は頬を緩める。
「あの戦いを経たからこそ、猶のことそう感じられるのかもしれません」
「うん、なんかそれ解るな」
 食事をとる手を緩めぬまま相槌をうつジル。彼女の空いたグラスからカシャリと音が聞こえ、風香は水を注ぐ。
「なにごともない穏やかで静かな時間。そばには大切な人がいて、そんな日が明日も来るって素直に信じられること。それがとても尊いと、思います」
 微笑む風香の表情は、以前よりずっと柔らかい。それをジルもバニラも、よく理解していた。彼女の変化は、あの戦いを乗り越えたこと、そのさなかに多くの人との出会いや別れがあったこと、彼女自身が“大切な人”と寄り添って生きるようになったこと……様々な事由があってこそのものだということ。親友とは、そんなものだろう。
「そうだね。あたしはずっと戦いのなかに身を置いていたから、今の“日常生活”っていうのがすごく新鮮だよ」
「2人とも本当によく戦ったものね」
 あの頃は、こんな風に笑い合える日が来ると信じて戦っていたはずだったけれど、現実にこうして居られることがどこか不思議に思える面もある。女子3人、笑い合って、風香に倣って手を合わせる。
「「「ごちそうさまでした!」」」



「折角ですから面白いところがいいかなと思って」
「……わぁ! 綺麗ね。信じられないわ」
「風香、あれやろ! 高いところから滑るやつ!」
 食後、やってきたプールは大きなウォータースライダーや、流れるプールなど様々な施設があるウォーターパークだった。
 戦争が終わって、結婚をして、互いにあれから歳を重ねたけれど、それでも彼女たちはあの頃のようにはしゃぎあう。
 元傭兵の2人とはそもそもの身体機能に差こそあるが、それとは別にして運動音痴のバニラは当初随分アトラクション関係を渋っていた。だが、風香とジルの熱意に押され、遂に突入したのはウォータースライダー(別に運動音痴も何もないしね!)。
 3人それぞれ違うチューブでスタートしたのが数分前。着水先のプールには既に風香とジルがいるのだが、一向にバニラの姿が出てこない。
 おかしいですね、と風香が首を傾げて待つことしばし。ようやく出てきたバニラは、滑りながら体が反転したらしく、頭からプールに着水。風香自身思わず笑ってしまったけれど、ひとまずプールサイドへ一緒に上がり、ベンチでひとやすみと相成った。
「すみません、かき氷の赤を1つ……あれ? えっと……」
「バニラさん、ここは私が頼みますよ。店員さん、英語解らないみたいですから」
「あっ、そうなのね。ゴメンナサイ、って言っても解らないかしら……助けて、風香〜」
「大丈夫ですよ。英語なら『ごめんなさい』と『ありがとう』はだいたい伝わりますから」
「短い単語なら結構いけるよ。経験則ね!」
 売店で3人それぞれかき氷やソフトクリームを買ってきて、互いに味見をしながら「そっちの方がおいしかった」だの「休みおわったらあっちのプールに行ってみよう」だの、彼女たちの夏の一日は本当に賑やかで、笑い声が絶えなくて、幸せそうだった。
 着替えを終え、ふやけた指で髪を乾かして戻る先は風香の喫茶店。間色が多かった3人は簡単な夕飯を一緒に準備して、その日最後の食事を終えると時計の針を確認して席を立つ。
 互いに手を振りながら、ひとときの休日を胸にそれぞれの生活へとまた戻ってゆく瞬間。
 それでも、誰もが心からの笑顔を浮かべる今の瞬間を、ずっと覚えていよう。
 それに、1つ約束を果たしたら、また次の約束をかわせばいい。
「またこんな風に、元気で会いましょう」
「もちろん、約束だよ!」
「二人とも、LHに来る時は連絡してね」
 そうしてずっと、いつまでも、繋いだ絆を大切にしていこう。
 この、続く世界で。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【gc7712 / 黒羽 風香 / 女 / 17 / イェーガー】
【gz0410 / ジル・ソーヤ / 女 / 20 / ハーモナー】
【gz0406 / バニラ・シルヴェスター / 女 / 20 / 一般人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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最初は「大変ご無沙汰しております」と申し上げる気持ちだったのですが……!
いつもお世話になっております、というご挨拶ができることに、改めまして心からの感謝を申し上げます。
&風香さんのご結婚おめでとうございました!
ご発注内容を拝読し、今回敢えて「夏・ド直球!」にはしていません。
いつかのお正月に交わした、「皆で会う約束を果たす」ことを主題に、「会う約束ができたとき、丁度季節が夏だった」という背景の上へ、記念や思い出と言ったテーマを載せて書かせて頂きました。
あの世界で今もなお彼女たちが紡いでいく物語の一幕を、お楽しみ頂けたらとても嬉しいです。
ご依頼、誠にありがとうございました。これからもよろしくお願い申し上げます!
野生のパーティノベル -
藤山なないろ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年10月13日

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