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『いつか来る未来に祝福を〜ラティール収穫祭〜 』
アリスティド・メシアン(eb3084)&ユリゼ・ファルアート(ea3502)&デニム・シュタインバーグ(eb0346)&アーシャ・イクティノス(eb6702)&セイル・ファースト(eb8642)&エルディン・アトワイト(ec0290)

●再会
 秋めいた薄青色の空の下、一人の男が道を歩いていた。
 道の左右には丘陵に沿って金色の海が広がり、風に吹かれて穂を揺らしている。この季節、この国では各地で見られる光景だ。所々遠目に穴が空いているように見えるのは、既に刈り取りが終わった場所があるからだろう。
「此処いらも久しぶりだな」
 どこにでも広がる風景から視線を丘の下へと向ける。そこには、ひとつの町があった。
「さて、と」
 一度降ろした荷物を再度両肩に掛け、その重さも物ともせず、彼は丘を降りて行く。
 その町の名は『ラティール』。かつてラティール領と呼ばれた土地の中で、最も大きな町だ。今は『シャトーティエリー領』に属する町のひとつだが、シャトーティエリーで最も有名だった娯楽の町『レスローシェ』を何れは上回るだろうと噂されている場所でもある。人心が荒み金も無く途方に暮れていた数年前が嘘のように、この町は復興を遂げた。そこには冒険者達の尽力があり、今も尚それは続いている。
「あぁ…でも、もう冒険者でもないか」
 かつて、シャトーティエリー、ラティール、ドーマンを巡る3領地と呼ばれる場所の為に尽力した冒険者の一人でもあるこの男、セイル・ファースト(eb8642)は、一人呟いた。自腹を切って大盤振る舞いをし、この地の解放を皆で祝った日から、まだ1年も経過していなかった。だがあの頃共に肩を並べて戦った仲間達は、それぞれ自分の道を見つけ歩き始めている。自分もそうだ。査察官としても忙しい日々だし、騎士の地位も得た。名声は既に天に轟くほどである。各地で収穫祭が行われるこの季節、セイルも本来ならこんな所にのんびり遊びに来ている場合ではないのだ。
 妻を模した戦乙女像を見上げながら、セイルは改めてこの町の復興を肌で感じていた。各地から観光客達が訪れ、以前にも増して賑やかになっている。
「…お。久しぶりだな」
「来てくれてありがとう。査察官殿」
「お招き有難く。だが、その呼び方はやめてくれ。町長候補」
「候補の名が外れるべく努力中だよ、セイル」
 微笑を浮かべながらセイルに近付いてきたのは、このラティール町の町長候補、アリスティド・メシアン(eb3084)だった。
「この像、こんな入り口にあったか?」
「競って職人が造っていた時期があったみたいでね。この戦乙女像は今年の最優秀賞…だそうだよ」
 だそうだよ、と曖昧な言い方をしたのは、冒険者時代に彼がこの町の復興作業に携わった事は殆ど無いからだ。話だけは色々聞いているが。
「とりあえず…招待客は他にも居るんだ。皆で会うのは久々かな」
「誰が来てるんだ?」
「それは、会うまでのお楽しみだよ」
 言いながらも「ところで」と、アリスティドはセイルの背中へと視線を向けた。
「それは?」
「あぁ、これはな…」
 相当重そうな『それ』を背中に担ぎながら、セイルはにやりと笑う。
「皆に会うまでのお楽しみだ」

●聖女薬草園
 2人が向かったのは、『聖女の泉』と呼ばれる温泉宿だった。
 かつては薬湯と治療院をひとつの建物に備え近所に猫屋敷があるだけの場所だったのだが、いつの間にか観光客用の宿に変わっていた。どうやら以前の薬湯と治療院は残しつつ、その近くに大きな宿を建てたらしい。
「ここの裏に薬草園を作ったんだ」
 年中薬湯を提供できるようにと、かつてユリゼ・ファルアート(ea3502)が、ここの薬師と相談したことがあった。その後薬草園を裏手に作ることで、様々な薬湯を提供出来る様になったのである。
「ユリゼも久しぶりだな。今は此処の常駐か?」
「こんにちは、セイルさん。私は旅の途中に寄ったのよ」
「そうか。まだ冒険者だったな」
 肯定はせず、ユリゼは薬草をひとつひとつ念入りに確認しているようだった。
 旅の途中でふらりと寄ったのは、収穫祭の賑わいに惹かれたからでもある。けれども賑わいを楽しみつつも、かつて焼けた薬草園が気になって現地にも行ってみた。そこは既に小さな広場になっていて、民に開放された場所になっていた。人々を、子供達を苦しめながらも不正と利益の温床となっていたその場所で子供達が無邪気に遊んでいる姿を見るのは、何ともいえないものがある。その薬草園で栽培されていた薬を使って暗殺者となる子供達が生み出されていたことは聞いていたから。
「…そういえば、デニムさんに会ったわ。焼けた薬草園の所で」
「そんな所で何してたんだ? ブランシュ騎士団の騎士が」
「昨日挨拶に来たから、リシャール君の所に行ったんだと思うよ」
 デニム・シュタインバーグ(eb0346)も冒険者を辞めた一人である。彼は目標としていたブランシュ騎士団の加入試験に合格し、ブランシュ騎士団の一員としてこの国を護る道を選んだ。国を代表する騎士団の仕事は膨大で、多忙な日々が続いているが、久々の休暇を貰ってやって来たとのことだった。
「一瞬、何かまた起こったのかと勘繰ったぞ…」
「起こらないように努力はしてるつもりだよ」
「もしも何か困ったことがあったら言ってね。すぐに来るから」
「ありがとう」
「それで…セイルさんの背中の『それ』は…」
「あぁ。せっかくの収穫祭だしな。どうせなら皆で楽しみたい。ユリゼも来ないか?」
 言われて一瞬逡巡したのは、色々とほかに気になる事が脳裏を過ぎったからなのだが。
「そうね…お邪魔しようかな。久しぶりだし」
 一通り薬草の状態も確認したし大丈夫だろうと、ユリゼは頷いた。
 
●布教本
「リリアさあああんっ」
「アーシャさぁんっっっ」
 だきゅ。
 という感動の再会があったのは数日前のこと。
 アーシャ・イクティノス(eb6702)は、シャトーティエリー領領主エミールの妻となったリリアと共に、何故かラティール町の町長家に居た。現在ラティール町には明確な町長はおらず、町長候補のアリスティドや町長補佐のオノレと言った複数人の人物で町長職をこなしている。なので町長家と言うよりは…。
「あの…私も売るんですか…?」
「そうよっ! 何事も経験だからっ」
「そうですよっ。私だって今はイスパニアに嫁いでますけど、毎日経験の連続なんですからっ」
 ラティール領前領主の娘、エリザベートの家である。
「ところでアリスティドさんは、いつ帰ってくるんですか〜?」
「かっ…彼は、隣の家に住んでるのでっ…」
「え〜、まだ結婚してないんですかー」
「同棲くらいすればいいのにね〜」
「そ、その…まだ、結婚は風当たりが強いので…」
 エリザベートは、この町の人々にとって余り良い印象を持たれる立場にはなかった。多くの人々の尽力があって、ようやく彼女の立場も認められつつあるのだが、エルフであるアリスティドと結ばれるとなるとまた話は別である。ハーフエルフへの偏見がまだ根強いこの地では、エルフと人間の結婚が祝福されるとは考えにくい。
「ハーフエルフを護ってくれるってエミールさん言ってたじゃないですか〜。早くしてくださいよ〜」
 エミールが居ないので、妻であるリリアの肩を持ってぐらぐら揺らすアーシャ。
「その為の、この本じゃない!」
 ぐらぐら揺れながら、リリアは薄い写本を取り出した。取り出して、エリザベートのほうへと差し出した。
「イケメンエルフの冒険者と、とある領主の娘の恋の物語! 挿絵が私で文章はリリアさんの、合作なんですよー」
「本当は領主の息子にしたかったんだけどね〜。布教より先に、まずはこの本でみんなを教育しなくっちゃね。ハーフエルフは個性なんだ、ってこと」
「そうなんですよね〜。狂化は個性ですもんね」
「そうそう。ちょっと酒癖悪い親父みたいなものよ」
 言いながらもエリザベートの手にどんどん薄い写本を乗せていく2人。
「さぁエリザベート! 売ってくるのよ!」
「頑張って下さいねー。私たちも頑張って売りますから!」

 というわけで、アリスティド一行は、彼の自宅前広場に並ぶ露台の一角に立って慣れない販売をしている彼の恋人を見つけてしまったのである。
 
●白教会
 広場を過ぎたところに一軒の教会があった。かつてそこはごくありふれた白の教義を教え広める場所だったが、前任者亡き後改築され、余りありふれていない白の教義を広める場所になっているとかで。
「特賞は、私エルディン・アトワイト(ec0290)の燦然と輝く肖像画ですよ! さぁ皆さんも一緒に悪魔祓いをしましょう!」
 何故に悪魔祓いに賞品があるのかと首を傾げる人々は、その場に居ない。このような催し物?が開催されるのは初めてではないからだ。
「え〜、あたしは金髪町長さん(仮)の肖像画のほうが燃えるんですけどぉ〜」
「他の肖像画はないわけー?」
 町の人々の中に奇抜な女装をしたジャイアント達も混ざっている。人々は出来る限り視界に入れないようにした。
「何をおっしゃっているのですか。ご利益があると言うのに」
 無駄に笑顔を振りまきながらも彼が教会の前で用意をしているのは、細長い置物だった。ある程度等間隔に並べると三角に近い形になる。
「これはボーリングと言いまして、このピンを悪魔に見立てて倒します。ピンごとに点数がありますので、合計点数に応じた粗品を差し上げますよ。参加賞は、この秋できたて! 教会特製新作ワインです!」
「やぁ、盛況だね」
 道の前で声を張り上げていたエルディンは、声を掛けられて一行へと目を移した。
「これだけの皆さんが集まるとは、さすが町長(仮)ですね」
「この中で招待されたのは、俺だけらしいけどな」
 言いながら、セイルは背負っていたものを地面に降ろす。その衝撃で一瞬地面が揺れた。
「これは知り合いの所から貰ったこの秋特製ワインだ。思う存分飲んでくれ」
「ちょ、ちょっとセイル殿! 私特製新作ワインの邪魔をするつもりですか!」
 ノルマンでもなかなかに有名な産地のワインと知って慌てるエルディンだったが、「うちの葡萄園は小さいしね」とアリスティドは苦笑しつつ、セイルが開けた樽から器にワインを注いだ。
「せっかくのご厚意だ。頂こうよ」
「飲み比べも良いんじゃない?」
「そうだね。エリザも飲む?」
「参加賞のワインなんですけど…」
「あの置物を倒せばいいのか?」
 少し落ち込むエルディンの背を軽く叩き、セイルは置いてあった玉を取る。思ったよりも重い玉だ。
「えぇ。この辺りからあのピンに向かって投げて倒すのです」
「こうか」
 ごすっ。鍛え上げられた筋肉を駆使してセイルが投げた玉は勢い良く宙を舞い、ピンの上から落下した。
「あああっ。破壊しないで下さいっ」
「悪魔を粉砕出来て良かっただろ」
「良いですけど良くありませんっ」
「あ。此処に皆さんいらっしゃったんですね」
 人だかりの奥から声がして、人波が綺麗に割れる。その間を颯爽と歩いてきたデニムは、悉く置物が粉砕されている現場を見た。
「ところでこれは…?」
 挨拶をきちんと行った後に、デニムは素直に疑問を述べる。
「悪魔祓いらしいぜ。何日か前に神父さんがあれこれ準備してたからな」
「えぇ、そうなんですよっ。このピンを悪魔に見立てて倒すことで」
「そうそう。粉砕することで悪魔撲滅祈願になるらしいぞ」
「分かりました。では僕も悪魔撲滅の為に」
「これ以上破壊しないでください!」
 3人がピンを巡って攻防を繰り広げる中、少し離れたところでは大小の樽から次々とワインが振舞われていた。アリスティドを手伝ってユリゼとエリザベートが町人達に配って行く。人々は攻防を肴にワインを楽しみつつ、それぞれに応援などを始めた。
「そう言えば…リシャールさんは今何をしているの?」
 周囲に居た人々に一通りワインが渡ったところでようやく落ち着く。少し離れたところで皆の動向を眺めることにしたユリゼの近くには、デニムと一緒にやってきた、彼の弟分であるリシャールも立っていた。
「おっさんの手伝いとかかなぁ…」
「おっさん…?」
「叔父だよ。領主の。兄貴には、自分がブランシュ騎士団員として皆を護るって言われたし、俺にはそんな大きな事は出来ないけれど…俺も、この領地を護らないとな」
 行く行くは元ドーマン領である現ドーマン村とその周辺を護って欲しいと言われているのだと告げるリシャールの横顔を見ながら、ユリゼはそれぞれが歩み始めた道と成長を思う。
「私の分、売ってきましたよ〜」
 大きく手を振りながら駆けて来たアーシャの声に、ユリゼはアーシャが向かったほうへ視線を向けた。地面には、先程の倍の木屑が散らばっている。
「あれ。エリザベートさん、もう売ってきたんですか?」
「い、いえっ…私にはそんな大それたことは…」
「じゃあ、布教本として教会に寄付しますねっ」
 一体何を寄付する気だとエルディンが思う間も無く、エリザベートが袋に入れて持って来ていた(運んだのはアリスティドだが)写本の束を目ざとく見つけ、アーシャは袋ごと祭壇の脇にそれを置いた。
「私もワイン下さい〜」
「ワインは参加賞ですからね」
「ボーリングやりたかったんです。この玉でピンを壊せばいいですか?」
「倒すんです!!」
 皆の楽しそうな笑い声が響き渡る。エルディンが数日掛けて準備した催し物は彼の意図せぬ形で盛り上がりを見せたが、それはそれで良いのだろう。
 何より人々が楽しそうであれば、目的は達成できたとも言えるのだから。
 
●宴
「楽しかったね、リック」
 ボーリングも終わりワインも皆で飲み干した後、皆は『聖女の泉』へとやって来ていた。のんびりと薬湯で日々の疲れを癒す者、猫屋敷で心の疲れを癒す者、以前に見た光景との変化を探し楽しむ者、人それぞれに楽しんだ後は、収穫祭に相応しい賑やかな広場へと向かう。露台が並び中央に台が設けられ、バードの歌や演奏が披露されたり、ジプシーの踊りで盛り上がったり、寸劇が行われたりしていた。
「初めてリックに会った頃は…こうやってリックの故郷になる場所で収穫祭を楽しめるようになるなんて思わなかったよ」
「兄貴がブランシュ騎士団になるなんて、俺も思わなかったけどな」
「そうだね。縁のあった橙分隊に拾って貰えた感じだけど…だからこそ、しっかりとやらないとね。リックがドーマンを任されるという話は初耳だったから少し驚いたけど、リックはそれでいいと思ってる?」
「あ。アリスティド」
 中央の台の周囲には椅子とテーブルが多数置かれている。台が見える位置に座ったデニムとリシャールは、演目を眺めつつも話をしていた。
「…無理矢理上がらされたみたいだけど…大丈夫かな…」
「大丈夫よ。だってバードでしょ?」
 少し離れたところで香草茶を販売している露店を見ていたユリゼが、2人に近付いてくる。
「ファンクラブの奴らからすれば、願ったり叶ったりってヤツだよな」
 女性達の甲高い声と一部男性の応援声に包まれたアリスティドは、少し困ったような、だがいつもの微笑を浮かべて台の上に立っていた。そのまま椅子に座り、手にしていたハープへと指先を当てる。
「ファンクラブ…?」
「あぁ。ラティールじゃ盛んだぜ? あの破天荒な神父さんだってコアなファンがついてるって話だし」
「破天荒な神父さん…?そんな方、居た?」
「ふふ…。でもみんな楽しそうで良かった」
 今ひとつ現状を飲み込めていないデニムと、ある程度理解しているユリゼと、別の角度から見てしまっているリシャールの3人は、アリスティドが奏でる音に耳を傾けた。
 対角線上のテーブル席には他のメンバーが座っていたが、酔った勢いで唐突に台の上に上がったアーシャが「私も歌います〜。聞いてください。『ハーフエルフ慕情』」とか、「麗しい踊りに心打たれるが良い!『ふしぎなおどり』」と叫びながら巫女服を着たリリアが踊り狂って「MPがー! MPがー!」と周囲の人(主にエルディン)が苦しむとか、余興は混沌さを増して繰り広げられている。それを酒の肴にしていたセイルは、収穫祭向けワインを他所の商人から樽で購入し、また飲み漁っていた。
「ユリゼさんも楽しまれてますか?」
「私? 楽しんでいるわよ。勿論」
 言いながらも視線をデニムへと向けて、ユリゼは何かを言いかける。だが言葉は喉元で止まった。
「ノルマンの民が幸せであるよう努力するのが僕の役目です。…でもリック。僕は『兄』だから、頼ってもらえると嬉しいな」
「今までだって頼ってきただろ」
「頼らずに一人で何所か行ったことあったよね」
「頼りにしてるよ。けど俺だって一人でやらなきゃいけないこともあるだろ。兄貴が護るこの国で、俺が護るものは此処だっていいんじゃないかって、今は思ってるんだけどな」
 2人のやり取りにどこか自分を重ねつつ、ユリゼはそれを眺める。
「…ねぇ、デニムさん。橙分隊での調子はどう…?」
「はい。先輩方は皆さん良くして下さいます。副長にはよく怒られますけど」
「そ、そう…」
 勿論副長が『彼』ではないことは知っているのだが、その言葉に心が揺らいだ。
「新人ではないんですけれど、一緒に入ったドワーフの方が楽しくて。ただ、分隊長はもうすぐ任を外れるとのことで、今教えていただける事を精一杯学ばせて頂いてます」
「イヴェット様が近々退団される話は聞いてるわ。…アレは…」
「はい?」
「…うぅん。何でもない」
 ラティールに来たのは、少しでも手伝いたかったからだ。離れると決めて道を違えて歩き始めた人が、今もこの地に携わっている事は知っている。支えると誓ったかつての想いが消えたわけではなかったから。
 迷う心を隠しながらも、ユリゼは視線を輪の外へと向けた。夜の中に広がる松明の灯りへと目を向け、そして。
「どっ…どうして来てるのよっ」
「え? 何がですか!?」
 慌てて立ち上がって地面から直立している松明のほうへと走って行くユリゼに、デニムは何事かと同じように立ち上がった。
「何で隠れてるの…」
 松明と同じ直立不動の体勢で、そこに男が一人立っている。
「隠れてないよ。見てるだけだよ」
「そう…」
 相変わらず人を脱力させる男だと感じる一方で、ユリゼはどこか安堵していた。
「元気なら…それでいいけど…」
「健康にやってるよ。最近は、忍の術を習得しようと画策しているんだ」
 会うのは久しぶりだが嬉しいなんて思っていない。そう思い込もうとしてユリゼは男から視線を逸らす。
「…あ。作戦参謀ちょ…」
 その頃、座っている位置からは見えなかった男がようやく見えて挨拶をと歩き出したデニムだったが、その肩をがしっと掴まれた。
「邪魔をする者は何とやら、だな」
「セイルさん」
「そうだね。そっと見守るべきじゃないかな」
「上手く行くといいですね〜」
「むしろ上手く行っていると思っていたんですが」
 少し離れたところで外野が見守る中、ユリゼは男へと視線を戻した。
「とりあえず…そこから出てきたら? せっかくの収穫祭なんだし…こういう祭り事、好きでしょう?」
「そうだね。でも君が気にしてくれていた事が嬉しいよ」
「私は別にっ…。ただ、本当に体の調子も戻ったのかなと思って…」
「それで、薬草園に新しい薬草を植える事を提案してくれたんだね。ありがとう」
「ち、違うからっ。あれは本当に、たまたまあの近くに居たお婆さんが、節々の痛みが、って」
 男の笑顔を見ながら、言うほどに空しくなって行く。再び目を逸らしたところで、今度は見守る一行が目に入った。
「…とりあえず…みんなに挨拶したら…?」
 これ以上見守られるのは恥ずかしいという思いもあって、ユリゼは男にそう提案した。
 
●祝福の日
 結局、彼らは数日間ラティールに滞在した。
 『新作お菓子』と銘打たれた怪しい土産を試食して悶絶してみたり、皆で飛び入り合奏団を披露してみたり、以前植えられたアーモンドの樹の生長具合を確かめたり、やっぱりワインを飲み倒したりした結果、彼らも町の人々にとっても、楽しい収穫祭となったようだった。
「新作菓子はさすがに不味いよな…。無難にこっちの木彫り乙女にするか、銅製乙女にするか…」
 以前は悩みもしなかった、家族への土産をどれにするかで1時間をそこで過ごしたセイルも、背負い袋にあれこれ土産を詰めて帰って行った。
「今度は絶対にイスパニアに遊びに来てくださいね!!」
「勿論いくわよ! 写本も互いに用意しておきましょうね!」
 熱い友情の抱擁で別れたアーシャも、ペガサスに乗ってあっという間に飛び去って行った。
「本当はもう少しお手伝いもしたかったのですが…」
 新しい観光名所を作っていると聞いて、その作業を買って出たデニムだったが、休暇もそれほど長くは取れず、先日松明の陰に隠れていた男、元橙分隊副長のフィルマンと共に、パリへと帰って行った。
「君は、どうするの?」
 来客たちが次々と帰ったこともあって、アリスティドは普段通りの生活を送っている。町長補佐のオノレと一緒に周辺を廻って問題点が無いかを確認していた。
「私はまだ旅を続けるわ」
「そう。気をつけて」
「結婚式が決まったら教えて。お祝いに駆けつけるから」
「もう少し先になると思うよ」
 最後の来訪客ユリゼを見送ると、アリスティドは丘陵に広がる小麦畑を見つめた。収穫祭の間でも毎日のように刈り取りが行われた畑は、この数日で景色を変えている。少し離れたところでは、エルディンが刈り取りを手伝っている様子が見えた。白の教義に携わる者は人の生活に寄り添う。『少し変わってる』『破天荒」などの風評被害を受けつつもエルディンが頑張っていることをアリスティドは知っていた。誰もが皆、少しでも明日は良くなるようにと、日々努力しているのだ。
「ボーリングのピン、後で僕達も作製を手伝おうか」
「そうね。…エルディンさん、気にしてないといいんだけど…」
 アリスティドの傍にはエリザベートが居る。寄り添いながらも、その目はアリスティドと同じ方向を見ていた。
「多分大丈夫だと思うよ。彼は打たれ強いから。…それよりも、ユリゼが言っていた結婚のことなんだけど…」
「式は…まだ無理だと思うわ。みんな、私達をお祝いする気にはならないと思うし」
「式、じゃなくて」
 かつては毎日のように持ち歩いていたハープを、アリスティドはそっと抱える。軽く爪弾くと、音が風に乗って流れた。
 収穫祭ともなると、道端のあちこちから音楽が聞こえてくる。ついその音に誘われて、ふらりと外に出ては奏でることもあった今年の祭りだったが。
「結婚しよう。エリザ」
 恋の唄を一曲奏でた後、彼は静かにそう告白した。静かだが強く、迷いのない言葉で。
「リリアとエミールも結婚したし、僕達が遠慮する理由はある?」
「でもっ…」
「この収穫祭であちこち廻って時々声を掛けられたよ。『お祝い事はいつだ?』ってね。勿論反対する人は居ると思うよ。でも、何年経っても反対する人は居ると思うし」
「私も、アリスとずっと一緒に居たいって思ってる。でもハーフエルフの事はまだ解決してないわ」
「努力するよ。エミールにもそこは努力してもらう。だから…結婚しよう。僕も、もっと傍に居たいよ。エリザ」
 微笑むアリスティドを見上げ、エリザベートは小さく頷いた。
「本当は…待ってたの。そう、言ってくれる日のこと」
「ごめんね。待たせてた?」
「丁度…良い頃だったかも」
 顔を見合わせ恋人達は笑いあう。
 きっと冬が始まる前には、親しい者達だけを呼び誓いの式を挙げて正式に結婚ということになるだろう。町の人々にお披露目できるような式は、もっと先の話だ。
「エルディンさん…お仕事して下さるかしら」
「彼なら、きちんと僕達を祝福してくれるよ」
 噂されている事も知らずに一生懸命小麦を干しているエルディンを見ながら、2人はしっかりと手を繋いだ。共に歩き始める事を決意した2人はやがて頷き合い、刈り取りの終わった畑へと入って行く。
 この実りの秋にひとつの祝福を与える喜びは、すぐにエルディンに伝えられることだろう。そして喜びは繰り返される。
 彼らの子供達が、いつか来る未来に祝福を得る日も、必ず来るのだろうから。
 
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

eb3084/アリスティド・メシアン/男/28歳/バード(町長候補)
ea3502/ユリゼ・ファルアート/女/30歳/ウィザード(薬草師)
eb0346/デニム・シュタインバーグ/男/22歳/ナイト(ブランシュ騎士団橙分隊員)
eb6702/アーシャ・イクティノス/女/24歳/ナイト(奥様)
eb8642/セイル・ファースト/男/28歳/ナイト(査察官)
ec0290/エルディン・アトワイト/男/34歳/神聖騎士(ラティール教会神父)

 - /エリザベート・ラティーユ/女/22歳/ラティール元領主の娘
 - /リリア・シャトーティルユ/女/28歳/シャトーティエリー領領主の妻
 - /リシャール・シャトーティルユ/男/17歳/レンジャー(領主の甥)
ez1115/フィルマン・クレティエ/男/35歳/ナイト(ブランシュ騎士団橙分隊員)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注頂きましてありがとうございます。呉羽でございます。
長い時を経て再びこの世界を紡がせて頂きまして、大変嬉しく思っております。
尚、登場人物のPCさんは現在の年齢、NPCはノベル時の年齢で記載しております。このノベル時は、4年(人間基準)差し引いた年齢にPCさんはなるかと思われます。
NPCに関しましてはご指定頂きました中で、数を絞って登場させて頂きました。
又、お互いの呼称や話し方が間違っておりましたらリテイク下さいませ。

ユリゼ様:時期的に振り幅が難しい記述となってしまいました。相変わらずの切なさ一方通行で申し訳ありません。
デニム様:諸事情により橙分隊は出せなかったので新人隊員らしく補完させて頂きました。リシャールの独り立ちを精神的に支えて行って頂けそうです。
アーシャ様:奥様の天馬旅行は、旦那様公認だったのでしょうか。写本が標準装備仕様だったので驚きました。
セイル様:ただの居酒屋梯子状態になってしまい申し訳ありません。本気になればボーリング玉で地面に落とし穴を作れそうです。
エルディン様:神父様が密かに別名で写本執筆している事は存じております。後で添削などされていそうです。
アリスティド様:案内役になってしまいましたが最後に恋人らしく出来たでしょうか。幸せそうな娘さんの未来へと、繋げて下さってありがとうございます。

皆さんを紡げる時間は後僅かですが、またご縁がございましたら宜しくお願い致します。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
呉羽 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2015年10月13日

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