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『あの子の言っていたこと。私が思うこと。 』
千獣3087)&秋白(NPC0557)

 あの場所で。

 あの子は、気配も匂いも……何も残さないで、いきなり姿を消してしまって、私だけがひとり残されて。
 話をした内容の全部が、ううん、消えてしまった相手のことすら、本当に、さっきまでそこにいたのかどうかが、何だか、頼りなくて、今のは全部幻だったのかな? って気まで、少し、した。

 ……でも、それでも、さっきのあの子のことを、ただの幻、で済ませる気には、ならなかった。
 あの子がしていたのが、私が知ってるはずもない、私が考えもしない内容の、話、だったから。
 だから、さっきのあの子は、幻とかじゃなくて、本当に、あの子だったんだと思う。
 私と話しているときには、目の前にいるときにはまだ、あの子の気配も、匂いも、ちゃんとした。だから、あの子が、秋白だって、私には、わかった。

 ……それは、あの子が、幻じゃなかった証になる、と思う。
 自分は『実体でできた幻』なんだとか、あの子自身は、言ってはいたけれど。
 私は、あの子は、あの場所に、ちゃんといたんだと、思う。





 ……今、私は、ひとり残されたあの場所から移動して、いつもの森でぼんやりしている。
 大きな木の枝に腰かけて、太い幹に背中を預けて。風に吹かれてさわさわと鳴る枝葉の音を聞きつつ、あの子と――秋白と話したことを、何となく、考え込んでしまっている。

 あの子の、言っていたこと。
 あの子の、したいこと。

 ……元々自分の持っていた立場が勝手に奪われて、代わりに望まない立場が勝手に押し付けられることになったから、その原因になった相手にやり返したい。

 まとめると、そんなようなこと、になるのだと思う。

 ……恨みの筋は、通っている、と思う。
 もちろん、あの子の身に何が起こったのか、本当の意味で理解したとは言えない。
 けど、あの子が、私がわかりやすいように、って、私に合わせて例えて、話してくれた内容を……自分の身に置き換えて、考えたら。

 私でも、相手を憎まない、とは言えない。
 勝手に押し付けて来たのだから、やり返すのだって、勝手だ。
 そう思う。
 ……あの子の言う通りで、何も、おかしくない。

 でも。

 本当に、それでいいのかと考えると、頷ききれない。
 何かが、もやもやする。

 ……あの子がしたいようにしたとして、あの子のために、ならない気がするのかな。

 やり返したい、とは聞いたけど、それで、秋白が、具体的に何をしたいのか、はっきり、聞いたわけじゃない。……誰より苦しめたいとは言っていたけど、何をどうやって苦しめる気なのか……とかまでは、聞いてない。

 それに、私が理解した通りで合ってるのなら、やり返すことができたって、あの子は、きっと、望まない環境のままだ。
 やり返して気分が晴れても、それで終わり。
 何も、変わらない。

 でも、あの子も、そんなことは、わかっているだろう。
 あの子は、私より、きっと、ずっと、賢い。

 だから、いっぱい考えて考えて、その末にできることが、やり返すことだけだったんだろう。

 ……とは思うけど。

 でも、それだと。
 あの子はこれからも、ひとりだ。

 心配してくれる、優しい人はいたって、言ってたけど。
 たぶん、それは、あの子にとって、本当の意味での解決になることじゃ、ない。

 ……私も、そうだから。
 だから、ずっと、悩み続けているんだから。
 ……もちろん、あの子と私の事情は、全く、違うわけなのだけれど。
 でも、何か、そのあたりの、気持ちの持ちようは、どこか、似ている気がしたから。わかる気がしたから。
 だから、やっぱり、それじゃ、あの子は、ひとりになってしまうんだと、思う。

 ……なら、やり返すなんて止めた方がいいって、止めてしまうべきなんだろうか。

 そう言いきってしまうのも、何だか、違う気がする。
 あの子に、私が、そんな風に言ってしまうのは、何だか、よくない気がする。
 ……やっぱり、もやもやする。

 人間なら、止めるんだろうか。
 それとも、止めないんだろうか。

 どうなんだろう。
 わからない。

 ……ううん。人間は、じゃなくて。

 私は、どうしたいんだろう。
 私は、どうするんだろう。

 思考がぐるぐる廻る。

 ……みんな、自分のため、誰かのため、考えて、行動している。
 あの子も、遠からず、動き出す気がする。

 そんな中、私は何ができるのか。
 あの子の思いを遂げさせるのか。阻むのか。それとも。

 何か、別のやり方を選ぶことも、あるのだろうか。

 ……何か、別のやり方は、ないのだろうか。
 このもやもやを感じなくて済むような、何か別のやり方。
 ぐるぐるぐるぐる、考える。

 私にできること。
 私のしたいこと。

 あの子が、あの子の望みのために、動き出したなら。
 私は何を、するだろう。
 私は、どうしたら、いいと思うんだろう。
 今ここで、たくさんたくさん考えても、どうやら答えは出そうにない。

 ……たぶんきっと、そのときになってみなければ、わからないんじゃないかと、思う。

 何だか、そんな気がした。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2015年10月22日

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