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『はとコン狂騒曲 夏の陣 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192)&和紗・S・ルフトハイトjb6970


「警備員募集、ですか」
  樒 和紗(jb6970)は、斡旋所に張り出された一枚の掲示に目を留めた。
 夏休みの時期なると、この久遠ヶ原学園にもこうした一般学生向けのアルバイト情報が舞い込むようになる。
 この手の仕事は危険もなく、その割には手当てが良いこともあって、学生達には人気が高かった。
 いつも貼り出されると同時に満員御礼になってしまうため、なかなか手が届かないのだが――その日は運が向いていたようだ。
 仕事内容はアイドルフェスの会場警備、コンサートを見ながら報酬まで貰える美味しい仕事だ。
 この機会を逃す手はないと、和紗はさっそく契約書にサインする。
 ところが――


 その日の午後、とあるマンションの一室――正確に言えば和紗が住んでいる部屋の隣。
 見慣れたドアの前に立った和紗は、意を決したように呼び鈴を押した。
『えー、誰ー? 勧誘とかだったら間に合ってんだけどー』
 インターホンからダルそうな声が聞こえる。
 しかし。
「…竜胆兄」
 その一言で、向こう側の空気が変わった。
 まるでバズーカで撃ち抜いたかのような勢いでドアが開かれる。
「なに和紗どうしたの? そっちから僕のとこ訪ねてくれるなんて、嬉し――」
「ハグは、結構ですから」
 両腕を広げて出迎えたはとこ、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の顔面に、和紗は一枚の紙切れを「べしっ」と貼り付けた。
「え、なに?」
 それは和紗が受けたバイトの契約書。
 ここを見ろと示された裏面には、当日の注意事項が書かれていた。
「うっかり契約前の確認を怠っていたのですが…この、服装の要件が」
「ん? 会場の雰囲気を壊さない為、その場に合った服装で仕事に臨むこと……?」
 観客に紛れた私服警備員というわけだ。
「ああ、イベント関連ではよくある条件だね」
 しかし和紗は洋服センスに自信がないと言うか、どんな格好をすれば良いのかさっぱりわからなかった。
「竜胆兄なら詳しいかと」
 素直にそう言ってしおらしくアドバイスを求める姿に、竜胆が平常心を保てる筈もなかった。
 普段は意地っ張りの頑張り屋で、何でもひとりで解決しようとする和紗が自分を頼ってくれたのだ。
 それはまるで、人を見れば毛を逆立てていた野良猫が、手のひらに乗せたゴハンを食べてくれた瞬間のようで――これが張り切らずにいられようか。
「任せなさい!」
 ええ、それはもう豪華客船に乗ったつもりで!

 そして善は急げと買い物へ。
「…これが昨今の流行ですか」
 試着室から現れた和紗は、チューブトップの胸元から下にストンと落ちるように広がった白いサマードレスに、フリルの付いた黒レースの半袖ボレロ。髪はアップに纏めて一部だけがわざと取り零されたように脇に流れている。
 ドレスは薄手の木綿とオーガンジーの二重仕立てで、光を受けると足のラインがシルエットになってほんのり透けて見えた。
 甘めのトップスに合わせて、足元はリボンの付いた白いサンダルで。
 この格好で警備員のバイトとか普通なら「ふざけんな帰れ」だが、動きやすい格好でとは言われてないし。
「うんうん、さすが僕の和紗は何を着せてもよく似合うね」
「…誰が竜胆兄のですか」
 ジト目で睨みつつも、選んでくれたことに感謝はしている。
「この代金はバイト代が入ったら返しますので」
「いいのいいの、バイトデビューのお祝いだと思ってよ」
 なにげにお高いアイテムばかりで、高校生のバイト代くらいでは全然足りないとか、そんな細かいことは気にしない。
 可愛い和紗の為に使われるなら、金も金冥利に尽きるというものだろう。
 それに半分以上はただ自分が見たかっただけだなんてそんな。
 ええ、もう満足です。


「いってらっしゃい、気を付けてね」
 あまり遅くなるようなら連絡を入れるようにとオカンのようなことを言って、当日は笑顔で送り出す竜胆。
 しかし、早くも一分後には心配になり、五分後には自分も家を飛び出していた。
(だって和紗ってば自分がどれだけ可愛いかって全然わかってないし)
 それに天然だし、ド天然だし。
(きっとナンパされても気付かないよね、何か困ってるんだと勘違いしてそのまま付いてって、あんなことやそんなことを……っ)
 ああ、いやいや大丈夫それはない、害虫の10匹や20匹、和紗なら簡単にヒネリ潰す。
 寧ろ絡んで来た相手に同情したいくらいだ、しないけど。
 しかし万が一、いや百万分の一、何かが起きてしまったら――
 心配だ、超心配だ。
 というわけで、ストーキング開始であります。

 元々の素材が良い上に、とびきりのお洒落をした(させられた)和紗は案の定、男どもに声をかけられまくっていた。
「ねえねえカノジョ、一人で来たの? もしかして今ヒマしてる?」
「いえ、今は勤務中ですので」
 声をかけてきた男に、和紗は隠し持っていた警備員の身分証を見せる。
 それで引き下がる真っ当な常識と判断力を持つ者はいい、ナンパの罪は涙を呑んで見逃してやろう。
 だがその意味を理解しようともしない脳味噌下半身野郎、お前は許さん。
「いーじゃんそんなのサボっちゃえよー、ね、楽しいとこ行こう? 付き合ってよ、ねえねえ」
 甘えた声を出す暑苦しいムサ男に腕を掴まれそうになり、和紗は思わず身体を引いた。
「え? 付き合う…何処を探してますか?」
「やだなぁ、トイレでも探してるように見える?」
「でしたら入場の際にお配りしたパンフレットに地図が載っている筈ですが」
「きみ楽しいねー、天然? 天然入っちゃってる? 良いねえ天然美少女!」
「…天然、とは…自然現象のことでしょうか」
 美少女の部分は無意識に右から左へ抜けて行ったようだ。
 真剣な表情で首を傾げる和紗は、やがて何かを閃いたように顔を上げる。
「自然現象とは、つまり生理現象…やはりトイレですね」
 しかも何らかの事情で一人で行くのは憚られると見た。
 もしやこれは連れ○ョンか。
 連れショ○を要求されているのか。
 どういう趣味嗜好をしているのか理解に苦しむが、お客様の便宜を図るのも警備員の仕事。
「わかりました、途中まででしたらご案内します」
 ナンパ野郎を後ろに連れて、和紗は歩き始める。
 しかし、目的地を前にして振り向いたその背後には、もう誰もいなかった。
「急に恥ずかしくなったのでしょうか」
 それなら最初から恥じろと思わないでもないが。
 しかし、ここまで来れば任務は果たしたと考えていいだろうと、和紗はさっさと現場に戻る。
 その途中にある茂みの奥で、今まさに修羅場が展開されていようとは知る由もなかった。

「僕の和紗に触るな害虫。肩を抱こうとしたのはこの手かな?」
 涼やかな声と、爽やかな笑顔。
 しかし、その目は笑っていない。
「なんだてめぇ、あの女の彼氏か?」
「ふっ、そんな陳腐かつ軽薄で才知の欠片もない言葉で僕と和紗の関係を表現しようだなんて、それだけでも罰を与えるには充分だと思わない? それってただの愚弄だよね? あ、言ってる意味わかる?」
 竜胆は笑顔だ。超笑顔だ。
 しかし繰り返すが、その目は笑っていない。
「その上、僕の和紗に下心を持って近付いたんだから、情状酌量の余地はないよね?」
 実に楽しそうに、竜胆はその身にアウルを纏う。
 普段は意図的に隠している淡い白光を全開にすれば、その身体から後光が差しているようにも見えた。
 金色の髪は光輝き、ただでさえ美しく整った顔立ちに浮かべる穏やかな微笑は、神々しくも威厳と慈愛に満ちている。
 しかし――しつこいようだが、目は笑っていない。
「覚悟はいいよね?」
 あ、答えなくていいよ、聞く気ないから。
 世の中には「撃退士は力ある者として無条件に一般人を守るべし」とする意見があることは承知している。
 場合によってはそれが正しいことも認めよう。
 しかし害虫、てめぇは駄目だ。
「終わってるんだよ、僕の和紗に色目を使った時点でね」
 もっとも、スキルぶっぱしようとした時点で気絶してしまった為に、それ以上のお仕置きは断腸の思いで勘弁してやったけど。

 その後も竜胆の害虫退治は続く。
 今日の彼はただでさえ目立つ容姿が怒りのオーラによって更に際立ち、魅惑のフェロモンだだ漏れ状態だ。
 よって、彼の背後にはその魅力に思わずクラッと来ちゃった女性達が列をなしていたりするのだが――大事なはとこを守る為に全身全霊を傾けている彼は気付かない。
 何人かが勇気を出して声をかけても気付かない。
 目の前でわざとらしく転んで見せたりすれば脊髄反射で手を差し伸べるが、意識は向かない。
 そして、その後の害虫どもへの容赦ない仕打ちによって、彼女達の竜胆への印象は書き換えられるのだ。
 イケメンからイタメン――痛すぎるイケメンへと。

 しかし彼にとっては「その他大勢」の評価など、地に落ちようとも構わない。
 大事なはとこさえ無事ならば――
「何してるんですか、竜胆兄」
 あ、見付かった。
「それは見付かるでしょう、そんな風に大勢の女子を引き連れていれば」
「え、なに? 女の子?」
「気付いてなかったのですか」
 まあ、それはいいとして――何してるの、ほんとに。
 ジト目で見つめる和紗に、竜胆はわざとらしく顔の前で手を振ってみる。
「ん、害虫退治? ほら、夏は虫が多くて困るよねー」
 それで誤魔化したつもりになっているらしいはとこに、和紗は軽く溜息を吐いた。
「バイト、もう終わりましたから」
「え、いつの間に?」
「竜胆兄が害虫退治に夢中になっている間に」
 うん、それは良かった。
 って言うか、いつからバレていたのだろう。
「次のバイトも決まりました」
「今度は何? また僕の出番――」
「花火大会ですから、和装です」
 それは和紗の得意分野、つまり誰にも頼る必要はない。
 あからさまにガッカリした様子で肩を落とす竜胆に、和紗は心の中で小さく笑った。

 必要ないと言っても、やはり心配でこっそり覗きに来るのだろう、この人は。

「勤務中に発見したら不審者として通報します」
 和紗は相変わらず手厳しい。
「でも、バイトにも休憩時間はありますから」

 それは、一緒に花火を見ようというお誘いと受け取っても、良いのかな?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7192/砂原・ジェンティアン・竜胆/レベル2はとコンストーカー】
【jb6970/樒 和紗/最強(恐?)の天然】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お待たせして申し訳ありません。

依頼では他の方の手前、「ジェンティアン」さんで表記していますが、今回はお二人だけの時間なので「竜胆」さんとさせて頂きました。
それは困るという場合、或いは何か他に問題がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

今回は前回に輪を掛けて「もっとやれ」ということで……如何でしょう。
まだもう少し行けた気がしないでもないのですが(何処へ(

では、お楽しみ頂ければ幸いです。
野生のパーティノベル -
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エリュシオン
2015年10月27日

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