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『貴女の声が愛しい 』
シルヴィア・エインズワースja4157)&天谷悠里ja0115

 個を表すもの、己を定着させるもの
 貴女の声で紡がれるからこそ、それはより愛しい――

「ユウリ、覚えていますか?」
 あの日を準えるように、夕食を済ませ食後のシャンパーニュを空けて散歩に出掛ける。グラス越しに見る――ほんのりと頬を染めた悠里は美しかった。そんなことが、シルヴィア・エインズワースの脳裏を掠め、今、目の前ではにかむ天谷悠里へと手を伸ばす。
 伸ばされたシルヴィアの手に悠里はその手を重ね、きゅっと握った。
「もちろんです」
 何をなどと無粋なことを問う必要はない。
 夏の日、二人はこの避暑地で想いを繋ぎ、心を繋いだ。そして、今は……揃いの指輪が薬指に光る。文字通り夢に見た永遠の誓い。目覚めたときの想いは一つ――交わす視線はどこか甘く熱を持つ。
 あの日まで、どこか自分の中で縺れ戸惑いのシコリとして残っていたものはもうない。
 繋いだ手の温もりを素直に愛しく感じ、幸せだと思う。まるで新婚旅行でもしているようで意図せず頬が緩み、悠里は反射的に空いた片手で口元を覆った。

「どうかしましたか?」
「な、何でもありません」
 ふわっと頬に熱が集中するのを誤魔化すように、ぎゅっと握った手に力を込め向かう先へと視線を逃がす。
 シルヴィアは悠里の機微を見逃さず、ふふっと声を殺して笑い「行きましょうか」と促した。

 がさっと茂みから抜け出し、広がる視界の先は懐かしくも感じる。
 静かに二人を迎え入れるように湖面を滑る風は柔らかく頬を撫でた。玉響の時、二人は双眸を伏せ合わせる様に呼吸する。昼間の熱気を含んだ草の香り、それを包み込むような清涼感のある水の香り。そのどちらも肌で覚えている。


 シルヴィアに促されるまま、悠里は柔らかな芝の上に腰を下ろした。
 続けて隣に腰を下ろしたシルヴィアから彼女愛用の香水がふわりと鼻腔をくすぐった。自分からもほんのりと同じ香りがする。移り香に頬を染め悠里は満たされる気持ちに頬を緩めた。
「ここで愛を告げた、初めてキスを交わした……」
 膝の上にあった悠里の手を取り、指を絡めながらぽつぽつとシルヴィアが語り掛ける。悠里はその甘い手遊びを見つめながら相づちを打つ。
 あの時の緊張と熱が蘇ってくるようで、胸の奥が甘く疼いた。
「昨日のことのように思い出せますが、時間はもっと流れてしまいましたね」
 シルヴィアへと視線を投げながらそう続けた悠里にシルヴィアは頷く。
「時は流れて……私たちは」
 結ばれた――陰は重なり、啄むような口づけが交わされた。
 夢での出来事ではあったけれど、二人にとってとても重要な意味を持つ。
 無意識に悠里は繋いだ手に手を重ね指輪を撫でる。これがなければ、自分は今も……。
「シルヴィアさん」
「はい」
 ぎゅっと握る手に力を込められて、シルヴィアは首を傾げた。いつもなら反対かもしれない。
「……好きです」
 消えそうな声で、とても……と繋ぐ。シルヴィアは耳まで赤くしてそう告げる恋人が愛しく瞳を細める。そんな可愛らしい恋人の姿がシルヴィアの嗜虐心を擽ったのかもしれない。
「ユウリ、貴女の好きな相手は誰ですか?」
「――ぇ、ですから、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、とは?」
「シルヴィアさん、です」
 もごもごと口にする悠里。そう、私です――首肯したシルヴィアは
「ねえ、ユウリ。さん付けをやめてみませんか?」
「え」
「私の名はシルヴィアです」
 言って、続けるよう促し悠里の唇をちょんっと弾く。
「で、でも……」
「私が良いと言っているのです」
 さぁ、とせっつく悪戯なシルヴィアに悠里は視線を泳がせた。いつも、さん付けで……お姉ちゃん……で、それが当たり前になっていて、ちょっとした変化はとても気恥ずかしい。
 喉の奥に何か詰まってしまったように声が出ない。
 そんな悠里の戸惑いが益々嗜虐心を擽る。可愛くて、ついいじめたくなるなど子ども染みた感情が沸くとは自分でも笑ってしまう。
「シルヴィアさん……」
「―― ……」
 思わず黙ってしまったシルヴィアに機嫌を損ねてしまったかと、おずおずと名前を呼ぶ悠里にシルヴィアは、ふぃと視線を湖の方へ。
「降る星が湖にとどまっているようですね」
「シルヴィアさん」
「あの日は新月で星が綺麗でした」
「……お姉ちゃん」
 自分の方を向いてくれないシルヴィアに痺れを切らした悠里は、焦ったように繋いだままの手を引く。
「シルヴィア!……さ、ん」
 真っ赤になって語尾が消えていく悠里。
「半分、合格です」
 恥ずかしさに小さくなる悠里を捕まえてシルヴィアは空いた手で悠里の頬を撫で唇を食む。離れる瞬間ちゅっと小さなリップ音。それに混じって、名残惜しげな悠里の「……ぁ」という声。もっとと強請るのは気恥ずかしい。


 許されたと胸を撫で下ろした悠里は、そっと肩に掛かったシルヴィアの手に、そのまま抱き寄せられるのだろういう期待は簡単に裏切られ、湖面を見つめていた視界が重力に従った身体の動きと共に……空を映す。
「今夜も星が綺麗ですね」
 言ったのはシルヴィアだ。
 悠里が頭を打たないように、そっと支えて地面に降ろしたシルヴィアが言うのはおかしい。彼女が先ほどから見ているのは悠里だけだ。
「頭の後ろに目が付いているのですか?」
 と、悠里は笑いを零す。
 隣に身体を横たえたシルヴィアは、その問いに答えるように口元を緩めて、まさか、と微笑む。そして、空いた手で皇かな悠里の頬を撫で顎まで降りてくると、そっと目元に唇を寄せて瞳を細めた。
「貴女の瞳に映っていたのですよ」
「……っ」
 虚を突かれた答えに、悠里は星明かりの下でも分かるほど顔を赤くして視線を泳がせた。
「ユウリの瞳を通してみる星空はとても美しいです。ねぇ、ユウリ……私の瞳には何が映っていますか?」
 なぞなぞのような悪戯な質問。聞くまでもなく答えは出ている。出ていてあえて口にしなくてはいけない。逡巡している悠里の様子を楽しむように、答えを待ちながらシルヴィアは柔らかな悠里の前髪を指先に絡めて遊ぶ。
「……んです」
「ふふ、そのような声では聞こえませんよ」
「お姉ちゃん……シルヴィアさん、です」
 この至近距離でやっと聞こえるような小さな声に、シルヴィアは頷いて
「ユウリ、また」
 ちょんちょんっと指先で悠里の唇を弾く。そのまま鼻先が触れる距離に戻り「ここにいる間だけでも」と前置いて――
「呼んでください。ユウリ、さぁ……」
 僅かに開いた悠里の唇に、囁くシルヴィアの吐息が伝わる。触れそうで触れない距離が切ない。このまま、くんっと伸びをすれば届く、柔らかく甘い心地よさが待っている。
「ユウリ、私の名を――」
 悠里の足の間にシルヴィアの片膝が落ち、互いの体温が伝わってくる。空いた手が悠里の腰を取り強く引くとそれをより強く感じる。
 きゅうっと悠里の胸が苦しくなる。恥ずかしさよりも、彼女を欲する気持ちの方が勝る。愛しさが募り呼吸の仕方すら分からなくなる。
 苦しい。
「……ヴィア……シルヴィア」
 最初は口パク。二度目ははっきりと。


 吐き出した声ごと飲み込むように、シルヴィアは悠里の唇を奪った。甘い吐息が交わり喉の奥の詰まりが解け、悠里は与えられる口付けに身を委ね……より深くと求めるように掛けた手に力を込め身体を寄せる。
 それに応えるようにシルヴィアが角度を変え甘く唇を吸って、促されるように開いた口腔に甘く囁く。
「ユウ、リ……ご褒美、もっと欲しいですか?」
 吐息混じりに問い掛けられ、悠里は恍惚とした瞳を細め小さく首肯する。
 シルヴィアが口付けから灯した悠里の内なる熱は、より強い熱を求めて燻っている。ここでお預けは酷いとばかりに悠里は瞳に切なげな色を見せた。
「では、今度は……お姉さまと呼んでみてください」
「……ぇ」
 シルヴィアの提案に悠里は驚きを隠せず、言ったシルヴィアの表情を確認するように距離を取る。それでも離されることのない身体は、彼女の腕の中だ。
「お姉さま」
 続けて、というように口にしたシルヴィアの瞳は艶麗として甘い毒に沈めるように、真っ赤になった悠里を映している。
「言って……ご褒美をあげますから」
「でも」
 すりっと頬をすり寄せて、耳元で囁く。声を発する度に触れるシルヴィアの唇の感触に悠里の心は震え、疼きを覚えた。
「ご褒美、いらないのですか?」
「んっ」
 それは一息に現実に引き戻してくるには十分な効果があった。耳元で、ちゅっと音がすると悠里の肩が跳ね上がる。
 抗議するように顔を離したくても、のし掛かられ、身体はキツく抱きしめられ逃げ場がない。
「シルヴィ、ァ……」
 羞恥の熱に潤む瞳。艶を帯びた声で悠里が喘げば、シルヴィアの腕はなおも強く拘束する。
「……お姉さま」
 観念した悠里の小さな声。首筋に唇を押し当て、もう一度と囁かれる。その声の振動で身体が痺れる。
「お姉さま」
 吐く息と同時に吐き出した声に、シルヴィアが満足気に微笑んだのが肌で伝わった。ようやっと腕の力が緩んで、
額、鼻先、瞼、頬……口づけが降ってくる。
「お姉さま」
 早くというように顎を上げた悠里の好意に応えるように、
「ご褒美、ですよね」
 唇には甘く深い口づけが降りてきた。ほんのりと香るシャンパーニュの香りに酔いが回る気がする。

 無意識にシルヴィアの首に回した腕の先。星と同じように煌めく指輪が目に留まる。
 小さな戸惑いから脱したときから、それまでが嘘のようで……目の前がクリアになった。解放された気持ちはよりシルヴィアを愛しているのだと実感させ、彼女から与えられる愛が心地よいと思った。

「愛しています……シルヴィアさん」
「……ユウリ」

 自然に出た愛の言葉。
 当たり前のことのはずなのに、何度も口にしたような気がするのに、シルヴィアは嬉しそうに瞳を細めた。

 そして、
「また……さんが、ついていますよ」
 ちょっぴり意地の悪いことを口して微笑み、またキスをする。



【貴女の声が愛しい:了】



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0115/天谷悠里/性別:女/外見年齢:18/職業:アストラルヴァンガード】
【ja4157/シルヴィア・エインズワース/性別:女/外見年齢:23/職業:インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっています。
 汐井サラサです。この度はご依頼ありがとうございました。
 甘い幸せな時間を重ねていくお二人の一場面を描き出すことが出来ていれば嬉しいです^^

 これまでも、これからもどうぞ沢山の幸せで溢れますように……♪
野生のパーティノベル -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年10月26日

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