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『記憶、重なる 』
ロムルス・メルリード(ib0121)&龍牙・流陰(ia0556)

●父の記録
 パタパタとハタキを叩く音がする。
 軽快に開けられた窓と、吹き込む風。それを頬に受けながら一心不乱に掃除を続けるのはロムルス・メルリード(ib0121)だ。
「何が花嫁修業よ……自分たちが出掛けたいからって」
 溜息と悪態を吐く脳裏に過ぎるのは己の父と母の姿。連れ添った年数は自分を見ればわかるほどの年月。にも関わらず、2人の相思相愛振りは未だに健在だ。
 今日もロムルスを自宅に置いて2人だけでデートらしい。
「もうすぐ嫌でも2人だけになるのに」
 言ってハタキで本棚を叩いた時だ。

 パサッ。

 床に何かが落ちた。
「これって……手帳?」
 拾い上げてみるとかなり年季の入った手帳だ。
 薄汚れて擦り切れた表紙には見覚えのある字と名前が書かれている。
「父さんの手帳ね。って、これ……」
 表紙を捲って驚いた。
 中に書かれていたのは父が昔、仲間と共に追っていた人物の事。しかもその内容は意外と細かい。
「父さんがこんなものを残すなんて……意外……」
 そう呟きながら近くの椅子を引き寄せる。
 父の強さは知っている。その父が記録を残すほどに追っていた人物とはどんな人なのか。
 ロムルスは好奇心に任せて頁を捲る。父の知られざる姿を求めて――

   ***

 ×月○日
 追っていた対象を討伐することに成功。
 だが悲しいことに対象には息子がいたらしい。
 まだ幼い彼をどうするべきか……仲間と共に考える必要があるだろう。

 △月×日
 仲間の女性と共に子供のその後を追った。
 どうやら彼は賞金首集団に身を寄せたらしい。
 もしかすると俺たちへの復讐を考えているのかもしれない。

 □月○日
 子供の居場所を発見する。
 場所はジルベリアの森の中だ。
 これから彼に会って話をしようと思う。
 彼の父親の命を奪った俺が言うことではないのかもしれない。
 でも復讐なんてさせたらいけない……絶対に。

   ***

 この日記の後、ロムルスの父は仲間と共にジルベリアにある集落へ向かったらしい。
 村とも里とも呼べない小さな集落。そこに少年はいた。
「あ、あの子よ!」
 女性が上げた声にロムルスの父の目が向かう。
 幼い少年が、目に陰りを持って歩いているのが見えたという。
 父はこのとき「子供にあんな目をさせてしまった」と悔いたらしい。
 それでも少年に声を掛けることは止めなかった。
 ロムルスの父は急ぎ少年の後を追って森へ向かい、そして――
「『強くなることは間違いじゃない。けど復讐のために強くなるのは違う。それは本当の強さじゃない。俺たちのためじゃない。君のために言わせてもらう。復讐なんて止めるんだ』って……」
 読んでいて苦笑いが浮かんできた。
「馬鹿正直すぎと言うか……」
 そう零して、更に父たちの行動を追うべく頁を捲った。だが、手記はそこで止まっていた。
「うそ……復讐を止めるように言って、その先は?」
 肝心な所で話が切れている。
 思わず声を上げたロムルスだったが、ハタと気付く。
「そっか……復讐……しなかったんだ」
 父は存命。そして父と共に動いていた仲間も生きている。それはつまり、少年の復讐が果たされなかったと言うことになる。
「……うん、この女の人はあの人だろうから、間違いないよね」
 名前こそ書かれていないが、父の綴った文字で書かれた行動や言葉でわかる。
 この女性はもうすぐ幼馴染の母親から義理の母親になるあの人だ。
「折角だし、今度2人に話しを聞いてみよう」
 この少年がどうなったかも気になる。
 ロムルスはそう呟くと手帳を閉じた。そうして手帳を元あった場所へ戻すとハタキを手にする。
「帰ってくるまでに終わらせてないと何言われるかわからないし、がんばろう!」
 夕暮れには帰ると言っていた。
 それまでに終わらせないと本当に何を言われるかわからない。
 ロムルスはチラリと手帳の方を見ると、小さく笑ってハタキを動かし始めた。

●師の記憶
 雪深い地――ジルベリア。
 そこに足を踏み入れた龍牙・流陰(ia0556)は、依頼主の頼みで森の奥にある集落を訪れていた。
 村とも里とも呼べない小さな集落。井戸は枯れ、家畜も存在しない場所はかなり昔に滅びた場所だと言う。
「確か井戸の傍の小屋に」
 頼みごとは、集落に隠されたブローチを取ってくること。
 雪が降る前、依頼主の娘が悪戯にブローチを集落に隠したらしい。聞き出すのに2日も掛かったのは誤算だが、確かに子供の足では取りに来るのも一苦労だろう。
 流陰は雪の重みで崩れかける小屋に入ると、話の記憶を辿って家具の引き出しを開けた。
「あった、と……ん?」
 ブローチの置かれた引き出しの更に奥。紙らしき物と本のような物が見える。
「何だ……手配、書?」
 くしゃくしゃの紙を開いてハッとする。
「これは師匠?」
 手配書には覚えのある顔と名前が記されている。そして傍にあったのは誰が書いたかわからない日記だ。
 流陰は何かに突き動かされるように日記を開くと、雪や雨で滲んで読み取り辛くなった文字に目を這わせた。

   ***

 □月☆日
 もうすぐ雪解けの時期だ。
 それまでに新たな根城の確保と獲物の確保をする必要がある。
 そう言えば奴が姿を消した。まさか、な。

 ○月×日
 ジルベリアの討伐隊が動き出した。
 奴が戻らなければ俺達だけで動くしかない。

 △月□日
 奴は戻らない。
 討伐隊は目前まで迫っている。
 まさか本当に天儀へ渡ったのだろうか……。

   ***

「この『奴』って言うのは師匠のこと、か?」
 日記にある「奴」とは流陰の師匠で間違いないだろう。
 そして日記を紐解くことで、この集落が賞金首集団のものだったと言うことがわかる。
「師匠は賞金首……だったの、か……」
 師匠が消えたのはジルベリアの討伐隊が入る少し前。突然姿を消した師匠に、賞金首の仲間も首を捻っていたことが伺える。
「足を洗うつもりだったのか? それとも他に理由が……」
 いずれにせよ師匠はその後、流陰と出会い、彼に生きる術を教え、剣を教えた。
「想像つかないな。あの人が賞金首だったなんて……」
 記憶にある師匠は厳しかった。だが決して悪人でもなかった。
「……何か理由があったんだろう」
 そうとしか考えられない。
 流陰は手配書と日記を引き出しに戻すと、依頼主のブローチだけを持って小屋を出た。
「そう言えば今は何処にいるのだろう。もう何年も会ってないな……」
 何処で何をしているのか。
 連絡を取る手段がない以上わからないが、きっと元気にしているだろう。
「本当に、どこで何をしているのかな……」
 流陰はそう呟くと少しだけ笑って集落を後にした。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib0121 / ロムルス・メルリード / 女 / 18 / 人間 / 騎士 】
【 ia0556 / 龍牙・流陰 / 男 / 19 / 人間 / サムライ 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
だいぶ自由に書かせて頂きましたが如何でしたでしょうか。
この作品がロムルスさんや流陰さんにとって、そして背後さんにとって思い出のひと品になる事を願っております。
この度は、ご発注ありがとうございました!
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舵天照 -DTS-
2015年11月02日

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