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『過現の中で 』
月雲 左京(ib8108)&破軍(ib8103)

 地平線が赤く燃え、日が昇った頃に旅支度を終えた月雲 左京(ib8108)は立ち上がる。
「行って参ります」
 そう行って、里を後にする左京へ温かい励ましが彼女を包みこむ。
 眩しそうに愛しそうに左京は目を細める。
 彼女の想いの先を見て……。

 目的の場所へ足を進めているのは破軍(ib8103)だ。
 顔を上げると、良く晴れた空に浮かぶ雲が流れている。
 一年前の事を思い出して、歩みがゆっくりとなってしまうと、視界の端に自身の髪が揺れて風に遊ばれることに気付く。
 意識を切り替えるように瞬いた彼は風の気まぐれに構うことなく、目的の場所を目指す。


 先に着いていたのは破軍だった。
 腕を組み、精神を統一するかのように目を閉じて彼は微動だにしない。
 心身ともに破軍にとってよい状態であった。揺らぐことはないと自身に思いこませ、戦いの瞬間を待つ。
 目を開いた破軍は眼前の更に向こうへ意識を集中させる。
 暫くすると、左京が現れた。
 小さい体躯であるが、自身と相見えるだろう破軍をまっすぐ見据えている。
 その目に揺らぎはなかった。左京を見て、破軍はそっと息を吐く。彼女に気取られないように。
「待たせました」
 破軍の臨戦態勢に気づいた左京が声をかけた。
「構わん」
 破軍が言えば、左京は傍らに荷物を置き、武器を構える。
「休まなくてもいいのか」
「必要ありませぬ。破軍様といつ相見えてもよいようにしております」
 そう破軍に言う左京に傲りの様子はなく、この瞬間を待っている。
 この時の為に二人は再び一年という時間を修行に費やした。
 はじめの言葉はない。
 いつでも動き、剣を心を奮えばいい。
 二人の読み合いもそこそこに同時に動き出した。
 剣を水平に横へずれたのは左京。彼女の動きを視界の端にとらえつつ、破軍が下段の構えで左京を見据える。
 先に動いたのは左京だ。剣を水平のまま、駆け出す。狙いを見据えた左京は素早く刀を振りあげ、小さく気合を吐いた。
 破軍は動かずに剣を構えたまま、左京の動きをしっかりと追い、剣を持つ腕を上げた。
 耳を突く金属が鋭く触れ合う音が響く。
 左京は間合いを取るために後ろへと下がる為に腕に力を入れた。
 軽やかに下がろうとした左京へ破軍も追う。
 破軍の刀は上段に構えられており、本能で左京は刀を構えようとも間に合わないと察するが早いか、左京は衝撃で吹き飛ばされた。
 破軍の上段の一撃は左京の剣を飛ばし、庭の端へ滑らせられる。
 一撃の衝撃は重く、悲鳴を上げる暇は与えられないほど。何とか受け身をとった左京は左半身を土埃で汚すだけに留まった。

 今年の勝負は決した。
 敗北を理解した左京は震えるように息を吐き、自身を見下ろす破軍を見上げて悔しさをにじませた表情で唇を噛む。
 破軍は左京を見つめて動かない。ただ、彼女を見下ろしている。
 感情を抑制しているような表情をしている破軍に気づいた左京はゆっくり目を瞬き、上体をおこした。
 いかがされたのだろうか……心配してしまう左京が声をかけようとすると、破軍が口を開いた。
「左京、俺の嫁になれ」
 屋敷の庭に重々しいが、はっきりした破軍の声が落とされる。
 二人しかいない静寂の中、風の音が二人の聴覚を支配し、風は優しく二人の髪を揺らしている。
 破軍の声は左京の頭の中で反響し、ようやく彼女の脳に届いた事を知らせるように、白雪より白い肌の顔を真っ赤にしてしまった。
「ざ……っ、れ言……」
 脳天を突き抜けるような衝撃に左京は言葉を噛んでしまう。顔どころか耳まで赤くなって、胸の動悸が激しく、今にも壊れてしまいそうだと思うも、それどころではない。
「か、からかっておいでですか!」
 やっぱり台詞を噛みつつ、慌てて左京が叫ぶ。
「ぬかせ、俺がそんな冗談を言うか」
 言い切る破軍の言葉は確かだ。
 本気なのだろうか。否、破軍は本気であることを左京は本能で察する。
「し、しかし……」
 左京の表情は硬い。
 思いの向こうに在るのは家族のことだ。
 今回の事も見送ってくれた。
 一度は離れ離れになったのにまた離れるという事になってしまう。
 大事な家族を左京は置いて行きたくない。
 左京は立ち上がることを忘れたかのように、思いつめるかのように考え込んでしまっている。
 彼女の様子を見て、破軍はため息をついてしまう。
「家のヤツも連れて来ればいい」
 検討はついていた事を口にする破軍に左京は何故分かったとばかりに顔を上げる。
 破軍は「わかるだろう」と言わんばかりの表情を見せた。
「……家族を大事にしているのは分っている。俺がいる里は人が数人増えたとて、構うところじゃない」
 真直ぐ見つめる左京に破軍は「気にする事はない」と言葉を終わらせる。
「何故……わたくしなのですか」
 破軍に見つめられて左京は彼の真意を問いかける。彼女の表情はどこか、怪訝そうにであった。
 その問いかけに破軍は表情を変えなかった。気持ちはもう決まって揺らぐことはない。
「欲しくなった。それだけだ」
 明快な言葉に左京が照れて俯いてしまう。自身の今の顔を見られたくないから。
 そんな左京の愛らしさに破軍は彼女の頭を優しく撫でる。
「三日後だ」
「え」
 破軍が宣言するように日にちを告げると左京は良く聞こえていなかったのか、顔を上げる。
「今、なんと……?」
 二度目を瞬いた左京に破軍は躊躇うことなどせず、もう一度口を開く。
「三日後、迎えに行く」
「え!」
 念を押すように言われた左京は目を見開いてしまう。
 三日後だなんて早すぎるといわんばかりに見開いた左京の目を見た破軍はそっと、息をついた。
「家のヤツも連れて来いと言った筈だ」
 あの里には左京の兄しかいないのだ。そもそも、あの里は……。
 一年前、彼女がこの場で言っていた言葉はとても小さな破片となって破軍の中に突き刺さっているようであった。
 小さな破片は破軍の心のどこかで火となったかのように、小さく微かに燃えて彼を焦らし、不安という煙が破軍の心を覆っていく。
「……にに様も……一緒ですか……」
「そうだ」
 まるで子供に言い聞かせるようだなと破軍は内心思いつつも、左京はじっと、破軍を見つめるというか、状況についていけなくてどうしたらいいのか迷っているようでもあった。
 左京の様子に破軍は口の端を笑みへと歪めてしまう。
「必ず迎えに行く」
 破軍が伝えると、呆然としている左京を置いて、屋敷を先に辞した。


 左京は先に屋敷を去った破軍の背を呆けたように見送る。
 破軍に求められている事に対して、左京は拒否の思いはなかった。
 自分が誰かの嫁となる事は思いも寄らなかった。
 兄と離れるという事は左京にとって怖れる事だったから。
 ようやく一緒になれたのに、嫁入りとなることで離れることを危惧したが、破軍は左京達を受け入れようとしてくれている。
 きっと、兄は……里の者達が待っているだろう。
 帰ろう。
 荷物をとって左京は屋敷を後にした。
 破軍が告げた言葉は左京にとって戦いで受けた一撃の衝撃より彼女の中に残っていた。


 先に屋敷を離れた破軍の表情はどこか硬かった。
 嫁に来いと告げた時、左京が思いつめた表情をしていた事を思い出していた。
 彼女が危惧したのは兄の事であるのは承知の上であり、それを告げると、彼女は安堵した表情を見逃さなかった。
 今回会った左京の違和感はそれほど感じなかったと思っている。
 それでも、破軍は焦りがある事を自覚していた。
 あの里から左京を離れさせようとする気持ちがあったのだろうと彼は思う。彼女が欲しい気持故に、彼女が囚われる影に彼は表情を険しくさせる。
 破軍は足を止め、来た道を振り返った。
 もう屋敷が見えることはない。
 左京は随分呆けていたが、子供ではないのだから大丈夫だろうと破軍は思案する。

 三日後を破軍は待ち、約束を果たしに左京を迎えに行く。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ib8108 / 月雲 左京 / 女 / 18 / サムライ】
【ib8103 / 破軍    / 男 / 19 / サムライ】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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舵天照 -DTS-
2015年11月04日

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