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『彷徨い辿り着いた先の、物語 』
ユリゼ・ファルアート(ea3502)


 水を含んで柔らかくなった落ち葉が、道を薄く覆っていた。様々な色合いで覆われた木々から零れて降って来る葉の数が、季節のときを感じさせる。
「見ぃーつけたっ」
 どこか物思いに耽る季節でもあるが、子供には季節さえも遊びに過ぎなかった。中庭で、まばらに落ちた葉の中から木の実を見つけたエステル・クレティエ(ka3783)が、嬉しそうに立ち上がる。
「兄さま、兄さま〜」
 立ち上がって、近くで同じように夢中になっていたはずの兄の姿を探す。
「こっちだよ〜、エシィ」
 声は上から降ってきた。木の上を仰ぎ見ると、兄であるユリアン(ka1664)が太い枝に足を掛けて座っている。
「兄さま、あぶないわよ〜」
 母がいつも言うように、エステルもユリアンにそう声を掛けた。言いはしたが、その目は期待で輝いている。それが分かっていたから、ユリアンも手に持っていた果実をエステルに見えるように軽く振って見せた。
「大丈夫だよ。これ、伯母さんのおみやげにしよ」
「うんっ。…おばさま、喜んでくれるかなぁ…?」
「伯母さんが喜んでくれなかったことなんてないだろ?」
 歳の割りに大人びたことを言いながら、ユリアンはひらりと木から飛び降りる。きゃあと声を上げかけたエステルが、着地後、軽くよろめいたユリアンへと近付いて頬を膨らませた。
「もうっ…兄さま、あぶないことばっかりっ」
「大丈夫だってば」
 ユリアンは9歳。エステルは7歳である。妹から見ると危ないことばかりやっているように見える兄だが、実際に歳の割りには結構危ないことをやっている。
「あれ…あいつは?」
 彼らの下には、5歳になる弟が居た。確か中庭で同じように木の実拾いに夢中になっていたはずなのだが…。
「あーーーっ」
 いつの間にか、兄の真似をして別の木に登っていた。しかも、兄よりも高い位置に座っている。
「それ以上のぼっちゃ、ダメーーーっ」
「だいじょーぶだぉー」
「エステル。母さんか義兄さん、よんできて」
 危ないことはやるが歳の割りにしっかり者のユリアンは、エステルに素早く指示を出した。こくりと頷き、エステルは慌てて年長者を呼びに走って行く。
 3兄弟には血の繋がっていない義理の兄弟も居て、兄弟は全員で6人。両親を合わせると8人の家族だ。なかなかにいつも賑やかでうるさい時も多いが、毎日が楽しく笑いの絶えない日々でもある。だが当然ながら、人数が多い分だけ毎日何かと小さな事件が起こったりもするわけで。
「なんで、おれより高いとこ行こうとするかなぁ…」
 更に高みへと上がって行こうとする弟を追いかけるようにして下から木を登りつつ、9歳のユリアンはぼやいた。ぼやきつつも内心、自分だって行けるところまで登りたいわけでもあったのだが。
 そうして年長者と大人が駆けつけた時には、2人の少年は下から見えないほど高い位置まで木を登ってしまった上に自力で降りることが出来なくなっており、年長者たちに叱られるという結末を迎えたのであった。


 よくある朝を終えた家族は、当初の予定よりも少し遅れて家を出る事になった。
 町の中心部からは離れたところに建っているその家からでも、町の賑わいは見てとれる。平常よりも賑やかで、心が浮き足立つような期待も持ってしまう秋の一大イベントと言えば『収穫祭』だ。大人から子供まで、年齢性別問わず皆が楽しみにする季節であり、祭りである。
 収穫祭は何日も続けられる為、普段他の町との交流が乏しいような田舎の町村でも、その時期ばかりは人の往来も増え自然と商売の機会も増えた。都ほど豪勢な祭りとは言えなくとも、人々が数多く集まって何日も、お祝いだからと食べ飲み歌い踊る。人々が集まって騒ぐのだから時折問題が発生することもあったが、それも祭りの醍醐味とばかりに楽しむ者たちも居た。
 そんな収穫祭が始まって既に何日か経過しているが、祭りの期間中に家族8人全員揃うのがこの日だけだった為、今まで心行くまで今年の収穫祭に参加していなかったのだ。やっと皆で楽しめると、子供達はいつも以上にはしゃいでいた。
「はやく、はやくーっ」
 中心部に近付くにつれ、吟遊詩人たちの朗々たる歌声や、あちこちで奏でられる楽器の音が大きくなってくる。もう待ちきれないと言う風に子供達が足踏みしながら大人が来るのを待つ光景が、道の至る所で繰り広げられていた。
「大丈夫よ。走らなくても、詩人さん達は逃げたりしないわ」
 子供達の期待に満ちた目の輝きを見ながら、ユリゼ・ファルアート(ea3502)は笑顔で応える。
「逃げちゃうかもしれないじゃん!」
 養子の一人が両手に拳を握って訴える姿も、可愛いものだ。
「そんなこと…」
 ないわよ、と言いかけて、彼女はふと隣を見た。見てしまった。
「確かに、大きい舞台に呼ばれたらそっちに行ってしまうかもしれないねぇ」
 夫であり子供達の父親でもある男が隣を歩いていたはずだが、頭部がいつの間にか大仏になっている。
「…そうね…。見慣れないモンスターが近付いてきたら、逃げてしまうかもしれないわね…」
「父さま〜っ。今日はお祭りだから、『お祭り』をかぶる、って言ってたのに〜」
「ジャパンでは、お祭りの日は大仏を被るのだよ」
 おいでエシィと声を掛けて自分の肩に娘を乗せる頭部大仏を眺めながら、ユリゼは小さくため息をついた。隙あらば頭部に防寒具を被る癖と、間違ったジャパンの知識を子供達に植え付けて行く言動を、いい加減少しは直して欲しいのだが。
「かあさま、ぼくもだっこ〜」
「こら。まだ来たばっかりだろ」
「あ。私、あれ食べたい!」
「あれ『ゲテモノ料理』って言うんだって、隣のおばさんが言ってた」
「あの細工物は〜?」
 6人が6人、祭りをそれぞれに楽しんでいる姿は本当に良かったと思えるのだが、目を離した隙にどこかへ飛んでいってしまいそうな子もちらほら居るので、目が離せない。手は2本しかないので、大人が2人居ても4人しか手を繋げないのである。
「あら?…あの子は?」
「『遊び屋台』のところに居るわ、母さま」
 ついさっきまで居たはずの末子が案の定あっという間に姿を消したが、父親の肩の上から目ざとくエステルが見つけた。そんな風に兄弟達が気を遣ってくれているから、子育ても何とか出来ているのだ。
「エシィ。一緒にあいつ迎えに行こう」
「わたしも〜?」
 特等席を満喫していたエステルだったが、ユリアンに言われて仕方なく降りる。そのまま2人は弟を連れ戻すべく、広場に並ぶ露台へと向かった。そして今まさに無料で遊ぼうとしている弟を引っ張り出す。
「遊びたいなら、母さんに言ってお金もらってからだろっ」
「わたしだって遊びたいんだからねっ」
「…もらってくる〜」
「まだダメっ。伯母さまと会ってからでしょ」
 エステルが2歳年下の弟を一生懸命諭している間に、ユリアンは道を歩く家族たちのほうへと振り返った。
 他の兄弟達も近くに居るが、両親は2人でゆっくりと歩いている。片方は視界が悪そうな姿だが、母親と2人きりの時にそんな格好をすることは無い事を、彼は知っていた。母親も、普段は1人で自分達を育てていることが多い。何かと苦労してきたであろう姿も見てきたが、今は貴重な家族水入らずだから子供達と離れてのんびりする気もないだろう。
「なぁ、エシィ」
「なぁに? 兄さま」
「先に、伯母さまの所、行こう」
「どうして?」
「どうしても。お前が行くって言ったら、みんな一緒に行くんだから」
 自分達が傍に居たら、両親が2人で行動することもない。両親を2人きりにさせて、母親を少しでも楽な気持ちにさせてあげたかった。
 母親の姉代わりの人達と家族ぐるみで収穫祭を楽しもうと、今日は待ち合わせの約束をしている。それまでの短い時間しか満喫出来ないかもしれないが。
「じゃあ兄さま。お姫さまにするみたいにして」
「えーー…。仕方ないなぁ…」
 言いながらも『お姫様に行うようなつもりで』軽く妹の手を握ると、ユリアンは両親のほうへと向き直る。
「母さん! 父さん! 伯母さんの歌早く聞きたいから、みんなで先行ってる!」
 声を聞いて他の兄弟もやって来たのを待って、ユリアンは妹の手を引いた。
「ほら、行くぞ」
「お姫さまだっこは?」
「え?」
「お姫さまだっこ」
「え…」
「仕方ないお姫さまだなぁ」
 彼らの兄が、笑いながらエステルを抱き上げる。わ〜いと嬉しそうな妹を何となく複雑な思いで眺めながら、ユリアンは弟の手を繋いだ。
「…お前は、お姫さま抱っこ、とか言わないよな」
「おんぶ」
「…」


 抱っこされたり背中に背負ったりしながら去って行く子供達を、ユリゼは一瞬呆然と見送った。少し姿が小さくなったところで我に返る。
「相変わらず、うちの子達はみんな元気だねぇ」
 隣で大仏を脱いだ夫が、のんびりと見送っているのを見て、改めて子供達のほうへと目を向けた。
 気遣われたんだわ…。思わずそう呟きかけて、その言葉は内心に仕舞っておく。優しくて本当に良い子達だと思うのだが、変に気が利くのは、誰に似たのか…。
「姉さんとの待ち合わせ場所も…遠くないし、少しだけなら子供達だけでも…いいかしらね」
「いいんじゃないかな。今から冒険のひとつやふたつ、やっておいても」
「冒険って…冒険者にするつもり?」
 ゆっくりと歩き出すと、歩幅を合わせて夫も歩き始める。
 何時からだろう。いつも先を歩いていたこの人が、隣を歩くようになったのは。冒険者として必死に生きてきたあの頃、多くの喜びと楽しみと、そして苦しみがあった。その絵の中に、この人がいつの間にか入り込んで、背中を必死で追いかけていた時期もあった。
「ユリアンは…悪戯とか余りしないけど、ちょっと目を離すとすぐ森の奥に行きたがったりするの。森の奥は危険だからやめなさい、って言ってるんだけど」
 追いかける事を止めた時期もあった。けれども彼が居ない未来絵図を描き続けることは、出来なかったのだ。だが結婚し子供が6人になった今でも、彼は常に傍に居てくれるわけではない。だから2人になれる時間が取れれば、話は自然と子供達の成長話になって行く。
「この間は、フロージュに一人で乗ろうとして骨折したのよ? 誰に似たのかしら」
「フロージュに乗って空を飛びたがるのは君だろう?」
「そっ…それは、そうなんだけどっ…」
 ムーンドラゴンであるフロージュは、ユリゼが冒険者だった頃からずっと傍に居た、良き友だ。ドラゴンだから当然巨大だが、子供達は怖がりもせずによく懐いている。
「私は大地を駆けるほうが好きだからね。ユリアンは君に似たと思うよ」
「無茶ばっかりするのは、あなたに似たんだと思うわ」
「君だって、結構無茶をしてきたと思っているんだけどね」
「…無茶してない、とは言わないけど…」
「でも独り立ちにはまだ早いかな。一度冒険に連れて行って怖い思いをすれば、1人で何でもやろうと突っ走ったりしなくなるものだよ」
「…その教育方針、何とかならないの…?」
「実体験が一番だよ」
 その内、獅子が行うかのように崖から子供を突き落としそうだ。せめてもう少し子供達が成長するまでは自分が何とか頑張ろうと、ユリゼはひっそりと決意を固めた。
「エステルはどうなんだい? 今もすくすく可愛い盛りだけど」
「エステルは少しおしゃまで…。ユリアン達には私の真似をしてよく怒ってるわ」
「男は女に怒られて初めてちゃんとするものだよ」
「それもどうかと思うんだけど…。でもお洒落で驚くこともあるわ。その日自分が着る服は、いつも自分で決めてるのよ。…どう思う?」
「淑女にはセンスも必要だよ。今すぐにでも社交界に出れそうだな」
 どうして娘には甘いんだろう。とは思わないでもないが、世間一般的に父親とはこういうものなのかもしれない。
「…社交界デビューさせるつもり?」
「一応、貴族の端くれだからねぇ。まぁ社交界は魔境だから、本人の望み次第かな」
「騎士になって母さん達を護るって言ってくれてるけど、どうかしら」
「エステルが? いや、騎士の世界も結構な魔」
「主に言ってるのはユリアンよ」
 既に騎士職を退いて久しい夫、フィルマンだが、自宅にはその時代の装備などを収納している。式典などで着飾った白い鎧一式もあるが、戦場で着ていた穴だらけの鎧が倉庫から出てきた時は、ユリゼも思わず胸を痛めたものだった。
 だが子供達は、父親が騎士として表立って活動していた頃を見たことがない。
「それでも…騎士になると言うのは、血なのかしらね」
「ユリアンは君に似てるからなぁ…。『騎士』にはならないんじゃないかな。『王子様』にはなるかもしれないけど」
「…そうね。いつかは…誰か1人の女の子の為の王子様にはなると思うんだけど」
「私が傍で鍛えていれば『おくて』にはならないと思うんだけど、妹にもあれじゃあ…先は長そうだな」
「あのね。まだ9歳よ? それに、おくてでも悪くないと思うんだけど」
 まだ9歳と言うべきか、もう9歳と言うべきか。長かったようでいて、あっという間の期間だった。
「…でもきっと…皆、あっという間に巣立って行ってしまうわね」
 待ち合わせ場所に着いて、既に待っていた家族たちと再会を喜び合っている子供達の姿が見えてくる。無邪気にハイタッチなど繰り広げているが、そんな純粋な笑顔も、いつまで自分達に見せてくれることだろう。
「今はくたくたになる程賑やかだけど、何れ寂しい位に静かに…」
「自分達も通った道だからね」
「それは、そうなんだけど…」
 巣立ちを迎える日の事を思うと、寂しい想いが胸を締め付ける。賑やかだからこそ、それを失って行くだろうと想像することは哀しい。
「でも…その時くらいは、傍に居てくれるでしょう?」
 ちらと夫を見上げると、彼はいつもと同じ笑みを返した。
「過去も、未来も、今も。傍に居るよ」
「…明日からまた遠出でしょう?」
 夫の腕に触れるくらいの位置で寄り添うと、軽く肩を抱かれる。そのまま視線は子供達のほうへ向け、ユリゼはそっとフィルマンの手に指を絡めた。
「…今は望まないわ。でも、家に私1人だけになったら…その時になったら…」
 僅かに頭を傾け、夫の肩に頬を当てる。
「その時は…傍に、いてね? フィル」
「その時は、若い頃のように一緒に旅できるといいね。今よりも平穏な時代になっていたら、君と世界を廻りたい。でももし、そんな世界になっていなくても」
 肩を抱く手に力が入ったのを感じて、ユリゼは顔を上げた。その頬に、手を当てられる。
「昔のように、君をもう1人にはしない。…そう、君の姉妹にも誓ったんだ」
 けど、君が1人にならないようにと授けられた子供は、少し多かったかな? 軽い口付けの後に囁かれた言葉に、ユリゼは目を見開いた。
「やっぱり…私が寂しく思わないように、だったのね…。養子を預かることにしたのは」
「それだけじゃないよ。さぁ、今からは貴重な皆との時間を、楽しもう」
 笑ってユリゼの手を引き、フィルマンは歩いて行く。ほんの少しだけ前を、歩く。その姿を見ながら、ユリゼは自然と微笑んでいた。
 目の前では待ち構える子供達。大切な子供達と、大切な人の家族達。そして隣には生涯を寄り添うと決めた人。
 この世界はこんなにも幸せに満ちていて、輝いている。実りの広がる収穫の時のように。
 

 いつの季節も、風に乗り流れる雲を、空を、よく仰いだわ。
 陽の照らす時間は移ろい行く色を眺め、月の照らす時間は星が瞬き月が輝く光を眺めたの。
 そうして辛い時も哀しい時も、空は、風は、私を慰めてくれた。
 時は過ぎて、優しいこの世界のことを今は感じる。
 流離い彷徨い道を失った日を経て、辿り着いたこの道を。
 光に満ちたこの道を、私は歩いて行くと決めたの。
 あなた達と、一緒に。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

ea3502/ユリゼ・ファルアート/女/30歳/妻(薬草師)
ka1664/ユリアン     /男/9歳/実子長男
ka3783/エステル・クレティエ/女/7歳/実子長女

ez1115/フィルマン・クレティエ/男/39歳/夫(冒険者)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注頂きましてありがとうございます。呉羽でございます。
この世界における、ユリゼさんとご家族の最後の物語を紡ぐことが出来て、嬉しく思っております。
尚、一覧に記載の年齢は、現在の暦年齢となっております。

もう少し夫婦でいちゃいちゃとも思ったのですが、子供達と皆でいちゃいちゃさせてしまいました。
色々ありましたが、幸せであって欲しいと願う思いを籠めさせて頂きました。

この世界とはもうすぐお別れでございますが、またご縁がございました折には、宜しくお願い致します。

■イベントシチュエーションノベル■ -
呉羽 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2015年11月04日

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