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『煌めく時間 』
雅楽川 陽向(ib3352)


 聖夜祭、その日は彼女にとって特別な日。
 だって、その日は――。

「え、小麦粉ってこれだけなん?」
 鍋蓋長屋の調理場にて。
今年もここでクリスマスパーティーが行われると聞いて、ワクワク気分で依頼に参加した神楽川 陽向(ib3352)は困惑する。
料理好きであり今日まであれこれ何を作るか考えを巡らせてきたのだが、長屋の持ち寄り食材では彼女の思うケーキは作れず、これではよくてクッキーが関の山だ。
「ごめんね…卵と牛乳はあるのだけれど」
 彼女が作りたいものを察し、申し訳なさそうに長屋の住人が言う。
「あっええねん、ありあわせのもんでも美味しいもんは出来るさかい。気にせんといてっ」
 彼女は迂闊だったと思いつつ、一旦調理場を後にする。
「うーん、これは知恵を絞らんと…」
 ふと好物の団子用の粉が頭に浮かんだが却下した。ふわふわのスポンジを作りたい彼女にとって、あの粉では希望の触感は得られない。では、少し捻ってトウモロコシ粉は? 確かにこれならば甘みはあるが…粘りが強く余り膨らむとは思えない。
「どないしよ…」
 彼女が寒空の下で思案する。
「何かお悩みかにゃ?」
 とそこへ一匹の猫又がやって来た。誰かの相棒らしく、首にお守りを下げている。
「小麦粉が足りんのよ。だから、代用品を考えてて」
 耳を伏せ、彼女が苦笑を浮かべる。
「だったら、あれはどうにゃ?」
 そんな彼女を見かねて、辺りを見回した彼はふとある方向を指差す。
「でも、あれをどうやって…」
「粉にするのにゃ。米粉ってやつなのにゃ」
 猫にしては博識――彼女は感心した。彼女も聞いた事がある。
「成程やね。それいい考えかもしれへん」
 よく考えるとこの長屋に竈はあれど石窯はない。ケーキを焼き上げようと思っても石窯が無ければ、なかなかに難しい。ならば方向性を和に切り替えたスポンジ作りが必要だ。
「おおきに、猫又さん。君のお蔭でいい事思いついたで」
 見上げてくる猫又を彼女が優しく撫でる。
「おい、ポチ。やっぱり俺は…」
 そこでやっと主人登場。繕いだらけの半纏が妙に似合っているが、彼も開拓者らしい。帰ろうとする主人を猫又が引き止める。
「待つにゃ、ご主人。やる事が出来たのにゃ」
 彼はそう言い、主人を石臼の方へと案内する。
「おいらはポチ。こっちは御主人の一抹 風安(iz0090)にゃ。宜しくなのにゃ」
 ポチが律儀にお辞儀する。一抹も一息吐くと諦めたように作業を始めるのだった。

 十人十色…他者の刺激は良いスパイスだ。
「そうや、クリスマスやし赤いケーキにしたらどうやろ」
 一抹の米粉が出来た頃、生クリーム作りを終えた陽向に新たな閃き。
 クリスマスの定番カラー。それを表現するには?
「ニンジン、にゃ?」
 ケーキには似つかわしくない食材にポチが首を傾げる。
「せやよ。これで赤く染めて、抹茶の緑と合わせればばっちりやん♪」
 彼女はそう言うと米粉の生地にすりおろした人参を加えて蒸し器の準備。竈の上の鍋に水を沸騰させて、蒸篭を乗せればここでも土台となる蒸しパンのスポンジが作れるという訳だ。
「どれ味見を」
 その横では料理酒片手に一抹が出来立ての手羽先をつまみ食い、長屋のおかみさん方からお叱りを受けていたり。
 その先に目をやって、陽向にまたまた楽しい閃き――。
「なんかうち、絶好調や!」
 窓から覗いたお庭には子供達が作った冬の住人。それを再現すべく取り出したのは白玉粉だ。
「うち、お団子大好きなんよ。これの為に開拓者になったと言っても過言でもあらへん。だから使わんとね」
 不思議そうに眺めるポチに彼女はそう言うと、早速何か作り始めるのだった。



『メリークリスマス〜♪』
 子供も大人も開拓者も。皆が決して広くない寄合所に集まって、並べられた机には色とりどりの料理が並ぶ。
 中にはクリスマスに似つかわしくない料理も並んでいるが、それもまた御愛嬌。神楽の都の片隅で多国籍ごった煮な雰囲気が宴に面白味を加えている。前半は住人達の出し物を眺め、料理をつついて……お腹が膨れてきたら、次は別腹タイムだ。
「じゃーん♪ うちの特製雪だるまさんケーキやでっ!」
 切り分けられたケーキにはもれなく小さな雪だるまが乗っていて、ポチがハッとする。
「これってもしかして?」
「そう白玉やっ。バランスとるのが難しかったんやけど何となかったわ」
 彼女はそう言いぱちりとウインク。大きい白玉を土台に胡麻で目を付けた頭をのせて、抹茶で作った柊の葉のクッキーに支えられ、生クリームの大地に愛らしい姿を見せている。そして土台に方にも一工夫。横に切って挟まれているのは抹茶クリームと旬の蜜柑。苺が良かったが、流石にこの時期は手に入らない。けれど、今年の蜜柑は苺に負けないくらい甘い。
「どうかな?」
 ケーキを頬張る子供達に彼女が問う。
 口の周りにクリームをつけながらも子供達から出たのはとびきりの笑顔で…言葉はなくとも、その表情がそのケーキの出来を証明している。
 そして、ケーキをあっという間に食べ終えると次に子供達が目を付けたのは決して大きくないツリーだった。
「あ、これクッキーだよね? 食べていーのぉ?」
 子供達の作ったオーナメントと一緒に飾られているお菓子達。これも陽向の一品でケーキ用に作ったクッキーの余りを利用している。
「うん、ええよ」
 その答えに子供達ははしゃぎ出し、ツリーに走りぱくりとやって…それはちょっとしたゲームのようだ。
 その仕草がまた可愛くて、大人達の目を楽しませる。
「おねーちゃんもやろうよー」
 一人の少年が彼女に声をかける。彼女はそれに快く承諾して、狙うのは高い場所にある三日月クッキー。
「ほいっとな」
 ふわふわの尻尾を揺らして軽々とそのクッキーを口に挟む。
「おいらも負けないのにゃ」
 そう言ってポチも跳んだ。月明かりを背に天辺近くのお魚な一枚をゲットする。
『二人共、すご――いっ』
 その光景に子供達の目が輝く。すると、その時――新たな音。
 ぴゅるるーと笛を吹いたような音がしたかと思うと次の瞬間、静かな空に大輪の華――。
「おぉ! 冬な花火も乙なもんだ」
 誰かが言う。夏の花火と違って白を基調としたそれは四方に広がり、雪華紋を描き出す。
「凄いっ! うち、こんなん初めてやっ」
 次々と撃ち上がる花火につい見惚れてしまう。
 後から聴いた話であるが、この花火は某所の罠師の特別製だったとか。
 そして、その花火にはもう一つの仕掛けがしてあって…夜空の星と花火に混じってふわふわと落ちてくるのは小さな箱だ。丁寧に包装されたそれらには綺麗なリボンが結ばれ、落下傘をゆらゆらさせながら降ってくる。
「サンタからのプレゼントさねっ♪ 皆、受け取るさぁ」
 依頼人であり主催者でもある新海 明朝(iz0083)の声に子供達が喜ぶ。落ちてくるまで待てず、その場で跳ねている子もいる。
「あんたにはこれさぁ」
 そして陽向には新海が直接小さな包みが手渡される。そう言えば彼と会うのはギルドで依頼を引き受けた時以来である。
「これは?」
「開けてみるといいさね。手伝ってくれたお礼…と言ったところさぁ」
 彼の言葉に頷いて、彼女は慎重に包みを開く。
 とそこには名前入りの綺麗な箸と木製の色付き三色串団子を模した箸置きがある。
 それに加えて、遠慮気味に歪な文字で『はっぴーばーすでぃ』と書かれたカードも添えられている。
「え…なんで」
 彼は彼女の誕生日を知らない筈だ。
「陽向しゃん?」
 移動してしまった新海の代わりにポチが彼女を覗き込むが、鍋蓋サンタの粋な計らいに彼女のドキドキは止まらない。
「おおきにな」
 彼女が包みを大事そうに抱え、目に映る全てに向けて言葉する。

 ――聖夜は特別…鍋蓋長屋での出会いもまた、彼女にとっては大事な宝物…。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ib3352 / 雅楽川 陽向 / 女 / 15 / 陰陽師】

 ●『iz0083 新海 明朝』および『iz0090 一抹 風安』はNPCであり、
   猫又のポチは『iz0090 一抹 風安』の相棒である。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お初にお目にかかります、奈華里と申します。
この度は数あるライターさんの中から私を選んで下さり、誠に有難う御座いました。
可愛らしい獣人さんでお料理好きともあって、何を作ろうかあれこれ楽しく考えさせて頂きました。
多分実際にも作ろうと思えば作れるはずですが、味は試していないのでなんとも…。
私のNPC達も登場させて頂き、素敵な思い出をご一緒させて頂きました。
願わくばタンポポの綿毛のように……あたたかい気持ちになって頂けたら嬉しいです。
それでは。
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奈華里 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年11月06日

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