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『 〜あなたのいない世界で、永遠を〜 』
ファラ・エルフィリアjb3154)&ヘルマン・S・ウォルターjb5517



 種子島。病院。一般病棟内。
 ファラ・エルフィリアは眠り続ける涼風和幸を見つめていた。
 自身も一時二目と見られないほど無残な重体となっていたが、今は包帯だらけだとはいえこうして車いすで移動できるほどに回復している。
 和幸の負傷は、ファラよりも酷かった。
 命すら危うかったほどだ。――再起できるかどうか、現状は分からない。
「……やはりここにおりましたな」
 ふと、染み入るような声が聞こえて、ファラは小さく瞬きをした。隣に暖かな気配がある。
 驚くほど高い身長。引き締まった恰幅の良い体を包む執事服。年齢を刻む深い皺にすら気品を宿す老執事――ヘルマン・S・ウォルター。
「……じーちゃ」
 ファラが小さく呟いた。喉に引っかかったような声に、ヘルマンは黙ってグラスに水を注ぎ、差し出す。
 じーちゃ、と呼んではいるが、ふたりの間に血縁関係は無かった。齢九百を超える老悪魔にとって、数百年しか生きていない彼女達は皆等しく孫のようなもの。その慈しみに、自然に祖父として敬われているのだ。
「……一回、目、醒ましてたんだって。でもまた二日も眠ってるの」
「今は眠り深く、目覚めはなかなかおとずれぬようですが……なに、またすぐに目を覚まして、無茶をするなと怒ってくれますよ」
「……ほんと?」
 ファラの力の無い声に、ヘルマンはじんわりと目尻の皺を深めて微笑んだ。
「爺が嘘をついたことがありましたかな?」
「……わりと」
「おや。これは手厳しい」
 おどけて己の胸に手をあてたヘルマンに、ファラは零れそうになった泣き笑いを口をとがらすことで誤魔化す。
「じーちゃ、大事なことのためなら、いくらだって嘘つくじゃん。嘘つかない相手は、楓ちゃんだけだっ――」
 ぽろりと零れた言葉に、思わず息を飲んだ。
 八塚楓。
 種子島を二分した天魔の片方、悪魔側陣営にいたヴァニタス。
 ヘルマンにとっては、いずれ必ずその命を獲ると宣言した唯一の相手。
 そして――長き時の中で唯一人、己の魂を捧げる程に愛した人。
 ――種族も、性別すらも超えて。
「嘘は、つけませんでしたな。……己の言葉を嘘には出来ませなんだから」
 微笑むヘルマンの穏やかな眼差しに、ファラは唇を引き結ぶ。
 痛みを感じた。自分では無い。
 けれど微笑みで全てを隠されている。――その深く強い心によって。
「じーちゃ」
「なんですかな?」
「……泣きたい時は、泣いてもいいんだよ?」
 ヘルマンは微笑む。
 その瞳に涙は無い。
「それは、ファラに譲りましょう。……泣いてもよいのですぞ。涼風殿はこうして、ここにいるのですから」
 つん、と包帯で包まれた額を指でつつかれて、ファラはますます唇を引き結ぶ。
 突かれた拍子に何時の間にか目尻に溜まっていた涙が零れて、なんだかくやしい。
「貴方は若い。若いということは、素晴らしいことですぞ。未来への希望も、現在への葛藤も、山とあることでしょう。世界は広く、成せることは多い。新たな物事と出会うことも、新たな感情を得ることもある。……その全てが、眩いものでしょう」
 ファラは視線を下げる。こつんと頑丈なヘルマンの手に額を預けるようにして俯いた。
 今も眠っている和幸――大切だと思う彼が生死の境を彷徨う怪我を負ったと知った瞬間、世界が落ちてきたかのように驚愕した。声が出ず、言葉が浮かばず、ただどうにかしなくてはいけない焦りだけが胸にあった。何も出来はしないのに。
 前に進めたのは、怒りを向ける先があったからだ。
 止まらずにすんだのは、憎しみが燃料となったからだ。
 そうでなければ、茫然と立ち尽くしたままだっただろう。――あんな気持ちは、初めてだ。
 恋なのか。
 友として大切なのか。
 自分でも分からない。ただ、大事だった。一緒にいて楽しかった。もっと一緒にいられたらいいのにと思っていた。
(……じーちゃは)
 ファラは唇を噛む。
(……じーちゃは、そんな相手を……喪った)
 自分の和幸への思いが恋心なのかどうかは分からない。それでも「好きな相手の存在」の生死に怯えた。
 そんな自分と違い、長い悪魔生の中で唯一得た永遠の愛を貫き、ヘルマンは最愛のその相手をその手にかけた。
 約束だったから、と言う。
(そんな……こと……ッ)

 愛した人がそう望んだから。
 約束を果たすと誓ったから。

 ただそれだけで、どうして出来るのだろう。何故出来てしまうのだろう。
 苦しくなかったはずはない。
 悲しくなかったはずがない。
 知っている。見ていた。自分達はずっと見ていたのだ。
 やめたかったに違いないのだ。
 殺したくなかったのに違いないのだ。
 誰が見誤ろうとも自分達は知っている。その世界を呪うに相応しい慟哭を。

 最初で最後の執着。
 切なく脆い魂への深い思い。
 安らぎに包み込むようにして捧げた己の魂。
 永遠の愛。

 長き生を生きた悪魔として、己の思い一つで全てを貫いた男の、尋常ではない意思の力。
 己の奥深くにある絶望すら隠し、世界すら欺いた徹底した思い。
 ただ一つ――愛した人を偽りの生から解放するために。
「一つ、老爺から極意をお教えいたしましょう」
 必死に涙をこらえるファラに、ヘルマンが優しく告げる。

「苦しみも恐怖も、全て、そこにあるものを愛し惜しむが故のこと」

 生命はいつか死ぬ。
 なのに、何故生きるのか。
 死ぬ為に生まれたのか。消えるために存在するのか。
 その恐怖は全て――生きている世界が愛おしいからこそ生まれるものだ。
「誰かを愛したその時に、その人を喪う恐怖を得ます」
 何も持たないのならば、無くすかもしれない未来などは考えない。恐れない。悲しまない。
 無くしたくないものがそこにあるからこそ、失う日のことを恐れるのだ。
「けれど、だからといって、最初からなければ良いと――そう、思いますかな?」
 例えば、失うかもしれない恐怖が嫌だからと言って、和幸と出会わなかったらいいと思うだろうか。

 あの日々を
 思い出を
 かわした言葉を
 得た沢山の感情を

 最初から無かったことにしていいと。
「……思わ、ない」
 それは嫌だった。
 はっきりと嫌だった。
 喪うのが怖いから得たくないなら、生きている意味がない。
 死は怖い。己のものであっても、相手のものであっても。
 けれど、大切なものとの思い出が消えるほうがいいなんてことはない。
「その思いを覚えておきなさい。例え何があろうと、どんなものが待ち受けていようとも。己の中に揺るがぬ思いがあるのならば、なに、心一つであらゆるものに立ち向かえるものです」
 例えば、最愛の人との別離とも。
 ――その先に、永遠の孤独と絶望が待っていようとも。
「大切になさい。貴方の中にある思いを。今は上手く言葉に出来ないものであっても、いずれ心はそれにふさわしい形となるでしょう」
 ヘルマンは微笑む。その瞳に僅かな憐憫を宿して。
 年若い孫世代の暮らす『今』が、いつ誰と死に別れるか分からない今の現実を痛ましく思う。もっと平和な世であれば、この微笑ましく初々しい恋心を穏やかに見守っていられるのに。
 それでも――これだけは言える。
「貴方達の前には、未来があるのですから」





 ヘルマンが病室を去った後、ファラは小さく鼻を啜って和幸に向き直った。
 励まされてしまった。本当は励ましたかったのに。
 けれど何を言えばいいのか、ファラには分からない。
 ふと思い出す。
 それは和幸がこんな状態になる前――種子島の悪魔との最後の戦いが終わった直後の事だ。
 時間を見つけてはファラはせっせと種子島にやって来ていた。観光もそうだが、種子島に残っている和幸を訪問することも忘れない。そして、ある日からずっと種子島に残ったままである祖父がわりを探すことも。
 夏の日差しの下、畦道を歩きながらファラは隣の和幸を見た。
「お墓?」
「ああ。あるって聞いた」
 和幸はぽかりと開けた天を見上げて苦笑する。
 誰の、とはお互い口にしない。それは暗黙の了解だ。
 例えどんな理由があろうとも、何人もの命を奪いその尊厳を貶めたことは変わらない。そんなヴァニタスの墓があると知られれば、感情に任せて行動する者とているだろう。
 あるいは、考えなしに面白半分に行動する者が。
「俺は――はっきり言って、種子島をめちゃくちゃにした連中が大嫌いだ」
 きっぱりと和幸は言う。
 大事な義兄のいる大切な故郷を荒らされたのだから、その感情は当然でもあった。
「けどな、死んだあとにどうこうっていうのは、好きじゃない」
 恨みや憎しみは、死した相手に向けるべきものではない。
 死は死だ。
 その尊厳は守らなくてはならないと思うから。
「それに……俺にとっては憎い連中だけど、言葉交わした人等にとっては、思い入れもあるだろうしな」
 だから、墓があると知っても、それを公言することはない。
 例え墓石に名は無くとも、知るべき人達だけが知っているのなら、それでいいのだから。
「……そう言ってもらえると、ちょっとホッとするかな」
「いくら地元民とはいえ、わざわざツルハシ抱えて壊しに行ったりしねぇよ」
「やー。お兄ちゃんに怪我とかあったらどうだったかにゃー?」
「そりゃ……いや……けどなぁ……」
「……そこでいきなり迷うんだ?」
 ちょっと呆れたような顔のファラに、和幸は真っ赤になる。家族なんだから、しょうがないだろ!? という声にはにやにや笑ってやった。
「でも良かった。ちょっと心配してたから。……じーちゃが種子島から帰って来ない理由、やっとわかった感じ」
 ヘルマンは学園に帰らなかった。
 大規模召集がかかった際も動かなかった。動けるような状態で無かったのだろう。
 種子島にいることだけは分かっていた。
 どこにいるのかと思っていた。
 多分――きっと、墓を守っていたのだ。
「……」
 和幸が僅かに眼差しを伏せ、次いで前へと視線を向ける。
「……気づいてる、のかな」
「?」
 ポツリと呟いた和幸に、ファラは首を傾げた。
 少年は遠くを見る眼差しで口を開く。ありし日の光景を思い出しながら。
「俺は、あの人のこと知らないけど……報告書はずっと読んでたから」
 種子島の敵として。――大切な義兄の平穏を乱す害悪として。
 例え関連者がどんな絆を築こうとも、行われた行為や奪われた命が「無い事」になどはならないから。
「それでも――いや、だから、なのかな……徹底的に第三者の眼で見てたからさ……色々、気づいたんだ」
「何を?」
「色々だよ」
 例えば、どこかの洋館のテラスで。
 祭りの中で。
 丘の上で。
 そして――最期のその時に。
「俺もあの場にいたからさ。多分、他の感情無くあの場にいたの、俺ぐらいなんじゃないかなって思うよ」
 だから知っている。
 ヘルマンは形あるものを何も望まなかった。最後の最期まで、彼は何も得ようとしなかった。
 もし叶うならばと望んだものはたった一つ。それすらも言葉で告げはしなかった。
 そんな相手に渡されたものがあった。
 告げられた言葉があった。
 ――最初で最後の抱擁があった。
 気づいているだろうか? そのことに。
 誰かに望まれてではなく、相手が自分の意思で行動したその事実に。
「……俺は……敵のことなんて知らないけどな」
 けれど、最期に見たものがなんだったのか……分かるような気がした。
 きっと自分でもそうするだろう。
 ひねくれ者の自分ですら、羨ましいと思ってしまったのだから。
「……じーちゃ、さ……」
 悟ったファラの目に涙が浮かびだすのを和幸は黙って見守った。
 あの時あの場にいた、ヘルマンの身の内を誰も知らない。僅かにその孫世代だけが、欠片を知るばかり。
「最期に何を願うの、って尋ねたらさ」
 残り少ない時の中で、もし最後に何かを願うならばと問うた。彼女達だけが知っていること。
 願われたのは密やかな願い。口に出されることのなかった思い。
 抱きしめるのでもなく、
 愛を告げるのでもなく、
 たった、一つだけ、
「もし、可能なら……」

 名前を呼んでほしい。

 一度だけでかまわないから――

「……だって」
「……」
「……ばかだよねぇ……」
 くしゃくしゃになった顔でファラは声を絞り出した。
 もっと願ってもよかったんじゃないのか。
 愛してると真面目に告げたってかまわなかったんじゃないのか。
 抱きしめたってよかったんじゃないのか。
 だって誰もが気づいてる。知っている。分からないわけがない。

 愛が、そこにあった。

 誰にも奪えないものがそこにあったのだ。
 永遠の名のもとに。
「あんな思い……あたし、知らない……」
 命を賭けるということがどういうことなのか。
 魂を捧げるということがどういうことなのか。
 口先だけでなく、全てで体現された。
「……そっか」
 暖かい手が頭を撫でてくれるのを感じながら、ファラはしゃくりあげた。
 ずっと誰かに言いたかった。誰かに聞いて欲しかった。
 泣かないヘルマン。
 心を零さないヘルマン。
 ずっと見ていたから、辛かった。切なかった。魂の慟哭すらもその微笑みで隠して、自分達を見守ってくれる祖父がわりの悪魔。
 泣かない彼の前で、何故自分達が泣けようか。
 哀しみも寂しさも切なさも、自分の思いではない。ただ、成されたすべてに、頭を垂れた自分達が――もし自分だったならばと思った瞬間に心が締めつめられて涙を堪えきれないのだ。
 もし彼が泣く事が出来るのなら、それはきっとたった一人をもう一度目にした時だろう。
 そんな日は来ない。――だからこそ、切ない。
「いつか……泣けるといいな」
「……うんっ」
「……会えるといいな。もう一度」
「うん……!」
 必死に嗚咽を押し殺す少女を和幸はおずおずと抱える。
 二人は知らない。これより僅か後に、とある事情によって彼らの願いの一つが叶うことを。
 けれどそれは、また別の話。
「俺はさ……ほんと、種子島を騒がせたあいつらのこと、好きじゃないけどさ」
 それだけはどうしたって変わらないけれど。
 それでも――
「……叶ってほしいな。そしたら思えるんだ。この世界も、まんざらじゃないな、ってさ」






 名もなき墓を丁寧に拭った。
 見上げる空は青く、どこまでも高い。
 目を閉じ、耳を澄ました。

 聞きたい声は、もう聞こえない。
 この目にその姿を見ることは二度と無い。

 空を渡る風と、遥か遠くの潮騒の音。
 光さす庭のような丘――かつて在りし日に、言葉を交わした場所。
 生前に尋ねられ、彼が答えた場所――思い入れのある所。
 何故この場所を選んだのか。分かるような気がするからこそ切ない。
「罪深いものですな、楓殿」
 喪ってなお、思いは深まるばかり。
「ファラ。……『何故』と、問いたかったのでしょうね」
 じっとこちらを見つめていた孫のような悪魔を思い出し、ヘルマンは微苦笑を浮かべた。
 知っていた。孫世代達が自分をどんな思いで見つめていたのか。
 何を問いたくて、
 何を問わずにいてくれたのか。
 その眼差しで――一生懸命閉ざした口元で、察していたから。

 どうして、望まなかったの? と。

 孫世代達の前で、思いは語らなかった。押し殺した心も。希望も。それは自分だけが知っていればいいものだ。
 何故に語れようか。これ程に浅ましき思いなど。

 生きていて欲しかった。
 共に在りたかった。

 もしこの世界での存在を望むのであるのなら、例え世界を敵に回そうとも、命尽きるまでそのためだけに生きただろう。
 けれどそんな未来はありえない。――最初から、ありえなかった。

 分かっていた。『彼』が何を望み、何を望まないか。

 行く先に茨。奈落への崖。
 分かっていて進んだのだ。引き返せる道は最初から無く、無から有を生む策略はそも弄さず。
 罪には罰を。
 束縛には解放を。
 告げたのだ。初めて会った最初のあの日に。
 誓ったのだ。あらゆるものに裏切られ傷ついた魂に。
 例えその言葉が巡り巡って己すらも縛る茨となろうとも、全てを理解したからこそ己の心に屈するわけにはいかなかった。
 共にあれることを望む心は――己のエゴであると分かっていたから。

 愛するということは、己の心を押しつけることではない。

 愛するということは、相手の何かを奪うことではない。

 己よりも相手を思うこと。
 その存在の全てを大切にすること。
 張りつめた空気をそっと緩めるように、小さく息をついて深呼吸するように、僅かでも安らぎを得てくれればそれでよかった。幸せであってくれれば、それでよかったのだ。
 己の思いで縛りつけるのではなく――
「告げぬことを選ぶのも、またエゴでありましょうが……」

 愛するということは、手放してあげること。

 己を愛させるのではなく、己以外に目を向けぬよう他を排除するのでもなく、己のエゴで縛るのでもなく――その魂の尊厳を守り慈しむこと。
 全てをありのままに、あるがままに受け入れて。

「……最初に言いましたものな」

 必ず殺しに参ります、と。

「……誓いましたものな」

 貴方に告げた全てを成し遂げると。

「……爺やは、やり遂げれておりましたかな。最初から最後まで」

 貴方に言った言葉を、全て嘘にはしなかった。
 そうでなくて、何故果たせよう。
 永遠など捧げれよう。
 愛しているなどと思えよう。
 大切なのは、己ではなく相手。

 ――世界で唯一人、愛した人。

 覚悟して別れて尚、貴方のいない世界への絶望と哀惜は深い。
 それでも手放した。
 それが果たすべき約束であり、守るべきものであったから。
「ふふ……人前で、そう簡単に泣けませんでしたからな……。まして、あの子達と、あなたの前では」
 心定めたあの日から、嘆く権利など己には無いと戒めた。
 迷いも嘆きも、彼等の前で出してしまえなかったのだ。
 最後の己の矜持として。
「かっこつけたいではありませんか。男なのですから」
 少なくとも、孫世代と最愛の人の前でぐらいは。

 けれど。

 嗚呼。

 けれど。

 寂しい。その思いだけはどうにもならない。苦しみも、悼みも。
 そしてその痛みは、惨劇の果てに奪われた十五の命の先にもあった。忘れえぬ罪として。この身に負うと決めた罰として。

 ならばこそ、
 全て抱えて生きよう。

 押し殺し続けた願いが叶うのなら、共に生きたかった。――その思いも抱いたままで。
 その願いが叶わぬのなら、いっそ自分も死んでしまいたかった。――そんな思いも捨てることなく。
 虚無も絶望も、貴方が居たからこそ生まれた。
 出会い、言葉を交わし――愛したからこそならば、この絶望すらも愛おしい。それがどれほどの狂気であるかすらも、自覚して。

 この世界に祝福を。
 あらゆる全ての生命に。
 生きる意味も死ぬ意味も。
 この心の中にだけ生まれることに気付かせてくれたから。

「もう一つ、最後の約束がございましたな……楓殿」
 名前を呼ぶ。
 大切な宝物をそっと空に放つように。
 思いを込めて。
「……果たしましょう。あなたが望むのならば、それを叶えるのが私でございます」
 もう一度再会を。
 生まれ変わる先も、その姿も分からずとも。

 貴方のいない世界で。
 
 貴方が還る日まで。

 ――永遠に。

 ヘルマンはそっと目を閉じる。
 忘れえぬ面影に。魂を捧げただ一人に。

「だからどうか、また出会えたら……」

 きっと、その時には自分のことなど覚えていないけれど。
 愛して欲しいなどとは言わない。
 風の音でいい。
 日差しの色でいい。
 そこに貴方がいると知っているから。
 どうか


「――褒めてやって、くださいませ」




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb3154 / ファラ・エルフィリア / 女 / 17才 / 永遠の欠片を得し者 】
【jb5517 / ヘルマン・S・ウォルター / 男 / 78才 / 永遠の体現者 】
【NPC / 涼風和幸 / 男 / 17才 / 『永遠』の目撃者 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。執筆担当の九三壱八です。
生きるということ
愛するということ
物語を書くうえで常に掲げているテーマの全てを書かせていただきました。

貴方の行く先に、いつか優しい奇跡が訪れますように。
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エリュシオン
2015年11月13日

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