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『ハロウィン一時トコロにより怪々形式 』
祭乃守 夏折ja0559)&夏木 夕乃ja9092)&ユリア・スズノミヤja9826


 さあ、皆で言ってみよう。
 それはこんな呪文だよ。

 \Trick or treat/

 此処ではない何処かの国も、村も、街も、ハッピーハロウィン色で溢れる今日この頃の今現在。
 あっちやこっち、こっちやあっちでThis is Halloweenなんだって。でもね、そんなお祭り騒ぎの中で一人――久遠ヶ原学園の戦闘科目教師、藤宮 流架(jz0111)は、お菓子にも呪文にも悲鳴にも縁遠い境遇にいたんだ。

 嗚呼、悲しい。
 嗚呼、退屈。
 嗚呼、嘆くよ我らがカボチャのキング。

 彼は折角の秋の収穫祭に桜餅の仮装をするでもなく、桜餅という名のお菓子を食べ配るのでもなく、夜の帳が下りる学園で仕事に追われていたのだ。

 おや?
 そんな彼の仕事が一段落ついたようだね。気分転換に桜餅タワーを積んでいる。疲れた筋肉や気分を弛緩させるのは良いことだ――と、言いたいところだが。
 おやおや?
 彼に迫る怪しい影が一つ、二つ、三つ――四つ五つ六つ七つHAHAHA冗談だ。三つ、ということにしておこう。

 今宵はハロウィン。
 仕事に追われる彼を更に追い詰める――もとい、襲うのは、甘いお菓子か恐怖の悪戯か。果てさて、もしかしたらもっと別の“何か”なのか。
 いずれにせよ、そこに在るのはきっと愉快な笑い声。彼と三人の来訪者が織り成す奇怪な遊々劇。
 諸君、内容と結末を待て――次回!!















「――以上、なんちゃって前座でした☆」
「ぜっ、前座……!? 恐らく肝だと思われる流架戦生君の状況を余興にしてしまうとは……流石、ユリア君だ」
「おつかれイエーイ」
「ありがといえーい。……って、あれ? 夕乃君、おいら達まだ何もしてないよ。トリックオアトリートとか戦闘学科の単位もらったりとか、お菓子投げつけたりとか単位とか、全力で喧嘩売りに行ったりとか単位とか、何一つ楽しいことをしていないじゃないか」
「せんぱいマジ欲求にすなおだよね。でも……でも、僕はそんな夏雄せんぱいもらぶりぃぃぃぃっっ!!(はぁと)」
「ぎゃーす! 後輩が乱心した……! ユリア君、君の和みオーラで何とかs、」
「――あ、本編始まるよん☆」



 なんとかなりました。



 ヘアピンとドライバーは女子大学生の必需品。
 忍者よろしく「(いや、忍軍だけど)」校舎窓からの侵入を試みる為、解錠に取りかかる夏雄(ja0559)
 十月末の寒空の下、ちまちまと不審者ぶっちぎりである。

 ――かちり。しめしめ。
 白フードの上着がふわり、霞の如く夜の校舎に消えた。
 左右に伸びる廊下は長く、しんとしている。左側には教室が規則正しく並んでいたが、茫洋たる月明かりのせいか空虚に映り、馴染みのあるはずの風景がどことなく夏雄によそよそしかった。

 窓からは渇いた夜空。満月が浮かんでいるのが見える。
 飢えた遠吠えを耳にしたら気をつけて。滴るハートを狙う狼男かもしれない。

「HAHAHA、狼男? それはユリア君の彼に任せるとして、おいらはこれでいくとしよう。さあ――来い、おかめ!」

 ……。
 …………。
 呼んだら自動で飛んでくるわけもなく。

 無言でフードを目深に被り、おかめフェイスを手動で装着した夏雄がチェーンソーをふかす!
 だが、

 ギャリギャリギャリギャリギャギャギャギャッッッッ!!!!!(←四倍角)

「――ちょッ、うるさッ……! うるさい……! 何コレうるさッ……! 桜色軟体食物君にバレる……速効バレる……!」

 落ち着け! 冷静に対処するんだ! 慌てると死ぬぞ!

「よ、よし……。ん、気を取り直していざゆかん。トリックオア戦闘科目単位ー……、じゃなくて、天岩戸に籠もる戦闘科目教師の元へ……!」

 右手にチェーンソー、左手には投擲用桜餅。夏雄の生命の泉である温かいお茶の入ったミニポットとお菓子も携え、壁走り忍軍発動。

 さ あ 、 ハ ロ ウ ィ ン と い う 名 の お 礼 参 り だ !





 天岩戸=職員室。
 斜めがけに脚を組み、流架は椅子の背凭れを一鳴きさせて両腕を伸ばす。

「わわわ」

 バックコーラスですか、貴方。

「ほわ?」

 欠伸を終えたところで――、ふと。
 天井に向けていた流架の視線が意図もせず、ドアの――小窓の方へ。それは気の緩みが招いたお茶目な幻覚だったのか。
 ――否。





(<●>  <●>)





 なにあれ、と考える前に目が合った。
 言葉は間違っていない。だが、その時点で既に間違っている。
 目?
 小窓から此方の様子を窺う、へばり付いたおかめの目。え? 泣いてんの? 笑ってんの? ――どーでもいいわそんなもん!! byるかりん

 すっ……。
 おかめは横にスライドして音も無く消えた。何がしたかったのか理由は定かではないが、とりあえず挑発という名の挑戦として受け取っておこう。夜の校舎に忍び込んだからには“覚悟”は出来ているということ。

「俺の居る時を狙ったのか、そうでないのか。まあ、少なくとも息抜きにはなるね。主に俺の。さぁて、鬼ごっこといこうか。悪い子にはお仕置きだよ?」

 パキッと指を鳴らし、流架は椅子から腰を浮かした。デスクを離れ、ドアに手を掛けたところで小さな溜息をつく。

「しかし……何やってんのかな、夏雄君は」





 ――ん? ちょいちょい、おかめ。バレてるよ?



「ふふっ。夏雄ちゃんにふぉーゆーしたおかめのお面、気に入ってくれて嬉しいにゃーん♪ 色んなところで大活躍してるよねん。みゅ、折角のハロウィンなんだし、私もめいっぱい楽しもーぅ。全ては楽しんだもん勝ちにゃのだ☆」

 階段を上がりまして、此処は三階。
 移動と仕掛け時間を短縮する為、外から物理的にのぼってきました。ヘアピンとドライバーは(以下略)。
 
 小声で囁くも、彼女の声は軽やかに跳ねる鈴の音のようであった。まるで、雪の上をスキップしても足跡が残らないような――ユリア・スズノミヤ(ja9826)はそんな印象を受ける。真白の世界の中を駆けるとしたら、今の彼女の様は非常に調和されるだろう。
 それは、清潔と純粋を表す白。その色から下へかけて、深く暖かな御心を彩るようなアクアブルーのグラデーションが明晰な自由を魅せていた。彼女が纏う衣装はケープスリーブ。宵に浮かぶ白い首元は適度に開き、胸元は金色の紐をアンダーで結っている。ユリアの動作に羽の如く遊ぶ丈は、フロアレングス。

「うみゅ、ちょっと肌寒いけど雰囲気は掴んでるよねん♪」

 人の良い垂れ目を弓形に、ユリアは芸に一舞い。ギリシャ神話に登場するミューズの一人――舞踊の神、テルプシコラーである。日々の徒然を踊りで綴る女神、配管を伝って頼もしく参上!

「さてとー。そろそろ頃合いかにゃ?」

 階段の手摺りにそろりと重心を預け、下の様子を窺う。静寂に溶け込む仄暗い色。

「よしっ! ハープさん、出番だよーぅ☆」

 にゅっ、と豊満な胸元から取り出しましたるはハート型のミニハープ。え? 彼女のハートゾーンは異次元に直結してるんじゃないかって? ははは、そんなBAKANA。それはさて置き、ユリアのなんちゃって作戦開始だYO☆





 流架が天岩戸を引き開けた時には予測していた通り、おかめも人体模型も花子さんの姿も無く。果てに伸びるような廊下は大口を開けて流架を待っていた。

「――全く、何がしたいんだか。……やや? 気配は夏雄君だけじゃないね。ふむ、上か」

 流架は無造作に前髪を掻き上げると、歩調緩やかに階段へ。
 半ばまで進むと、

 ポロン、ポロロン……

 弦に乗って“兆し”が訪れた。
 流架は怪訝そうに眉を浮かせるも、人柄が音に流れてくるような――とでも言うべきか。温かく柔らかな音色に、どうも警戒心が湧き出てこない。

「(ハープ、か? 夏雄君じゃないな。絶対に)」

 失敬な。by夏雄
 歩を進めると、ナチュラルな流れに唄が弾んでいるのが聞こえる。

 ♪ 一人の男が死んだのさ すごくだらしのない男 ♪
 ♪ 頭はごろんとベッドの下に 手足はバ――…… ♪

 ……。
 今夜はハロウィン。恐怖にゾクゾクするのは当たり前。でもこれ違う。ジャンル違う。





「(にゃふふ、るかりん先生こっちこいやー☆ 私が恐怖に踊らせてあげるにょー☆)」

 流架の足音を確認したユリアが、したり顔で突き当たりの教室に身を潜ませる。口寂しさにチョコレートをもぐもぐしながら、心臓が愉快な鼓動を打っていた。まだか、まだか。まだ――ッ!!?





 ……か?
 何時まで経ってもサイレント。気配も何もナッシング。

「……みゅ?」

 僅かに触れていた彼の感覚が前触れもなく消えて、数分。流石にもどかしくなる。二つの紅色の瞳をきょろりと動かして、ドアの隙間から覗き見た。だが、廊下は差し込む月光に霞んで見えるだけ。

 とりあえず――、

「行ってみる?」

 何事もポジティブ。前進あるのみ。
 編み込みのサンダルで、抜き足差し足忍び足。身を屈め、息を潜め――やがて、階段の場所まで辿り着いてしまった。変化は、無い、

 ――“はず”であった。ほんの一秒前までは。

 氷を当てられたみたいに項がゾッとした。だが、それにも増す、好奇心。
 肩越しに振り返るユリアの視界を奪ったソレは――、















 河童だった。



 カボチャが叫んだ――わけがない。
 絹を裂くような女性の悲鳴。恐怖の夜には典型的だが、心拍数が上がることこの上ない。

「エッ。今の萌え悲鳴……おっと誰か来たようだ。てゆーか、ユリア先輩の声だったよね。なんでどーして。……ハァッ!? まさか、桜餅先生ったら暗闇に乗じてあんなことやこんなことをををををッ。やべっ、カメラ持ってきてないや」

 ある意味逞しい後輩、夏木 夕乃(ja9092)である。

「仇はとっちゃるけんの! ユリア先輩!」

 夕乃は侵入した窓から見える夜空を仰ぎ(なかなか解錠出来ずガラスぐっしゃあぁぁっ!!するところを堪えに堪えた)、星屑の中に浮かぶユリアの遺影的なナニカに決意を示した。そして、自身はせっせと“行動”の態勢を整える。

 足元に置いたガラスオイルのランプが、ポゥ、と夕乃の姿を柔らかく照らしていた。鈴蘭の形を模したランプの灯火は純とし、何処かノスタルジックを感じさせる。
 映る彼女――童謡の森の中、小さなベルを咲かせる鈴蘭をモチーフにした妖精の仮装をしていた。深い緑と淡い白の落ち着いた色合いで、襟の形は鈴蘭の葉と同じく広楕円形。膝丈までのスカートは釣鐘形をイメージした段重ねの小花風に。加えて、バランス良く鈴蘭の花が装飾されている。背には忘れてはならない、ステンドグラス色の四枚羽。

 そんな妖精の表情は悪巧みでもしそうな――いや、悪巧みまんまんな感じ。
 だが、悪巧みといっても、ちっちゃな悪戯っ娘が考える悪いことはどこか可愛らしいような。そんな気がしないでもない。





 河童は存在していた。此の久遠ヶ原学園に。
 緑色の身体、頭の皿、嘴、水掻き、人を舐めたような半目! その河童が今、ユリアに――!





 襲われていた。

「きゃーーーっ!!
 どうしよ、どうしよっ。このふにふにとした手触りも死んだようなお目めも、すっごくかーーいーーにゃーーん☆ ココは!? ココはどうなってるの!?」
「Σひぃっ。ちょっ、ユリアく、わあっ! 駄目だよソコは! 脇腹はちょっ、くすぐった、――って、ひーーーっ!!」

 ちょっとお客さん駄目ですよ! お触りは禁止ですって!
 ――の、河童Ver。世にも珍しい光景だろう。本物の河童ならば、だが。

「(ぐっ……! 偶然見つけた河童の着ぐるみ……驚かすには良い案だと思ったが、ユリア君のセンサーには逆効果! これはマズイ。河童の貞操が色々とマズイ!)」

 元々がホラー好きな為に多少の耐性もあったのだろうが、かーいーセンサーのスイッチが入ったユリアには猫の旺盛な好奇心も敗北。

 さわさわさわ、
 もふもふもふ、
 こしょこしょこしょ……☆

 童心たるユリアに罪は無い。だが、河童もとい流架の色々が、ごいすーなDangerにもみくちゃになっていく!!
 そこへ、忍軍が一人。刺客――おかめ、只今参上!

「やぁやぁ我こそは、十三日の金曜日とも文楽人形のお福とも全く関係の無い鉄パイプ愛好家であったりなかったりす、――あ」

 デ ゴ ン ! !

 おでことおでこでデコりあい。
 ユリアの(歓喜の)悲鳴を聞きつけた夏雄が、口上(みたいなもの)を述べながら颯爽と――額を強打した。タイミングの悪いことに、「うみゅ?」と、首を捻る程度に向けてきたユリアの額と正面衝突。

 ごんごろりーん。

 流架を余所に仲良く踊り場まで転がっていった二人は、背中を丸めて額に両手、という同じ体勢のまま悶絶していた。
 るかりんチャーーーンス!

「(俺の本意ではないが、ココは――戦略的撤退! すまないね、二人共。後で氷嚢持ってきてあげるから!)」

 とりあえず、河童脱ぎたい。
 その気持ちだけが力の抜けた両足を動かしていた。時折、階段を踏み外しそうになるのを気合いで堪え、一階の見える踊り場まで辿り着く。だが、僅かな安堵も視野の狭い着ぐるみにとっては命取りであった。

 ぬるり、
 不意を足裏に捉えられ、流架は隠しきれない動揺を感じた。

「――っ!?」

 ズンダカダカダカダン!!

 リズミカルな音を奏でながら足裏で階段を滑り落ちた流架であったが、実際、そんな余裕は無く。例えていうなら、真冬に階段の足場へ水をぶち撒けた後の氷。ひと足早いスケートもどきを楽しめるはずもなく、逆に“誰”かの悪意をひしひしと感じた。
 流架は何とか踏ん張り終え、両足で着地。複雑に折れ曲がった木枝のような硬直ポーズのまま数秒停止した後、何が起こったのか状況を把握する為、足元に目を凝らした。が、

「あ、」

 ゴンッ!!

 ――頭が重いことを忘れていました。
 廊下へ大の字に潰れた、うつ伏せの河童。無残極まりない。

「……ってぇな、この。何なん――、」
「をや?」

 二人の視線が絡む。
 微かな朧に隠れていた月は二つの影を鮮明に映し出し、長い一筋の白道で引き合わせた。
 
 あ、やべっ、見つかっちった。てゆーかこの河童なに。どしたの。――と、いう表情そのまま。中腰になり、瓶から液体を零している夕乃。
 そして、ローションまみれの膝立ち河童。

 見目はともかく(一人は河童だが)、月の光が醸し出す神秘さとはかけ離れていた。

「……なにこれ。油?」
「む。油とは失礼な。ローションですよ。しかも90%以上も天然成分配合。アレです、潤滑剤みたいなモンです。桜餅先生の肌のことを考えて大枚叩いたんですからね。あー腰いたい。腰にくるわーこれ」
「ほう、なるほど。君の仕掛け、というわけだね。……なるほど。夜の校舎に油を撒き散らすとは……なるほど、ね」
「だからローションですって。だいじょうぶ、細心の注意を払って仕掛けさせていただきやした。あ、夏雄先輩とかユリア先輩とか僕に対してですけど。僕らが怪我したら先生のせいになっちゃうでしょ? たぶん。
 いえねー、これでも色々と考えたんですよ。悪g……じゃなかった、イタズラ。クモ攻めとかヘビ攻めとかカラス攻めとか。カエル攻めも候補だったんですけど、コレやったら先生ヤるでしょ。僕のこと」

 うん。ヤる。by流架

「なのでその。まあ、なんです。ええ」
「ふーん。――で、その心は?」
「どうせ先生相手だしー? みたいなー? ってコトで、チカラワザで乗り切った結果ですね。はい」
「へぇ?」
「はは」





 ぷち。





「其処に直れメロン娘!! 頭ぶしゃーしてミカン晒してやるァ!!」

 \秘技・河童DE脱皮/
 流石、戦闘科目教師。据わった目と乱れた髪が相俟って、ハンターオーラが通常より七割増の様子。コイツ、ヤる気だ。

「ご無体な! 今年中のぶしゃーは売り切れですぞ!」

 夕乃選手、クラウチングスタートで切ったーーー!!
 夕乃は夜の廊下を一目散に駆ける。逃走慣れしているのか、夕乃の足は随分と素早い。“廊下は走らない”と書かれた張り紙の横を全速力で走り抜けた。だって走らなければ死ぬるもん!

「ちくしょおおおうっ!! 結局こうなるんだったらカエル作戦でいくんだったあああっ!!」

 風が彼女の悲痛な涙を、空気が彼女の後悔の叫びを攫っていく。自業自得という四文字熟語は夕乃の辞典には存在しないようだ。
 
 一方的な命懸けの鬼ごっこは容赦なく続いていた。
 スカートが恥じらいもなく翻って、スパッツが露わとなっても――って変なとこ見てんじゃないですよギャー!! by夕乃

「(ふふ、でもこの調子だったらもしかして逃げられるんじゃね? オリンピック狙えるんじゃね?)」

 実際、先程から背に受けていた威圧感――ぶち抜かれるような殺気から少しずつ遠ざかっていたのだ。光明が差してきたというのは正にこのこと。

「(しめしめ、桜餅先生もそろそろ歳か)」

 その夕乃の天狗が、僅かな油断の末の“地獄”を生み出したのは言うまでもなく。本来、その余裕すらも有りはしなかったというのに、つい、心の弾みで振り返ってしまったのだ。

「(先生って今ドコらへ――、)」





 タ ル ゴ ォ ン ッ ! ! !





 夕乃の両の瞳が最後に視界へ入れたもの、それは――――樽だった。
 樽が飛来し、夕乃の頭部にミラクルフィット。その衝撃と視界の暗によって身体が一回転した後、夕乃は壁に凭れかかるようにして、ずるずると尻もちをついた。

「……しょ、……しょんなばか、な……」

 夕乃の頭上から、彼の気配と声が降ってくる。

「――お疲れ様、夕乃君。
 いやー、漬物用に購入しておいた樽が役に立つとは。ふふっ、不思議だね。樽って結構飛ぶものなのだね。どうだい? 樽心地は。意外と良かったりするんじゃないかな。ねぇ? ――夕乃君」
「(あくま……! 桜餅の中身は漉し餡じゃない、やっぱりあくまだった……!)」

 平素なままの、その柔和。
 通常営業の“毒”を久しぶりに体感したような気がした夕乃であった。

「うみゅ?
 おー、ゆーのちゃんがタル乃ちゃんになってるー☆ すっごーぃ☆」

 癒し系女神の声音が響けばあら不思議。ヘビに睨まれたカエルの空気だって和みと化します。
 デコりあいから復活したユリアが夕乃の傍へ軽やかに跳んで、首を傾げながら楽しそうに彼女の樽を見て回る。後に続く夏雄も、控えめながら興味津々。

「見て見て、夏雄ちゃん! タル乃ちゃんだよ!」
「うん。タルだね。よろしく、タル乃君」
「通常営業は先輩達も同じだね。スルーしないでくれてかんしゃー」



 とりあえず、御用ということで。



 in職員室。
 三人が用意していたお菓子と流架の夜食用桜餅、温度最適な夏雄のお茶で、ひと語らい。

「――しかし、君達。折角のハロウィンなのに何でこんなことしたんだい? 若い子だったら、もっと他に楽しみ方があるだろう」
「“折角の”、だからですよ。
 昼間に三人でランチしてたら偶然耳にしちゃったんですよね。今日はハロウィンだってのに、桜餅先生たら仕事だっつーんだもん。こいつぁオイシイ。そうだ、脅かしに行こう! ってね」
「何処かの謳い文句みたいに言わないでくれるかな」
「でも、先生も楽しかったでしょーぅ?」
「ユリア君の言う通り。あれだけ河童ではしゃいでいたんだ。NOとは言わせないよ」
「……誰がはしゃいでたって?」
「そういえば先生、あの着ぐるみどうしたんですか? 演劇部からでも拝借してきました?」
「いや、三階の踊り場に転がっていたんだよ。夕方に見回りをした時はなかったはずなんだが……不思議だよね」
「……よく着たね」
「フリーサイズだったから」
「(みゅ? あれ? 私が見た時はそんなのなかったけどにゃ? 第一、あの時は私とるかりん先生以外誰もいなかったのに……)」
「だけど、偶然見つけたにしては着こなしていたよね。流石、流架戦生君だ。何事も順応が早い」
「……夏雄君は何でおかめにしたのかな。おかめじゃ仮装にならないじゃないか。何でてるてる坊主にしなかったの」
「厚手のシーツなかったし。被ると重たそうだし。あったとしてもやらないけどね」
「じゃあ、白無垢」
「お歯黒べったりやれとでも言いたいのかい……!」
「ねーねー、ゆーのちゃん。ゆーのちゃんの仮装は鈴蘭の妖精さんなんだねー。知ってるかにゃ? 鈴蘭は別名、谷間の姫百合っていうんだよ。ということはー、私の大好きな百合とおんなじー♪」
「はぅん、あねさんに抱きつかれるなら本望でっせー! てゆーかせんぱいのやっぱきょぬー!」

 各々の感情が妖精の粉のように飛び交う中、
 カチリ。
 職員室の時計の長針と分針が十二時をさした。魔法が解ける時間――カボチャの宵、此れにて終了である。

「はいはい、もう遅い時間だよ。俺にとっても楽しい時間だったが、続きはまた今度ね」
「はーい☆」
「うん、流架戦生君も楽しんでもらえたのなら何よりだ」
「じゃ、僕らはこの辺で――」
「お待ち。誰が帰っていいって言ったかな?」

 むんず。
 襟首を掴まれた三人は振り返る前から確信していた。背に感じる気配は決して獲物を逃がさないということを。
 冷や汗を流しながら、ちらり、窺えば。案の定、流架は“人の良い”微笑みを湛えていた。

「後片付けが残っているよね? しっかりとやってもらうよ。――ローションの掃除」
「「「えー」」」
「やや? 文句がある子は相手するけど」
「「「掃除してきます」」」

 諦めが肝心。今がその時。
 というわけで、掃除用具入れまでGO。カボチャ色の悪戯が再び悪さをする前に。

「(――うみゅ? 職員室の入口に置いてあった河童の着ぐるみ、ドコいったんだろ? さっきまであったのににゃー。ま、いっか☆)」















 数日後、汚れた河童が夜な夜な校舎を徘徊するという噂が久遠ヶ原学園の七不思議に追加されたりされなかったり……というのは、また、別のお話。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja0559 / 夏雄 / 女 / 20 / 曇り一時フラット曇り次女】
【ja9092 / 夏木 夕乃 / 女 / 16 / 台風の目トコロによりタル乃三女】
【ja9826 / ユリア・スズノミヤ / 女 / 23 / 晴れ一時やっぱり快晴長女】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 河童一時デビル桜餅通常営業やってます】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
コメディですと、こうなります。
……すいません。ですが、後悔はしていません。
お任せのお言葉に甘え、自由に書かせて頂きました。少しでもハロウィン色と微かなホラー、弾むワクワクさを感じて頂けたら幸いです。
此度は楽しいご依頼とご縁、誠にありがとうございました!
ゴーストタウンのノベル -
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年11月13日

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