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『秋深の温もり 』
北條 黯羽(ia0072)

 久しぶりに来た天儀の国の空はとても高く、青色に澄んでいた。
 往来の人の賑やかさはどこも同じと思うものの、空気はやはり、自身によくなじむ気がする。
 安堵にも似た感想を抱きつつ、黯羽は目的の場所へと向かう。
 
 目的の町までは馬車で移動することにした。
 現在、黯羽は人の妻となってジルベリアに滞在している。
 子宝にも恵まれ、四児の母だ。
 出産による肉付きは更なる色気となり、妖艶さを増しており、道行く人々の視線を奪わせてしまう。
 他人の視線よりも、その道の向こうに待っている人物に黯羽は心を高鳴らせる。

 目的の場所にそろそろ着こうとしているのは泉華だ。
 猫耳にも見えるいつもの帽子に房を揺らしながら歩いている。
 待ち合わせ先はとある料亭。
 仲居は泉華に中に入るよう勧めたが、日差しが温かいし、待ち合わせの人物と一緒に入りたいということで、入り口前の長椅子に座って待たせてもらう。
 ご厚意で頂いた温かい茶はありがたかった。
 両手で湯のみを抱えて頬に寄せると熱気に瞳を閉じてそっと息を吐く。
 太陽はそろそろ昼を指し示すように天辺に近い。
 少し冷めて飲み頃になった茶を一口啜る。
「はよ、来ぉへんかなぁ」
 泉華の呟きが届いたか分らない頃、会いたい人物がその場に見えた。
「姉さん!」
 顔を明るくさせた泉華が立ち上がる。
「ああ、慌てて立ったら目を回すぞ」
 急に立ち上がった泉華を見て黯羽が早歩きで歩み寄り、泉華を支える。
「堪忍や。姉さんと会えるの楽しみやったし」
 照れ笑いをしつつ、泉華が言えば、黯羽も微笑んで泉華の頭を撫でた。
「まぁ、それは俺もだがな」
「遊ぶのもまずは腹ごしらえやね」
 お互い会いたがっていたのは確か。泉華を支えていた黯羽はいつの間にかに手を引っ張られて中へ入る。

 最後に会ったのは春先だっただろうか。
 日々が忙しくて気がついたら秋も終わり。
 黯羽がいるジルベリアはもう冬へ足を踏み入れてている。本格的な冬になれば天儀に来る事も気持ち的に容易ではなくなるだろう。
「子供達は元気なんやね」
 黯羽から聞かされる子供の話を聞きつつ、泉華は前菜を頬張る。
「喜ンで送り出されてたモンだから、こっちが後ろ髪をひいてしまったがな」
「姉さんったら」
「そっちはどうなンだ?」
 黯羽の話にくすくす笑う泉華は尋ねられて、すぐに目尻を下げる。
「ウチも似たようなモン」
 可愛くて仕方ないといった様子だ。
 泉華の旦那もいつも頑張る奥さんに気晴らしをと子供達の面倒を見てもらっている。
「いい旦那じゃねェか」
「まぁなぁ」
 照れ笑いする泉華に黯羽がくつくつ笑っていると、昼ごはんのメインである栗ご飯と鮭の味噌焼きが運ばれる。
「美味しそうやねぇ」
 栗ごはんは大きく割った栗に松の実、刻んだ鶏肉が入っている。湯気が立っているそれを頬張れば、生姜の爽やかな風味と控えめな醤油の香りが口の中に広がる。
「美味い」
 鮭の味噌焼きも刻み長葱に甘めの味噌に絡んだタレが香ばしく、ふっくらと焼けた鮭とよく合う。
 二人は秋の味覚を堪能して町へと向かった。

 秋となれば、空気が乾き、りんと冷たくなる。
「ちょいと寒ぅなってきよったねぇ」
 寒気に背筋を振るわせた泉華が黯羽の腕を取って組む。
 黯羽の体温がとても温かい。
「姉さん、あったかいなぁ」
「俺のでよけりゃ、温まりな」
 懐く泉華に黯羽は目を細める。黯羽の言葉に泉華は「うん」と頷いた。
 今回待ち合わせた町は衣料品に特化しており、様々な着物や小物が売られていた。
「姉さん、姉さん」
 手招く泉華が黯羽を呼ぶ。
「どうかしたのか」
「これ、お土産にえぇと思う」
 泉華が勧めたのは男性用の根付。
「……まぁ、いいンじゃねェか?」
「姉さん、折角こっちに来たんやし」
 黯羽の様子に泉華は唇を尖らせて不満を現す。
「買う事は買うさ、気を張る事じゃねェさ」
 肩を竦める黯羽だが、買う気はあるようだ。
「泉華は何を買うンだ?」
「え、ウチ?」
「そう、旦那に」
 水を向けられて泉華は少し慌ててしまう。
「こ、子供には買うよ?」
「子供への土産は俺も買うさね。旦那へは?」
 黯羽ににんまりと問われ、泉華は目を泳がせる。
 暫しの沈黙。
「し……しゃぁなしやで……」
 腕を組んだ泉華がポツリと呟いて物色を始めたのも束の間、勢いよく泉華が振り向く。
「姉さんもちゃぁんと、旦那の分考えんやでっ」
「う……っ」
 釘を刺された黯羽も唸ってしまったが、そろそろと土産を探し出す。
 とはいえ、二人とも目が行ってしまうのは子供のものだったりしていた。
 やはり、先に決まったのは子供へのお土産であり、二人とも旦那の分は決まってない。
 姉妹のような関係であっても、旦那への贈り物を真剣に探す姿は少々気恥ずかしさもある。
 それとないふりをしつつ、旦那の分を吟味していた。
 ついたり離れたりとしていたが、泉華ははっと今日の目的を思い出す。
「アカン!」
「どうかしたンかィ?」
 黯羽が泉華の声に顔を上げる。
「今日は姉さんとのおでかけやん? まだちゃんと甘えてへん」
 泉華の言い分はもっともだ。
「あぁ、そうさねェ、さっさと選ばねェと……」
 それでもお土産選びは手を抜きたくないのが本音であるが、黯羽は思案するように天井を見上げた。
 天井に近い壁に掛けられた外套が目に入った。
「悪いンだが、あれを見せてはくれないかねェ」
 近くにいた店員に声をかけた黯羽に店員は快く承諾し、棒を使って羽織を下ろした。
 黒の絹素材の織物であるが、裏は綿素材の織物を縫い合わせている。
 試しに羽織ってみると、流石に肩は合わなかったが、襟が大きく、立てると風除けになり、襟を留めるベルトもあった。
「いいねェ、これ、貰おう」
 急いでいるわけではないが、きっと似合うし、実用的だと黯羽は即決する。
「あ、姉さん、決まったん?」
「おゥ。泉華はどうなンだい?」
「うちも♪」
 泉華が見せたのは角帯。柳染と松葉色の細い縞柄で、綿素材で織られていた。
「普段使いに使こぅてくれたら、嬉しいんやけどね」
「大丈夫さね。泉華が決めたもンだからなァ」
 少し照れつつ泉華が言えば黯羽が自信を持つようにと言う。
「おおきに、姉さん」
 黯羽の言葉に泉華は照れたように笑う。
「あ。姉さん、見てみぃ」
 泉華は黯羽の向こうにある棚に気付く。
 並んでいたのは女性ものの装飾品が並んでいた。
「綺麗な細工やわぁ……あれ?」
 違和感に気付いた泉華は声をあげる。
 細工のみであり、簪や根付け等といった部品が見当たらなかった。
「これは好きな細工を選んでもらって、簪や根付けなどにこの場でつけるんですよ」
「へェ。職人が常駐してるンか」
 店員が説明すると黯羽が感心する。職人が住み込みでいたり、すぐ近隣にも職人がいるので、少し待てばつなげてくれるそうだ。
「それじゃァ、なンか、見ようかねェ」
「せやねぇ。あ、姉さん、これ綺麗」
 泉華が見つけたのは夜光貝を花形に切って、花芯に真珠を添えた花が三つ連なった細工。花芯は白い真珠と薄紅色の真珠の色違いがあった。
「可愛いなァ」
 黯羽が猫耳帽子の耳部分にあてがう。
「姉さんは耳飾にええと思うんよ」
「そうしようかねェ」
 泉華の勧めに従い、黯羽が頷き、店員に会計を頼み、包んでもらう。品物は後ほど後で取りに行くと伝え、二人は店を出た。

 午後に入り風が少し吹いてきた。
 冷たい風に泉華が黯羽へ擦り寄る。
「ちょいと、寒ぅなってきよったねぇ」
 黯羽の腕に自身の腕を絡めて泉華が甘えてきて、黯羽は泉華を見下ろし、目を細めて微笑む。
「俺の体温でよけりゃァ、いくらでも温まりな」
「ん……」
 こっくり頷く泉華の頬は冷えからか、とても赤く感じる。
 先ほどの店も長々といたので、疲れて来たのかもしれない。
 顔を上げた黯羽は休めるようなところはないかと周囲を見やると、ふと、小豆が煮詰まる甘いにおいがした。
 そろそろ温かい汁粉が出てくる時期かと黯羽が思案すると、甘味屋が見える。
「泉華」
「んー?」
「こうして歩くも悪くはねェンだが、甘いもはどうなンだィ?」
 黯羽の誘いに顔を上げた泉華の目は輝いていた。
「そういや、小豆が煮える匂いがしてんねぇ」
「入るか」
 甘味屋前の看板娘は席が空いてますよと言わんばかりににこにこ笑顔を浮かべていた。
「二人だ」
 黯羽が言えば、看板娘は二人を案内する。
「迷うなぁ」
 浮き立った様子の泉華が眺めているのは壁に貼られているお品書き。
 泉華はあんみつにし、黯羽はぜんざいを頼む。
 お茶を啜っていると、すぐに頼んだものがとどいた。
「わぁ、豪華やわぁ」
 両手を合わせて泉華が喜ぶ。あんみつは寒天、赤えんどう豆、小豆餡のほかに、干し杏、柿、梨、ぶどう、求肥、角切りの抹茶カステラが添えられていた。
 黯羽の頼んだぜんざいは粒が残っている粒あん汁粉。白玉だんごと栗の甘納豆が刻まれている。
「姉さん、あ〜ん」
 泉華が匙を黯羽に差し出す。
「ちゃんと味わったのかィ?」
「美味しいよ。姉さんも」
 黯羽の言葉に泉華は頷く。納得した黯羽は匙にのるあんみつを食べた。
 濃いみつと求肥がとても合う、求肥を噛んでいくと、口の中でサツマイモの餡が舌の上をすべる。
「お、サツマイモか」
 飲み込んで餡の味を当てると、泉華は嬉しそうに頷く。
「こっちの栗の甘納豆は塩気があって美味いぞ」
「へぇ〜」
 興味津々で泉華がぜんざいを一口飲むと、丁度のいい塩気と甘い栗の美味しさに目を細める。
「美味しい〜」
 二人で幸せを味わいつつ、再びおしゃべりに興じる。
 会えなかった時を埋めるように、今の瞬間を目一杯楽しんでいた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia0072 / 北條 黯羽 / 女 / 四児のお母さん】
【ic0104 / 桃李 泉華 / 女 / 二児のお母さん】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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御発注ありがとうございます。
また二人に会えて嬉しかったです。
お二人のお土産がご家族に喜ばれますように☆
■イベントシチュエーションノベル■ -
鷹羽柊架 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年11月18日

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